TUP BULLETIN

速報816号 イラク・アフガニスタン帰還兵の証言No.10 カミロ・メヒア

投稿日 2009年3月11日

 冬の兵士 カミロ・メヒア

人種差別と戦争: 敵を非人間化する (4)
訳 向井真澄 / TUP冬の兵士プロジェクト
凡例: […]は訳文の補助語句。
 

今こそ魂が問われる時である。夏の兵士と日和見愛国者たちは、この危機を前に身をすくませ、祖国への奉仕から遠のくだろう。しかし、いま立ち向かう者たちこそ、人びとの愛と感謝を受ける資格を得る。
トマス・ペイン、小冊子「アメリカの危機」第1号冒頭
1776年12月

メリーランド州シルバースプリング公聴会
2008年3月13~16日
 
カミロ・メヒア 画像出典:IVAW 証言ビデオカミロ・メヒアです。1995年に歩兵として入隊し、2003年3月に中東に配置されました。最初の任地はヨルダンで、イラクに配置されたのはその年の4月です。イラクに到着して初めて与えられたのは、このアル・アッサドと呼ばれる地域での任務でした。そこでの職務は基本的には、戦争捕虜収容所の運営でした。この捕虜収容所での主な仕事は、いわゆる「訊問に対して軟化させる」目的で、敵の戦闘員だとみなされた囚人から72時間にわたって睡眠を奪うこと。その方法として、怒鳴り声を浴びせました。
それで、そのやり方を私たちに指導していた人たちに対する私の最初の質問は、というと、「彼らはどうやって理解するんです?だって、英語がわからないのに」でした。聞かれた相手が言ったのは、『まあ、奴らは動物みたいなもんだから。犬みたいなものさ。ずっと怒鳴っていれば、何語であろうが最後には理解するものだ。「立て!」と何回も繰り返すうちには、犬だって立ち上がるだろ、それと同じように立ち上がるさ。左に動け、と言えば最後には理解して左に動く。』」教官たちは「それではうまく行かない場合もある。疲労困憊で。」とも言いました。ところで、捕虜たちは砂袋を頭からかぶせられ、ビニール製の締め具で拘束され、裸足のままで、コンサーティナ[蛇腹になったワイヤ]に取り囲まれていました。そうやって、睡眠を奪われていたばかりでなく、光も空間感覚も奪われていました。
 
そこで私たちが次にしたことは、彼らのそばの壁を大型のハンマーで殴り、爆発音のような音を立てて恐怖を与えることでした。それが効果を生まない場合、次にしたのは銃を彼らの頭に当てて、処刑でもするかのように銃の撃鉄を起すことです。要するに、捕虜を怖がらせるために処刑の真似事をしていたわけです。それでも効き目がないときは、従わない者を力ずくで独房に入れて、すぐそばの壁を叩いて狂気に追い込み、服従させていました。
 
またこんなこともありました。検問所にいたのですが、爆弾の運搬に救急車が使われているという報告が入っていました。検問所は地元の病院に続くただ一つの道路のすぐ近くにあって―というか、その道路を事実上封鎖していたわけですが、この検問所に救急車がやって来ました。そして上からは救急車は通せないと言われました。病院に行かねばならない妊婦が乗っていましたが、上官らは、妊婦を乗せているのか、大量の爆弾を積んでいて今にも爆発するのかはわからない、と言いました。それで、その車は追い返しました。その時、気の毒に思ったことを覚えています。捜査班に実際に妊婦が乗っているのかどうか確認させたいと思ったのですが、一方ではその付近で救急車ごと爆発して仲間が殺されるというイメージがちらちら浮かんでしまい、結局、車を調べないまま追い返すことにしました。
 
また別のとき、やはり検問所にいたのですが、そのときに攻撃を受けました。それで銃撃戦の真っ最中だったのですが、そのうち私たちに対する彼らの銃撃がやみました。そこで、被害を調べたり、味方の負傷者を一つ場所に集めたりし始めました。見るとイラク人の民間人が大勢殺されていました。そして、ある車から「だんな!だんな!」と私に呼びかける声が聞こえてきました。そこでその車に近づきました。この場合もやはり、検問所には「助けてくれ」と呼びかけておいて発砲したり、車を爆破したりすることがある、という情報部からの報告が届いていました。そんなことで、この銃撃戦の直後にこの車に接近したのですが、さっき言った声が聞こえてきて、その後また私たちへの銃撃が始まりました。しかし、この車に近づくときに見えたのですが、若い男が運転席にいて、負傷した年長の男の人が二人いて、うちひとりはかなりの重傷で、彼らは「助けてくれ!助けてくれ!」と叫んでいました。このとき私の頭にあったのは、連中は我々を殺そうとしているというさっきの情報部からの報告のことだけでした。それでライフルで彼らに狙いをつけて撃とうとしたそのときに、誰かがそばに来て「軍曹、軍曹、ほら、負傷している、撃つな」と言いました。
 
でも多分、私が言おうとしているのは、連中が自分を殺そうとしているという情報を日頃から注入されていたら、さっき言ったような状況で本来の道徳心にかなった行動をとるのはほとんど不可能だということです。そして、抑えつけ、むごい扱いをし、殴りつけたりしやすくなるように、いわば、相手を人間ではないものとみなします。またそうするうちに、自分の人間性も捨て去るのです。人間としての行動とそういった行為はどれも両立しませんから。
 
最後にあと一つお話ししたいのは、私が初めて人間に向かって発砲したときのことで、ある抗議行動が起こった直後の出来事でした。連中はこちらに向かって手榴弾を投げていて、当然、命令は、手榴弾を投げてくる者がいたら、そう、発砲しろ、でした。そういうことになりそうな状況で、ある若者の姿が目に入りましたが、どうも腕を振り回しているように見え、手には黒っぽい物体を持っていて、それは確かに手榴弾でした。これがすべてM16ライフルの照門から見ていた光景だったということも、男に向かって発砲した瞬間も覚えています。それから、その男を殺した後で、群衆の中から男が二人出てきてこの男の肩をつかんで群衆の中に引き戻しました。その事件の後、ひとりで部屋に入ってマガジンに残った弾を数えてみると19発ありました。ということはその男に対して11発撃ったことになります。それなのに、男に弾が命中したこと、膝をついたこと、倒れたこと、死んだこと……などの記憶は何もありませんでした。
 
私はただ、……記憶に空白の部分ができていたのですが、この空白は他の経験についても発生するもので、たとえば、ある時のこと、ひとりの子どもが父親と一緒に後部座席に座っていて、その子の父親の首を機関銃で撃ち落したときもそうでした。降りていって負傷した敵を探していたとき、誰か若い人が首を落とされた死体のそばに立っていたということは覚えています。この事件のことを考えてみるとき、その子の表情は思い出せません。子どもだったということも思い出せません。男の死体のそばに立っていたのは彼の息子でまだ子どもだったと、後になって周りから聞いて知っているだけです。
 
軍隊生活、訓練、教化、暑気、疲労、緊張を強いる環境などを通じて敵の非人間化が行なわれますが、それにとどまらず、このような経験を受け入れることはあまりにも困難なので、たぶん、人間らしさを喪失してしまわないために、極度に辛い、扱いかねる記憶を消し去るように、体や心理が働くのだと思います。所属している分隊や部隊の兵隊に罰を与えること、一緒に車に乗っていた父親の首を検問所で落とされた子どもの顔を記憶から消すこと、民間人であれその他のイラク人であれ、その死体のかたわらでポーズをとること―これらの行為のどれであれ、自らの人間性喪失を必要とします。戦争とは人間性を奪うものだからです。
 
こうしてまったく新しい世代が生まれたことになります。亡くなったイラク人は100万人を超えます。500万人以上が難民となっています。米兵の死者は4千人近くに達し、戦闘によるもの、戦闘以外の事由によるものを合わせて6万人近くの負傷者がイラク戦争から帰還してきています。しかも、それだけではありません。この世代が戦場から帰還するときには、PTSD(心的外傷後ストレス障害)やその他の心理的、情緒的な後遺症をかかえて帰ってくるのです。つまり、私の話で言いたかったのは、戦争はこの国の一つの世代をまるごと非人間化し、イラク国民をまるごと破壊している、ということです。軍隊として国としての私たち自身の人間性を回復するために、IVAWはイラクからの全軍隊の無条件即時撤退を要求します。すべての帰還兵に対する福利厚生を要求します。イラクの人々に対して、自らの思いどおりに国を再建できるように賠償を行なうことを要求します。
 
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デモクラシー・ナウ!での放送時のアナウンサーのコメント
エイミー・グッドマン:カミロ・メヒア元二等軍曹は、フロリダ州兵として2003年にイラクで6ヶ月間の任務に就きました。彼は、短い休暇の後、軍務に復帰することを拒み、軍法会議にかけられ、1年近い刑期を務めました。現在は、冬の兵士公聴会を主催した反戦イラク帰還兵の会の議長です。

  • TUP冬の兵士プロジェクト 証言の一覧
  • カミロ・メヒアの証言ビデオ
    http://ivaw.org/wintersoldier/testimony/racism-and-war-dehumanization-enemy-part-1/camilo-mejia/video
  • 反戦イラク帰還兵の会 公式サイト
    Iraq Veterans Against the War
    http://ivaw.org/
  • 反戦イラク帰還兵の会「冬の兵士」特集ページ
    Winter Soldier: Iraq & Afghanistan
    Eyewitness Accounts of the Occupations
    http://ivaw.org/wintersoldier
  • KPFAラジオ プロジェクト"The War Comes Home"
    http://www.warcomeshome.org/
  • 田保寿一 ドキュメンタリー
    イラク帰還兵の証言集会
    Winter Soldier 冬の兵士 良心の告発
    http://wintersoldier.web.fc2.com/wintersoldier.html
  • Democracy Now!
    http://www.democracynow.org/2008/3/19/half_a_decade_of_war_five