TUP BULLETIN

TUP速報1005号 チョムスキー・インタビュー:トランプによる北朝鮮への威嚇の危険

投稿日 2017年5月13日
◎外交的努力は成功したことがあるが、制裁や厳しい対応は失敗してきた
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トランプ政権は北朝鮮に対して力を誇示したが、安倍政権はそれに同調して、外交解決を求めるどころか危機を煽るような行動をとり、危機に便乗して自らの政治的な目的を押し進めようとしている。ノーム・チョムスキーは、外交のみが北朝鮮の核開発中断を引き出してきた歴史を振り返り、今も外交解決の道筋が実際にあることを指摘して、非核化を達成する唯一の手段として対話を強く求める。そして「終末時計」に示された現在の核・環境危機の深刻さに警鐘を鳴らす。
(前書き/荒井雅子、翻訳/荒井雅子・宮前ゆかり/TUP)
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きわめて危険:トランプによる北朝鮮への威嚇がいかに裏目に出かねないか
――チョムスキーのインタビュー「トランプの75日」から
2017年4月4日

トランプ大統領は6日木曜、フロリダにある別荘マララゴで中国の習近平国家主席と会談する。会談に先立ってトランプは、『フィナンシャルタイムズ』紙とのインタビューで、北朝鮮の核兵器プログラムに関して単独で行動を起こす用意があると語った。「もし中国が北朝鮮問題を解決しようとしないなら、われわれがやる」。トランプがこう警告する前、米軍と韓国軍は3月中、数週間にわたってずっと合同演習を行っており、一方、北朝鮮はロケットエンジン・ミサイル試射を行った。北朝鮮と核問題について、世界的に有名な反体制派論客・言語学者で多くの著書のあるノーム・チョムスキーに詳しくきく。

フアン・ゴンサレス:核兵器の脅威が増しているのを懸念しておられるわけですが、朝鮮半島をめぐっても駆け引きがあり、トランプ大統領は数日前に、もし中国が北朝鮮に対処しないなら米国がやると述べました。北朝鮮と中国に対するトランプ政権のこれまでの政策とこれからの政策についてお話しいただけますか。

ノーム・チョムスキー:そうですね、これまでの経緯を見てみるとちょっと興味深いことがわかります。政権は、「もう手は尽くした。何もかもうまく行かない。だから武力を使わざるを得ない」と言っています。この、何もかもうまく行かなかった、というのは本当でしょうか。というのは、これまでの経緯があるわけです。で、経緯を見てみると興味深い。

1994年、クリントンは米朝枠組み合意と呼ばれるものを結びました。北朝鮮は核兵器開発を凍結する。米国は敵対的行為を控える。この合意は曲がりなりに機能し、双方とも約束を完全に履行したわけではありませんが、2000年まで北朝鮮は核兵器プログラムを推進しませんでした。ジョージ・W・ブッシュが就任して、すぐに北朝鮮攻撃を始めた――ご存じのように、「悪の枢軸」と呼び、制裁を科したりした。北朝鮮は核兵器製造に転じた。2005年、北朝鮮と米国は一つの合意に達した〔6カ国協議共同声明〕――かなり賢明な合意でした。北朝鮮は核兵器開発を放棄することに同意し、その見返りに不可侵誓約を求めた。他の5カ国は敵対的な威嚇をするのを止め、厳しい制裁を解除し、医療用などの低濃縮ウランを北朝鮮に提供する態勢を用意する――これが提案でした。ジョージ・ブッシュはすぐにこの合意を破り捨てました。何日も経たないうちに米国は、マカオなどを通じた北朝鮮の金融取引の妨害を図った。北朝鮮は合意を撤回して、核兵器開発を再開した。ですから、北朝鮮は史上最悪の政権だとか何とでも言ってもいいですけれども、かなり筋のとおった報復政策をとってきたわけです。

それにそもそもなぜ北朝鮮は核兵器を開発しているのか。経済状態は悪いし、核兵器はもちろんリソースを食いつぶす。だれでもわかるのは核兵器は抑止力だということです。実は北朝鮮は提案をしている――提案がテーブルの上にあるのです。中国と北朝鮮は、北朝鮮が核兵器のさらなる開発を放棄することを提案した。その見返りに米国は、北朝鮮国境で韓国との威嚇的な合同軍事演習を行うのを止める。無理な提案ではありません。でもあっさりと却下されている――実はオバマもこの提案を却下しました。きわめて深刻な危機になりかねないものを緩和するためにとり得るステップはあるのです。もし米国が北朝鮮に対して武力行使することを決定したら、即時に起きる反応は――軍関係のソースによれば、ソウルの街が、狙いを定めた北朝鮮の大量の砲撃によって跡形もなくされるということです。そしてその先どうなるかだれにわかるでしょう。一方、外交交渉による解決に向かう可能な道筋は途方もないものとは思われない。この中国・北朝鮮の提案は、間違いなく真剣に検討する価値があると私は思います。

それに北朝鮮には記憶に刻まれていることがいくつかあるというのも頭に置いておくべきです。北朝鮮は、歴史上有数の激しい爆撃によって事実上破壊されたことがあるのです。その爆撃については――読むべき、読む価値がある。米空軍の北朝鮮爆撃の公式記録をみなが読むべきかもしれません。壊滅的なものです。米空軍は北朝鮮を壊滅させたのです。攻撃目標は一つも残っていなかった。だから米空軍は、そう、ダムを攻撃しようと――これは戦争犯罪です。そしてダム攻撃の記述は――正確な言葉づかいでないとだめです、私は言い換えはしたくない。お読みになるべきですよ――公式記録でほんとうに嬉々として書いている、『空軍クォータリー』などで――大洪水が北朝鮮各地に押し寄せて作物を壊滅させるのを見るのはどれほど素晴らしいかについて。アジアの人びとにとって米は命だ。洪水はそれを破壊する。素晴らしいことになる、と。北朝鮮の人びとはそういうことを経験している。それに、核を搭載可能なB-52が国境を飛んでいるのは笑い事ではありません。

もっとも重要なのは、これまでの経緯をみると、外交的努力は部分的にではあっても成功したことがある一方、制裁や厳しい対応は全面的に失敗したということであり、検討することができる選択肢がテーブルにあるということです。今、だれかロシアと話したかというようなことにかかずらわう代わりに、やるべきなのはこういうことです――非常に真剣に検討すべきことです。民主党でも誰でも、何らかの形の平和と正義を望むなら、こういうことに取り組むべきなのです。

エイミー・グッドマン:それは中国の話題につながります。トランプ大統領は「中国が北朝鮮を解決しないのなら、我々がやる」と言いました。大統領として誰よりも人気が低いトランプが敗北に継ぐ敗北を喫している時に、外国の敵に食って掛かりそこに焦点を当てようとすることについて心配していますか?しかし、同時に中国が米国に来るという時でもあり、トランプが中国の習近平国家主席との会合をマララゴでやろうとしていることも大変興味深い、そこはゴルフ場ですよね?習主席はゴルフが嫌いで共産党員がゴルフをすることを禁じています。トランプは自分の個人的別荘で会合をやることで、報道の取材を妨害したり誰が会合で彼と会うのかという情報を止めるための手段がもっとあるように感じているということでしょうか?でも、それより重要なのはそこではどういう議題が論じられ、米国と中国の関係は何なのかということでしょう。

ノーム・チョムスキー:そうですね、君も覚えていると思うが、興味深い事件のひとつとして、 周りの人々がのんびり珈琲を飲んだり、酒を飲んだりしているその別荘での重大なセキュリティーの問題が世間では議論になっていました。報道関係者を排除するかもしれないが、ゲストは排除されていないようだった。

グッドマン:一年に20万ドルも払ってマララゴのメンバーならば、排除されないでしょう。

チョムスキー:そうです。フィルターに合格したわけですから。

グッドマン:そうすると、核コードを持ち歩いている人物と一緒に写真、自撮りを撮ることもできます。

チョムスキー:あの「フットボール」(訳注)ね。

グッドマン:あの「フットボール」

(訳注)核フットボール:大統領に常に付き添う軍事顧問の人物が所持する特別な鞄の中に入っているブリーフケースの呼称。そのブリーフケースには7.3 cm x 12.7 cm のデジタルハードウェア(ビスケットと呼ばれる)が入っており、核攻撃の発射コードが含まれている。このコードの稼働方法についての説明は大統領就任前に行われており、大統領の権限で常に稼働可能な状態にある。

チョムスキー:彼(トランプ)は極端にきまぐれです。しかし、中国との関係は極めて深刻な問題です。 中国は、例えば台湾に関する基本的な要求について引き下がるようなことはしません。トランプは……中国が要求していることの多くは、私が思うに、……すべきではない、受け入れられません。容認するべきではない、国際的に受け入れられないことです。しかし、武力行使による対応は極度に危険です。国際情勢でそのような賭けをしてはなりません。自滅に近過ぎます。核の時代の記録をみてください、もうちょっとというような??偶発的な??時には偶発的で分別を欠いた行動の記録をみてください。わたしたちが生き延びたことはほぼ奇跡的と言えます。

こういった危機の度合いを推し量るには、わたしたちが持っている簡単な方法として、世界の安全状況の最良のモニターである原子力科学者会報の世界終末時計を見てください。この時計は核の時代の始まり1947年から、人類が直面する危険を測る手段を与えようと集まった本格的な専門家、科学者、政治評論家やその他によるグループにより、 毎年、時計の針を時刻に合わせてきました。午前零時は人類滅亡を意味します。1947年には、この時計は真夜中7分前に設定されました。1953年、米国とロシアが水素爆弾、熱核兵器の実験を行った直後にこの時計は真夜中2分前になりました。これはこれまでで完全な大惨事に最も近かかった時でした。現在、トランプが就任するや否や、この時計の針は真夜中まで2分半というところまで動きました。それには、核の脅威が深刻であることが認識されたことと、初期には考慮されていなかったが今は考慮されている環境激変による脅威の両方の理由があります。

これらの事柄は、圧倒的に、わたしたちが直面している最も重大な問題です。これらに比べると、他のすべてがとるに足らないこととして消えてしまいます。これは文字通り、まさに生存の問題です。そして真夜中まで2分半ということは驚異的な危険を意味しています。これらは重大な注意の焦点であるはずです。これらの問題が無視されているのを目にすること自体、驚くべきことだと思います。すべての共和党候補、どの候補も、気候変動に関しては、何が起きているのかを否定するか、あるいはジェブ・ブッシュ、ケーシックのような穏健派は「まあ、起きているのかもしれないが、関係ない。それについて何もするべきではない」などと言っていた。

グッドマン:そうですね、米国は国連での核廃絶の議論ボイコットを主導したばかりです。

チョムスキー:核廃絶。残念ながら、米国は他の核保有国に賛同しました。さらに、包括的核実験禁止条約の問題もあります。現在、中国、米国、イスラエルという三カ国の核保有国がこの条約の批准を拒否しています。そして、核実験が再び開始されるとなれば、極めて重大な危機となります。わたしが言ったように、最初の核実験が実行された時に、世界終末時計が真夜中2分前まで進んだのです。

New START条約(新戦略兵器削減条約)の問題があるわけですが、条約で冷戦の終焉以来、不十分ではあるが大規模な核兵器削減が行われてきました。New START条約はこれを前進させるはずなのです。ロシアと米国は、圧倒的多量の核兵器を保有しています。この条約はこの数を減らすだけでなく、より脅威のある種類を削減するはずなのです。トランプが示唆するには??誰もトランプが何を言っているか分からないのですが、トランプはこれは米国にとって損になる、と言っていて、この条約から離脱するべきかもしれない、ということを示唆しており、それはとんでもないことになります。これは重大な問題です。こういった事柄がほとんど話し合われないということ自体、現代の文明レベルに対する壊滅的例証ではないでしょうか。

原文
Extraordinarily Dangerous: Chomsky on How Trump’s Threats Toward N. Korea Could Backfire
April 04, 2017
https://www.democracynow.org/2017/4/4/extraordinarily_dangerous_chomsky_on_how_trumps