TUP BULLETIN

速報419号 ドナ・マルハーンのイラク報告(5)  産油国で石油不足を忍ぶ 04.12.09

投稿日 2004年12月9日

DATE: 2004年12月10日(金) 午前0時07分

「いつかイラク人は切れますよ」給油待ちの長蛇の列に並びながらアリは言った。


 4月、米軍包囲下のファルージャに、人道救援活動のために入り、その帰路、地元 のレジスタンスによる拘束を経験したオーストラリア人女性ドナ・マルハーンが、11 月24日に再びバグダッド入りし、そこから送っている現地報告をお送りします。この 第5信は、占領と傀儡政権のもとでガソリン不足に苦しむ石油埋蔵量世界2位の国の 市民のすがたを伝えます。 (萩谷 良/TUP)


ドナ・マルハーン 混乱の中の暮らし ガソリンに長蛇の車列 2004年12月2日(木)

バグダッドに住む三児の父のアリは、午前3時に起きる。寒い暗やみのなか、毛布を つかんで、車に向かう。

気がかりな様子で、もうインジケーターが赤になっている燃料計を見つめながら、ゆ っくりと裏通りに車を進め、並んでいる車列の後尾につく。朝のこの頃合いには、並 んでいる車の列もせいぜい数キロ程度だ。運が良ければ8時間もすると先頭に出るこ とができる。

石油を豊富に産出するこの国で、アリは、給油のために、近所の石油スタンドに列を 作って並ぶのだ。

待ち時間のあいだに、ちょっと眠っておこうとする。でも、うかうかしていると、抜 け駆けされるので、見張っていなければならない。

長時間待たされるうちに、癇癪玉が爆発して、ひどい喧嘩ざたが起こることもしばし ばだ。この夏には、アリの近所に住む21歳のハイデルが、順番争いに巻き込まれて 、給油所の入口で撃ち殺された。バグダッドの暑さのなか、車内の温度は50度を越 えることもあるのだから、人々の血も沸騰する。

アリは、自分の順番を取り損ねないためには、日の出とともになるべく早くこの道に 来なければならない。30分ぐらい毎にほんの数インチ車を進めながら過ごす長い一 日に慣れてくると、ほかの順番待ちの男たちと喋り始める。

今のバグダッドで、いちばんびっくりする光景のひとつが、この車の列だ。主な幹線 道路やそちこちの通りに、大小のトラック、バスが、5キロにもおよぶ蜿々長蛇の列 を作っているのだ。

それらはたいてい、長い駐車の列のように見え、それが、通常なら車が走っているは ずの交通量の多い道路の1車線を占めていることがしばしばある。これが、バグダッ ドの混乱に拍車をかけ、10キロの道を行くのに2時間もかける破目になる。

アリは電気工事屋だ。家々を訪ねてまわる彼の仕事に車は欠かせない。

「待たされるったら、ひどいもんですよ。しかも、それだけじゃない」と彼は語る。

「仕事の時間を奪われますから、商売のほうが深刻です。給油待ちしてる間は、仕事 ができませんからね。つまり、金がなくなるわけです」

「女房と息子が3人いるんです。政府に雇われてりゃ、決まった給料ももらえるけど 。だから、ぶらぶらしてつぶす時間はまったくないんですよ」

「1日待たされるときは、商売がなくなるばかりじゃない、がっくりきて、やる気も 萎えますよ」

アリの話は、この国にいちばん豊富にある資源である石油の、原因不明の欠乏がもた らした混乱をなんとか乗り切ろうとしているバグダッド市民の典型だ。

6時間、7時間と列を作って待ったあげく、品切れですと言われることも、珍しくな いのだと、アリは語る。徒労だったとなれば、なおさらこたえる。

「それは、いつも、みんなに起こることです。がっかりなんてものじゃ済みません。 腹が立って、どこかへ行って、なんかひと騒ぎ起こしてやろうかって気になりますよ 」

ガソリン待ちの間は、車の数を数えたり、いつ終わるか予想をしたり、一緒に待って いるほかのドライバーと政治の話をしたりしているそうだ。

「政治の話っていったら、必ずイラク政府とアメリカ人のことだね」と彼は言う。

「なんで政府はこんな事態を認めるんだ、ってみんなで言い合ってますよ」

「イラク国民がこんなことを黙ってるほどバカだと思ってるんですかね?」

「いつかイラク人はキレますよ」

給油所待ちをしてられないドライバーは闇市場で5倍の値段を出して買っている、と 、アリは説明する。

道端にいる若者たちが、違法に手に入れたガソリンを、ジュースやコーラのPETボ トルを使って、軍用の19リットル缶から車のタンクに入れている。

ガソリンはは今でも、石油スタンドに行けば比較的安い(政府の統制価格より高いと はいえ)のだが、闇市では、20リットル缶が8ドルもする。

戦争前は、平均25セントで車を満タンにできた。待つこともなかった。

当然、アリたちは、石油不足で苦労するのもアメリカの占領のせいだと、怒りを向け る。

この状況を生んだ経済事情は複雑かもしれないが、アリにとっては事は単純だ。

「アメリカ人が我々の石油を盗んだ。そうしておいて、我々の役に立とうとはしない 政府を据えたんです」

「なにもかも悪くなる一方で、子どもの将来が思いやられますよ」

「毎日考えることはみな同じです。いつになったらこの苦しみが終わるんだ、とね」

アリのタンクは数日はもつだろう。それから、彼はまた暗い早朝に起きて、列に並ば なければならない。

皆さんの巡礼者 ドナより

追伸 これは注目すべきことですが、イラク国内の石油不足は、パイプラインの破壊 とは関係がなく、パイプライン破壊では輸出用の石油のほうが影響が大きいようです 。

追追伸 給油待ちの車列の写真は次回。

追追追伸 アリは、元気にやっています。比較的には! 皆さんのお気遣いとご好意 ありがとうございます。

追追追追伸 「平和を望むなら、正義のために働きなさい」 教皇ヨハネ・パウロ二 世

(全訳 萩谷 良/TUP) 原文URL: http://groups.yahoo.com/group/ThePilgrim/message/126