TUP BULLETIN

速報820号 コンゴの危機――紛争鉱物の犠牲者

投稿日 2009年5月4日

◎世界最悪のコンゴ紛争と私たちとのつながりとは?




1990年代以来現在にいたるまで紛争の絶えないコンゴ民主共和国[旧称ザイール]の戦禍は、第二次世界大戦以降で世界最悪と言われます。実際、NGOの国際救援委員会(IRC)の調査によれば、コンゴ紛争(内戦)の死者数は、1998年以来 2008年1月までの時点で 540万人と見積もられています【*1】。大阪市と名古屋市との人口の合計を超える数です。しかしながら、世界の十分な注目を集めているとはとうてい言い難いのが現状です。日本のメディアもその例外ではないどころか、ほとんど完全に無視していると言っても過言ではないでしょう。今現在にいたっても、日に1300人が死ぬ【*2】状態がつづいているにもかかわらず。

米国に、「民族大虐殺と人道に反する犯罪を終わらせる」ことを目標としたイナフ[ENOUGH]という民間プロジェクトがあります。同プロジェクトのウェブサイトでは、コンゴ内戦の重要な背景を簡潔に解説しています。世界の一般の消費者もコンゴ内戦に無縁ではない、ということがよく分かります。

こんな大量虐殺は「もうたくさん(ENOUGH)だ」という願いをこめて、同記事を以下に邦訳しました。

〔翻訳: 坂野正明(前書とも)/TUP〕

【*1】 http://www.theirc.org/news/irc-study-shows-congos0122.html

なお、コンゴの国連難民高等弁務官(UNHCR)ゴマ事務所所長(当時)の米川正子さんの昨年の報告(以下の URI)でも同数値が引用されています。

http://www.japanforunhcr.org/act/a_africa_drc_03.html (日本語)

【*2】 http://www.raisehopeforcongo.org/files/pdf/crisis_in_congo.pdf



※凡例: (原注) [訳注] 【参考文献番号】

※注: 以下、1米ドル=100円として換算しています。

イナフ(ENOUGH)のキャンペーン  コンゴに希望をもたらそう

「コンゴの危機 ―― 紛争鉱物の犠牲者」

★要点となる事実

この一世紀以上にわたり、コンゴ民主共和国は、地域紛争と豊かな天然資源をめぐって死者の山を築く奪い合いが引き続いて苦しんでいます。コンゴに眠る富を求めての飽くなき欲が、コンゴの苦難の歴史を通じてやむことのない残虐行為と紛争との原動力になっています。現在、コンゴ東部では資源が多くの武装集団の資金源となっています。それら武装勢力の多くが、大規模強姦をあえて戦略として使うことで、地域住民を怯えさせて、鉱山やあるいは自分たちが支配したい場所から追いたてています。

特に、コンゴ東部の紛争(第二次世界大戦以来、死傷者的に最悪)は、相当な部分、何億円にものぼる鉱物交易によってあおられています。武装勢力は 4種の主要金属 ―― すなわち錫[スズ]、タンタル、タングステン、金 ―― の原鉱の交易により、毎年1億4400万米ドル[約144億円]を生みだしていると推定されています【1】。このお金のおかげで、これら武装集団は大量の兵器を購入し、住民に対して残忍な組織的暴力をふるい続けることができています。なかでも鉱山地域では最悪の虐待がおきています。これら原料は、最終的には携帯電話や音楽プレーヤーやコンピューターといった電子機器のなかにおさまることになり、ここ米国で売られているものもその例外ではありません。金属の供給経路が不透明な現実を考えると、米国の消費者は、残虐行為と大規模強姦を日常的に行なっている武装勢力に間接的に融資しつづけていることになります。

★武装勢力はどのようにしてこれら鉱物から利益を上げているのですか?

コンゴ東部での暴力行為の主なものは、鉱物資源に恵まれた地域で発生しています。暴力と悪行をはたらいている三つの主要武装集団が、鉱物交易の多くをも支配していると言われています。人民防衛国民会議(CNDP)、ルワンダ民主解放軍(FDLR)、コンゴ軍(FARDC)の中の無法分子の三集団です。

これら武装集団は、交易を通じて、主に以下の二つの方法で利益を上げています。

  • 鉱山を支配し、死に至ることもめずらしくない環境で鉱夫を強制労働させ、平均日当 1~5米ドル[100~500円]という雀の涙ほどの手当しか支払わない【2】
  • 運送者、国内あるいは国外の買人、国境管理所に賄賂を要求する。

★どの鉱物が交易されているのですか? ―― 三つの「T」鉱物と金

武装勢力は、3T 鉱物、すなわち錫[Tin]、タンタル[Tantalum]、タングステン[Tungsten]の三つ、および金を交易しています。

○錫[スズ]:
皆さんお使いの携帯電話をはじめすべての電子機器の内部で、電子回路基盤上に半田はんだとして使用される。世界の錫のうち、53パーセントが半田として使われていて、そのほとんどが電子機器のなかに入ってくる【3】。武装勢力は、錫の交易を通じて一年におよそ 8500万米ドル[85億円]を稼いでいる。
○タンタル (しばしば「コルタン」と呼ばれる)【4】:
アイポッド、デジタルカメラ、携帯電話[など]において、電気を蓄えるためのコンデンサーに使用される。世界のタンタルのうち、65~80パーセントが電子機器に使用される【5】。武装勢力は、タンタルの交易を通じて一年におよそ 800万米ドル[8億円]を稼いでいる。
○タングステン:
皆さんの携帯電話やスマートフォンの[マナーモードの]振動モーターに使われる。タングステンはコンゴの武装勢力の収入源として伸び盛りで、武装勢力は現在、年間およそ 200万米ドル[2億円]を稼いでいる。
○金:
おもに宝飾に使われる。金は電子機器部品の原料の一つでもある。きわめて高価かつ密輸も容易で、武装勢力は金の取引で一年に4400万~8800万米ドル[44~88億円]を稼いでいる。

★これらの鉱物が、どんなわけで私の携帯や音楽プレーヤーや他の電子機器におさまることになるのですか?

東部コンゴ産の鉱物は、

  1. ルワンダ、ウガンダ、ブルンジを含めた近隣諸国を経由して輸送される。
  2. 主に東方アジアに向けて、なかでもマレーシア、タイ、中国、インドの多国籍精錬業者に向けて輸出される【6】
  3. いったん加工処理されると、電子機器メーカーに買われ、コンデンサなどの有用なパーツに化けて、電子機器内部に加えられる。3T鉱物を含んだ機器のベストセラーは【7】
    • 携帯電話とスマートフォン
    • MP3プレーヤー
    • デジタルカメラ (また、テレビ、コンピューター、ディスプレイ)

タイとのつながり

最近だされた国際連合の報告書では、錫精錬業界の世界第五位でタイに本拠をおくタイサルコ[Thaisarco]社が、FDLR[ルワンダ民主解放軍]に関係する筋から鉱物を購入している証拠が示されている【8】。この FDLRとは、1994年のルワンダの民族大虐殺の責任を負う人々に率いられた武装集団である。また、米国とドイツに本拠をおく複数のタンタル加工業者、およびベルギーの金属貿易会社もコンゴ東部の主要武装集団の他の二つ、 CNDP[人民防衛国民会議]と FARDC[コンゴ軍]から鉱物を購入しているかも知れない【9】


★私に何ができるでしょうか?

www.raisehopeforcongo.org を閲覧して、コンゴの戦争をあおっているこの紛争鉱物交易を終結させるのを促進するために、そしてコンゴの女性を守り自立するのを助けるために、何ができるかさらに学んで下さい。


脚注

  1. 【1】 これは控えめな推定値であり、最大値は毎年 2億1800万米ドル[約218億円]と見積もられている。特に、主要三武装集団、すなわち CNDP、FARDCの無法分子、および FDLRの推定総収益は、錫で 8500万~1億1300万米ドル[85~113億円]、タンタルで 790万~1300万米ドル[7.9~13億円]、タングステンで 190万~350万米ドル[1.9~3.5億円]、金で 4400万~8800万米ドル[44~88億円]である。この値は、コンゴ民主共和国の鉱山省、アメリカ地質調査所[USGS]、CASM(小規模鉱業共同体にかかる主導者)、コンゴ民主共和国についての国連専門家会議、DFID[英国国際開発省]・USAID[アメリカ国際開発省]・COMESA [東部及び南部アフリカ共通市場奨励組織]、ポレ協会[アフリカ大湖沼地域の異文化間協会――コンゴ東部のゴマに拠点を置く組織]が出している鉱物に関する最新の資料に基づいて計算されている。計算においては、以下の二つの要素、(イ)武装勢力が利益を得る二つの方法、すなわち、鉱山支配と運送業者や中間業者や外国の貿易会社からの収入、(ロ)国連、リソース・コンサルティング・サービシズ[Resource Consulting Services―― 公平貿易などに関する調査などを請負うことを仕事とする英国の会社]、ポレ協会とによる2007~2008年のコンゴ東部現地での監視活動に基づき、過小申告された鉱物量と実際の量との差の推定割合、を考慮に入れている。データの基準時点は 2007年6月である。武装勢力の利益に関する詳細な研究報告全文は、本イナフ・プロジェクトから発行される予定である。
  2. 【2】 Nicholas Garrett, “Artisanal Cassiterite Mining and Trade in North Kivu: Implications for Poverty Reduction and Security”, CASM, 2008年6月, 第16ページ。[題名参考訳:「キブ北部におけるスズ石の小規模鉱業と交易 ―― 貧困の緩和と安全保障へむけての示唆」]
  3. 【3】 “Review of Tin Use and Recycling for 2007”, ITRI。[題名参考訳: 「スズの使途とリサイクル概観 2007年」]
    以下から閲覧できる
    http://www.itri.co.uk/pooled/articles/BF_NEWSART/view.asp?Q=BF_NEWSART_308811
  4. 【4】 「コルタン」とは、コルンブ石とタンタル石とを総称して、特にコンゴでの原鉱を指して使われる名称。コルタン鉱石を精錬することで、金属タンタルが抽出される。[訳注: 日本語「タンタル」は、金銀銅と同様に、金属名でありかつ元素名でもある]
  5. 【5】 タンタル製造業界の雄、H・C・スターク[H.C. Starck]社は、世界のタンタル消費のうちで 60~70パーセントがミクロ電子工学産業でタンタル[電解]コンデンサを製造するのに使われ、加えてさらに 5~10パーセントがそれらのコンデンサ製造のための金属線を生産するのに使われている、と述べている。アメリカ地質調査所の例証によれば、米国に輸入されるタンタルの 60パーセントがコンデンサに使われている。「たんなるタンタル粉末のせいで市場は”たんと”気をもむことになる」
    http://www.icis.com/Articles/2001/08/13/144744/tantalum-powder-tantalizes-electronics-market.html
    U.S. Geological Survey Mineral Commodity Survey for Tantalum, 2009年。www.usgs.govから閲覧できる
  6. 【6】 “Final report of the Group of Experts on the Democratic Republic of the Congo.” [題名参考訳: コンゴ民主共和国についての国連専門家会議最終報告], 国際連合安全保障理事会, S/2008/773, 22~23ページ、を参照せよ。
    http://www.un.org/Docs/journal/asp/ws.asp?m=s/2008/773 から閲覧できる。
    Nicholas Garrett, Harrison Mitchell, “Congo Rebels Cash in on Demand for Tin” [題名参考訳: コンゴ抵抗勢力、スズの需要で現金収入], Financial Times[ファイナンシャル・タイムズ ――英国の全国紙], 2008年3月5日。
    [ http://us.ft.com/ftgateway/superpage.ft?news_id=fto030420082233272004 ]
  7. 【7】 Consumer Electronics Association。CEA Market Research (1/07)。
    http://www.ce.org/Research/Sales_Stats/1219.asp から閲覧できる。
  8. 【8】 “Final report of the Group of Experts on the Democratic Republic of the Congo.” [題名参考訳: コンゴ民主共和国についての国連専門家会議最終報告], 国際連合安全保障理事会, S/2008/773、を参照せよ。
    http://www.un.org/Docs/journal/asp/ws.asp?m=s/2008/773
    Nick Bates, Hilary Sunman, “Trading for Peace: Achieving security and poverty reduction through trade in natural resources in the Great Lakes area” [題名参考訳: 平和のための交易 ―― [アフリカ]大湖沼地域の天然資源交易を通じて、安全保障と貧困の緩和を達成する], DFID[英国国際開発省]/USAID[アメリカ国際開発省]/Comesa[東部及び南部アフリカ共通市場奨励組織], 2007年10月。
    Aloys Tegera, Dominic Johnson, “Rules for Sale: Formal and Informal Cross-border trade in Eastern DRC” [題名参考訳:販売の法則 ―― コンゴ民主共和国東部における公式および非公式の国境越境交易], Pole Institute[“Pole”の “e”は上に「’」がついたもの(Polé); ポレ協会], 2007年6月。
  9. 【9】 ドイツのゴスラル[ゴスラー]に本社を、[米国の]オハイオ州、ミシガン州、マサチューセッツ州に支社を置くH・C・スターク社とマサチューセッツ州ボストンに本部を置くカボット[Cabot]株式会社とがタンタル精錬業界の世界の二大巨頭である。コンゴ民主共和国政府の資料および国連報告書では、金属貿易会社数社もコンゴ東部から錫とタンタルとを買付けていると名指しされている。たとえばベルギーに本拠を置くトラドメ[Trademet]社、ベルギーに本拠を置くトラキス[Traxys]社、イギリスに本拠を置くアフリメックス[Afrimex]社である(ただし、アフリメックス社は、2008年に同社はコンゴ産の鉱物はもう輸入していない、と国連に伝えた)。
    [上記] “Final report of the Group of Experts”, 22~23ページ。

(C) 2009 Center for American Progress
イナフ[ENOUGH] ―― 民族大虐殺と人道に反する犯罪を終わらせるプロジェクト
本部: ワシントン DC、電話・ファックス: [略]
[訳注: 「ENOUGH」とは、「もうたくさんだ」という意味]


原文: “Crisis in Congo: The Casualties of Conflict Minerals”
ENOUGH Campaign, Raise Hope for Congo
(C) 2009 Center for American Progress (ワシントン DC)
URI: http://www.raisehopeforcongo.org/casualties_conflict_minerals
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