TUP BULLETIN

TUP速報1010号 ヘレン・カルディコット氏インタビュー

投稿日 2018年5月10日

◎トランプ、朝鮮半島情勢、そして核の脅威について語る


トランプ大統領の動向から最近の朝鮮半島情勢、また核兵器に対する警鐘やフクシマの惨事に至るまで、多岐に渡るトピックについて、医師であり反核活動家であるヘレン・カルディコット(Helen Caldicott)氏のインタビューをお届けします。1938年生まれのオーストラリア人であるカルディコット氏は、今年で御年80歳になりますが、新しい自著を出版するなどまだまだ現役で活躍中です。聞き手は日本で特派員経験もあるイギリス人ジャーナリスト、クラウディア・クラッグ(Claudia Cragg)氏です。

本記事は、2017年に米国の非営利独立ラジオ局KGNU(www.kgnu.org)の番組のために録音され、その後放送されたインタビューを元に翻訳したものです。KGNUは、ダニエル・エルスバーグも座り込みに参加したロッキーフラット・プラトニウム弾頭弾薬製造工場閉鎖を求める市民運動の中から生まれ、1978年に発足、今年5月末に40周年を迎えます。

インタビュー中で、比較的物わかりがよいと評されている米国のティラーソン元国務長官は、その後2018年3月に突如トランプ大統領に解任されました。また、4月末には史上初めて北朝鮮の首脳が軍事境界線を超えて韓国側に入り、歴史的な首脳会談が持たれました。これからの朝鮮半島での動きを含め、先行きが不透明な世界情勢に変わりはありませんが、カルディコット氏は市民が自ら立ち上がることが大切だと力説します。

(翻訳・前書き:法貴潤子/TUP)

ヘレン・カルディコット氏(以下ヘレン): 現在の興味深い傾向として、トランプの不安定性があると思います。彼はあらゆる提案にオープンですし、それは最近取った行動、アジアへの長期訪問についても言えます。トランプは本を読んだことがないだろうと思いますし、インターネットについてわかっているとも思えません。それに国際政治や歴史などについても無知だと思います。

でもトランプは他の人の影響を受けますし、韓国の文大統領に影響を受けたと思います。文大統領はTHAAD弾道ミサイル迎撃システムの配備を望んでおらず、韓国にある原子炉も閉鎖したがっており、北朝鮮と友好関係を結びたいと考えています。それでトランプもようやく、そうかもしれない、北朝鮮と話してみてどうにかするのも悪くないかもしれない、と言い始めました。だからトランプの語調には変化が見られます。これから中国もトランプに影響を及ぼすと思いますし、これは非常によいことです。なぜならプーチンは何百発の水素爆弾で私たちみなを標的にしていて、ニューヨーク市を標的にするだけでも12〜40発はあるでしょう。米国やカナダ、他の国の町も標的です。

ですから私は内心僅かな希望を持っています。だからといって核兵器が廃絶されることはないでしょうが、それでも国連で122カ国が核兵器廃絶に賛成の署名をしたのは、意識下の、潜在意識レベルで国際的にもそう感じられているということで、興味深いことです。未だに米国の戦術的核兵器を保有している五つのNATO主要加盟国からそれなりの圧力がかかることも予想されます。仮にこれらの国々が核兵器を排除した場合、インドや中国、パキスタンといった他の国もそれに倣うようになるでしょう。もちろん、各国は核兵器備蓄を見直さざるを得なくなります。

クラウディア・クラッグ(以下クラウディア): あなたはつい1週間程前に、真実に基づいているとした記事を書かれましたね。核による絶滅の脅威が新たに切迫したものになっている、とおっしゃるのは『アルマゲドンへふらふらと(原題: Sleepwalking to Armageddon)』という状況がすぐそこまで来ている可能性を示唆しているのですか。

ヘレン: 仮定ですので、分かりません。一方ではあの記事に書いた通りですし、またもう一方では、これらの新しい展開は物事の新たな局面を示しています。誰に分かるでしょう?私は患者の状態に基づいたあらゆる可能性と検査を考慮し、患者の健康と回復を予測する医者ですが、それでも私たちが間違っていることだって往々にしてあります。ですからこれは推測ゲームです。ほとんど世界を賭博にかけているようなものです。

クラウディア: あなたは最近、『かけ引き術(原題: Art of the Deal)』を書いたトニー・シュワルツと、トランプは自分の脆いエゴを守るためなら迷わず世界を木っ端微塵にするだろう、という彼のツイートについてコメントしましたね。今や我々はそれが本当だと思うわけですが、あなたはトランプのいわゆる狂気を、プーチンが制御してくれるとお考えのようですね。

ヘレン: まず、みなさんが米国でいま目にしているのは、ロシアを貶める一大キャンペーンだと思います。ロシアはもう共産主義でも、ソビエト連邦でもありませんし、トランプやその取り巻きは長年、ロシアの新興財閥からお金を受け取り、とてつもなく巨大な取り引きをしてきました。その中には恐らくプーチンの親戚も含まれると思います。それがトランプ及び彼の一族とロシアとの関係ですが、それ自体は悪いことではありません。ロシアが米国の選挙に介入し、フェイスブックやツイッターに記事を投稿したりしましたが、ぶっちゃけた話、米国は第二次大戦前からずっと他国の選挙に介入し、指導者たちを暗殺してきました。ですから米国が今までやってきたことを鑑みると、この偽善には開いた口が塞がりません。

我々がしなければならないことは、ロシアと友好関係を築くことであり、ロシアを新たな冷戦時代の敵に仕立て上げることではありません。なぜならそんなことは馬鹿げているからです、全く!こんなことが起こっているのは、単に核兵器運搬システムやミサイルの最大手の御用商人であるロッキード・マーティン社や軍事業界の他の企業全てが、あのいまいましい爆弾を作るために敵を必要としているというだけのことです。そしてワシントンの政治上層部がこれを指揮していますが、我々は無知でいてはいけません。これが実際に起こっていることであり、打倒されるべきことです。

クラウディア: そういえば、あなたはヒラリー・クリントンも軍産複合体から巨額のお金を受け取っていると仰っていましたが、でもヘレン・カルディコット博士、彼女が自分の政権に多くの軍人を入れるとは私には思えないのですが。

ヘレン: ええ、そうでしょうね。でもトランプが尊敬するような強力な人が必要です。トランプは軍隊を非常に尊敬していますし、今彼の子守りをしているのは軍人たちです。それについての記事を読みましたよ。どうやら朝早くトランプが起きてツイッターに投稿する時間以外は、誰もトランプを一人にしておかない、と。でもトランプは、「核のフットボール(核兵器発射のための暗号などが入ったカバン)」と核ボタン、そしてポケットの中の暗号「ビスケット(大統領用認証コードの呼び名)」にアクセスでき、三分で核戦争を始められます。ですから彼の子守り役の間では、控えめに言ってもある種の懸念が蔓延しています。

ヒラリー・クリントンは軍が大好きでした。軍の将官と交流して彼らとビールを飲んだりするのがね。彼女はガダフィを殺し、作戦を指揮してリビアを不安定にした張本人ですし、イランに核爆弾を落とすとも発言しました。私だったら彼女を信用するなんて到底できません。我々は軍国主義者と対峙しているのです。でも逆に、トランプはひどく子供じみていて自分が何をしているのか分かっていません。クリントンは承知の上でした。もちろん、選挙で勝つべきだったのはバーニー・サンダースでしたけどね。

ありがたいことに、イギリスのジェレミー・コービン労働党党首はヴィンガード級原子力潜水艦を更新しないと言っていますから、望みがあります。新しいアイルランドの大統領はインド系で同性愛者ですし、ニュージーランドの新しい首相も素晴らしい女性で、ここにも希望が見いだせます。ですから今は変化の時なのです、大きな変化でなくてもね。それに米国の民主党支持者は棄権しないで投票に行った-ご存知のようにオーストラリアでは投票は義務ですから私たちオーストラリア人には理解しづらいですが-みんなで投票に行ったのです。彼らは前の選挙では投票に行きませんでした。ヒラリーが気に入らなかったのかもしれません。でも彼らはいま投票するようになっています。米国で大変化が起こっているのです。我々に時間があるかどうか、核戦争を起こさずに生き残るかどうかは、誰にも分かりませんけどね。

でも、もうひとつ、切迫した問題であるにも関わらず対処されていないのは、地球温暖化です。一気に死ぬか、泣き言ばかり言うのか、それとも温暖化でみんなジュージュー焼かれるまで何もしないのか?私には分かりません。この問題は放置されていますが、我々の子供達やその子孫、そして地球上のすべての生き物も危機にさらされているのですから、当然対処されるべき問題です。

クラウディア: ええ、あなたは地球温暖化を、もうひとつの存在を脅かす脅威だとおっしゃっていますが、完全に無視する人もいますね。でもあなたは、最新お出しになった本の題名にもなっているように、アルマゲドンに向かってふらふらと歩いて行くリスクを犯すべきでない、と強く警告されています。また、世界中で9カ国が核兵器を保有していることが知られていますが、それらの国々の多くは即反撃できる警戒態勢にあります。多くの人達は核の脅威と戦うことに対して、無力感を味わっていると思います。そういう人たちに何かアドバイスをお願いします。

ヘレン: メディアが多くの人々を無力で無知な大衆にしてしまっていると思います。ジェファーソンまで遡ってみましょう。正しい情報に基づいた民主主義は責任を持って行動しますが、現在の民主主義国とその他の国々では、きちんとした情報が全く共有されていません。自前の爆弾を作るためのプルトニウムを入手できる原子炉建設をすすめる国に対する米国の政策に基づき、軍事複合体が「勝算のある」核戦争を企てていることについて、人々は実際何が起こっているのか知らされていません。

人々はよく分からず、無力を感じているのでしょうが、世界中の人々は今起こっていることを認識し、地球温暖化を懸念していると思います。世界の軍国主義についても同じように認識していると思いますが、きちんと情報が共有されていないため、それはしっかりした方向性を持った認識ではありません。もし人々がきちんとした情報を持っていれば、私が1980年代にしたように、彼らも行動するでしょう。80%の米国人が核戦争に反対し、冷戦終結をもたらした頃のように。ですから人々がしなければならないのは、ソファや椅子から立ち上がり、パソコンをおいて立ち上がり、実権を握ることです。一人であっても、情熱があればジャンヌダルクのように真のリーダーになることができるのです。現に私も米国でそうしましたが、私は外国人で、しかも女性でした。ですから我々は人々を力づけるだけでいいのです。オーストラリア風の荒っぽい言い方もできますが、ここでは言わないことにします。でもとにかく人々を励ますのです。私にも聴衆がいればできますが、それはオーストラリアで、ですね。ここ米国では、私は招かれざる客でメディアへのアクセスもありませんから。

クラウディア: いま誰がオーストラリア人か、真のオーストラリア人か、という議論で新聞は大騒ぎです。米国の白人ナショナリストの間で起こっていることと同じで、恐ろしいです。

ヘレン: ええ、これは私たち(オーストラリア)の憲法に定められていて、それが問題なのです。オーストラリア緑の党のスコット・ルドラムとラリッサ・ウォーターズの二人も、ニュージーランド市民であったことが判明して数ヶ月前に辞任しましたが(訳注: ウォーターズはニュージーランド国籍ではなく、カナダとの二重国籍であった)、彼らはとても賢明な人たちです。もしかしたらこの狂気にも理屈があって、これら一連の出来事は腐敗した現リベラル政権崩壊の可能性、それを彼らが予見していたようにも感じます。これは単に仮説の域を出ませんが、今起こっていることは興味深いことです。誰がどこで生まれたかなんて関係ないし、馬鹿馬鹿しいことです。そう、それに私たちの国の元々の住民はアボリジニーの人たちで、彼らの地位が全く確立されていないことを、オーストラリア人として非常に恥ずかしく思います。

クラウディア: 政権が労働党、あるいはたとえ緑の党に交代したとして、どのような変化があるでしょうか。

ヘレン: ご存知のように労働党は既存支配層に取り込まれており、組合はホークやキーティングに丸め込まれていて、力を持っていません。緑の党は非常によいですが、今のところカリスマ性のあるリーダーがいませんから、それが必要でしょう。私が首相だったら、と思いますよ。だって解決策は非常に明白なんですから。びっくりするくらい明白ですよ。

すべての問題において最も博識な人々を国中から集めるのです。地球温暖化、森林伐採、公害、化石燃料会社の代替、などなどについて。そして円卓会議を開き、難しい診断を下された患者のために専門家を、神経学者、細菌学者、心臓専門医などを連れて来るのと同じようにして、政策を考え出すのです。何ができるか、何をするべきか、患者のためになるような行動計画を、オーストラリアのために作るのです。そして人々に教え、ひらめきを与え、一緒に歩むのです。リーダーは導くのであって、特定の一部の人たちに反応してはいけません。教え、導き、ひらめきを与えるのです。それがゴフ・ホイットラム(訳注:オーストラリア第21代首相)がずっと前にしたことです。

クラウディア: ええ、確かにそうするべきですね。ヘレン、この話をあなたとせずに済んだらよかったのですが、2011年3月11日から6年が経ちましたね。今日のオーストラリア各紙にもこう載っています。福島核惨事から6年後の空中写真を撮影、6年後のいま福島はゴーストタウンに。公式には37名が怪我をし、作業員2名が放射能による火傷の疑いで病院に搬送されたことになっています。東電とその取り巻き、今まで裏工作を続けて来た連中たちが、未だにこんなにたくさんの発電所を管理しているんです。

彼らは水を太平洋に流し続け、これからずっと放射能で汚染された水をですよ、そして北半球にある日本がまた大地震が起きたら大量の放射能を放出する危険にさらされています。ですから今まで全く状況改善がなされていないどころか、その試みさえ行なわれていないようです。日本人と話すと「でも仕方がない」と言うんです。

ヘレン: 今おっしゃったことは全部その通りですし、実際のところ状況改善はできないのです。この先もずっとできないと思います。地中には三つの溶解した炉心が存在します。原子炉の裏にある山から水が流れて来てこの溶解炉心と混じり、海へと流出します。1日に300〜400トンの放射能に汚染された水がどんどん太平洋へと流れ出し、魚の体内に濃縮されます。ご存知のように、アイソトープは味や匂いがなく目にも見えませんし、何千マイルにも渡って(放射性物資を)見ることも漁業をすることもできなくなります。今後マグニチュード7(訳注: 原文はRichter Scale。現在はより正確なMoment magnitudeが使われることも多い)を超える地震が起こったら、いくつかの建物が溶解炉心上に倒壊し、大量の放射能を放出する可能性もあります。どうしたらよいか誰にも分かりません。誰にも、です。物理学の本を読んでも、今まで誰もこんな状況に遭遇したことがないのですから。コンクリートで塗り固めてしまえ、と言う人もいますが、私には分かりません。物理学者の中にはそう主張する人もいる、というだけです。

ただ、事実は安倍首相は我々に背を向けたということ、そしてフクシマの後に放射能に汚染された土壌で埋め立てた土地の上でオリンピックを開催しようとしているということです。そして日本政府の原子力村、実際はTEPCO(東電)とその仲間達が主導しているのですが、彼らはこのままお金を払うでしょう。安倍首相は今でも危険ですが、それは原子炉だけの話に留まらず、日本の平和条約(訳注:平和憲法のことと思われる)を変えようとしているからです。私が子供の頃、父が裏庭に防空壕を作ったのを見て母は非常に怖がりました。母はそのうち私たちが日本語を話すようになるだろうと思ったのです。

クラウディア: でも安倍首相はもっと狡猾な形で危険です。福島の真実について語った記者を10年投獄することや、患者に体調不良の原因は放射能だと思われると告知した医師にはお金を払わないことが可能になる法案を通過させました。

ヘレン: そうです。それからもうひとつ、日本は甲状腺癌にしか注目していません。今までに事故当時18才以下であった子供192人が甲状腺癌と診断されており、転移した子供達もいます。日本は他の癌や白血病、放射能によって引き起こされるその他の癌について調べていません。なぜ分かるかって?これ自体皮肉なことですが、広島や長崎の被爆生存者を見れば分かります。ですから日本はこれらのことを隠蔽しているのです。医学的に見て邪道です。

クラウディア: 話が前後しますが、トランプが喜々として日本を訪問しても、福島の負債というものがあると思うんですね。東芝は共同事業主でしたが、負債の事実について誰も話そうとしません。

ヘレン: 甚大な汚染にさらされた米軍艦レーガンの乗船員全員について、私は専門家証人ですが、彼らは東電を裁判に訴えています。これがひとつ。そして二つ目に、第3世代原子炉を設計したエンジニアたちが1995年に辞任したのは、彼らは危険なものを作っているという自覚があったからで、米国連邦議会でこれを証言しました。でももちろん何も起こりませんでした。ジェネラル・エレクトリック社の代表が当時言ったように、そんなことを気にしていたら原子力発電は終わりだからです。これは文字通りの引用ではありませんので、ご自分で調べてみて下さい。

クラウディア: あなたは専門家証人であるとおっしゃいましたが、もちろん専門家証人であることは日常生活や仕事の一部になっていらっしゃるのですよね。脅迫にはどのように対峙されるんですか。

ヘレン: ええ、最も活動的だった時期には、私の知る限り8回の殺害予告がありました。でも今は、とても大事なこの本の出版を控えているので比較的大人しくしているんですよ。それに今ではそもそも80才近いこともあって、政治的にはもうあまり活発に動いていません。一個人の旬は過ぎ去るものですからね。頭の中には今でも情報や数字が詰まっていますが、私が死んだらクローンを作ってもらいますかね?

クラウディア: (この本の)最終章にはマンハッタンが核攻撃を受けたらどうなるかの衝撃的な描写と、現代の反核運動の概観が述べられています。反核運動には勇気づけられます。それにEUもありますね–崩壊するまでは、ですけれど。EUは多くの加盟国が核兵器に反対している機関です。それでは、マンハッタンが核攻撃を受けたらどんな様相を呈するのか、その衝撃的な内容をちょっと話してもらいましょう。

ヘレン: 少なくとも12発の水素爆弾、大きなロシアの爆弾です。これがマンハッタンの橋、トンネル、空港、すべてのものを標的に1発ずつ落とされます。私がこれから説明するのは爆弾1発が引き起こす影響です。なおこれは、12発から40発、44発の爆弾がワシントン、ニューヨーク、ボストン、そして人口5万人以上のアメリカの町がすべて標的になることに比べたら比較になりません。カナダ、日本、ヨーロッパ、イギリス、オーストラリアも然りですし、もっとたくさんの国々を挙げることもできます。もちろん米国はロシア全土を標的にしますし、冷戦終結後には中国も標的にすることにしたので、中国も狙われるでしょう。

爆弾1発は音速の20倍の速さで飛んできますから、音は聞こえないでしょう。爆発時の温度は太陽の中心温度の5倍に達し、幅3/4マイル、深さ800フィートの穴ができ、地上の建物や人々を放射線まみれにします。キノコ雲から放射性粒子が降り注ぎ、爆心地から5マイル以内にいた人々は焼き殺されますが、多くは蒸発し、気化してしまいます。広島の博物館にある、歩道に影だけ残して消えてしまった小さな男の子のように。赤ん坊を抱いて走っていた女性が炭化してしまったように、人々は炭の像と化すでしょう。

爆心地から20マイルの地点では時速500マイルの風が吹き、文字通り人間を建物から吸い出し、人々は時速100マイルで飛ぶ人間ミサイルと化すでしょう。複雑骨折、頭部損傷などの恐ろしい怪我が多発します。窓はポップコーンのように弾けてガラスの破片が時速100マイルで飛び散り、人間の肉を切り裂き、首をはねたりするでしょう。

火の嵐は3000平方マイルに広がり、真冬でもすべてのものが焼かれ、米国とカナダ全土を標的にした戦略は、東西南北、アメリカ中を焼き尽くすため、火はやがてひとつに融合するでしょう。興味深いことですが、ペンタゴンは核兵器による被害を計算する際、火を考慮に入れたことがありませんでした。考慮したのは爆発の衝撃のみでした。なんとも面白いことです。リン・エデンという素晴らしい女性は、核兵器による火が大部分の破壊をもたらすことを詳細に書いています。そして煙と火が成層圏まで達し、厚い雲で地球を覆い、太陽を最長10年間遮断し、短い氷河期が訪れるでしょう。これがいわゆる核の冬と呼ばれるもので、すべてのもの、すべての生き物が暗黒の中で凍って死んでしまうでしょう。

クラウディア: このゾッとする話を聞いた後、トランプはある意味、金正恩いじめをしているようですが、現状をよくご存知の核事情の内部者として、金正恩朝鮮労働党委員長は(核攻撃を行なう)能力を持っていると思いますか。これではまるで、ロシアンルーレットで賭けをしているようなものですね。金正恩に、先程説明してくださったような惨事を起こす能力があるのだとしたら、彼をいじめるのは賢明でしょうか。

ヘレン: いいえ、金正恩はせいぜいソウルか東京に1発落とすくらいでしょう。これは先程私が描写した惨事とは比べ物になりません。世界中に1万6000発ある核兵器の94%を保有しているロシアと米国のみが、地球上の生き物を抹殺できるのです。この二カ国が本当のテロリストです。私たちは、我々と愛するものすべてを殺すか否かを決める、テロリストの核の手のひらの上で生かされているのです。テロリストは彼らであって金正恩ではありません。彼らは2500万人の人々を失い、そのうち1500万人は朝鮮戦争で失いました。米国は、跡形もなくなるまで彼らを爆撃しました。また、彼らはガダフィやフセインに何が起こったか分かっていますし、もしこの二人が核兵器を持っていたら米国にあんな無茶なことはされなかったと知っています。

でも北朝鮮が何を望んでいるか-私の兄は韓国大使を長年務めた人で、私の本にも一章書きました。彼の名前はリチャード・バラノウスキーと言います。私の名前もバラノウスキーですからね。-彼らが何を望んでいるかというと、今まで一度も平和条約が結ばれませんでしたね。停戦合意は一度ありましたが、北朝鮮が欲しいのは平和条約と米国による不可侵条約です。そして米国や他の国々との自由貿易、正式な一国として認められること。それが彼らの望むことです。朝鮮戦争で受けた北朝鮮のトラウマは想像に難くありません。被害妄想に陥っているかもしれません。そして誰も北朝鮮の望むことを知りませんし、認めようとしません。でも彼らの望むものを理解しなければ、何も始まりません。

クラウディア: でもティラーソン(元)国務長官は分かっているかもしれませんよ。トランプがちょうど昨日の演説で語調を和らげましたから。トランプは北朝鮮の人々がより普通の生活や繁栄を手に入れられるようなシナリオを提示しました。これはひょっとすると、ティラーソンの指揮によるものではないでしょうか。

ヘレン: 私は文大統領が主導したのだと思っています。なぜなら彼はそれを望んでいましたし、ティラーソンがそれに乗ったのでしょう。ティラーソンは少しは利口なようですから。トランプの代弁もしていますしね。ですから状況は変動期を迎えていて、彼らがこれからどこへ行くのか、誰にも分かりません。

クラウディア: 40年以上の長きに渡り核環境危機の処方箋を考えてきた、最も雄弁で情熱にあふれる市民運動の提唱者、ヘレン・カルディコット氏でした。


発言者
Helen Caldicott
聞き手
Claudia Cragg
放送日時、場所
2018年1月1日、米国
インタビュー音声(KGNU Community Radio)リンク
https://www.kgnu.org/metro/1/1/2018