TUP BULLETIN

速報401号 リバーベンドの日記(10月25日) 04年11月2日

投稿日 2004年11月2日

DATE: 2004年11月2日(火) 午後10時09分

大統領選を前に、アメリカ人へ向けた公開書簡。


戦火の中のバグダッド、停電の合間をぬって書きつがれる24歳の 女性の日記『リバーベンド・ブログ』。イラクのふつうの人の暮らし、 女性としての思い・・・といっても、家宅捜索、爆撃、爆発、誘拐、 検問が日常、女性は外を出ることもできず、職はなくガソリンの行列 と水汲みにあけくれする毎日。「イラクのアンネ」として世界中で 読まれています。すぐ傍らに、リバーベンドの笑い、怒り、涙、ため 息が感じられるようなこの日記、ぜひ読んでください。(この記事は、 TUPとリバーベンド・プロジェクトの連携によるものです)。 (TUP/池田真里) http://www.geocities.jp/riverbendblog/


2004年10月25日月曜日

アメリカ大統領選 2004・・・

あらかじめ言っておく―きょうのブログは、アメリカ人へ向けた公開書 簡みたいなもの。

というのはいよいよアメリカ大統領選が近いからだ。私たちはここイラ クで興味しんしん見守っている。以前、イラク人は大統領選にとくに関心 はもっていなかった。いつ選挙があるかくらいは知ってたけど、どちらの 候補のことにしろ、意見を述べる人なんてほとんどいなかった。私たちみ んな、アメリカ外交は、大統領が民主党某になるか共和党某になるかには 関係ないと、とうに知っていたのだ。

世界のこの一隅から見ると、アメリカ民主主義って大統領選挙でわいわ いやることだけなんじゃないかと思えることがある。重要な政策の選択を めぐってではなくて。アメリカでは戦争をするかしないかの選択はいちお うふつうのアメリカ人の手にある。イラクだって同じだ。こちらにしよう、 いやあちらがいいと選んで投票することはできる。しかし結局は、何か大 きく複雑で邪悪なものが、それぞれの選択を超えたところに存在している のだ。まるでモノポリーのよう、ゲームの駒を選ぶことはできる―小さな 靴、自動車やシルクハット・・・だけどゲームのルールは選べない。顔ぶ れは変わる。が、目標と政策は変わらない。

ものすごく沢山の人がイラク人は選挙についてどう思っているか尋ねて きた。以前だったら、あんまり関心はないと答えただろう。4年前まで、 アメリカ大統領選はしごく単純で裏のない手続きだと思っていた。白人男 性二人が、ひとつの政治ポジションに対し立候補する(現実を直視して。 ほんとうに二人だけ。ネーダーはものの数じゃない)。 人々が投票する。 そして多くの票を集めた方が勝ち。ブッシュ・ジュニアが大統領に「任命 された」4年前の選挙制度の大失態の日から、選挙をめぐるあれこれは複 雑でいささか汚らしいものに見える。

ふつうだったら私、アメリカの大統領は誰がいいかなんて喧々諤々やる タイプじゃない。知ってることといえば、4年前私たちがブッシュでないよ うにと祈ったということだけ。まるで、みんな現在の惨状を予見していて、 ブッシュがそれを体現していたかのよう。(そして、ブッシュがまったくの お馬鹿さんであるということがわかってきたわけ…。)

そして今、候補は、ブッシュ、ケリー、ネーダーの3人だ。まずネーダー をこの競争からはずして考えても問題ないだろう。彼に見込みはないから だ(率直に認めよう)。イラクの諺に“Lo tetla’a nakhlaib rasseh"とある。 “たとえ彼の頭から椰子の木が生えてきたとしても"、彼に勝ちめはない。 実際のところはブッシュとケリーのせめぎ合いだ。ネーダーはケリーから票 を単に奪うだけの厄介者。

誰に勝って欲しいかって? 当然ケリー。 疑問の余地なし。なにがなん でも、私はホワイトハウスからブッシュを追っ払いたい。(そう、アメリカ 人よ、あなた方が昨年私の国を占領してから、ホワイトハウスの主(ぬし) が誰かについて、私にはおおいに口出しする権利がある)。 リアリストの 私は、劇的な変化や何かすごいことを期待する気になれない。だけど、アフ ガニスタンとイラクでの不当な戦争を容認することになるので、ブッシュの 再選(あるいは「再任」と呼ぶべきかしら)を拒絶する。ブッシュの再選は、 イラクでのこの大惨劇が、アメリカ人とイラク人の命と引き替えに実現した 価値があったことにしてしまう。ブッシュが再びホワイトハウスに納まれば、 私たちがこの1年半舐め続けた恐怖と流血の辛酸がすべて是認されてしまう ことになる。

いい分はすべて聞いた。ブッシュの支持者はまるでブッシュそっくり-ま ったく誤りを認めない。ごまかし、愚かさ、情報操作、浪費の一切を真実と 認めない。たわごとだ。支持していないがブッシュに投票しなければならな いと感じている共和党員たちもいて、たぶん自分の良心を慰めるためだろう けれど、長いいいわけがましいEメールを私に送ってくる。彼らは、現時点 でこの仕事の適任者はブッシュただ一人なので、彼が「再選されるべきであ る」というのだ――確かに彼はいくつかの誤りを犯し、些細な嘘を言った。 しかし、彼はよかれと思ってやっているし、事態を収拾するつもりだ。それ に彼には将来の設計図がある、と。

あなた方アメリカ人にハッキリさせておく―彼には絶対に計画などない。 私たちが生きているこの大混乱に対処する設計図などありえない。ブッシュ がイラク復興計画をたてるのに、ずるがしこくもカオス理論をつかっている のでなければ。イラクにあるのは混乱だけ。そしてイラク人は、ワシントン にいる奴らは自分たちの行為が何を意味するか分かっていないのだと考えて いる。イラクにいる彼らの操り人形はもっとわかっちゃいない。今のイラク で行われているゲームの名は、剥きだしの侵略―イラク全土が抵抗を始めて からは、民心獲得作戦なんてもんじゃまったくなかった。ブッシュの計画は 簡単にいってしまえばイラクで言うところの“A’athreh ib dafra"、おおま かに訳すと、“つまづいたらけっとばせ"。 言いかえれば、ものごとはな るようにしかならないものだ。で、つまづいたらけっとばせ。願わくば望ま しい方向にいってくれるように。

それじゃケリーがブッシュよりずっとましな大統領になるかって? そうね え。彼が事態を収拾するつもりか、軍隊を引き上げるつもりか、あるいはもっ と投入するか、私には分からない。ケリーが果たして現在のイラクの地獄沙汰 にうまく対処できるか、疑わしく思っている。ただ、ブッシュより悪いものが ないことだけは確か。誰だってブッシュよりまし。ともかくブッシュの後の大 統領が誰であれ、順風満帆ということはほとんどありえない。まるで沈没船に 新しい船長を就かせるようなもの。私が知っていることといえば、ブッシュが 穴をあけて浸水させたということ。だったら彼は船外に放り出されてしかるべ き。

以前、このブログでブッシュに集中砲火を浴びせた後、私にメールを送って きた人がいる。大統領を支持している読者を失いたくなかったら、彼に対する 侮辱の調子を和らげるべきだと。私がはっきりと戦争と占領に反対と口にした 時点で、そんな読者は失った。ブッシュがかまけているのは戦争と占領だけな のだから。彼はアメリカやイラクあるいはアラブ地域の安全を守ってはいない。 一人の人間そしてリーダーとしての無能ぶりを、戦争と、ありもしない大量破 壊兵器、でっち上げのテロリストや子供だましのまやかしでおおい隠そうとし ているだけだ。

私が言わんとしていることはこれ。アメリカ人へ、かつて“自由と公正"の 代名詞であったあなたたちの国の名前は、世界中で蔑まれるものとなった。あ なたたちの今の大統領は、民主主義国であるという偉大なアメリカ像が、単な る虚像にすぎなかったことを証明した。あなた達は抗議し、デモを行い、投票 することができる―しかし、そこまで。主権は、ブッシュがホワイトハウスへ 足を踏み入れた瞬間にあなた達の手から離れた。繰り返し欺かれては、だまさ れて2つの戦争に送り込まれ、あなたたちの息子や娘は、異国の地で殺し合い 次々死んでいっている。あなたたちの大使館は、世界中で危険にさらされてい る。「アメリカ」は、「帝国」「覇権」そして「戦争」と同義になった。だけ ど、なぜ?すべて、自分たちの大統領ができそこないであるという事実から、 あなたたちの目をそらせる必要があったからだ。

戦争を始めるという決断を「強さ」と結びつける人たちがいる。いったいど れくらい強ければ、異国の地で何千もの同胞を死においやることができるのか?  特に、自分は家で家族とぬくぬくと傍観しているというのに。どれくらい強 ければ、弱い軍隊と生活も経済もがたがたの国に対して、最先端の軍事技術を もって町々を瓦礫にする爆撃の命令を下すことができるのか。 強くならなく ても、できる。狂えばいいのだ。

アメリカ人よ―あなたがたにとって今より悪い事態はありうるかしら? イ ラク人にとって今より悪い事態はありうるかしら? もちろんありうる。想像 すればわかること―ブッシュがもう4年やる、と。

午後10:35

(翻訳/リバーベンド・プロジェクト: 山口陽子、高橋茅香子、池田真里)