TUP BULLETIN

速報878号 エジプト民衆蜂起ウォッチング@ロンドン (その4)

投稿日 2011年2月3日

◎メガリークの衝撃:ロンドンで聞くエジプトの声 その4




刻々と変化するエジプト情勢から目が離せず、家にいる限りはテレビをつけっぱ なしにしてウォッチングしています。それらの一部をタイプして自分のブログ

http://newsfromsw19.seesaa.net/ に掲載し、TUPのMLにも流したところ、メンバーからTUP速報の読者とも共有 しようとの提案があった。そんなわけで「エジプト民衆蜂起ウォッチング@ロン ドン」第四弾を速報します。


第一弾~第三弾(速報875号~877号)はTUP速報のホームページでお読み下さい。

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藤澤みどり/TUP

 

<第8信>

2011年02月03日 21.00 GMT (日本時間 04日 6:00)

革命なう@エジプト第10日

 
8.00 GMT
 
現地時間で朝10時。人々が続々とタフリール広場に向かっている。広場は夕べ、反ムバラク側が死守したので、いまも広場をコントロールしているのはかれら反政府側だ。
 
昨日の午後から激化したバトルは夜を徹して続いた。800人以上が病院で手当を受け、死者は5名(他にも4名、6名という説がある)。うち頭に銃弾を受けていた死者が4名。タフリール広場の中で負傷した人たち全部は救急車で運び出しきれず(周りをムバラク支持者が固めていた)、多くが広場や近くのモスクで仮の手当を受けただけなので、実際の負傷者はもっと多いだろうとのこと。
 
(後述>頭を銃撃されて死亡した4名はおそらく全員プロテスター側で、夜のうちにスナイパーに狙い撃ちにされたのではないか。トルコ籍のガザ支援船がイスラエル海軍に襲われたときの急襲部隊の手口を思い出させる。残りの1名は夕べ橋から落ちて死んだムバラク支持側だと思う)
 
攻防の最前線はタフリール広場の北側にある国立考古学博物館前の路上。そこからナイル川にかかる橋の上あたりまでにムバラク支持派が集まり、タフリール広場側にいるプロテスターに向かって火炎瓶などを投げていた。いま現在、広場側には仮のバリケードが築かれ、ムバラク支持側とのあいだには30~50メートルぐらいの緩衝地帯、そのあいだにムバラク側に顔を向ける形で銃を降ろした状態の兵士が立っている(ように見える)。
 
エジプトの軍は(どこでもそうですが)国民を守る訓練をされているので、反政府側もムバラク支持側もどちらも守るべき国民という立場を変えていない。しかし、朝の兵士の配置やムバラク支持派へのボディチェックの様子など見ると、どちらが武器を持っているかが明らかになったいま、自ずと守るべき方向が決まったように見える(そうであって欲しいという願望ですが)。
 
(後述>この緩衝地帯は後にもう少し広げられ、中央に軍用車、兵士は両側にラインを作り、人々の側に顔を向ける形で配置されている。また、博物館のキュレーターの話として、博物館は何のダメージも受けていない、パーフェクトに守られているとのこと)
 
 
ムバラク支持者側の抗議行動は非常によくオーガナイズされている。反政府側が手作りのバナーを持ち寄って集まっているのに比べ、ムバラク支持側は印刷物のバナーを用意してあった、と。また、トラックに乗り合わせて広場に乗り付けるなどしている。
 
 
BBC24では、タフリール広場にいる(いた?)エジプト系イギリス人俳優のハリド・アブダッラーが電話でインタビューに答えている。前に(夜のうちに?)録音されたもののようだ。「銃撃の現場を見た。銃撃された人が救急車で運び出されるところを見た。男性が頭に直接銃撃を受けるところも見た。非常に疲れている。友人はわたしたちに食べ物を運んでくることさえできない」と。
 
ハリド・アブダッラーは若い舞台役者兼演出家で、『ユナイテッド93』でハリウッドデビューし、『カイトランナー』で主演。近作の『グリーンゾーン』ではイラク人通訳の訳でマット・デイモンと共演している(準主役)。頭の切れる非常にうまい役者だが、マイノリティなので西欧の映画では役が限られるのが残念。息子の学校の卒業生なので他人のような気がせず(笑)、そんな危ないところにいないで早く帰ってきなさいと、ついお母さんの気持ち。
 
 
昨日は夕方家に戻ってからアルジャジーラ・イングリッシュをつけっぱなしにして、時々BBC24とSKYニュースに切り替えたりしながら家事と夕食のあいまに適宜ブログを書き足していたのに、夜中のアイロンかけ中にデスクトップがフリーズ。再起動したら当然のことながら全部消えた。泣く。今日は用心のため、まずワードでタイプしている。
 
 
9.30 GMT
 
SKYニュース。タフリール広場、昨日の朝まではプロテストと言うよりもほとんどお祭りのようだったのに、いまやここは戦場と言っていいと思いますとレポーター。
 
ロイターの記者の証言「ムバラク支持者はナイフや棒を持参している」。別の証言(だれだか忘れた)では、数百人の囚人がムバラク支持派に加わることと条件に解き放たれており、また、私服警官も多数混じっているとのこと。これらのレポートをBBCもSKYも放送している。
 
 
イエメンなう> 2万人が路上に出ている。ただし、反政府側と政府支持の両方が出ているので、実際に反政府側がどのぐらいいるかはわからない。いま現在はストリートでの行動は終わり、大学生たちは大学の構内で平和的にシットインしている。昨日、30年以上大統領だったサレハが2013年の大統領選には出馬しないと表明したが、とてもそれまで待てない、いますぐ大統領職を去り、政治転換をと、求めている。
 
 
BBCによると、事態を収拾させるために副大統領が反政府勢力(野党だけではない)と話し合いを開始すると国営テレビで語ったようだ。また、首相はこの衝突について遺憾の意を表したが、政府機関がかかわっているとの指摘は否定した。
 
EUとエジプトの二重国籍者というツーリストのレポート。英語がうまいからたぶんイギリス人だろう。昨日の昼を回ったころからムバラク支持派が広場近くに集まり始め、午後2時ごろからクラッシュが勃発した。ムバラク支持者は近くのビルの(改装のために建てられていた)金属製の足場を解体して武器にしていた(重くて長くてとがっているので、これは非常に危ない)。
 
もう6年も住んでいるエジプト系イギリス人のビジネスマンの話。事業もあるし工場も家もここにあるし家族もいるが、帰国するタイミングかもしれない。先行きが不安だ。
 
 
反政府側は武器を持ち込ませないことに関しては徹底していて、昨日までは広場に入るために荷物検査やIDチェックを受けなければならず、プロテスターの扮装をした警官その他が追い返されていた。今朝からはチェックはさらに厳しくなっており、武器の持ち込みは厳格に禁じられている、とのこと。そのため、棍棒と鞭と銃で武装したムバラク支持側に対するプロテスター側の武器は、石と舗道の敷石。
 
 
10.03 GMT
 
AFPのレポートによると、ムバラク支持派はアーミーラインを越えた、とのこと。博物館前の最前線のこと。
 
(後述>これは後にアーミーが押し返して、緩衝地帯を広げた)
 
UK、フランス、スペイン、ドイツ、イタリアが共同で声明を発表。この事態に対して最大級の憂慮を表し、政権移行手続きをすぐに始めるように、またすぐにこの事態に対処するようエジプト政府に要求する内容。特に外国人のジャーナリストがターゲットになり、多数負傷していることを非難するもの。(外国人ジャーナリストをターゲットにしているのはムバラク支持側。アレクサンドリアでもジャーナリストが組織的に襲われ、負傷している)
 
 
10.40 GMT
 
ハリド・アブダッラーがBBCのインタビューに答えている。ハリドは広場に昨日もいたし、いまもいる。そして、このプロテストが始まった最初からデモや集会に参加していたようだ。銃撃が始まったのは夜中に2時過ぎぐらいからで、心理的にも肉体的にも非常に恐怖感を味わった。男が撃たれて死ぬのも見た。男の頭から脳みそがこぼれだした。
 
「わたしは慎重に言葉を選んで話しているが、こちら側が捕まえて軍に引き渡したムバラク支持派は軍事警察のIDを持っていた。また、やくざのボスに行けと言われてきたと白状する者もいた」
 
「自分たちはここを動くつもりはない。暴力を開始したのはムバラク支持派であり、こちら側はずっと平和的に1週間以上にわたって訴えてきただけだ」(非常に明晰で力強いインタビューでした。あとで見つけたら持ってきます)
 
11.25 GMT
 
BBCのジェレミー・ボーマン「広場の中を歩いてみたが、包帯を巻いたりなど負傷しているものが非常に多い」
 
 
12.50 GMT
 
いま聞いたBBCのレポートによると(記者の名前忘れた)、いま前線があるのとは別のカイロの一角、ムバラク政権に近い人々が住む高級住宅地にサポーターの一人(大金持ち)を取材に行った帰り、その地域で取材班の乗った車が警察に停められた。この
プロテストが始まって以来、制服の警官の姿を見たのはそれが初めてだった。そして、長々調べられたあとで手錠をされ、秘密警察に連れて行かれて取り調べのうえ、3時間後に解放された。
 
アレクサンドリアにいる記者のレポート。ムバラク支持者が外国人ジャーナリスト狩りをしているようだ。それらしい車を見かけると停めて、乗っている記者等を路上に放り出して車の中を調べたり、暴力に及ぶこともある。
 
 
ニュースのたびにコンファームされた死者の数が増える。1時間前は8人、いまは10人になったと言っている。昨日から今日の24時間、カイロだけで。
 
17.00 GMT
 
 
プロテストが始まって以来、教育のある若者たちがこの抵抗運動をリードしているのだと聞いて知ってはいたものの、いまひとつ確信がなかったが、今日、ハリド・アブダッラーがこのプロテストに最初からかかわっていたことを知って、それがほんとうなんだと得心がいった。フェイスブックの4月6日ムーブメントには7万人が登録していると言うが、ハリドのような海外で生まれ育った若者もきっと多いのだろう。ミドル
クラス出身でケンブリッジ卒の将来のあるプロの役者、かれはこの民主化運動が描く若者像にぴったりじゃないか。
 
テレグラフが1月29日に報じた在カイロ米大使館公電の暴露(@ウィキリークス)は、アメリカがこの運動のバックについているかもといった内容だった。アメリカがバックアップする若者たちが反対勢力をまとめ、反対勢力どうしがイデオロギーを越え、政府の圧政に反旗を翻すことで一致していると。そして、今年の大統領選前に体制を変える計画だと。
 
しかし、その公電の執筆者である大使は、そのような運動が成功するとは信じがたいと書き、それどころか、もしかするとそんな運動は存在しないかもしれないとさえ書いている。若者たちを側面から支えることはしたかもしれないが、計画の実現の可能性が低いと踏んでいた。つまり、アメリカはこの4月6日ムーブメントをつかみ損なったってことだ。そんなわけで、この件をめぐるヒラリーとオバマの対応は常にちぐはぐであり、常に後手後手だった。
 
アサンジはこのグループを知っていたかもしれないね、とウィキリークスを取材している友人に言ったら、きっと知ってたでしょう。かれはアフリカに長くいたからと回答があった。
 
プロテスター側の青年の一人がさっき、インタビューに答えて、ムバラク後の展望について話していた。ムバラクが退陣してもいきなり反体制側がすべてを握るとは限らず、ゆっくり歩むつもりだと。デモクラシーはそんなに簡単に身につくものではない、だから自分たちはデモクラシーを少しずつ浸透させていくつもりだ。デモクラシーはbit by bitだと。で、まず何をしますか、との問いに、まず教育、言論の自由を取り戻したら、まず教育だと。
 
なんてすごいんだ、この子たち。もうだれも死なないように。
 
 
アルジャジーラ・イングリッシュ。日が落ちた。銃撃音は日中から聞こえていたが暗くなって一段と数が増えた。広場の中で負傷者の治療にあたる外科医からの情報として、過去1時間のあいだに広場の中にいるプロテスターが3名銃撃され、うち2名が死亡した。
 
カイロの北、ナイル沿いの町、マンスーラ MANSOURA でのデモの様子。17000名(あるいは70000名。はっきり聞こえなかった)が参加してムバラクの退陣を要求。ムバラクが9月の大統領選に出馬しないと宣言したが、大都市だけでなく地方都市でも民主化支持のデモがまだ続いている。
 
副大統領のスレイマンが今日、改めて反政府側(opposition)のすべてのグループに対し、話し合いを呼びかけたが、ムスリム同胞団も、このプロテストを呼びかけた母体と目される若者主体の4月6日ムーブメントも副大統領の協議を拒否している。
 
今日一日でエクソダス(エジプト脱出)の95便がカイロ空港から飛びたった。その中にイラクから避難してきた一家もいた。
 
プロテスター側は120名の警官と政府支持者を広場で拘束していると発表している。警官はムバラク支持者として平服で送り込まれてきた者たちだろう。
 
 
エクセター大学のアシュラフ教授(イスラム学):最もありそうな展開として、ムバラクは辞任するしかないだろう。武器を持たない平和的なプロテスターへの暴力を見て、プロテスターへの共感はますます広がっている。アメリカの少なくとも10の都市で反ムバラクデモがあり、ロンドンのエジプト大使館前では少なくとも3000名が声をあげ、カナダ、フランス。ドイツ、世界のそこらじゅうでムバラク辞任を要求する人が声をあげている。
 
フェイスブックで結びついたエジプト民主化運動(4月6日ムーブメント)には、非常に高い教育を受けた者やミドルクラス、アッパーミドルクラスの者が多く含まれる。医者、エンジニア、教育者その他が、もうムバラクの体制にうんざりだと集まっている。かれらの士気は高い。ムバラクが退陣するまでやめないだろう。
 
ムバラクにはアメリカかイギリスでの余生が保障されている。
 
 
ムバラクがアメリカのABCのインタビューに答えて、「もう大統領職は十分だ。しかし、自分がいま去ったらたいへんな混乱がおきるだろう」と。
 
 
明日の金曜日はモスクでの祈りのあとに大規模な抵抗運動が予定されている。4月6日ムーブメントは明日を「出発の日」と名付けている。
 
いままでに13名が死亡、1200名以上が負傷。引き続き銃声が聞こえる。
 
 
21.00 GMT