TUP BULLETIN

速報432号 ドナのイラク報告 (15)  思いがけぬ再会 041230

投稿日 2004年12月30日

DATE: 2004年12月30日(木) 午後0時32分

世界の中で孤立させられてしまった。イラクの中でさえも。ファルージャ難民の声


4月、米軍包囲下のファルージャに、人道救援活動のために入り、その帰路、地元 のレジスタンスによる拘束を経験したオーストラリア人女性ドナ・マルハーンが、11 月24日に再びバグダッド入りし、そこから送っている現地報告をお送りしています。 援助物資を持って、バグダッドでファルージャ難民を受け入れているイスラム教の神 学校に行ったときの報告です。 (翻訳:福永克紀/TUP)


ドナ・マルハーン 人間――トゥウンバからファルージャへ 2004年12月20日

お友達の皆さんへ

ファルージャ難民がいる学校に到着すると、私は客室へと案内されたが、このあとそ こで起こったことは、まったく予想もつかないことだった。

だが、その答えは、室内にいた6人ほどの男性の中の一人が見せた反応で、たちまち 明らかになった。その人は窓際の大きな机に座っていて、そのグループのリーダーの ようだった。

彼は私を見るなり立ち上がり、両手を広げて満面の笑みを浮かべた。それから彼は、 みんなにこう披露した。「このご婦人は私の知っている人です――ファルージャの私 の家に泊まった方です!」

これを聞いたみんなと同様、私もただ驚くばかりだった。でも、そう、間違いない。 私はすぐに、この大きな口ひげで気品ある容貌の男性が、ファルージャのコミュニ ティの指導者だと分かった。この前の4月に米軍がファルージャを攻撃していた最中 に、援助を届けに現地に行ったとき、私たちのグループを歓待してくれたその人だ。

今やイラク中に難民として散り散りになっている15万人になろうかというファルー ジャ市民のうちで、よりによってこの人に、この日に会えるなんて、なんという偶然 の賜物だろう。

これで話し合いの風向きは定まった。友好的な話し合いが再びできる。いいスタート をきった!

「オーストラリアからどんな意図をもって来たかも分からない見知らぬ人」としてで はなく、「友人」として歓迎されることで、何もかもが変わってくる。このリーダー の人が私に親しみを示すのを見て、ほかの男性たちも緊張がほぐれたようだった。

長い茶色の伝統的ディシュダーシャに身を包み、皮のベストをはおり、赤白のチェッ クのスカーフを頭に巻いたこのリーダーの人が、私に腰掛けるように勧めると、男性 たちも部屋のあちこちのいすに腰掛けた(訳注:ディシュダーシャ アラブ男性が着 ている長衣の服)。

ライドが部屋の後ろに積み上げたヒーターの箱と毛布の袋が、ここに私たちが来た目 的を忘れるなと念を押していた。

私たちは、用向き以外の思い出話などには時間を費やさなかった。その後の時間は、 私がたったひとつ質問しなければならなかっただけで、この人たちが、あふれるよう に自分たちの身に降りかかったことを語りはじめ、さかんな手振りで要点を強調しな がら、いまの状況についての意見を述べてくれたのだ。

「私たちにとっては、大変に困難な時期なのです」と、最初にリーダーの人が言っ た。「あなたがたには、想像もつかないでしょうが…

「大部分の人が今やテント暮らしなのです――食料もない、電気もない、水も薬もな い。

「イラク政府は、ファルージャ市民には何の援助も与えていません。ニュースでは、 やっているというが、そんなことはありません、一般の人々だけが援助してくれてい るのです。

「私たちが今いるこの場所でさえ、民間人からの提供で、政府は何もしてくれませ ん。

「ファルージャから来た多くのものは、今や住む家もありません。持っているものは 何もないのに、メディアはそのことも知りません、というのも、政府がメディアを中 に立ち入らせず、人々と話をしたり、中を見たりさせないからです」

犬に食べられている死体の恐ろしいイメージが、前夜からいまだ脳裏に焼きついて離 れない私は、この攻撃が市民生活に与えた衝撃をどのように考えるか尋ねてみた。

「そうです、あなたが来る前、そのことと、道に放置されている遺体のことを話し 合っていたのです」と、リーダーの人が言った。

「昨日は、ファルージャから一人の少年が直接ここに来ました。障害のある子です。 兵隊に撃たれた彼を、なんとかバグダッドまで連れてきた人たちがいたのです。病院 は他の負傷者でいっぱいだということで、その子を受け取れなかったので、彼らはそ の子を戸外に放置したのです。今日、私たちが別の病院に連れて行きました。

「おそらく、こんな話の全部がオーストラリア人の耳に届くわけではないでしょう。 あなたなら伝えることができると願っています」

すべての男性がうなづき、賛意を表した。

「米軍はファルージャにテロリストがいると言って、ファルージャを攻撃したのです ――イラク外部からのアラブテロリストがいる、と言って」と、リーダーの彼が続け た。

「それから、テレビでアメリカが言うには、イラク外部からの戦闘員27名を発見した という。これが、大きな町を破壊し、その住民全部を攻撃する理由になると思います か?」

彼は、語るにつれて、怒りがつのり、声が大きくなり始めた。

「その上、ザルカウィだって? 私たちはこんな男は知りません! 米軍はザルカ ウィとかいう名の男がファルージャにいると言う。そんな男など知るはずもない! 3日間のファルージャ攻撃の後、ザルカウィはファルージャから逃げてしまったと、 しかも彼らは72時間あれば任務は完了すると言った。しかし、今ではもう、ファルー ジャが封鎖されてから一月以上もたってしまった」

彼が言うには、人々がなんとかして逃げ延びてくるにつれ、いまなお市内に残る市民 のすさまじい状況を彼らが伝えることとなった。

「米軍が多くの老人を捕まえ、アブグレイブ刑務所に収監しましたが、この人たちは 65歳から70歳の人たちですよ」と、彼は言った。

「それから、8カ月の赤ん坊にやるミルクが必要だった女性がいました。ところが、 閉じ込められてミルクをまったく手に入れられなかった。赤ん坊は3日間、おなかが 減って泣きやみませんでした。

「赤ん坊は死んでしまい、裏庭に埋めざるを得なかったのです」

このような被害すべてに取り囲まれて、どのように感じているのか、皆さんも述べて くださいと、私が頼んだ。

「私たちの身に起こったことは、非常に辛いことですが、もっと辛いのは、誰もその ことについて語らないことです、特にアラブ諸国が。すべての人たちが、黙っている のです、だから、なおさらやりきれないのです。

「世界の中で、孤立してしまったように感じるのです。イラクの中でさえ、孤立して いると感じるのです」

この時点で、多くのオーストラリア人から伝えられた思いを、この人たちに伝えるの がいいと私は思った。

「皆さん方すべての方に、知ってもらいたいことがあります」と、私は部屋中を見回 しながら言った。「オーストラリアの人々が、あなた方のことを心配しているので す、あなた方のことを気にかけ、なんとかしてあげたいと思っているのです。

「あなた方は、孤立し忘れられているわけではなく、オーストラリアにはあなた方へ メッセージを送っている友人がいるのです」

私はかばんから大きなラミネート写真を取り出した。それには、いろんな年齢の、肌 の色も姿も背丈も違うおよそ15人の一団が、一列に並んで横断幕を掲げているところ が写っていて、その横断幕には「私たちオーストラリア人は、イラク戦争に反対し、 イラク戦争を恥じている」と、英語とアラビア語ではっきりと書かれている。

この写真は、クイーンズランド州のトゥウンバの平和団体が用意したものだ。彼ら は、保守的な地域社会で、同情の声をあげ関心をよせる人たちが集まっているすばら しいグループだ。私はこの写真を多くのイラク人に見せてきたが、その反応はいつも とても温かく感謝に満ちたものだった。私は、これをファルージャの人たちにあげた くて残しておいたのだ。(訳注:トゥウンバ クィーンズランド南東部の町で、ブリ スベンの西125キロに位置する。1936年に、クィーンズランド地方党(現国民党)が この町で結成された)

リーダーの人は眼鏡をかけ、もっとはっきり見ようと、写真を少し遠くに離して見つ めた。

彼は無言になり、しばらくは顔を上げることもなかった。ただ写真に見入って、つよ い感情に圧倒されている様子だった。

ついに、彼は大声で話し出した。「この写真を、すべてのファルージャ難民に見せま しょう! これをもって帰り、高く掲示します!」

私は、まだまだ多くの、難民の方へのメッセージがあることを伝えた。

「すばらしいことです」と彼は言い、その怒りは和らいでいくのがわかった。

「これのおかげで、今、心が少し楽になりました」

「分かっていただきたいのですが」と私は言った。「オーストラリア政府と国民は違 うのです」

「確かに、それは感じます」と、別の男性が言った。「もしあなたが、政府と同じだ と思ったら、あなたをここに来ることは認めなかったでしょう」と、彼は笑い声を 上げて言った。

「だから、今は政府のことは忘れて」と、私は提案した。「お互い、人間同士でいま しょう」

部屋中の人間すべてが、心をひとつにして賛成してくれた、皆で写真を回し見し、そ れに驚嘆しながら。

皆さんの巡礼者

ドナより

追伸:ファルージャ会合の会話は、まだまだ続きます。1時間も続いた話は、分割し て送るつもりです。

追追伸:美しきトゥウンバの方々に感謝――この写真を作ってくれた皆さんの努力 は、本当に価値あるものでした。

追追追伸:ここ何日か、音沙汰なしでごめんなさい。ここの親しい友人たちの何人か が個人的な悲劇に見舞われていて、それにかかりっきりになっていました。それ以外 のことに集中できる状態ではなかっただけなのです。

追追追追伸:「僕があいつで 君もあいつで 君は僕で 僕らはみんな一緒だ」―― 「僕はセイウチだ」より ビートルズ

(翻訳:福永克紀/TUP)

原文:Human Beings – from Toowoomba to Fallujah URL: http://groups.yahoo.com/group/ThePilgrim/message/141