TUP BULLETIN

速報643号 リバーベンドの日記2006年10月18日 イラク人死者65万人 061021

投稿日 2006年10月20日

DATE: 2006年10月21日(土) 午前3時12分

イラク戦争開戦以来の死者数65万人―「公式発表」と大きな乖離


 戦火の中のバグダッド、停電の合間をぬって書きつがれる若い女性の日記 『リバーベンド・ブログ』。イラクのふつうの人の暮らし、女性としての思い ・・・といっても、家宅捜索、爆撃、爆発、誘拐、検問が日常、女性は外へ出 ることもできず、職はなくガソリンの行列と水汲みにあけあけくれる毎日。 すぐ傍らに、リバーベンドの笑い、怒り、涙、ため息が感じられるようなこの 日記、ぜひ読んでください。(この記事は、TUPとリバーベンド・プロジェ クトの連携によるものです)。 http://www.geocities.jp/riverbendblog/


2006年10月18日 水曜日 ランセットの調査…

わたしがこんなに長いことブログから離れていたことはなかった。ブログを 書けなかった理由はいくつかあるけれど、その大きいものは、わたしがイラク とその状況について書かなければという衝動を感じるたびに、他のイラク人も 同じように感じていると思うけど、言葉にすることのできない、どうしようも ない絶望感でいっぱいになってしまうということだ。

今の時点で、インターネットに接続して、いわゆる専門家やアナリストや政 治家によって書かれた記事を読もうとするのは、ひどく難しい。彼らは、まる でわたしが象牙海岸やカンボディアについて書いたらこうなってしまうかしら というような調子で、イラクについて書いたり論じたりしている―無関心で感 情の欠如した―公平性を保ってるつもりなんだろうけど。

アメリカ人政治家のものは、もっと悪い。彼らはいつも、決定的に現実から 目をそらしているブッシュのような馬鹿者たちか、戦争やそれに続いて起こる 大混乱に乗じてのし上がろうというご都合主義者たちのどちらかだ。

最近戦慄しているのは、この戦争が始まって以来60万人以上のイラク人が殺 されたと結論づけているランセット誌の調査結果だ。それを読んでわたしは複 雑な気持ちだった。一方でそれは妥当な数字のように思えた。ぜんぜん驚くよ うなことじゃないもの。もう一方で、それが誤りであってくれればと切実に願 った。でも…誰が信じられるの? 誰を信じればいい?…アメリカの政 治家?…それとも高い信頼のおける科学的調査技術を用いている科学者の ほう?

これに対する反応は典型的なものだった―戦争支持者たちは、そんな数字はナ ンセンスだと言う。それはそうでしょう、彼らが熱烈に支持している行為が60 万の人々の死を(たとえそれが気の狂ったイラク人であったとしても…) 引き起こしたと誰が認めたいだろうか? そのような数を認めるというのは、彼 らが津波やマグニチュード9の地震や冷酷非情な超大国による発展途上国の占領 によって、60万人の人が殺されても当然と認めたに等しいんだから…あ、待 って―最後のは実際起こったことだわ。

これがそんなに途方もない数字かしら? 何千人というイラク人が毎月死んで いってる―これは否定しがたい事実よ。そして、そう、彼らは戦争と占領の直接 の結果として死んでいるのよ。(戦争支持者や操り人形たちがみんなをそう思わ せようとしたみたいな無上の喜びのうちに死んだ人たちなんて、実際にはほん のわずかよ。)

最近では、みんな表向きアメリカの政治家や軍関係者たちに対しては、知ら ん顔して死体置き場の遺体や公式統計の数やその他について話しているように 見える。

でも、全ての死が公表されるわけではないことなんてイラク人なら誰でも知 っている。正しい死者数の公表を禁止されてからは特に、保健省や他の公式な イラクの機関から信頼できる数字を得るなんて、ジョージ・ブッシュからでき るだけ文法的に正しく整合性がとれた文章を聞くようなものだわ。

今までのところ、この数が突飛なものだというふりをしているイラク人は、 海外にいてイラクの現実を知らないで戦争を支持しているイラク人か、国内に いても占領で利益を得ている(彼らはドルをもらってる)――グリーンゾーン にいるイラク人だということをわたしは知っている。

混乱と適切な施設がないことで、人々は病院や死体安置所へ運ばれることな く埋葬されている。アメリカ軍がサーマッラーやファッルージャーのような都 市を攻撃している間、犠牲者たちは庭に埋められ、あるいはサッカー場が集団 墓地になったのよ。それとも、そんなこともう忘れてしまった?

誇張ではなく、わたしたちはこの3年で1親等か2親等の非業の死を見てい ない家族を、ただのひとつだって知らない。誘拐、私兵集団、宗派間の暴力、 報復殺人、暗殺、自動車爆弾、自爆、アメリカ軍の攻撃、イラク軍の襲撃、殺 し屋集団、過激主義者、武装強盗集団、処刑、拘留、秘密監獄、拷問、えたい の知れない兵器――こんなにたくさん死ぬ方法があるのに、それでも突飛な数 だっていうの?

正式な喪の終わりが近づいたと思ったら他の親戚が死んで、また新たに喪が 始まってしまい、2003年以来喪服を一度も脱いだことのないイラク人女性たち がいるのよ。

じゃあ、60万以上というのはまったく間違いってことにして、一番小さい数 を言ったものが勝ちってことにしましょうよ、40万くらい。これでどうかしら? そういえば、この戦争の前、サッダームは24年間で30万人ものイラク人を殺した とブッシュ政権は主張し続けていたわね。ランセット誌で発表された最新の報告 の後では、この30万という数字は、極めて妥当で穏当ってことかしら。おめでと う、ブッシュさんたち。あんたがたの勝ちよ。

この戦争と占領の直接の結果としてのイラク人の死者に関する「公式な数字」 が、現実のものよりはるかに小さいことなんて誰だって知っている(そう、タ カ派のあなたでさえ知っているでしょ、ほんのちょっとでも心があるならね)。 この最新の報告はすでに公表されたどの情報よりも真実に近いと思う。で、ア メリカ兵の死者についてはどう?いつ誰が本当の数について調査するのかしら? ブッシュ政権が、イラク人の死者数についてこんなに強硬に嘘をつくのなら、 アメリカ兵の死についての嘘の程度なんて容易に想像がつくというものだわ…

午後11時35分  リバー (翻訳:リバーベンド・プロジェクト:ヤスミン植月千春)