TUP BULLETIN

速報518 リバーベンドの日記 6月21 日 グリーンゾーン共和国! 050703

投稿日 2005年7月2日

DATE: 2005年7月3日(日) 午前0時42分

停電と「アジャジャ」・・・しかもアメリカはあと10年居すわる?


戦火の中のバグダード、停電の合間をぬって書きつがれる25歳の 女性の日記『リバーベンド・ブログ』。イラクのふつうの人の暮らし、 女性としての思い・・・といっても、家宅捜索、爆撃、爆発、誘拐、 検問が日常、女性は外を出ることもできず、職はなくガソリンの行列 と水汲みにあけくれる毎日。「イラクのアンネ」として世界中で読ま れています。すぐ傍らに、リバーベンドの笑い、怒り、涙、ため息が 感じられるようなこの日記、ぜひ読んでください。(この記事は、T UPとリバーベンド・プロジェクトの連携によるものです)。 (転載転送大歓迎です)

(TUP/リバーベンド・プロジェクト:池田真里) http://www.geocities.jp/riverbendblog/


2005年6月21日火曜日

まとめて近況報告・・・

3日前から娘たち二人を連れて、いとこと妻のSが泊まりに来ている。洗 濯物の詰まった袋を車に積んでやってきた。「うちの地区は3日間水が出な かったの・・・昨日の夜出るようになったと思ったら、3時間後にまた止ま った・・・この辺はどう?」いとこの妻は、汚れた衣類の入った黒いビニー ル袋を引きずりながら息を切らして言った。この地区では完全に断水しては いなかったけれど、日中は出たり止まったり。

バグダードではこれまでも多くの地域で水は大問題だった。電動ポンプが ないうちでは、いつも水が出るというわけにはいかない。今はほとんど全域 がこれと同じ状態になった。数時間出たと思ったらまた止まることの繰り返 し。用心のためにプラスチック容器やなべにいつも水を満杯にしている。暑 いイラクの6月に水なしでいるなんて感心したことではない。

「子どもたちをお風呂に入れて、これ全部洗濯しなきゃならないの」。上の 娘とわたしが旅行バッグを引きずり出していると、Sがわたしに言った。「 シーツも。先週アジャジャが来たっていうのに何にも洗えてないのよ」。 イ ラクでは砂塵嵐のことをアジャジャと呼んでいる。先週は大きなアジャジャ に何度か襲われ、バグダードは薄黄色のもやにおおわれていた。アジャジャ が居座ると、数時間のうちに空気中に粉のように細かなベージュ色の土ぼこ りが充満して息苦しいほどになる。こんな砂塵嵐の間は視界が悪く、車の運 転も窓の外を見ることもできなくなる。

アジャジャが来たら、家中駆け回って窓という窓をきっちり閉める――家の 中に砂塵を入れまいとするほとんど無駄な抵抗。アレルギーや喘息の人にと っては恐怖だ。この状態を少しでも何とかするには、エアコンしかない。エ アコンが冷たい空気を送ってくれている間は、ほんの少しだがほこりっぽさ が薄れたように感じられる。

先週の砂塵嵐の一つはすさまじくて、一番激しかったときに昼寝していた E(弟)は、まつげにベージュのマスカラをして起きてきた。眠っている間 に土ぼこりが顔に降り積もったのだ。何か食べていて土ぼこりの味がするこ とだってある。こういう砂塵嵐がだいたい数時間から数日にわたって続く。

アジャジャ一過、空気が少しばかり澄んでくると掃除が始まる。気がつくと、 家具は土ぼこりの薄い膜でくまなく被われ薄黄色で、窓は汚れている。庭も 家への進入路も木々も泥の海からぬっと上がってきたばかりといったふうだ。 砂塵嵐の後は何日も洗ったり拭いたり磨いたり家から土ぼこりを叩き出した りして過ごす。

「アジャジャの後カーテンとシーツを洗いたくてたまらなかったわ」と、S はやれやれとビニール袋から汚れたカーテンを引っ張り出しながら言った。 と、動作を止めた。恐ろしい考えにとりつかれたのだ。「ほんとに水は出る んでしょうね?」 大丈夫、とわたしは請けあった。けれど午前中はほとんど 停電していること、発電機は冷蔵庫とテレビと電灯しかまかなえないことは 黙っていた。普通の洗濯機は水と電気を使いすぎる。それでこのところ、わ たしたちは小さな「イラク式」洗濯槽(母が言う「おむつ洗濯機」)を使わ なくてはならないのだったが。

この色あせた黄色のプラスチックの洗濯槽は簡単な仕組みで、数リットルの 水をためて衣類と洗剤を放り込み、ゴトゴトかき回すようにできている。次 に衣類を石鹸混じりの水から引き上げ新しい水でひとつずつすすぐ。それか ら干す。普通の洗濯機より水を使わなくてすむのはいいのだが、ひとつリス クがある。ソックスとか下着とかがしょっちゅう、水と衣類をかき混ぜる小 さなプラスチック製の羽根にやられてしまうのだ。

昨日少しと今日の大部分を洗ってすすいで、先祖たちは洗濯機も汲み上げポ ンプもなしにどうしてたんだろうと考えて過ごした。

電気事情は地区によってさまざま。2時間電気が来て4時間停電を繰り返し ていた頃もあった。4時間電気がきて4時間から6時間停電ということも。 困ったことに、この数週間なぜかわからないが午前中停電しているのだ。地 区の発電機は11時頃まで止まっていて、家の発電機は天井の扇風機(「パ ンカス」)、冷蔵庫、テレビ、その他の電気器具少しのための余地しかない。 エアコンは使えない。この頃では朝8時には耐え難い暑さになっているとい うのに。

停電の上に、拘束と暗殺が多発して眠れない夜が続く。多くの地区で強制家 宅捜索が行われていて、とくにバグダードの東半分のカーク地区が狙われて いるという。テレビには「テロリスト」が拘束されたという話が出るが、現 実には何の理由もなくおおぜいの人々が引っ立てられていく。イラク人はほ とんど全員、自分や家族の友人や親族で、たくさんある米軍の刑務所のどれ かに何の理由もなく入れられている者の名をあげることができる。刑務所で は弁護士にも面会者にも会うことを許されない。拷問の話は珍しくもなくな った。占領に反対しているスンニ派とシーア派の法学者はとくに、イラク軍 の特殊部隊であるウルフ旅団、「リワ・イル・ティーブ」に襲われることが 多い。たいてい尋問の間拷問され、うち何人かは死体で発見される。

今日は数回爆発があり道路が封鎖された。いとこが職場に行くのに1時間か かった。戦争前ならたった20分の道のりだ。それが今は封鎖された道、検 問所、そこら中にょきにょき立ち上がっているあの愉快なコンクリート壁を 縫って進まなければならない。路上で足止めされたらとくにたいへんだ。そ してこの頃足止めはしょっちゅうだ。バグダードは細かい区画に分断されて いて、爆発や操り人形たちの会議があるとその幾つかがただちに立ち入り禁 止となる。最悪なのは、日中暑いさ中混んだ道で足止めされること――次の 爆発があるかとじっと身構えて待ちながら。

みんながとりわけ悔しく不快に思っているのは、バグダードが、道路はずた ずたで穴だらけ、ビルは吹き飛ばされ焼け落ち、住宅地はあふれた下水に浮 かんでいるという状態で、あらゆる部分からぼろぼろに崩壊しつつあるとい うのに、グリーンゾーンはのさばる一方だということだ。アメリカ人や操り 人形たちが住む立ち入り禁止区域にめぐらされた壁はどんどん高くなってい く。まるでいちばん背の高いナツメヤシと競争しているみたい。コンクリー トの強化壁と通行を妨げるための道路ブロックは、今では日常の風景の一部 だ。道路、木々、店々、大地、空、そしていやらしい鉄条網に巻かれている ものもあるコンクリートの四角い塊。

大きな復興工事はまだ始まっていないというのに、建築資材は信じられない くらい値上がりしている。すごい量のコンクリートなど、建築資材が立ち入 り禁止区域の強化のために使われているからだと思っていたが、グリーンゾ ーン内の工事を請け負ったイラク人の業者と最近一緒に仕事をしたという友 人は、そんなどころの話じゃないという。彼の見るところ、グリーンゾーン はそれ自体ひとつの都市だそうだ。そしてちょっとやそっとの動揺どころか 畏れおののいて帰ってきた。彼は、将来のアメリカ大使館やそれを取り巻く 集合住宅群をはじめレストラン、店舗、フィットネスセンター、給油所、い つも安定して供給される水と電気まで万端について計画されていることを話 してくれた。独自の法、規制、政府をもつ、国の中の仮構の国。みなさま、 グリーンゾーン共和国、またの名をグリーン・リパブリックへようこそ。

「アメリカ人は10年以内には出ていかない」。たいていこの言葉で、グリ ーン・リパブリックに行ってきた友人との議論が始まる。「どうしてそんな ことがわかるの?」わたしはいつもこう言って、数字を並べ始める。200 7,最長で2008・・・もっと長くいたいなんてことある? もっと長く いる余力があるかしら? この時点でTは首を振って言う。やつらが作ろう としている基地を見たら、すでに出来上がった建築物を見たら、かなりの間 いるつもりだってことがわかるだろうよ。

グリーン・ゾーンは、普通のイラク人を困惑させいら立たせる。占領という ものの本質が形になって見えるので、わたしたちは不安になる。もし要塞化 とバリケードがなんらかの指標になるとすれば、占領は長く続くだろう。ど のように説明し正当化しようとも、グリーンゾーンは顔の真ん中にびんたを 張られたようなもので、挑発だ。わたしたちは自分の国の国民ではあるが、 この国の一部はもはやわたしたちのものではないのだから、来し方行く末は 制限されていると、グリーンゾーンは教えてくれている。あの土地はグリー ン・リパブリック国民のものなのだ。

午前3時21分 リバー

(翻訳:TUP/リバーベンド・プロジェクト:池田真里)