TUP BULLETIN

速報568号 リバーベンドの日記 12月1日 ユリシーズ賞受賞のお知らせそのほか 051224

投稿日 2005年12月4日

DATE: 2005年12月4日(日) 午後6時50分

声も希望もない、でもブログがある


戦火の中のバグダッド、停電の合間をぬって書きつがれる若い女性の日記 『リバーベンド・ブログ』。イラクのふつうの人の暮らし、女性としての思 い・・・といっても、家宅捜索、爆撃、爆発、誘拐、検問が日常、女性は外 を出ることもできず、職はなくガソリンの行列と水汲みにあけあけくれる毎 日。「イラクのアンネ」として世界中で読まれています。すぐ傍らに、リバ ーベンドの笑い、怒り、涙、ため息が感じられるようなこの日記、ぜひ読ん でください。(この記事は、TUPとリバーベンド・プロジェクトの連携に よるものです。転送転載大歓迎です。)  http://www.geocities.jp/riverbendblog/ (TUP/リバーベンド・プロジェクト:池田真里)


2005年12月1日木曜日

バグダッド・バーニングのリンクたち・・・

今年のはじめ、ブログ、バグダッド・バーニングが、『バグダッド・バーニ ング』という本になりました。フェミニスト・プレスがブログの最初の1年分 を本にまとめてくれました。たいへん光栄に思っています。本は、アマゾンと バーンズ・アンド・ノーブルで買うことができます。イギリスでもマリオン・ ボイアズ社から出版されました。

本にして世に出してもらったのに、それではまだ足りないとでもいうように、 この本は、10月にルポルタージュ文学に贈られるユリシーズ賞の3位を受賞し たのです・・・なんと晴れがましいことでしょう。

それに、バグダッド・バーニングの日本語サイトがあり、スペイン語のサイト もあります。私のブログを翻訳して下さっているみなさま、本当に本当にありが とう!

アマゾン: http://www.amazon.com/gp/product/1558614893/104-3344320-1915113?v=glance&n=283 155

バーンズ・アンド・ノーブル: http://search.barnesandnoble.com/booksearch/isbnInquiry.asp?userid=506a4PZCaw& isbn=1558614893&TXT=Y&itm=1

マリオン・ボイアズ: http://www.marionboyars.co.uk/Amy%20individual%20book%20info/Baghdad%20Burning .html

ユリシーズ賞: http://www.lettre-ulysses-award.org/news/fourthpe2005.html

日本語サイト:http://www.geocities.jp/riverbendblog/

スペイン語サイト:http://bagdadenllamas.blogspot.com/

午前1時9分 リバー

声が無い・・・

声を無くしてしまった。比喩なんかじゃないわ、念のため。なんとまあ文字 通り声を無くしてしまったのだ。これは季節の変わり目に流行る病気。3日前 のこと、声がガラガラになって、しょっちゅう咳払いしなくてはならなくなっ た。それが、翌日になってみると、声がまったく無くなっていたのだ! 階下 へ降りて「おはよう」と言おうとしてみて、初めてわかったのだけれど。心理 スリラーものの映画から聞こえてきた声みたいだった。

イラクで病気になったときに知っておかなければならないこと、4カ条。イ ラク人に自分の病気の話をするなら、どんな時も心得ておいた方がいいことは――

1.ガンや不治の病は別として、相手のイラク人は、その病気になったこと がある。  2.ガンやその他の深刻な病気の場合でさえ――そのイラク人の親しい“と いっていい"「誰か」が、同じ病気になったことがある。 (「誰か」って、近所の人のお姉さんのいとこの甥とか)  3.どんな病気だったとしても、それを聞いたイラク人は全員、治療法を知 っている。  4.奨められた治療法を実行しないと、善意の治療者を侮辱したことになり、 そもそもそんなに浅はかだから病気になったんだということになる。  私の場合も例外ではなかった――誰もが、私が試みるべき治療法を知っていた。

母は、スープをいろいろ作っては飲ませてくれた。父は、塩水のうがいを勧 めた(やってみたら、ゲーとなった)。いとこは、先週やっぱり声が出なくなっ たけれど、毎日3回大さじ1杯のオリーブオイルで治したと証言し、私の場合 はこのくらいの分量がいいと指導してくれた(塩水はすごくよかったって思え るほどのものだった)。3軒向こうのウム・アラアは、ウールのスカーフをしっ かり巻いてあったかくしなくちゃ、いつまでたっても治らないわよと言った。 最後に登場したのは、おばが調合したベイブンと粉末ミントとレモンの不可思 議なミックス(ベイブンはカモミールのこと、イラク人は何かといえばこれ)。 水を入れて煮て、漉(こ)した黄緑の汁から立ち上る湯気を「吸入」し、次に この恐ろしい代物を飲むよう命じられた。

私に治療法を示さなかった唯一の人間はE(弟)。「また声が出るようになっ てほしいなんて、なんで僕が思うわけ?」信じられないという顔で言った。

そんなわけでこの2日間、うなずき、せっせと手まねをし、かすれ声――じゃ なかったかすれ息でコミュニケーションしている。声が出ないと知って、友人や 家族がどんなふうに反応するかは、面白い。自分まで囁(ささや)いているよう にひそひそ話すか、耳も聞こえなくなったのかもしれないとばかり、へんに大声 で話し始めるかのどちらか。

そんなわけで、いまブログを書くのはとてもいい――一時的に声を奪われてい たって、ブログが声になる。

サダムの裁判は見ることができなかった。停電していたし、近隣で使っている 発電機も故障していた。この2日間に観たものといえば、あちこちのチャンネル の断片的な報道だけ(それもサダムが判事を罵った場面を繰り返しやっていた)。

バグダッドの大部分の地区での通電・停電時間割は、目下「5」時間の停電に つき通電1時間。今はまだ、電気ストーブ使用で電力需要が超過になるほどは寒 くないということを考えると、めげてしまう。これから先どうなるのか? 今か ら電力事情がこんなに悪ければ、みんながいっせいに電気を使い始めたらどうな るのか?

これを書いてしまったら、ブッシュの対イラク「戦略」について読もうと思っ ている。まだ読んではいないけれど、2年半の間吐き散らしてきたたわごとを、 今また繰り返しているのだろうと予測がつく。アメリカ人は同じ事を聞かされて 嫌にならないのだろうか?

ブッシュが撤退計画を立てるのを拒否したとは、信じられない(それとも彼っ て今また「かかってこい」モードなの?)。何だか金で雇われたブッシュが、世 界中でアメリカの外交政策をめちゃめちゃに破壊しているように思えてくる。演 説をするたびに、ブッシュ自身ますます泥沼に入り込んでいっているようだ。米 軍完全撤退の期限を設定すれば、将来へ向けての前向きの一歩となる――ついに 主権がイラクに返還されるのだという希望をイラク人に与えるだろうに。

ところが今は、米軍はこの先20年もイラクに留まり続けるのではないかと思 われている――爆弾や襲撃でイラクから追い出さないかぎりは。多くのイラク人 は、頭では武装抵抗勢力を支持しているものの、私の見るところでは、ふつうの イラク人は、米軍兵士に無傷で帰国してほしいとただ願っている。時に米軍を気 の毒に思うし、とくに家族には同情している。個人的屈辱――家宅捜索や検問や 爆破の恐怖や拘束や――を忘れる瞬間がある。その間はずっと、武器と武装に隠 された具体的な人間に向き合うことができる・・・その一方で、今は占領下で、 占領というものは抵抗を受けるものだということを、決して忘れてはいない。

ブッシュ、チェイニー、ラムズフェルド、ライスよ、どんなに数多くの犠牲者 を出し続けても、イラクから撤退しないと断言するがいい。しかし、これまでの 歴史は、そうはいかなかった・・・

午前0時30分 リバー

訳注:「かかってこい」についての記述は、反占領武装勢力の攻撃によって米 軍死者が増加している状況を懸念する声が高まる中で、2003年7月1日、ブッ シュはホワイト・ハウスにおける記者会見で、武装勢力に対する自分の答えは「 かかってこい」だと述べたことから。

訳注:ユリシーズ賞は、ルポルタージュ文学に授与される世界で唯一の国際的 な賞。10月15日、ベルリンにおいて、2005年度の受賞者が発表された。 2003年から始まり、今年は第3回。主催者は国際的学際文化雑誌の発行元、 レター・インタナショナル、世界3大製薬メーカーの一つアヴェンティス の財団、 アヴェンティス財団、ドイツ語とドイツ文化普及のためのドイツ政府が出資する 団体、ゲーテ・インスティテュート。  助言グループの中には、ドイツのノーベル賞作家、ギュンター・グラス、ポーラ ンドのジャーナリスト、リシャルト・カプシンスキー、インドの作家、ニルマル・ ベルマ、オランダの戦争記者、ヤン・ステージ(2003年死去)がいる。審査員 団も世界各国の作家、記者等によって構成され、2003年には日本の池澤夏樹が 参加した。

1位(賞金5万ユーロ) アレクサンドラ・フラー(英国)『猫を殺しながら――アフリカ 兵士との旅』(Alexandra Fuller, Scribbling The Cat: Travels With An African So ldier、Penguin Press, NY, 2004.)

英国生まれアフリカ育ちの著者が、実家の隣人で元傭兵のKとともに戦場であった ザンビア、シンバブエ、モザンビークを旅する。

2位(賞金3万ユーロ) アブドラ・ハッモウディ(モロッコ)『メッカの日々――聖地巡礼の記』(Abdellah H ammoudi, Une Saison A’la Mecque: Re’cit De Pe’lerinage, Seuil. Paris, 2004 )

プリンストン大学の人類学者の著者が、人類学者としての関心とムスリムとし ての精神世界への憧憬からメッカ巡礼を行う。

3位(賞金2万ユーロ) リバーベンド(イラク)『バグダッド・バーニング』(Riverbend, Baghdad Burning: Girl Blog From Iraq, The Feminist Press at the City University of New York, NY , 2005 & Marion Boyars Publishers, London, 2005)

イラクの若い女性、リバーベンドは、匿名でインターネット上の日記を書きつ いでいる。すばらしい観察力、知性、優れた英語力を駆使して、彼女の目と言葉 でイラクの普通の家庭の暮らしを記述している。戦争と米軍占領で踏みにじられ た国の日々の希有の記録。「バグダッド・バーニング」として刊行された。

(翻訳:TUP/リバーベンド・プロジェクト:池田真里)

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