TUP BULLETIN

速報440号 リバーベンドの日記、1月2日 あまりに不透明な選挙を前に 050106

投稿日 2005年1月6日

DATE: 2005年1月7日(金) 午前1時15分

近づく選挙、売られる投票用紙、投票用紙の性別欄は全部「男性」


戦火の中のバグダッド、停電の合間をぬって書きつがれる24歳の 女性の日記『リバーベンド・ブログ』。イラクのふつうの人の暮らし、 女性としての思い・・・といっても、家宅捜索、爆撃、爆発、誘拐、 検問が日常、女性は外を出ることもできず、職はなくガソリンの行列 と水汲みにあけあけくれる毎日。「イラクのアンネ」として世界中で 読まれています。すぐ傍らに、リバーベンドの笑い、怒り、涙、ため 息が感じられるようなこの日記、ぜひ読んでください。(この記事は、 TUPとリバーベンド・プロジェクトの連携によるものです)。 (TUP/リバーベンド・プロジェクト:池田真里)  http://www.geocities.jp/riverbendblog/


2005年1月2日 日曜日

新年と選挙

私たちはお正月を家で過ごした(去年もそうだった)。 ごくささやかな、家族だけの集まりだったが、 Eと私はこんな時であって もできるだけお祭り気分を味わおうとした。私たちは発電機を夜の10時か ら深夜2時まで動かすことにした。そうすれば電気の勢いで2004年を乗 りこえることができるだろうというわけだ。

お正月といえばおいしい料理だ。イラクでは喜びにつけ悲しみにつけなに かあるときにごちそうはとてもだいじなものだ。私たちはなによりもまず料 理をどうするかという問題を話し合うことになる。けっきょくイラクの伝統 料理をちょっと、ポップコーンやコーンチップスなどのジャンクフードちょ っと、キャンディーいっぱいということになった。

みんなでテレビの前に座り、世界のあちこちで行われている祝賀行事を見 た。花火や照明、笑いの渦や歌う人々を見ていると、いやがおうにも今の私 たちの境遇をひしひしと感じてしまう。なんだか私たちがじっと立ちつくし ている前を世界が知らん顔して通りすぎていくような気がする。4月がきた ら、戦争と占領が始まってから2年も経ったことになるなんて、とても信じ られない。1時間が10時間であるかのように感じられる日が多いのだ。で も同時に、時の経過を感じることがどんどんむずかしくなってもくる。それ は、人が、ものごとがどのくらい進展したかで時の流れを感じとるものだか らかもしれない。なにもかもがいろんな意味で悪化していくために、私たち は前に進んでいるというよりも後ろに退がっているように感じてしまうのじ ゃないだろうか。

一方、地震と津波がもたらした大災害も、今年の新年祝賀行事に暗い影を 落とした。この悲劇は被災地の人々を数十年にわたって苦しめることになる だろう。こんなにも突然、暴力的に、これほどにも多くの人々の命が奪われ るなんて、恐ろしいことだ。こうした大混乱と死を見ていると、バグダード に暮らしているほうがましなのかも、という気がしてくる。

新年のカウントダウンを始めたころ、バグダードでも花火があった。20 05年になる10分ぐらい前に、家からほど近いところで大きな爆発が3回 起き、家が揺れた。よりにもよってこの時にと、ちょっと驚いた。いとこの 娘たち二人は最初おびえたが、その後はくすくす笑いが止まらなくなった。 Eは手を打ち合わせて叫んだ。「ワオー花火だ!!グッバイ2004年!!」 。それに続いて子どもたちがでたらめなダンスを踊りだした。

選挙は1月29日に行われる予定だ。なかなか興味深い状況ではある。異 なる宗派や党派はどうしてもたがいに同意することができないようだ。スン ニ派の人々は選挙をボイコットしようとしている。同意できないのは、宗教 やファトワといったことについてではなく、占領下で選挙を行うということ の是非についてですらない。イラクの人々は、これが民主主義への第一歩だ などと感じることがまるでできないでいる。西側のメディアはさかんにそう 言ってるけれど。多くの人は、これはだめな芝居の終幕にすぎないと思って いる。これはわたしたちに手渡す「民主主義の小包」をリボンで結ぶという ことだ。選挙によって「正統」というラベルを貼られた占領政府を押しつけ られるということだ。

わたしたちは、選挙に備えるしあわせなイラクの家族を描いたすてきなコ マーシャルに爆撃されている。ポスターや掲示板を見ると、選挙が近づいて いるんだっけと思い出す…

今から20年後、イラクの歴史の教科書になんて書かれるか、想像できる?

「2005年1月29日、アメリカ合衆国率いる占領軍の集団的監視の下 でイラクにおける最初の民主選挙が行われた。戦車隊の見守るなかで、熱し やすく、いいかげんなイラク人たちの群れはぞろぞろと投票箱に進みより、 アメリカに承認された候補者たちの中から一人を選んだ…」

こんなの、だめだわ。

いくつか問題がある。まず、実際面では、わたしたちが候補者を知らない ということ。リストのトップに名前のあがっている人物はわかるけれど、い ったい誰が立候補するかがわからない。これはほんとに困る。かれらは立候 補者が暗殺されることを恐れてリストを公表しようとしないのだ。

もうひとつの問題は、投票用紙が売買されていることだ。わたしたちは、 さまざまな地域で配給食料を配る人たちから投票用紙を受け取る。家族全員 がこの人(たち)のところに登録されていて、それぞれの年齢も把握されて いる。ところが、選挙に行こうとしない人たちがとても、とても、とてもた くさんいる。そういう人たちのなかには、400ドルもの値段で投票用紙を 売る人がいる。街の噂では、イランからきた人たちが投票用紙を買っている そうだ。かれらは投票用紙を買ってIDを偽造し(最近では偽造はめちゃく ちゃかんたんだ)、SCIRIかダーワの候補者に投票するという。スンニ 派の人たちは、選挙する気がないのに投票用紙を受け取っている。投票用紙 の売買を防ぐためだ。

さらにべつの問題がある。それは、すべての投票用紙で、投票者の性別の 項目が実際の性別とは関係なく「男性」となっていることだ。私のことを正 気じゃないといってくれてもいいけれど、これには少々混乱する。なぜこん なことになったの? これはたんなる間違い? なんのために投票用紙に性 別の欄があるの? で、それがどうしたというの? さまざまな意見が飛び 交っている。宗教的な傾向の強い家庭では女性が投票することを好まないの で、家長が身内の女性のIDと投票用紙を受け取って代わりに投票すること ができるようにしたのだという意見。それから、この「間違い」は、偽造I Dを使って女性の代わりに投票することが簡単にできるようにするためのも のだという意見。

こうした諸々のことのせいで、こんどの選挙は不吉なベールを纏っている。 不可解なことが多すぎて、あまりに不透明だ。ちょっと気にかかるなんて程 度のものじゃない。

アメリカの政治家たちは、この選挙でイラクが非宗教的な国家として生ま れ変わるだろうと自信満々でいるようだ。いったいどうしたらそんなことが 起こり得るだろう? シスターニ一味からさまざまなファトワを受け取って 投票に駆りたてられているシーア派の人たちがたくさんいるというのに。シ スターニやその他のイラン支持者たちは、もし投票しないならば棄権者は地 獄の業火で永遠に焼かれるだろうというファトワを公表している(これって アメリカ大統領選挙のときのブッシュ派右翼たちから借りたファトワなんじ ゃないかしら?)。で、ブッシュ派右翼のような扇情的なファトワで焚き付 けたやつがいるってわけ。これで、どんなふうに投票権を行使するっていう の? 非宗教的に? ええ、もちろんよ。

午後2時40分 リバー

(翻訳:リバーベンドプロジェクト:いとうみよし、岩崎久美子、池田真里)

http://riverbendblog.blogspot.com/

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