TUP BULLETIN

速報503号 リバー・ベンドの日記 5月18 日 バンパイア・ライス国務長官  050524

投稿日 2005年5月24日

DATE: 2005年5月25日(水) 午前0時39分

新たな次元に突入しているイラク戦争


戦火の中のバグダード、停電の合間をぬって書きつがれる24歳の 女性の日記『リバーベンド・ブログ』。イラクのふつうの人の暮らし、 女性としての思い・・・といっても、家宅捜索、爆撃、爆発、誘拐、 検問が日常、女性は外を出ることもできず、職はなくガソリンの行列 と水汲みにあけくれる毎日。「イラクのアンネ」として世界中で読ま れています。すぐ傍らに、リバーベンドの笑い、怒り、涙、ため息が 感じられるようなこの日記、ぜひ読んでください。(この記事は、T UPとリバーベンド・プロジェクトの連携によるものです)。 (転載転送大歓迎です)

(TUP/リバーベンド・プロジェクト:池田真里) http://www.geocities.jp/riverbendblog/


2005年5月18日

死者と亡者・・・

「おおぜいの従者に取り巻かれて、その女性は混み合った室内に立っていた。 押し合いへしあいして、女性の邪悪なオーラに近づこうとする人々。酷薄な唇 が歪んで表情を作ると照明が歯にきらめいた。微笑のつもりだったのだろうが、 冷たく生命を失った目は笑わなかった。いやらしい目つき――獲物に食いつく 前の吸血鬼の目つきだった」。

これは「バッフィ――ザ・バンパイア・キラー」(訳注:バンパイアをやっ つける女子高校生バッフィを描く映画)のシーンではない。コンディ・ライス が一昨日イラクに来たときのこと。うちでは愛をこめてコンディをバンパイア って呼んでいる。ブッシュとは大違い。ブッシュはただの阿呆面。ところが、 コンディはどこから見ても邪悪そのものだ。

荒れた2週間だった。爆発はバグダードだけでもすごい数だ。暗殺も数件あっ た。あちこちで死体が見つかっている。とんでもない場所で死体が見つかった と知るのはあまり気持ちのいいものではない。川魚は食べない方がいいよ、川 に捨てられた遺体を食べて大きくなったんだから――何人もの人からこう聞く はめになる。こんなことを考えるだけで、幾晩も眠れない。バグダードが巨大 な墓場になったように感じられる。

新しく見つかった遺体は、スンニ派とシーア派の法学者のものだった。うち 何人かはよく知られている人物だ。みんな辛抱強く耐えている。誰もが、これ らの殺戮が内戦を引き起こそうと繰り返されているのを知っているのだ。さら に気がかりなことがある。人々がイラク治安部隊に一斉検挙されては、何日か して死体として発見されるという噂だ。イラク新政府が先頃死刑の復活を決め たとき、念頭にあった死刑とはどうやら別のことだったらしい。

だが、爆発に戻ろう。大きな爆発のうちの一つは、中流階層の住むバグダー ド西部地区マムンで起きた。日用品などを売る店がある比較的静かな住宅地だ。 爆発は朝、ちょうど店が開くころ起きた。肉屋のまん前だった。すぐ後で爆破 現場に面した家に住んでいた男性が米軍に連行されたと聞いた。爆発が起こっ た後、イラク国家警備隊員を狙撃したからだという。

あまり深くは考えなかった。注目すべきことは何もなかったから。爆発と狙 撃者――どこといって変わった話ではない。だが、数日後、興味深い話が聞こ え始めた。地区の人々が、その人は誰かを撃ったからでなく、爆発について知 りすぎたために連行されたと言っているというのだ。噂はこういうものだ。そ の人は、爆発の数分前に米軍パトロール隊が地区を通り現場で少々足を止める のを見た。パトロール隊が去ると時をおかず爆発が起こり、大混乱となった。 その人は家から走り出て、近所の人や近くにいた人々に、米軍が爆弾を仕掛け たか爆弾を見つけたのに放っておいたかどっちかだと叫んだ。そして速やかに 連行された。

爆弾は不気味だ。国家警備隊の真ん中や米軍やイラク警察の近くで爆発する ものもあり、モスクや教会、商店の近く、市場の真ん中で爆発するものもある。 爆弾についてのニュースでいつもあきれるのは、必ず自爆者と結びつけられて いること。現実をちゃんと見るなら、全部が全部自爆爆弾でないことは明らか だ。自動車爆弾というのもあって、遠隔操作で爆破されるか時限爆弾という場 合もある。使われる仕掛けも違うし、もちろん目的も違うことは周知の事実。 抵抗の手段だという人々もいるし、チャラビとその一党が大部分やったという 人々もいる。イランとイラク・イスラム革命最高評議会(SCIRI)の私兵集団 バドル旅団のせいにする人々もいる。

いずれにせよ爆弾は恐ろしい。すぐ傍にいたとしたら、最初耳が張り裂けそ うな轟音がして、次にガラス、爆弾の破片、そのほかさまざまな鋭利な破片が 降り注ぐ音が聞こえる。続いてかん高い音がいくつも響き渡る。救急車の鋭い 金属的なサイレンと近隣の車の警報装置の音。そして最後は、瓦礫の中から死 者や瀕死者を探し出そうとする人々の泣き叫ぶ声。

おとといムスタンシリア大学が爆弾でやられた。ハリドのサイト、「バグダ ードの秘密」 http://secretsinbaghdad.blogspot.com/ にこの事件の記事があ る。(訳注:2005年4月18日の項にあるファルージャ緊急支援募金を集 めたラエド一家の弟ハリドのサイト。爆破の記事は5月16日付け。小型ミサ イルだったらしいこと、当時少なくとも死者4人、負傷者多数。その後ハリド の顔見知りの、よい父親であった警備員も死亡と記録されている)。

目下、ニューズウィークの記事に対する抗議行動に注目している。  http:// news. yahoo.com/s/ap/20050517/ap_on_go_ca_st_pe/newsweek_quran& printer=1 (訳注:ニューズウィークの記事は、テロリストとされてキューバ、 グアンタナモ・ベイ刑務所に収容されているイスラム教徒の目前で尋問官がコ ーランを冒涜したというもの。この記事に怒ったイスラム教徒の抗議行動の高 まりに対し、米政府がそれを裏付ける事実はなかったとしてニューズウィーク を追及、同誌は謝罪、続いて記事を全面撤回した。リンク先は米政府のニュー ズウィーク誌責任追及の記事)。抗議行動の参加者の多さ、何千何万ものイス ラム教徒がコーランの冒涜に激怒していることに驚いているのではない。その ニュースが正面きっての侮辱としてイスラム世界を震撼させ、集団ショック状 態が人々を襲ったことに驚いているのだ。どうしてショックなのだろう? もの すごくひどい話ではある。だが、どうしてショック? アブ・グレイブやそのほ かイラクの刑務所であんなことがあった後で、どうしてこの事件からショック を受ける? アフガニスタンやイラクのアメリカ人看守は人間の命や尊厳にこれ っぽっちの敬意も払ったことなんてない。それなのにどうして聖なる書物を敬 うだろうなんて思える?

ホワン・コールがこの件についていいサイトをいくつか紹介している。 http://www.juancole.com/2005/05/guantanamo-controversies-bible-and.html (訳注:ミシガン大学歴史学教授、ホワン・コールのサイト。コーランをトイレ に捨てるなど冒涜の事実があったことを述べたサイトを紹介している)。

結局ニューズウィークは記事を撤回した。ホワイトハウスの圧力があったこ とは見え見えだ。記事はほんとう? おそらく、ね。この2年間、イラクで人々 の信仰、イスラームがいやというほど辱められ蔑まれるのを見てきた。だから この記事は大いにありうることと思える。毎日のようにモスクが強制家宅捜索 され、法学者たちが頭に紙袋をかぶせられて引ったてられていく。数カ月前、 世界中の人々は武装していない捕らわれのイラク人がモスクの中で処刑される のを見たではないか。それなのにこの最新ニュースがそんなに意外?

何週間も何ヵ月も刑務所に拘束されて帰ってきた人々は、豚肉をむりやり食 べさせられ、祈祷を許されず、犬をけしかけられ、信仰を侮辱され、ひと言で いうなら檻(おり)に捕らわれた動物の扱いを受けたと語っている。しかし事 の本質は、言葉や聖なる書物や豚肉や犬やそういった次元のことではない。個 々の人の奥深いところでこれらが何を意味しているかということなのだ。私た ちが神聖と考えているものが、何千キロもの遠路をわざわざやって来た外国人 によって辱められるのを見ると、血が逆流する。兵士全員がイスラームを蔑ん でいると言っているのではない。中には誠実に私たちの信仰を理解したいと思 っている人もいるようだ。指揮に当たる人間が辱めを方針とすると決めたとし か思えない。

このような行為を繰り返すことによって、この戦争は新たな次元へ進んだ。 この戦争はもはや対テロ戦争でも対テロリスト戦争でもない。言ってしまえば イスラームに対する戦争だ。そして宗教と政治は別と考えるイスラム教徒さえ 戦いを受けて立たざるをえなくなりつつある。

午前12時5分 リバー

(翻訳:TUP/リバーベンド・プロジェクト:池田真里)