TUP BULLETIN

速報 936号 イスラエルの入植地ブランド、アハバが日本撤退を発表!

投稿日 2012年3月6日

○新たな局面を迎える対イスラエル非暴力抵抗運動




国際法、国連決議を踏みにじって継続する、ヨルダン川西岸地区とガザに対するイスラエルの違法な占領は、今年で満45年を迎えます。その違法性と人権侵害の実態の一端については、昨年、「パレスチナの女性の声」シリーズでお伝えしました。


かつて反アパルトヘイト運動の中で、ANC(アフリカ民族評議会)が呼びかけた南アフリカに対するボイコット運動には世界が呼応し、アパルトヘイト廃絶の大きな力となりました。[注1]これに示唆を受け、イスラエルによる占領と人権侵害と闘うパレスチナの市民社会は、イスラエルに対するBDS(Boycott, Divestment, Sanction ボイコット、投資引き揚げ、経済制裁)を世界に呼びかけ、今、BDSキャンペーンが世界的に展開されています[注2]


日本では、「パレスチナの平和を考える会」が中心となって運動に取り組んでおり、2010年には、無印良品がイスラエル市場進出計画を撤回、そして今般、入植地ブランド、アハバ社の製品が日本から撤退することになりました。この機会に、グローカル(グローバルかつローカル)に展開するパレスチナの非暴力抵抗運動の意義と現在について、「考える会」の役重善洋さんがTUP速報に寄稿してくださいました。


アハバ撤退についての同会の声明とともにお届けします。


[注1]

このとき、アパルトヘイト廃絶のための南アフリカ・ボイコットに世界が呼応し、競争者不在となった同国の経済市場に進出して儲けたのが日本企業でした。南アフリカのノーベル賞作家クッツェーの小説などで登場する車が、敢えてそれが日本車であることが明記されていますが、そこには、このような歴史的含意があります。


[注2]

*パレスチナ市民社会から世界に向けての呼びかけはこちらをご覧ください。

http://palestine-heiwa.org/doc/20050709_badil_rc_al-majdal.html

*南アフリカの元反アパルトヘイト活動家が、対イスラエルBDSキャンペーンに連帯のメッセージを寄せています。

http://palestine-heiwa.org/doc/bds/south_african_experience.html


前書き 岡 真理(TUP

本文 役重善洋(パレスチナの平和を考える会

入植地ブランド「AHAVA」日本撤退の意味

役重善洋(パレスチナの平和を考える会)

■新たな段階に入りつつあるパレスチナ解放運動

2011年12月9日、パレスチナ西岸地区ナビー・サーレフ村出身のパレスチナ人青年ムスタファ・タミーミー(28歳)は、隔離壁に反対するデモで至近距離からイスラエル軍の催涙弾を顔面に受け、翌日死亡した。その一週間後の17日にはジェニーン出身のハデル・アドナーン(33歳)が、イスラエル軍によって深夜自宅から拉致され、拘置所で暴行された。以降、彼は、66日間に及ぶハンガーストライキを通じてイスラエルの恣意的な行政拘禁に抗議し続けた(2012年2月21日、拘禁期間の再延長をしないというイスラエルの譲歩を引き出し、ハンガーストライキは終了)。

この二人の若者の闘いに象徴される、パレスチナ人達の間での非暴力抵抗の広がりは、新たな段階に入りつつあるパレスチナ解放運動の一つの方向性を示している。それは、草の根のパレスチナ解放運動と海外におけるパレスチナ連帯運動との連携がこれまでになく深化し、イスラエルが諸外国との間に構築してきた軍事的・政治的・経済的・文化的ネットワークに対抗する、グローバルな非暴力直接行動のネットワークが広がりつつあるという点にある。

ナビー・サーレフ村をはじめ、パレスチナ各地で現在継続的に取り組まれている隔離壁や土地収用に抵抗する非暴力直接行動には、多くの外国人ボランティアが参加しており、その中にはイスラエルの若者も少なくない。ハデル・アドナーンのハンガーストライキに対しても、すでにアメリカやアイルランド、イギリスなどの諸都市で連帯のデモが取り組まれている。

■分断を克服する非暴力直接行動

こうした、インターネットを駆使したグローバルな連帯運動のネットワークの広がりは、かつての左翼諸党派を軸とした組織単位の連帯とは異なる質を持ったものだと言える。

このような状況は、パレスチナ内部においても、ファタハ・ハマースの対立を含めた、抵抗運動の党派政治を克服する努力と呼応しあうものでもある。パレスチナにおける非暴力抵抗運動を組織する各地の民衆抵抗委員会は、超党派を大原則としているし、イスラム聖戦のメンバーであるハデル・アドナーンに対するパレスチナ各地での連帯デモも、やはり党派を超えた広がりを見せている。

そして、パレスチナと海外の連帯運動を結ぶネットワークの要となっているのが、BDSキャンペーンと呼ばれる、イスラエルに対するボイコットと資本引き上げ、経済制裁を求める運動である。2005年7月、パレスチナの170以上の諸団体が連名で呼びかけたこのキャンペーンは、歴史的にパレスチナ連帯運動の蓄積が厚い欧米圏を超え、アラブ・イスラーム諸国や日本にも拡がりつつある。イスラエル国内でもBDSキャンペーンを支持する動きは少数派ながらも着実に拡がっている。

現在のパレスチナにおける非暴力直接行動は、2000年に始まる第二次インティファーダが、武装闘争を中心に先鋭化したことで、広範な民衆の動員に失敗し、パレスチナ社会の分断を招いたことに対する反省を背景としている。また、それは、イスラエルにおけるそれをも含めた、グローバルな連帯運動における非暴力直接行動の広がりと呼応し合うことで、二項対立的な「民族紛争」という帝国主義によって押し付けられた枠組みを超えた展望——二国家解決案にもとづく「オスロ和平合意」とは異なる展望——を人々に与えつつある。この動きは、昨年のエジプト革命の「成功」によって、さらに加速されつつあり、「分断して統治する」という帝国主義者の伝統的戦略は大きく揺らぎつつある。

■ヨルダン渓谷連帯委員会の闘いとアハバ・ボイコット

今回のアハバ撤退(詳細はパレスチナの平和を考える会による下記「声明文」を参照のこと)に関して言えば、日本政府が「平和と繁栄の回廊」構想を通じて深く関わっている西岸地区・ヨルダン渓谷における占領問題との関わりが決定的に重要である。「死海のミネラル」を原材料とするアハバ化粧品の製造工場があるのは、ヨルダン渓谷の一部である死海沿岸に位置する入植地だからである。占領地における入植地は、イスラエルも批准しているジュネーヴ第4条約によって違法とされている。

「イスラエル・パレスチナ間の信頼醸成」を売り文句に、ヨルダン渓谷における経済開発を謳ってきた「回廊構想」が、立ち上げから6年経過した今も成果を出せないまま、迷走し続けているのに対し、渓谷のパレスチナ人達は、国内外における草の根の運動との間に独自のネットワークを築いてきた。JICAが避け続けてきた、ヨルダン渓谷の95%を占めるC地区(オスロ合意でイスラエルの占領統治継続が認められた地域。イスラエル入植地が集中する)に点在するパレスチナ人コミュニティにおける学校や水道などのインフラ整備は、「ヨルダン渓谷連帯委員会」が、海外からのボランティアと地域住民を動員することによって着実に進めている。こうしたC地区における活動はイスラエルの軍令によって禁じられており、軍や入植者によって度々妨害されている。また、ヨルダン渓谷のパレスチナ人の家屋に対して集中的に行われている家屋破壊に対し、「連帯委員会」は、家屋再建というかたちで非暴力の抵抗を継続している。西岸地区を分断管理するための軍事的要衝として「開発」が禁じられてきた渓谷において、人々が創意工夫を凝らして、民族浄化政策に抵抗している様子については、ぜひ、ヨルダン渓谷連帯委員会の日本語サイトを参照して欲しい (http://jvsj.wordpress.com/)。

その「連帯委員会」が批判してきた入植地ビジネスの一つがアハバであった。パレスチナ人達が死海へのアクセスを禁じられているのに対し、アハバは、入植地内に観光センターと工場を設け、本来、パレスチナ人のものである死海の観光資源とミネラル資源を独占的に収奪している。「回廊構想」の一つである「官民連携による持続可能な観光振興プロジェクト」が、イスラエルによる観光資源収奪の構造に対して何のインパクトも与えないまま、今月、3年のプロジェクト期間を終了する予定であるのに対し、アメリカの女性平和団体CODEPINKや「パレスチナの平和を考える会」は、「ヨルダン渓谷連帯委員会」やイスラエルの平和団体と連携しつつ、アハバに対するボイコット・キャンペーンを展開し、渓谷における占領政策に対して正面から挑戦してきた。こうしたローカルかつグローバルな非暴力直接抵抗の一つの成果が、今回の「勝利」なのだといえる。

■次のターゲットは、入植地商品「ソーダストリーム」

私達は、現在、次のBDSキャンペーンのターゲットとして、「声明」でも触れた「ソーダストリーム」のボイコット・キャンペーンに向けて準備を進めている。マスメディアでもたびたび宣伝されている、この家庭用炭酸飲料製造機を製造しているミショール・アドミーム工業団地は、東エルサレムにおける入植地拡大政策の一環を成しており、西岸地区を南北に分断するというイスラエルの意図の下、この地域一帯に居住するパレスチナ人ベドウィンの強制移住政策にも関わっている。

取扱店はソーダストリームのサイトに掲載されている (http://www.sodastream.jp/)。非暴力直接行動(取扱店に電話をかける、店員に講義する、etc.)を通じた市民の働きかけの広がりを期待したい。また、今後のキャンペーンの展開への注目もぜひお願いしたい。


「パレスチナの平和を考える会」の声明

違法入植地ブランド・アハバが遂に日本から撤退!
〜「STOP無印良品キャンペーン」に続く対イスラエルBDSキャンペーンの勝利!

パレスチナ西岸地区のイスラエル入植地で生産されている「アハバ・ブランド」化粧品の、日本における総代理店であったダイトクレア社は、2012年1月31日、同ブランド商品の取扱終了をウェブ上で正式に発表しました。
http://www.ahava.jp/
http://www.daito-crea.co.jp/index.html

私達「パレスチナの平和を考える会」は、2010年より、「不正な商品では美しくなれない」というスローガンのもと、パレスチナ占領に加担するアハバ(AHAVA)商品に対するボイコット・キャンペーンを行ってきました。これは、アメリカの女性平和団体コードピンクを中心とした「Stolen Beauty」キャンペーンと連携した、国際的キャンペーンでもありました。
http://palestine-forum.org/ahava/index.html

今回のダイトクレア社の決定は、多くの市民・団体の参加協力の下、当会が行ってきたウェブ上での呼びかけや、メッセージ・カード・キャンペーン等を通じ、アハバ商品の売買が戦争犯罪への加担であることが広く周知されるようになったことの結果であると言えます。また、財務省・消費者庁等関係省庁やダイトクレア社とも直接協議し、同商品の違法性について粘り強く説明してきたことも今回の結果につながったものと考えます。

このことは、2010年の「STOP無印良品キャンペーン」の成功に続く、日本における国際的な対イスラエルBDS(ボイコット・資本引揚げ・経済制裁)キャンペーンの勝利だということができます。ダイトクレア社は、アハバ商品の取扱を始めるに際し、その商品が国際法上問題を抱えていることを知らなかったということですが、問題を把握した後、潔く撤退を決定された企業倫理に対し、心から敬意を表したいと思います。

しかしながら、アハバ商品の製造販売元「Dead Sea Laboratories」は今も営業しており、西岸地区ヨルダン渓谷、死海沿岸に位置するミツペ・シャリーム入植地にある工場も操業し続けています。ヨルダン渓谷で現在も進行しているパレスチナ人に対する集中的な民族浄化政策にアハバは関わっているのです。今後、アハバ商品を扱う新たな企業が現れる可能性は十分にあります。万が一、そうした業者を発見された方は、当会まで通報頂くよう、よろしくお願いします。

アハバの日本撤退は、近年急速に進みつつある日本・イスラエル間のきな臭い交流の中で遂げられた小さな勝利に過ぎません。昨年3月の東北大震災に際しては、イスラエル軍が南三陸町で約2週間、形だけの医療活動を行いました。7月には、イスラエル初の日系卸売店として、ハローキティ・ストアがイスラエル近郊にオープンしました。9月には、クラシック社(東京)という切花輸入会社が、ヨルダン渓谷の入植地で生産された農産物を扱うイスラエル企業と提携関係にあることが明らかになりました。さらに10月には、「ソーダストリーム」という家庭用の炭酸飲料製造機の国内販売が開始されていますが、これは、ミショール・アドミームという東エルサレムの入植地内で生産されたもので、シナジートレーディング社(大阪)が総輸入元となっています。今年12月には、演出家の蜷川幸雄が日・イ両政府の協力の下、テルアビブと東京でギリシャ悲劇「トロイアの女たち」を上演する予定になっています。
http://d.hatena.ne.jp/byebye-hellokitty/
http://palestine-forum.org/doc/2011/1031.html
http://palestine-heiwa.org/note2/201202041832.htm

こうした動きのすべては、イスラエルのアパルトヘイト犯罪の容認・黙認と表裏一体のかたちで進められています。3年前のガザ虐殺に対するイスラエルの責任は未だに問われることなく、西岸地区における家屋破壊・入植地建設は急ピッチで進められています。違法な行政拘禁に抗議し、ハンガーストライキを闘っている瀕死のハデル・アドナーン氏に対し、イスラエル当局は虐待で応じています。
http://jvsj.wordpress.com/
http://www.amnesty.or.jp/modules/wfsection/article.php?articleid=4510&sel_lang=japanese

今こそ、市民の行動によって、国際人権法・国際人道法の理念を活かすことが求められています。一人ひとりが、それぞれの生活の場の中で、国際的なBDSキャンペーンに参与することによって、パレスチナ人に対する人権侵害と略奪、虐殺行為を止めさせましょう!

2012年2月20日
パレスチナの平和を考える会
http://palestine-forum.org/ahava/index.html