TUP BULLETIN

速報935号 マラライ・ジョヤから日本の皆さんへ 《マラライ・ジョヤとアフガニスタンの今|最終回》

投稿日 2011年12月1日

◎シリーズ「マラライ・ジョヤとアフガニスタンの今」最終回

アフガニスタンの軍事占領・人権抑圧と闘うマラライ・ジョヤから日本の皆さんへ




シリーズ前書き(岡 真理/TUP)はTUP速報第926号に。

 https://www.tup-bulletin.org/modules/contents/index.php?content_id=958


マラライ・ジョヤが日本を去ってから1ヵ月以上が経過したというのに、私はまだ、彼女のメッセージが残した余熱を感じている。このシリーズ「マラライ・ジョヤとアフガニアスタンの今」の最終回は、彼女の講演ツアーの様子を、たとえ概要なりとも伝えるものとしたい。


 いずれの会場でもマラライは、柔軟に、その場で湧いてくる想念を聴衆と分かち合い、そのため、講演はなおのこと生気に満ちた力強いものとなっていた。それでも、言うまでもないが、基本的な内容は全会場で一貫しており、その基調は変わらない。マラライが講演のベースとして用意した原稿に基本的内容は含まれているはずだ。そう考えてTUPは彼女にその原稿の翻訳・配信許可をお願いし、快い承諾を得た。特に、講演会に参加できなかった皆さんにとって、アフガニスタンの実情についての理解をさらに深める上でお役に立てばうれしい。また、その理解を通じて、アフガニスタンで進行する悲劇に少しでも胸が痛むというとき、私たちが今果たすべき役割について考え、それを見出すきっかけになることを願う。


マラライはたびたび聴衆を「平和を愛し正義を求める日本の皆さん」と呼んだ。その話を聴いた者の胸には、アフガニスタン政府やその背後にいる諸勢力ではなく、アフガニスタンの民衆の真の友となるには私たちはどうすればいいのか、という鋭い良心の問いかけが残された。何よりも、この重い問いかけをもたらしてくれたことをもって、私はマラライ・ジョヤが来日でき、日本の私たちに直接語りかけることができたことに深く感謝している。


彼女の存在そのもの、彼女と聴衆との「熱い」触れ合いを通じて、次のことが実感できた — マラライはいつわりなくアフガニスタンの民衆と一つになっている、彼女は民衆の一人であって、苦しむ人々と悲しみ、怒り、希望を分かち合っている、そしてアフガニスタンの民衆こそがマラライの力の源泉なのだ。


だからこそ、目の前でマラライが情熱的に語りかけるとき、この無敵のアフガン女性の明晰な思考と人間性に感銘を受け、それを賞賛しつつ、「自分は何をなすべきか」と自らに問いかけないではいられない者が多かったのだろう。


注記:原稿内の小見出しと[ ]内はこの速報のためにこちらで挿入した。

シリーズ最終回前書き・翻訳:向井真澄/TUP

マラライ・ジョヤ 2011年10月16日~29日の講演基調

  • 挨拶(原稿外)
  • 講演会を準備した関係者一同への感謝
  • 日米両政府とは天と地ほども違う、平和を愛し正義を求める日本の皆さんに囲まれて光栄に感じているとの表明
  • 戦争と占領に苦しむアフガニスタンの人々と、かつて戦争と占領に苦しみ、今なお米軍基地に苦しむ日本の人々がつながる理由:共通の敵と責任
  • 地震・津波・原発事故で愛する家族を亡くされた方々へのお悔やみ
  • 講演のテーマ:アフガニスタンの(特に女性をめぐる)極限的な現状、米国・NATOによる「対テロ」戦争の実相、そしてイスラーム原理主義の残酷さ

1. いわゆる「対テロ」戦争が10年続いた今日のアフガニスタンの現状

10年前の10月7日、人権、女性の人権、民主主義のためという偽りの名目で、米国とその同盟国がアフガニスタンを占領しました。しかしアフガニスタンは10年経った今も、世界で最も不安定で腐敗した、戦禍に苦しむ国であり、その国民、特に女性の暮らしは悲惨な状況に置かれています。

10年前、米国とその同盟国は前近代的なターリバーン政権を転覆し、国民はそれを歓迎しました。しかしまもなく明らかになったのは、米国とNATOがアフガニスタンに居座っているのは、自らの戦略的、経済的、地域的利益のためにほかならず、この目的のためには、彼らは不幸なアフガニスタンの民を今一度犠牲にするのだということでした。

米国とNATOは、北部同盟を構成する軍閥らの、最も犯罪的で残酷な政権を押し立てることによってアフガニスタンの民を裏切りました。軍閥らは考え方においてターリバーンと同じであり、同じぐらい邪まで残忍で無知な連中です。アフガニスタンが何十年間も平和と安定に向かってこなかった主な原因はそこにあります。

いわゆる「対テロ戦争」がもたらしたものは、ただただ、流血、犯罪、野蛮な破壊行為、人権侵害および女性に対する権利侵害の増加のみであり、私の同胞の悲惨な状況と悲しみは倍増しました。この血なまぐさい年月に、何万人もの罪のない市民が占領軍とテロリスト集団によって殺戮されてきました。

最近、カルザイ傀儡政権は、クナール州で外国軍に10人の子どもが殺され(2011年3月1日)、また同州で22人の女性と30人以上の子どもを含む64人が殺された(2011年2月16日)と発表しましたが、実際の死者の数ははるかに多いと確信します。

オバマ大統領が2008年に就任して以降、アフガニスタンの人々に最初にもたらしたものは、紛争と戦争の激化です。

残念なことに、オバマはこの2年の間に、自らが戦争屋であることを明らかにしました。その証拠に、オバマ政権になってから市民の死者は24%増加しました。アフガニスタンの人権監視機関(Afghanistan Rights Monitor)によると、2010年には毎日7人の市民が殺されました。オバマが行った軍隊の増派によって、罪なき市民に対する殺戮・暴力、破壊、苦痛と悲劇が増大しました。そのため、米軍・NATO軍の占領に反対して立ち上がる市民は以前よりずっと多く、日を追って増えています。今やオバマは第二のブッシュであり、より危険なブッシュです。

公式の統計によると、アフガニスタンの復興には550億ドルが投じられてきましたが、その資金の大半は軍閥、麻薬王、国内外のNGO関係者らに横領されています。復興名目で巨額の資金が投入されているにもかかわらず、アフガニスタンは国連人間開発指数でいうと182カ国中181番目に位置しています。

鉱山省の大臣によると、アフガニスタンには約3兆ドル相当の鉱山資源が眠っています。しかし世界第二の腐敗国なので、その鉱山収入は政府役人や軍閥のふところを潤すことでしょう。

2. アフガニスタンの女性の今日の状況

この10年で、アフガニスタンは麻薬マフィアの拠点となっただけではありません。UNIFEM(国連女性開発基金)によると、女性の居場所として世界で最も危険な国となっています。

欧米のメディアは女性の境遇の改善について大々的に取り上げていますが、アフガニスタンの多くの州で、女性は人間の生活とは呼べないような暮らしを強いられています。レイプ、誘拐、殺人、焼身自殺、酸による攻撃、家庭内暴力が急速に増加しています。

女性の手、鼻、耳が切り取られ、命を奪われ、あるいは死に至るまで鞭打たれています。実際、このような女性に対する残虐な犯罪が、ほかでもない14万の軍隊の鼻先で起こっているのです。

最近、17歳の少女がクナール州議会の議長にレイプされました。
クァジ・カービル・マージバン議員の甥、アブドゥル・バシルは、ある少女に結婚を強制し、結婚後、少女の頭と顔を何回も銃撃しました。

このように、強い者がしたい放題にできる弱肉強食がまかり通っている州が多く、ターリバーン時代とそっくりです。アフガニスタンの女性は1960年代、70年代にはもっと多くの権利を享受していました。

タハール州では、二人の幼い女の子と成人の女性一人が武装兵士と何人かの司令官によってレイプされたとの報道もあります。(2011年6月28日)

バードギース州では、公衆の面前で200回鞭打ちの刑を課した後、頭部を三回銃撃するという方法でビビ・サヌバール[という女性]の処刑が行われました。(2011年5月19日)

戦争が女性の助けになることは決してなく、機会があれば、女性は自らを解放するし、進歩的男性も女性を支援するだろうというのが私の考えです。これには、皆さんも同意してくださると思います。私たちは、自らの解放をもたらすために団結して闘わねばなりません。

3.アフガニスタンの傀儡政権と米国のシナリオに沿ったカルザイによる犯罪者たちとの妥協

カルザイ傀儡政権は、腐敗した軍閥、麻薬王、何十年にもわたって人々を殺し、拷問し、その富を略奪してきた犯罪人などでいっぱいです。

庶民は、飢え、貧困、失業、治安の悪さ、腐敗、その他の災いに苦しんでいます。庶民は[選挙戦の]勝者にも敗者にも反対しています。その両方ともが庶民の敵であり、実施されたのは選挙ではなく選抜[つまり権力者による仲間うちの人選]だったからです。どうか、この種の胸が悪くなるような茶番にだまされないでください。

もう一つ、今演じられている悲劇的なドラマがあります。この欺瞞的な政府が、和平とか和解の名の下で、ターリバーン及びグルブッディーン・ヘクマティヤルと交渉しようとしています。北部同盟(政府)というテロリスト集団がターリバーンとヘクマティヤルらを招いて権力を分け合おうというのですから、その結果は流血と悲劇の増加です。彼らが互いに仲良くしていても、争っていても、民、とりわけ女性が犠牲にされます。しかし、今までの政府よりももっと腐敗した、マフィアだらけの邪まな政権ができても、そうしてアフガニスタンがいつまでも遅れた国にとどまることになっても、米国にとってはそれには何の重大性もありません。

巨大な軍事体制と最新兵器を備えた超大国が、ターリバーンのようなちっぽけな、前近代的で無知な集団を負かす力を本当にもっていないとは、誰も信じることができませんが、実はターリバーンはパキスタンを通じて間接的に米国政府の支援を受けてさえいます。

米軍・NATO軍は2014年中にアフガニスタンから撤退するといいますが、米国とその同盟国が居座っているのは、自らの利益のためだということを私たちは知っています。アフガニスタン軍と警察を動員しようという場合も、それは、米兵の死傷者を減らす目的で、アフガニスタンの兵士や警官を使い捨ての兵員とするためにほかなりません。彼らはアフガニスタンを、アジアにおける米国・NATO諸国の軍事と諜報活動の拠点としたがっています。

新たなボン会議も、アフガニスタンの民の運命をもてあそぶ危険なゲームです。この会議は最初のボン会議と同様、軍閥、麻薬王、西側技術官僚が居並ぶもので、唯一つの違いは、今回はターリバーンまでが出席する、ということです。人々はこの会議に何の希望も見てはいません。それは民衆の不倶戴天の敵を結びつけ、占領を合法化し、米軍基地を拡張するものだからです。ゆえに私は西側諸国の皆さんにお願いします。こんな動きに欺かれないでください。このような会議には反対の声を挙げてください。

西側諸国の政府はアフガニスタン国民だけでなく、自国民をも裏切っています。西側諸国は大企業とアフガニスタンの一握りの犯罪的支配者の利益のために、納税者の税金ばかりか自国兵士の血をも浪費しています。

4. 真の民主主義への道

独立と正義の欠落した民主主義は無意味です。アフガニスタンには民主主義も正義もありません。市民に敵対する軍閥と犯罪者のための「民主主義」と「自由」があるばかりで、アフガニスタンの民には民主主義は存在しません。

現在、私の国では二つの種類のレジスタンスが起こっています。
一つは、米国が針小棒大に騒いできた反動的なターリバーンの抵抗、もう一つは一般のアフガニスタン人の抵抗で、これには老いも若きもが参加しており、日ごとに大きくなっています。これは私の国の未来にとって大きな希望だと感じています。

アフガニスタンの問題の解決は、軍隊の撤退なしにはありえないと考えます。
国内に反動的で残酷で邪悪な勢力があって、真に民主的な勢力の大きな障害物となっています。外国の軍隊はその反動的勢力の方を勢いづけ、正義をめざす私たちの闘いをその分困難にしています。

アフガニスタンの民は3つの敵に挟まれています。ターリバーン、原理主義的軍閥、そして軍隊の3つ。外国の軍隊がアフガニスタンから撤退したら、私たちは国内の2つの敵に立ち向かうことになり、その闘いは敵が一つ減る分、容易になります。ターリバーンが再び政権の座について内戦が勃発する可能性があるという人がいます。しかし、私の同胞は、数々の戦争で傷つき、疲弊し、希望を失ってはいても、軍閥とターリバーンを葬るまで、最後まで断固として闘い抜くはずです。というのは、彼らは軍閥もターリバーンのことも憎悪しているからです。国に解放をもたらすことができるのはその国自身だけだということは歴史が証明しています。

いつの日かアフガニスタンでも中東で起こったような、原理主義的独裁者に対する輝かしい決起が起きるでしょう。というのは、今も、小規模な決起が、クナール、タハール、ナンガルハール、パクティヤー、ローガル、ガズニーなどの州で発生しています。この動きは高まっていて、私たちみんなの希望の源となっています。(ほかにも、ヘルマンド、ファラフ、カーブル…などで)

そこで、平和を愛し正義と民主主義の実現をめざすすべての団体、グループ、政党、個人の皆さんに、私の国の進歩的で民主的な勢力に力を貸してくださるようお願いします。私たちには皆さんの支援と連帯が必要です。皆さんへのメッセージとして、私の同胞に教育面での支援をお願いします。解放への鍵は教育にあるからです。

結び – マーチン・ルーサー・キング・ジュニアの言葉

「沈黙に甘んじるとき、我々の生は終焉に向かう。抑圧者が自発的に自由を与えることは決してない。自由は、被抑圧者が自ら要求し、勝ち取らねばならない」

──────────  マラライ講演基調おわり ────────── 

◯訳者追記

マラライ・ジョヤの講演ではスライドを使って視覚的に訴える工夫がされていた。

迫害され、救いの求めようもなく焼身自殺を図った女性の写真、米国の手で再び権力を与えられた軍閥たちがターリバーン政権以前の内戦時代に市民に対して加えた暴力・殺戮の写真、現在も続く女性に対する残忍な犯罪の証拠写真なども「人として正視に堪えないけれど、見て知る必要があるのでお見せします」と言って提示していた。

また、主流メディアが決して報じないもうひとつの事実として、ツアー後半からは、各地で占領に抗議して立ち上がっている市民の姿も示された。「教育の機会を奪われてきた女性たちも、こうして危険を顧みず立ち上がっています。この政治的目覚めがアフガニスタンの希望です。これこそが民主主義への道です」という言葉とともに。

ツアーの一部に参加する中で、講演以外でも多くの意味深い言葉に触れることができた。
たとえば — 敵の敵が味方であるとは限らない。米国の敵として振舞っているからといってイスラーム原理主義者[と呼ばれる、「民衆を支配するツールとしてイスラームをねじまげ悪用する勢力」]を支持するなら、民衆を裏切ることになる — などは、現にそうした勢力の支配下で甚だしい人権侵害に苦しんできた人々(特に女性)の切実な声として銘記すべきことと思う。