TUP BULLETIN

速報328号 リバーベンドの日記(6月18日)から 04年6月24日

投稿日 2004年6月24日

FROM: Schu Sugawara
DATE: 2004年6月24日(木) 午後6時28分

暫定内閣指名と国境へ殺到する人々


戦火の中のバグダッド、停電の合間をぬって書きつがれる24歳の女性の日 記『リバーベンド・ブログ』。イラクのふつうの人の暮らし、女性としての思 い・・・といっても、家宅捜索、爆撃、爆発、誘拐、検問が日常、女性は外を 出ることもできず、職はなくガソリンの行列と水汲みにあけあけくれる毎日。 「イラクのアンネ」として世界中で読まれています。すぐ傍らに、リバーベン ドの笑い、怒り、涙、ため息が感じられるようなこの日記、ぜひ読んでくださ い。 (この記事は、TUPとリバーベンド・プロジェクトの連携によるものです) http://www.geocities.jp/riverbendblog/


6月1日の掲示以来、これまでで最長の空白期間でした。何かあったかと心 配しましたが、暑さと疲れのためだそうで、何事もなくほっとしました。しか し、「何事もなく」はありません。暫定内閣決定と宣伝される影で、人々は国 境へと殺到しているという・・(TUP/池田真里)


2004年6月18日金曜日 イラクの戦死傷者…

RAED IN THE MIDDLEのラエドがすばらしいサイト、イラ クの民間戦死傷者を紹介している。戦争中に殺されたり負傷させられたりした 「テロリスト」や「付随的被害者」(つまり民間人の巻き添え被害)がどんな 人たちだったか確かめてみて。きっと「テロとの戦い」の支持者たちはすっご く鼻が高いことでしょうよ。

午後9時15分 リバーによって掲示

弁解、弁解…  このところブロッグをする時間も、したいという気持ちもなかった。 天候は文字通り地獄。灼けつくような太陽が、地球上の私たちの住むこの一角 だけを特別ひいきにしていると思えるほど、早朝から酷暑が始まる。太陽が沈 んだ後はぐっと涼しくなると思うかもしれないけれど、バグダッドではそうは いかない。日没後、熱をはらんだ歩道や通りは末期の息のように、数時間も熱 波を発散する。

ここ2週間ほど、多くの地区で電気事情はひどい状態だった。4時間停電し 2時間の給電。この2時間を利用して洗濯したり送水ポンプを動かしたりブロ グしたりしなくちゃいけないのに、気がついたらエアコンの前でつかの間の至 福の時を過ごしているのだった。ぐずぐずと、またいつかねと心の中で誰へと もなく約束しながら。

学校は、小学校から大学まで、おおかたの子供たちが休み。みんな家でのん びりと過ごしている。これは親にとっても教師にとってもほんとにほっとする こと。疲れ果てた親たちにとっては、子供が学校へ行っている間が、一日の最 良の時、というのは昔の話。今子供が学校に行っている間、親たちは心配でた まらない。子供を家の中に閉じこめておくのは、子供にとっても親にとっても たいへんなことだけど、一面安心でもあるのだ。

新政府はかつての統治評議会とさして変わらない。同じ操り人形の顔ぶれが 見られる。我らがカルザイ(注:アフガニスタン大統領)であるヤワルが地位を 固めようとしているのを見るのは面白おかしい。これは多くのイラク人にとっ て少々困惑する事態だ。たぶん外国人にとっても。だって彼は、どこから見て も典型的なアラブ人――浅黒い肌、黒い髪、伝統的なディシュダーシャとイガ ール(注:長い白い上着と頭を覆う布グトラを留める黒い輪状の被りもの)ス タイルで、部族のシャイフ(長老)然としているのだ。

こういう見てくれの向こうに本質が隠れている。彼は統治評議会出身で、し かもアメリカのお奨め品と言われているアドナン・アル・パチャチ(彼自身は 自分はアメリカのお奨め品では断じて「ない」と主張しているが)を下して操 り人形たちによって選ばれたのだ。一連のみえすいたお芝居は滑稽だ。ブレマ ーがはっきりと「はい吸って、はい吐いて」と指示しない限り、操り人形たち が呼吸さえしないことは最初から明らかだ。この前人形たちの様子を点検して みたが、フェアリー・グッドマザー(シンデレラの魔法使いのおばあさん)や クリケット・ジミニー(ピノッキオのこおろぎジミニー)の力でも借りない限 り、操り人形たちがにわかに人間らしくなったり良心を育んだりすることはな さそうだった。

噂によれば、彼はアル・シュマルという地域の大部族のひとつの部族長。こ の部族の勢力範囲は、イラク、シリア、サウジアラビアの広い地域に及ぶ。ほ とんどスンニ派であるが、シーア派の数氏族も含む。戦中戦後、北部と西部国 境の大部分を支配下においていた。彼らは地主、農民であるが、時に武器から 人間、羊にいたるあらゆるものの密輸出入者に変じる。

さて、ヤワルこと我らのカルザイは、どこからみても文句のつけようもない 立派なアラビア人でありながら(ラクダにまたがらせたら決まり!)、そのくせ ブレマー一党の決定を何から何まで支持しているように見える。確かに、彼は 時折インタビューで、これやあれやの決定に同意していないと言っている。し かし初めて出席した大きな会議で、彼はNATO軍の国内進駐を要請したのだ 。まるで既にいるアメリカ軍、イタリア軍、イギリス軍などなどでは、まだ不 十分だとでもいうかのように。さらに、他でもないアフマド・チャラビの親密 な友人で熱烈な支持者である女性と彼が結婚しているという噂がある。この件 については、私、まだ調査中。

彼のイメージは、正直なところ、すごくいやな感じだ。腐敗した湾岸諸国の 首長たち、油井、いかがわしい取引の影がちらつく。  アヤド・アラウィはまったくのアメリカと英国のお小姓だ。彼はかなり前か らCIAから給料を支払われている。だから、彼が首相に据えられた時とくに 驚いた人なんていなかったと思う。内閣は亡命イラク人、北部地域にいたクル ド系イラク人、実際にイラク内で生活していた数人のイラク人という面白いと りあわせだ。新政府の37人のうち、11人は確かにイラク国内で生活してき て、このうち1人か2人はとても有能であると知られている。残りは無名か悪 名高いかのどちらかだ。

新政府の中にはなんと2つ以上の国籍を持つ者がいる。誤解しないでほしい 。私は二重、三重たとえ何重であれいくつもの国籍を持っている人に反感をも っているわけではない。しかし、二重国籍をもって政府に参加している人々に 対しては、絶対に反対の立場だ。だって、上院議員や長官がアメリカのパスポ ートのほかにフランスやドイツのパスポートを持ってるなんてことを、認める アメリカ人がいると思う?

正確な数字はわからないが、イラクの内外を併せて国籍ひとつだけのイラク 人は“少なくとも"二千万人はいると言っていい。さらに、これら国籍ひとつ だけのイラク人のほとんどが、イラク国内でその人生の大半を過ごしてきたと 保証できる。こういう統計数字の扱いがいかに突飛に見えようとも、この大勢 のイラク人の中から37人の有能な人材を見つけることが絶対にできたと思う 。この人々は、とてものこと、CIAの盟友ではないし、スイスに銀行口座も 、武装した民兵も、サウジアラビアに億万ドルの長者企業も持っていないだろ う。しかし、この人々の多くは、国を誇り、国と自分たちの子孫の将来をほん とうに心にかけている。

私の一番のお気に入りの大臣は、国防大臣のシャーラン・ハジム。 アメリカの新聞アル=サバによると、同氏は、英国で経営学の修士号を取得し 、クウェート資本のある銀行を経営するためにイラクへ戻った。前政権にイラ ク退去を強いられた後、シャーラン氏はロンドンで不動産会社の社長となり、 昨年6月イラクに戻って以来、カディシヤ州知事を務めている、という。  さて、これってすごく面白くない? 私、きっと何かを見逃していて、知ら ないことがあるんだわ。シャーラン・ハジム氏が“どうして"国防大臣に適任 か、知ってる人いたら何でも教えて。国民が安全な国境と強い軍隊を必要とす るときにあたって、新しい国防大臣が仕事を与えられました。

なぜなら彼は・・・何ですって?子供のときおもちゃの兵隊さんで遊んだから ですって? トルストイの『戦争と平和』を6回も読んだ? コマンドゲーム の地方チャンピオンだったって?

見通しの立たない政治情勢とは離れて、ここ数日親類の一人が外国へ行くの であれやこれや手助けをしていた。気の重い話である。母のいとこは自分の家 を貸し、車を売り、3人の子供を連れアンマンへ出発しようとしている。そこ で、職を得ようと望みをかけて。彼は現状でも十分暮らしていける大学教授だ。 だが、1分1秒を家族を心配して過ごし不安定な政治と治安に翻弄されること に疲れ果てたという。

近頃珍しくない人生のひとつ。 できることならばと、誰もが6月30日の前 に脱出しようとしているように感じられる。去年の夏、何年もイラクを留守に していた人々が、「解放された」なつかしい母国を訪ねたいと騒いでいた(そ の後なつかしい母国を出ようと騒ぎ立てたのだったが)。 今年の夏、事態は まったくの逆となった。

シリアとヨルダンの国境には人が殺到している。ヨルダンの国境で帰された 友達によると、一日20台の車しか通行を許可されず、人々は、国境警備隊の 気まぐれで拒絶されるかもしれないのに、何日も国境で待機を強いられている という。 人々は、平常で安全な生活を待ち続けることにうんざりしている。 この一年はほんとうにたいへんだった。今年の夏は、とりわけ長い夏になるだ ろう。

午後9時6分 リバーによって掲示

(翻訳/リバーベンド・プロジェクト:山口陽子、池田真里)