TUP BULLETIN

速報447号 ドナからの手紙 パレスチナでの選挙――何が変わったのか? 050120

投稿日 2005年1月20日

DATE: 2005年1月21日(金) 午前0時25分

アッバス当選。しかし、何一つ変わっていない。パレスチナの未来は? ドナが憂う


 2004年4月、米軍包囲下のファルージャに、人道救援活動のために入り、その帰 路、地元のレジスタンスによる拘束を経験したオーストラリア人女性ドナ・マルハー ンは、11月24日に再びバグダッド入りした後、今回のイラク滞在を終え、現在パレス チナに滞在しています。パレスチナ議長選挙監視活動の一員として、アッバス新議長 当選を見届けたドナが、パレスチナの明日を語ります。 (翻訳:福永克紀/TUP)


ドナ・マルハーン パレスチナでの選挙――何が変わったのか? 2005年1月11日

お友達の皆さんへ

パレスチナ選挙――おそらく皆さんは、ラマラで旗を振っている若者の姿を見たので はないでしょうか? それとももしかして、平和への新たな機会について語るジョー ジ・W・ブッシュや他の指導者の楽観的な言葉を聞いたのでしょうか?

しかし、いま私が座っているヨルダン川西岸のナルブスからみれば、確かなことがひ とつあります――実際には存在もしない国家の代表を選出しても、ここに住む人々の 生活にたいした変化は起こらないということです。

パレスチナ人が誰よりも強く、平和的で優良な政府を求めているのは明らかです、し かし最近メディアで言いふらされている、熱はこもっているが、しばしば押し付けが ましいだけの決まり文句「アラブの民主主義」を耳にしたあとでも、事実は変わらな いのです――パレスチナが占領下にあるかぎり、パレスチナ人は本当の民主主義を経 験することはできないということです。

昨日の選挙はそのひとつの例です。政治的意識の高いパレスチナ人にしては、比較的 円滑におこなわれた選挙でした。発生した諸問題は、歓迎されざるイスラエルの介入 によるものだけでした――軍が道路を封鎖して人々が投票場に到着するのを妨害した こと、および東エルサレムではイスラエルの役人が登録有権者に実際に投票すること を許さなかったということです。

外部の世界からの陽気な美辞麗句にもかかわらず、パレスチナ人は現実を理解してい ます――平和への実際の権力が、イスラエル首相アリエル・シャロンと彼の最大の支 持者ジョージ・W・ブッシュに握られているかぎりは、新選出のマフムード・アッバ スが奇跡を起こすことなどできないということです。

パレスチナ人が今朝目覚めたとき、ことによると、新しい指導者を得ていたかもしれ ません、しかしそれでも彼らは、占領には何の変化もないという冷厳な現実に対処し なければならないのです。いまだに、自分たちの土地を自由に動き回ることさえでき ないのです。何時間も列に並び、畜牛のように回転ドア式出入り口から一人ずつ歩い て入り、到着した軍の検問所で19歳のイスラエル兵にIDカードを示さねばならず、仕 事や学校やどこであろうとこの先の道のりを続けていいのかどうか、決めるのはその 子なのです。

私が泊めてもらっている家族には、20年の刑期を受けていまだに収監されている若い 息子がふたりいますが、その理由はいまだに明らかにされていません。

ガザの住民たちはいまだに、先月イスラエル兵にブルドーザーで押しつぶされた隣家 の瓦礫を目にしなければならず、またほんの先週イスラエルの戦車の砲弾一発で粉々 に吹き飛ばされた7人の子供の死を悼まなければなりません。最近の何年かでは、パ レスチナ人の子供の死はあまりに当たり前になってしまっていて、ニュースになるこ とももうまれなのです。

ジャエウスの農場主は、樹齢100年のオリーブの木々が、農場の真ん中を通るコン クリートのアパルトヘイトの壁(隔離壁)を立てるために根こそぎにされた事実に向 き合っていかなければなりません。

一方ヘブロンでは、パレスチナ人の家族は、すでに彼らが住んでいる政府認可の「入 植地」に無理やり入り込んできて、登校途中の子供たちに熱湯を投げかける、極端で 暴力的なイスラエル人不法占拠者を、いまだに相手にしなければなりません。

イスラエルが、国家認証の暴力をパレスチナ人の頭上にふるい、彼らの生活を絶えが たく屈辱的な地獄となし、そのことによって住民の一部を過激化させているのです。

パレスチナ人が今朝目覚めたとき、やはりこの過酷な現実から逃れているわけではあ りませんでした。彼らが言うには、この問題こそが、イスラエルに対するパレスチナ 人の暴力の核心にあるのです。

もし、イスラエル政府によるこの暴虐すべての目標が、政府が主張するごとく、この 地に治安をもたらすことだったとしたら、つまり、もし本当に、2000年以来900人以 上のイスラエル人を殺害してきたパレスチナ人の暴力を終焉させるつもりなら、それ にはもっと簡単な方法があるはずです。さらに暴力を引き起こすようにではなく、歯 止めをかけられるようにする方法が。

もしイスラエル政府がこの暴力を別の観点から、つまりイスラエルに対するいわれな き攻撃としてではなく、占領への抵抗だと見ることができれば、解決策はもっとたや すく見つかります。すなわち文化を、占領の文化から共存の文化へと変えること、入 植をやめること、パレスチナ人が独立国家に住めるようにすること、これら全部を後 回しにせず早急にやることです。もしこれら全部は困難すぎるように聞こえるなら、 人生をこんなに悲惨にし敵愾心に油を注ぐだけの過酷な非人道的措置を、少しでも緩 和することから始めるのです。

イスラエルに対するパレスチナ人の暴力の終焉、これがマフムード・アッバスの願い であり、パレスチナ人とイスラエル人の大半の願いであり、実に世界中の願いなので すが、そのためにはアッバスには多大なる支持が必要でしょう。

イスラエルが、この4年間に3400人以上のパレスチナ人を殺害し、何千人をも負傷さ せたその過酷なやり口を抑制した場合に初めて、アッバスは戦闘勢力の支持を得て占 領への暴力的抵抗を終焉させることができるのす。

パレスチナ占領に抵抗するためには非暴力手段に訴えるというこの新議長の計画は、 パレスチナ人や世界の指導者たちから温かく歓迎されていますが、それはそうである べきでしょう。しかしその目標が成功裏に終わるためには、彼には助けが必要です。 本当の助け、言葉だけではなく、国際社会とイスラエル政府の助けが。彼一人の力で なしうるものではありません。

近い将来、アッバスに変革への権限を持たせることのできるイスラエル政府の側で、 なんらかの前向きの動きがあるとしても、平和への望みが実現されるのを見るのは、 まだまだこれからのことでしょう。

パレスチナ選挙は、今日の何も変えたわけではありません、しかし、もし皆が責任を 引き受けるなら、明日への変革をもたらす機会となるのです。

皆さんの巡礼者

ドナより

追伸:選挙の速報として、パレスチナ人が生きる過酷な状況を私の意見をまじえて書 きました。いずれまたの話として詳しく説明するつもりです。イスラエル人が生きる 状況についてもです。聖地から母への手紙も続けてお送りしたいと思います。

追追伸:バグダッドにいたときのように定期的に話を送れなくてごめんなさい。時間 をとるのも、書く場所を見つけるのも、インターネット接続できるのも、ここでは ずっと難しいのです。

追追追伸:私は元気です(こんなに寒くなければね、ブルブル!)。ブルドーザーで 倒されたオリーブの木を植えなおしたり、イスラエル人活動家たちと一緒にアパルト ヘイトの壁の反対デモに参加したりと、忙しくしています。明日は、ヨルダン川西岸 のジェニンに行って、農家のオリーブ収穫を手伝いに行きます。イスラエル人の武装 入植者から攻撃を受け続けていて、私たちに手助けを求めてきているのです……やる ことがいっぱいです!!

追追追追伸:「真の平和とは、単に緊張の不在ではなく、正義の現存なのです」―― マーチン・ルーサー・キング・ジュニア

原文:Elections in Palestine – what has changed? URL: http://groups.yahoo.com/group/ThePilgrim/message/146