TUP BULLETIN

速報825号 イラク・アフガニスタン帰還兵の証言 No.12 ルイス・モンタルバン

投稿日 2009年8月20日

冬の兵士 ルイス・カルロス・モンタルバン

企業による略奪と米軍の崩壊(1)

訳 岩間龍男 / TUP冬の兵士プロジェクト

凡例: […]は注および訳文の補助語句。


今こそ魂が問われる時である。夏の兵士と日和見愛国者たちは、この危機を 前に身をすくませ、祖国への奉仕から遠のくだろう。しかし、いま立ち向か う者たちこそ、人びとの愛と感謝を受ける資格を得る。

トマス・ペイン、小冊子「アメリカの危機」第1号冒頭
1776年12月


メリーランド州シルバースプリング公聴会
2008年3月13~16日

ルイス・モンタルバン 画像出典 IVAW証言ビデオより私は物資と人員の増強を要請するおびただしい数の上申書を書きましたが、何の返答もありませんでした。イラクで多くのショッキングな事件の現場にいました。[拷問の]水責めに立ち会ったことがあります。シリア・イラク国境で足止めされた難民に対する人道援助の提供をしないよう、上官から違法な命令を受けましたが、その命令には従いませんでした。私は何人もの米軍指揮官のもとで数多くの大規模作戦に立ち会い、また身をもって参加しました。指揮官たちが作戦の成功を測る基準としたのは拘束者の数だけで、それによってどのような事態が引き起こされたかを、省みることはまったくありません。こうした作戦がもたらしたものとは、部族間、民族間、宗派間の抗争にほかなりません。抗争の主体となっているのは、米軍がイラク治安部隊と呼ぶ武装集団で、制服から装備まで米国民の税金によってまかなわれています。

もっとも非難されるべきは、イラクでの兵員が必要な員数近くに達したことがなかったという点です。ところが2003年から今日までの間、なかでもサンチェス、ケイシー、ペトレイアス各将軍は、部下の将校から出された物資と兵員の増強要請を顧みることはありませんでした。それどころか、つねに事態をバラ色に描いてみせました。イラクは内戦状態となっているにもかかわらず、です。将軍たちは、過去現在一貫してイラク治安部隊の兵力について過大な評価を議会に報告しています。事実を偽ることは、軍法会議と刑事告発の根拠となるべきです。

私はイラクで多くの友人を亡くしました。アメリカ人もイラク人もいます。イラク人の友人の多くは、イラク国内で、また国外で、難民として苦しみ続けています。実のところ、私が兄弟と思っているイラク人の友人、アリは、米国難民受け入れプログラムによる亡命を申請するために、今日もヨルダンの国連難民高等弁務官事務所と面会を重ねています。最近アリは援助を求めて私のウェブサイトを通じて連絡をしてきました。それを受け、陸軍にいる私の仲間数人が彼に支援文書類を送りました。彼は2003年と2004年に、命の危険を冒して私たちを助けてくれたからです。アリと他の多くの人たちが迅速に助けられることを祈っています。

テッド君(2)、私たち二人が闘ってきたことについて、この手紙に焦点を当てたいと思います。私たち二人が力を尽くして闘ってきたこと、過失と職務放棄と腐敗と闘ってきたことにについてです。君は、ジョセフ・フィル将軍とデイビッド・ペトレイアス将軍は過失を犯し、職務怠慢であったと考えていた。私もそう思う。ペトレイアス、フィル両将軍に君が宛てた文書が、君の遺体のそばで見つかって、陸軍当局によるとその文書は「自殺の遺書」だという。その中で君はこう述べている。

「あなた方の関心事は自分の出世だけで、あなたがたを補佐する将校たちに、任務遂行のための支援を全く提供していない。それどころか気にも留めていない。腐敗と人権侵害と虚偽につながる使命にはもはや耐えられない。私はもうこれ以上汚れた身になりたくない。私が志願したのは、金に群がる腐敗した請負業者たちを儲けさせるためでも、我が身しか眼中にない司令官たちのもとで働くためでもない」。この文書は日誌の一片で、破り取られて君の遺体のそばに置かれたと君の家族は考えている。さらに家族が話してくれたところによれば、家族の手元に返された遺品の中に日誌はなかったということだ。

2003年アル=ワリード[イラク・シリア国境]の通関手続地にいた時、私は多くの上申書を上官に提出しました。そのひとつは、自動出入国追跡システム導入の必要性を述べた報告書でした。出入国の動きを追跡するためのシステムとして、個人識別安全評価システム(PISCES)というものがあります。リカルド・サンチェス中将とポール・ブレマー[連合軍暫定当局代表]はアル=ワリード通関手続地がそのシステムの設置に適するかどうか判定するため、調査団を送ってきました。調査団は現場を離れるとき、この通関施設はPISCESの設置が可能だと告げました。私の部隊、第3機甲騎兵連隊が2004年の3月にそこを離れたときには、PISCESはまだ配置されていませんでした。

2005年、2回目の派遣で私は再度イラクに入りました。私はH・R・マクマスター大佐の下でイラク治安部隊との連隊の総合調整者に任命されました。大佐は現在、将官クラスになると目されている人物です。私の任務のひとつに、ラビヤの通関手続地でシリア・イラク国境の北半分の情勢の変化と安全を監督する仕事がありました。2005年6月、イラク多国籍軍団にいるガイ・ヴィラーディ中佐がある情報を与えてくれました。それによれば、下部組織である文民警察訓練支援隊(CPATT)(3)が、PISCESを多数持っていて、それはバグダッドのコンテナにあり、それが近いうちに設置されるとのことでした。

ニナワ県西部に戻ると、私はマクマスター大佐を含む上官たちにこれを知らせました。2005年8 月、文民警察訓練支援隊(CPATT)の司令官であるジョセフ・フィル小将がラビヤを訪れ、概況説明を受けるということがありました。そこで、私たちはシリア・イラク国境の現状を報告しました。フィル少将は報告を受けると、PISCESシステム設置の意見を一笑に付し、「そのシステムは役に立たず、第一にわれわれのところにはない」と言いました。私がヴィラーディ中佐から聞いた情報を伝えると、フィル少将は「そんなはずはない。PISCESはいずれにせよ役に立たない」と答えました。私の2度目の派遣から離任する直前の2006年1月、海兵隊予備軍のカール・ラマーズ大佐が保護された通信網を通じて、Eメールを送ってきました。それによれば、PISCESは実はバグダッドのコンテナにあるとのことでした。私は憤慨しました。第3機甲騎兵連隊がニナワ県西部の任を解かれた2006 年3月当時、PISCESあるいは同様の追跡システムはラビヤの通関手続地には設置されていませんでした。

2003年から2007年まで、出入国追跡コンピューターシステムはシリア・イラク国境には導入されませんでした。これによって、イラクの不安定度は間違いなくこのために増大したと思います。外国の戦闘員や犯罪者が、逮捕の恐れなしに、国境を越えて自由に移動できたからです。この結果、かなりの数のアメリカ人やイラク人が殺傷されたと思われます。

あと持ち時間が1分となりましたので、最後に重要な事柄に一点だけふれておきます。私はリー・ダイナミックス・インターナショナル社(4)との契約についての腐敗を知っています。バーグナー准将(当時)の書面による証言が手元にあります。その4ページ目で明らかにされているのは、次のような事実です。ペトレイアス大将とフィル少将の下では、大量の武器についての説明責任制度がなく、装備の調達、保管、補給について標準任務手順もなかったということです。

最後に次のことを言っておきたいと思います。この1年半の間に、私は個人であるいは仲間のイラク帰還兵たちと共同で、多くの記事を書き、『ワシシントンポスト』『ニューヨークタイムズ』『サンフランシスコクロニクル』をはじめとする各紙に掲載されました。おおぜいの将軍による職務怠慢の事実を広く知ってもらおうと、私たちは大きな声を上げ続けてきました。その間、その将軍たちは何度も昇進を重ね、嘘を言い続け、イラク情勢をバラ色に描いています。

<注>

  1. ルイス・モンタルバンのHP http://www.luiscarlosmontalvan.com/2008_05_01_archive.html
  2. セオドア・S・ウエストハッシング大佐のことで、モンタルバンの証言は彼に呼びかける形で行われた。ウエストハッシング大佐はペトレイアス将軍の下で、イラク治安部隊の訓練の監督と軍の請負業社の監督をしていた。2005年6月に遺体で発見され、軍によれば自殺とされているが、他殺ではないのかとの疑念が持たれている。請負業者の不正を告発する文書が届けられ、調査を行って報告書を書いた直後に死亡しており、大佐の死と請負業務にかかわる不正の関連が指摘されている。彼は耳の後ろを銃で撃っているが、自殺の場合通常は口に銃口を入れたり、あごの下やコメカミを撃つのが一般的であるとされ、医師も彼のような自殺は見たことがないという。後1ヶ月でイラクから帰還することになっていたこと、また母親の証言によれば自殺した6月5日が母親の誕生日と重なっていて、母親はガンにかかっており息子が自殺すればおそらく母親も死んでしまうだろうことを息子は知っていたので、自殺するはずがないとのことである。以下のサイトを参照した。
    http://www.alternet.org/waroniraq/77313/
  3. イラク多国籍軍(MNF-I)
    イラク多国籍軍団(MNC-I)ーイラク多国籍軍治安移行部隊(MNstc-I)
    文民警察支援隊(CPATT The Civilian Police Assistance Traing Team)
  4.  リー・ダイナミックス・インターナショナル社(LDI)はイラクの多国籍軍に兵站支援をするために国防総省に雇用された米国の請負業社。イラク警察と国境警備隊の武器と装備を供給する唯一最大の業者であったが、数百万ドルの装備や武器がどこにあるのか分からずフィル将軍やペトレイアス将軍が調査や説明を放棄していた。

  • TUP冬の兵士プロジェクト 証言の一覧
  • ルイス・カルロス・モンタルバンの証言ビデオ
    http://www.democracynow.org/2008/11/28/winter_soldier_on_the_hill_war
  • 反戦イラク帰還兵の会 公式サイト
    Iraq Veterans Against the War
    http://ivaw.org/
  • 反戦イラク帰還兵の会「冬の兵士」特集ページ
    Winter Soldier: Iraq & Afghanistan
    Eyewitness Accounts of the Occupations
    http://ivaw.org/wintersoldier
  • KPFAラジオ「冬の兵士」プロジェクト"The War Comes Home"
    http://www.warcomeshome.org/
  • Democracy Now! デモクラシー・ナウ!「冬の兵士」特番
    "Winter Soldier: US Vets, Active-Duty Soldiers from Iraq and
    Afghanistan Testify About the Horrors of War"
    http://www.democracynow.org/2008/3/17/winter_soldier_us_vets_active_duty
  • "Winter Soldier CONT’D: US Vets, Active-Duty Soldiers from Iraq and
    Afghanistan Testify About the Horrors of War"
    http://www.democracynow.org/2008/3/18/winter_soldier_contd_us_vets_active
  • "Half a Decade of War: Five Years After Iraq Invasion, Soldiers
    Testify at Winter Soldier Hearings"
    http://www.democracynow.org/2008/3/19/half_a_decade_of_war_five
  • "Winter Soldier on the Hill: War Vets Testify Before Congress"
    http://www.democracynow.org/2008/11/28/winter_soldier_on_the_hill_war
  • 田保寿一監督 ドキュメンタリー
    『イラク帰還兵の証言集会 Winter Soldier 冬の兵士 良心の告発』
    http://wintersoldier.web.fc2.com/wintersoldier.html
  • DVD購入申し込み
    http://wintersoldier.web.fc2.com/shop.html