TUP BULLETIN

速報324号 拘束された豪州女性の手紙No1 04年6月18日

投稿日 2004年6月17日

DATE: 2004年6月18日(金) 午前0時23分

《豪州NGO女性ドナのファルージャ拘束報告No1》
 


イラクのファルージャでは、米軍の包囲網作戦が2004年4月5日から、4 月の末に米軍が複数の陣地から撤退し始めるまで続いていました。11日には 「一時停戦」が成立したとはいわれたものの、実際には激しい戦闘が行われて いました。そんな中、オーストラリア人女性ドナ・マルハーンさんは、4月1 3日に3人の外国人同行者と共に、戦火の中、救援活動のためバグダッドから ファルージャに向かいました。その帰り道、ファルージャ郊外で地元ムジャヒ ディンに20数時間拘束されました。その顛末を、8本のメールにしたためた マルハーンさんの文章を紹介します。本稿は、その1本目です。戦争とはどん なものなのかを知る手がかりになればと思います。

翻訳 TUP/福永 (翻訳・再配布了承済み)


ファルージャで:私に向かって撃ってきた! ドナ・マルハーン 2004年4月20日

ファルージャに到着するや、数日前に友人たちが手伝った病院へと人通りのな い道を直行した。

そこは、ファルージャの大きな病院が米軍に爆撃され遮断されてしまったあと に、間に合わせに作り変えられた小さな地域診療所だった。

自家用車やバンや小型貨物の後ろに積まれて絶え間無く運ばれてくる負傷者の 殺到に、ここのスタッフはすばらしく順応していた ― 臨時ベッドには車輪 がつけられ、清涼飲料水の缶を取り除いた「コーク」の自販機が血液冷蔵袋の 代わりだった。

しかし、ひどい負傷者を手術するにも、ここには消毒薬も麻酔薬もほかの必需 品も何もなかった。それにここ数日ファルージャ中では、集団的懲罰の一形態 として、送電が停止していた。診療所には発電機はあったものの、燃料が切れ るとライターや蝋燭やたいまつの明かりで手術しなければならなかった。

先生方に聞いてみた ― 疲れ果てていて、最近のケースを話すときは打ちひ しがれているように見えた ― 頭を撃たれた10歳の少年、腹部を撃たれた おばあさん ― 2人とも米軍狙撃兵の犠牲者、またひどい火傷の若者や足を 吹き飛ばされたの若者たちなど。でも、新しい患者が運び込まれるたびにすぐ に飛び起き、手術用手袋をはめて仕事に取り掛かる。

24時間ぶっ通しで働いている人が多く、やっと数時間眠れるものは少ない。 でも、泣き言はいわない。彼らはファルージャのヒーローなのだ。

私たちに何ができるか聞いてみた。数日前の任務では、私たちの友人たちがア メリカ兵と交渉し、路上の負傷者の回収と、交戦地域の数家族を避難させるこ とに成功していた。

食料と医療品を救急車に積んで、町の中にある遮断された病院に行くのに、一 緒に行ってもらえないかと医者が尋ねてきた。その病院は米軍支配下の地区に あって、常時狙撃兵が狙っていて支援物資を受け取れないでいた。

先生方の算段では、救急車の安全走行を兵士たちと交渉するのに、私たちの外 国人国籍がものをいうのだというのである。

救急車の安全な走行を手助けするというのは、奇妙な不必要な使命に思えるか もしれない ― 世界中ここ以外では常識である、しかし、ジュネーブ条約の 保証にもかかわらず、ここはファルージャ、これは戦争、常識など何もない。

最後に救急車がその地区に行った時には、米軍から射撃された。そのとき早産 の妊婦を引き取りに行った救急車には、私の友人2人が同乗していたから知っ ている。結局行き着くことはできなかったけど、救急車に残る弾痕がそれを証 明している。

私たちは、補給品を救急車に積み込み、後ろに乗り込んだ。

私のほかに3人の外国人、ジョーとデーブとベス ― イギリス人2人にアメ リカ人とオーストラリア人、軍事介入した「有志連合」の、その国々からの愛 の介入の若き代表としては、うってつけのバランスである。ブルーの手術着に 着替えた私たちは、パスポートを手にした。それと、前の席に運転手、あと病 院スタッフも2人。

イラク人戦士勢力支配下のファルージャの街をゆっくりと車を進めると、わき 道から幹線道路に出るところで停車した。ここから先は、米軍狙撃兵が監視・ 支配していて進むことができない。いまや動くものは何でも撃ってしまうのが 彼らの習性になってしまっている。

それで、わき道に車を止めて、病院まで救急車が行けるように米兵たちと話を して許可をもらうために、私たち4人が車から降りた。

その地区は、完全な静けさだった。静寂とは気をそぐものである。

拡声器の準備を整え、手を上げて、パスポートを高くかざした。まず幹線道路 に飛び出す冒険の前に、わき道から呼びかけてみた。

「はーい、米兵さんたち! 私たちは国際救援団体の者です。武器は持ってい ません。医療品を満載した救急車を病院まで行かせてほしいのです。聞こえま すか?」

冷たい沈黙だけが返ってくる。

メッセージを繰り返す。再び沈黙。

お互い顔を見合わせる。ひょっとして、遠すぎて兵士には聞こえないのだろう か? 武器を持たない市民だとはっきり見えるように両手を上げて兵士に近づ くためには、幹線道路に出て行く危険を冒さないといけないことになる。

深く息を吸うと、たぶん人生最大の危険なことをしようとしているんじゃない かとの想いがチラッとよぎった。

息を吐き出すと、心に勇気がみなぎった:みんなの顔を見ると同じことを考え ているのが分かった:「私がやらなきゃ、誰がやるの?」 みんなの勇気に奮 い立って、道に一歩踏み出したときはみんな同時だった。

両手を上げてゆっくりと歩いた。狙撃兵がいないか建物の屋上をあちこち見 た。どこにいるかも分からないので、病院のほうに向かって歩き始めた。

拡声器でメッセージを何回も繰り返した。この静寂の中、数百メートル先でも 聞こえるはずである。不気味に周りに反響するだけだった。

私がちょっと首をひねったその時である。遠くで白い閃光がふたつ見えた、そ れから大きくひびく銃声、後ろから撃ってきたという惨い実感。

突然のことだった:頭を下げ、頭上をビュッと過ぎる弾丸の音が聞こえ、道脇 の壁に飛び込む。

しばらく藪のかげに身を潜めていたが、「行こう」と誰かが叫んだ。地面を這 いつくばって進んだが、途中で私は背をかがめて歩いた。が、この緊急時に転 んでしまった。粗い地面の鋭利な砂利に手でブレーキをかけた。手に鋭利な痛 みが走り、血が見えた。何が起こったのか確かめるひまはなかった。

やっと人家の裏庭にたどり着くと、塀を乗り越え門をくぐって救急車のほうに 戻った。

手は血だらけで、左足も傷つき、パスポートは赤く血で汚れていて、今後パス ポートを見れば永遠にこの事件を思い出すことになるだろう。

全員そろった。しかし、あきらめたくはなかった。もう、兵士がどこにいるか は分かったのだから、そっちに向かって歩いていける。もう一度やろうとみん なで決めた。

お決まりのこと:最初に呼びかけてメッセージを聞かせる、それから道に足を 踏み出す、今度は射撃がきたほうに正面向いて。

「はーい、米兵さんたち。私たちは外国人の救援団体の者です ― イギリス 人とオーストラリア人とアメリカ人です。武器は持っていません。救急車の通 行を許可してほしいのです」

血でじっとり濡れたパスポートを掲げた私の手は、ぶるぶると震えていた。自 分の感情を確かめようとしてみた:恐怖、怒り、決意。いまだに分からない。

数メートル歩いてメッセージを2回繰り返しただけで返事があった。

更なる銃弾。この段階で、私はショック状態におちいったと思う。撃たれた、 1回じゃない、2回も、アメリカ兵から、病院に救援物資を運ばせてくれと丁 寧に頼んでいるだけなのに。

どうやら、答えは「ノー」らしい。

ジョーは激怒した。みんなそうだ。みんな隅に後退したがジョーは拡声器で しゃべり続けた。

「非武装市民を撃つのも救急車を撃つのもジュネーブ条約違反なのよ、分かっ てんの?」と彼女は叫んだ。

「もしあんたの妹が包囲攻撃にあって、水も食料もない病院に閉じ込められた らどう思うのよ?」

みんなで彼女から拡声器を取り上げた。

「あんたの引き金の指なんか、イボイボになっちゃえ」と彼女は声をひそめて まだ続けていた。

救急車の後ろに集まった。私の手の深い傷と擦り傷の処置にはちょうどいい場 所だった。だれかが手当てをしてくれている間、私は頭をたれていた。

私たちは診療所に戻り始めた。頭がくらくらした。怒りが湧いた、鬱憤がこみ 上げる、頭痛がした。しかし、不思議なことに精神はすっきりしていた。この 非暴力の行為と、使命の「正当性」が守ってくれるという完全無欠の信念に支 えられて、まるで無防備な子羊のごとく両手を上げて、私は武装兵士の目の前 に歩いていったのである。

確かに医療品を持っていけなかった、が軍隊にきっぱりと言っておくことがあ る:

「私たちは恐れない。あなた方の兵器には脅されない。

「もし苦しむ人々を救うためにあなた方の暴力に立ち向かわなければならない なら、私たちは敢然と立ち向かう。暴力を使うことなく立ち向かう。

「私たちは、やり続ける」

巡礼者より

ドナ

追伸:次のメールで、ファルージャの経験談はもっと書きます。

追追伸:「あなたを撃ったのが間違いなくアメリカ兵だとどうして分かるの ?」と聞かれます。私たちが行った地区は、その時少なくとも5日間は米軍支 配下にあったところです。銃撃があった地区にはイラク人戦士は近づけなかっ たのです。

追追追伸:みなさん、私へのサポートのメッセージと、ハワードとダウナーへ の手紙、ありがとう。私へのイーメールが届かない人がいれば、ごめんなさ い。我慢できないという方は donnainbaghdad@y… のほうを試し てみてください。

「あなた方の苦難を課す力には、私たちの苦難を耐え抜く力で立ち向かおう。 物理的な力には、魂の力で対抗しよう」 マーチン・ルーサー・キング牧師

原文 http://groups.yahoo.com/group/ThePilgrim/message/74

同行者のジョー・ワイルディングのファルージャ報告 原文 http://www.wildfirejo.org.uk/feature/display/115/index.php 訳文 http://www.wildfirejo.org.uk/feature/display/115/index.php