TUP BULLETIN

速報787号 マイケル・ムーア : ウォール街の騒動を収拾する方法

投稿日 2008年10月27日

FROM: tup_bulletin
DATE: 2008年10月27日(月) 午後11時42分

◎ぼろ儲けした富裕層は危機の責任をとれ

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ドキュメンタリー映画監督として著名なマイケル・ムーアがメイリ
ングリストで広く呼び掛けて、自身のウェブサイトにも公開した文。
市場原理主義の罪業と、それがもたらした今回の大混乱を鋭く分析
して、この危機に責任ある者たちの処罰、危機対策費用の富裕層に
よる負担(自己責任)、市場原理主義を支える法や制度の撤廃、公的
資金を使うなら弱者救済に回すべきことなどを、分かりやすい言葉
で簡明に呼び掛けている。米国社会に少なからぬ影響があるものと
思われる。この文章は(2008年)緊急救済法案が下院で否決された後
の 10月1日、その日の夜に上院で採決されるというタイミングで
発せられた。
(邦訳: 藤谷英男)

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2008年10月1日(水)
「ウォール街の騒動を収拾する方法 ―― マイケル・ムーアの手紙」

皆さん

400人のアメリカの最富裕層、そうです、「たったの 400人」が
底辺の 1億5千万人を全部合わせた以上の財産を持っています。
最も裕福な 400人が全国の資産の半分以上を隠匿しているのですよ!
正味資産の総額は 1兆 6千億ドルになるのです。

ブッシュ政権の 8年間に彼らの財産は 7千億ドル近く膨らみました。
これは救済資金として今私たちに支払いを要求しているのと同額
です。どうして彼らはブッシュの下でこしらえたお金で自ら救済
しないのか? それでも彼らにはまだ 1兆ドル以上残るというのに!

もちろん彼らにそんな積もりはありません。少なくとも自発的には
ね。ジョージ・W・ブッシュはクリントン政権から 1,270億ドルの
黒字を引き継ぎました。それは私たち国民の財産であって自分の
ものではないので、ブッシュは富裕層が求める通りに後先も考えず
に支出しました。その挙げ句国民は今や 9兆 5千億ドルの負債を
背負っているのです。そもそも私たちはなぜこの上こんな盗人貴族
に追い銭を与えようなどと考えることがあるのでしょうか?

さて私の救済プランを提唱しましょう。私のこの提案は「金持ちは
自分の金張りの財布で自ら救うべきだ」という単純明快な考えから
出る当然の結論です。

金持ちさん、済まないがこれはお前さんたちがいやと言うほどわれ
われの頭に叩き込んだものだよ。タダ飯ハ…食ワセナイ…。生活
保護で生きる人たちを憎むようにし向けてくれて有難う。だから
こちらからお前さんたちに施しはできないのだよ。

上院は今夜、金融「救済」法案を急ぎ採決に持ち込もうとしてい
ます。阻止しなければなりません。私たちは月曜日に下院でこれ
を成し遂げたのだから、今日また上院でもできますよ。

だけど、私たちとしてはいたずらに抗議し続けるだけではなくて、
当然、議会が何をすべきかをきっちりと提案しなければなりませ
ん。そこでフィル・グラム[訳注: 共和党の大統領候補者ジョン・
マケインの参謀]より利口な人たちと相談の上、「マイクの救済
計画」と題して以下に提案します。ずばり明快な 10項目です。
[訳注:『マイク』はマイケル・ムーア氏の通称]

1.【分かっていながら今回の危機到来に加担したウォール街の者
たちを皆、刑事告発するための特別検察官を任命せよ】

何であれ新たな支出をする前に、議会は責任を持って、国の経済の
略奪に少しでも関わった者を刑事告発することを決議すべきだ。
つまり、インサイダー取引、証券詐欺その他今回の崩壊に何らかの
寄与をした者は投獄されるべきだ。議会はこの事態を作り出した者
全部、また、今後も社会をあざむく全てのものをびしびし追及する
ための特別検察官を任用すべきだ。

2.【富裕者は自分の救済費用は自分で払え】

彼らが住む邸宅は 7軒から 5軒に減るかも知れない。乗る車は
13台から 9台になるかも知れない。飼い犬のミニテリアの餌の料理
長には別の仕事をしてもらう。しかしそもそも、ブッシュ政権下で
世帯当たり収入を 2,000ドル以上も減らされた勤労者や中流層が、
連中のもう 1隻のヨットのために 10セントでも工面してやる
いわれなどありはしない。

もし連中が必要だと言う 7千億ドルが本当に必要なものならば、
それをまかなう簡単な方法を提示しよう。

a) 年収 100万ドル以上の全ての夫婦と年収 50万ドル以上の独身
納税者は、5年間 10%の追加所得税を支払うこと(これはサンダーズ
上院議員の案だ。彼はカーネル・サンダーズ[訳注: ケンタッキー
フライドチキン創業者]がチキンを揚げるのと同じようにカモの
右翼をきっちり料理している)。これでも富裕層はカーター政権の
時よりも所得税負担が少ない。これで 3千億ドルを計上できる。

b) たいていの民主主義国家のように、株取引には全て 0.25%
を課税する。これで毎年 2千億ドル以上ができる。

c) 株主はみな愛国的アメリカ人なのだから、四半期の間、配当の
受領を辞退し、その分を財務省による救済資金の足しにする。

d) 米国の大企業の 25%は現在連邦所得税を全く払っていない。
企業からの連邦税収は1950年代には GDPの 5% であったのに、
現在は 1.7%だ。もし企業の所得税を 1950年代の水準に戻したら、
さらに 5千億ドルができる。

これを全部組み合わせたらこの惨状は十分に終わるはずだ。富裕層
は豪邸や使用人を持ち続けられるだろうし、我が合衆国政府(「お
国が第一!」)は多少の余剰金で道路や橋や学校校舎の修復もできる
じゃないか。

3.【住居を失う人々を緊急救済するのだ。8つ目の住宅を建設する
連中じゃない】

現在 130万軒の住宅が差し押さえられている。これこそが正に
問題の核心なのだ。だから資金を銀行に贈与するのではなく、1件
あたり10万ドル分を肩代わりする。そしてローン返済計画を現在の
時価に基づいたものに組み直せるよう、銀行に強制する。この救済
措置の対象は持ち主が実際住んでいる住宅に限定し、家転がしで
儲けをたくらむ者や投機屋を確実に排除しておく。

この 10万ドルの支払いと引替えに政府はそのローンの債権を共有
して幾らかを回収できるようにする。これで住宅ローンの焦げ付き
を(貪欲な貸し手を関与させずに)根本的に解消する費用は 7千億
ドルではなく 1,500億ドルですむ。

さてここではっきりさせておくことがある。住宅ローンの返済不能
に陥った人々は「不良リスク」なんかじゃない。私たちの同胞のア
メリカ国民なのだ。皆が望み、実際ほとんどの人が持っているもの、
つまり自分の家を求めている人々だ。しかしブッシュ時代に何百万
人もが払いの悪くなかった職を失った。600万人が貧困層となり、
700万人が健康保険を失った。そして年収はみな 2,000ドル減少し
てしまった。不運の連続に見舞われたこれらの人々を見下す者は
恥を知るべきだ。誰もがみな自分の家に住めるときにこそ、社会は
もっとよい、しっかりとした、安全で幸せなものになるのだ。

4.【お前さんたちの銀行や会社が我々からの「救済金」を少しでも
受け取れば、我々がお前さんたちを所有する】

気の毒だがそういうことになるのだ。もし私たちが家を買うために
銀行から資金を借りれば、全額を利子も付けて返済するまでは銀行
がその家を「所有」する。ウォール街だって同じだ。あんたたちが
良い生活を続けるために何らかの資金を必要として、政府もあんた
達を低リスクで国家のためにも必要な者だと判断したら、借金は
できる。けれどもわれわれがあんたたちを所有することになり、
もし債務不履行があったらあんたたちを売却する。これはスエー
デン政府が行なって成功した方法なのだ。

5.【規制は全て復活させなければならない。レーガン革命は死んだ】

今回の悲劇は狐に鶏小屋の鍵を持たせたことが原因だ。1999年に、
フィル・グラムがウォール街と銀行に適用される規制を全部撤廃す
る法案を起草した。法案は成立してクリントンが署名した。その
署名の時、マケインの主任経済顧問であるフィル・グラム上院議
員はこう言ったのだ。

「1930年代(……中略)には、政府が答えだった。自由市場の機能を
政府が支配することで安定と成長がもたらされると信じられていた」

「今日ここで我々はそれを撤回する。我々は政府が答えではない
ことを学んだからだ。自由と競争こそが答えであることを学んだ。
競争と自由という原則の下でこそ、経済成長が促進され、安定も
促進される、ということを学んだのだ」

「この場に立っていることを誇りに思う。これが規制撤廃法案と
いう重要法案だからだ。私はこれが将来へのうねりであると信じて
いる。その実現に一役買えたことは大変な誇りだ」

この法案は撤回するしかない。ビル・クリントン[訳注: 同法案が
成立した当時の米国大統領]はグラム法案の撤回に率先努力して、
財政機構に一層厳格な規制を復活させることでその実現に貢献
できるはずだ。

それが達成されたら、航空会社、食品検査、石油業界、職業安全衛
生管理局、その他日常生活に影響する全てのことに関する規制の
復活もできる。「緊急救済」を管理する規定はどんなものでも、
施行資金の確保と全ての違反者の刑事処罰を伴わなければならない。

6.【失敗が許されないほど巨大なものは存在も許されない】

超大型合併の出現を許しながら独占法やトラスト禁止法をないがし
ろにしたから、多くの企業が合併で余りにも巨大にすぎた。その
破綻を考えるだけで一国の経済全体が破綻に至るほどになって
しまった。1つや 2つの企業にこんな威力を持たせてはいけない。

いわゆる「経済的真珠湾」のような急襲は、人々の資産が何百、
何千の企業に分散していたら起こりっこないことだ。自動車会社が
10社ほどもあれば、その1つが倒れても国家の惨事にはならない。
もし町にそれぞれ独立の 3紙の新聞があれば 1社だけが情報を独占
することはない。(え、分かってます、何をぼんやり考えてたんだ?!
今どき誰が新聞など読んでいるもんか。あの合併と買収の嵐で、
確かに強力で自由な報道機関がたった一つだけ残ってるのが、
ありがたいよね!)

企業が余りに大きく独占的になりすぎて、片目に石つぶての一撃を
受けただけで倒れて死んでしまった例の巨人のようにならないよう
に、企業の肥大化を防ぐ法律が必要だ。また、どんな組織であって
も、だれにも理解できないような資金運用計画を立てるのを許して
はいけない。2行の言葉で説明しきれないような複雑な投資計画に
人のお金を使うなってことだ。

7.【どんな会社の役員も、従業員の平均賃金の 40倍を超える報酬
を受け取ってはならず、会社での勤務に対する高額の給与以外に
はいかなる「落下傘」[訳注:墜落する企業から退散する時の巨額
の退職金など]も受け取ってはならない】

1980年には米国の平均的な最高経営責任者は従業員の 45倍を得て
いた。2003年には自社従業員の 254倍だった。8年のブッシュ時代
が過ぎて、今では従業員の平均給与の 400倍を得ている。
株式公開企業でこんなことができるなんて正気の沙汰ではない。

英国では最高経営責任者は平均して自社従業員の28倍の報酬を得て
いる。そして日本ではたったの 17倍だ! 最近聞いたところでは、
トヨタの社長は東京で優雅に暮らしているらしい。こんな少額で
どうしてそんな暮らしができているのだろうか? いや、真面目な話、
とんでもない事態だ。頂点にいる連中が何百万ドルもを操って信じ
られないほどに肥え太るのを私たちが許してきたから、今のような
大混乱が起こってしまった。これ以上許してはならない。公的援助
を受けるなら、関係会社の役員はその援助から一切利益を得ては
ならないのはもちろんだが、会社の破綻に責任のある役員は会社が
公的援助を受ける前に辞職しなければならない。

8.【連邦預金保険公社を強化して、国民の預貯金だけではなく年金
と住宅も併せて保護するモデルにせよ】

昨日オバマ[訳注: 民主党大統領候補者]が国民の銀行預金に対する
連邦預金保険公社による保護の範囲を25万ドルにまで広げるよう
提案したのは正しかった。しかし国の年金基金もこれと同様の政府
系保険で保護されなければならない。国民が老後のために支払った
掛け金がなくなっていないかと心配するなんてことがあってはなら
ない。

つまり従業員の年金基金を管理する企業を、政府が厳格に監督する
ことになるだろう。それとも企業が基金とその運用を政府に委ねる
のも一案だ。国民の個人退職基金も保護が必要だけれど、基金を
株式市場という博打に投資させないことも考える時じゃないか。
我が国の政府には、この国に住む人は誰一人、年老いてから貧乏の
どん底に投げ落とされることがないことを保障する厳粛な義務が
あるのだ。

9.【深呼吸をし、落ち着いて、恐怖に支配されない日々を送ろう】

テレビを消そう! 今は「第二の大恐慌」などじゃない。天は落ちて
は来ない。評論家や政治家が余りにも矢継ぎ早に、おどろおどろし
く嘘をついているので、降りかかる恐怖に動じないでいることが
難しくなっている。私だって昨日、ダウ平均株価が過去最大の 1日
の下落を示したというニュースを聞いて、皆さんにおうむ返しに
その記事を垂れ流してしまった。株価指数では確かにその通りなの
だが、7%という下げは 1987年に株価が 1日で 23%暴落した
ブラックマンデーにはほど遠いものだ。

80年代には 3,000の銀行が閉鎖された。しかしアメリカは破産しな
かった。金融機関にはいつも浮き沈みがあるが、それでも結局は
何とかなるものだ。そのはずだよ。金持ちは自分たちの富を粉々に
したくはないのだから! 連中は早く事態を沈静化させて、自宅の
泡風呂で優雅なひと時を過ごしたくて仕方がないのだ。

こんな無茶苦茶な現状にもかかわらず、今週、何万人もが自動車
ローンを組んだし何千人もが銀行でローンを借りて家を買った。
大学に戻った学生達を 15年の学生ローンに取り込んで銀行はほく
ほく顔だ。変哲もない日常の営みが続いている。持っているのが
銀行券や財務省証券、定期預金証書の形である限り誰一人財産を
失わなかったのだ。

そして何よりのびっくりは米国民が脅迫キャンペーンに乗らなかっ
たことだ。民衆はひるむどころか議会に救済法案を葬らせたのだ。
あれは本当に印象的な出来事だった。民衆が大統領やその一味が
繰り出す恐怖に満ちた警告に屈しなかったのはどうしてだろうか?
そう、「サダムが爆弾持っとるぞ」などと何度繰り返しても、みん
なに大嘘つきのコンコンチキだと見破られてしまったらお終いだ。
長かった 8年のあと、国民はうんざりして、もう乗せられてなんて
いられないのだ。

10.【国民の「民衆銀行」を作ろう】

どうしても我慢できなくて 1兆ドルを刷るとしたら、それは一握り
の大金持ちに与えるのじゃなく私たち自身で使おうじゃないか。
フレディーとファニー[訳注: 二大政府系住宅金融会社]が我々の手
に落ちた今こそ、民衆の銀行を作ろうじゃないか。家を買う、
小さな事業を始める、学校へ行く、癌の治療を受ける、あるいは
もう一つ大発明をする、といった目的に資金を望む人に低金利の
融資をする銀行だ。

また、わが国最大の保険会社 AIGも我々の手に落ちたのだから、
もう一歩進めて全ての人に医療保険を提供しよう。全国民にメディ
ケアー[訳注: 米国の 65歳以上の人々に対する高齢者医療保険制度]
だよ。これで長期的には大きな節約ができるはずだ。もう平均寿命
が世界 12位なんてことにはならないだろう。

もっと長生きをして政府が保障する年金を享受し、やがて、非常な
災厄をもたらした企業犯罪者たちを許して出獄させ、われわれが助
けて市民生活に再順応させる日を生きて迎えるだろう。……素敵な
家 1軒と、民衆銀行の援助で発明されたガソリンを使わない自動車
1台を持つ市民生活を送りながら。

マイケル・ムーア
MichaelMoore.com

追伸

地区の上院議員に今すぐ呼び掛けて下さい。議会のサイトが再び
パンクした時のために予備のリンクを示しておきます。
http://www.congressmerge.com/onlinedb/index.htm
上院では今夜、アメリカ略奪の独自改正案を審議します。それから、
地域の下院議員にもあなたがマイクの10項目計画に賛同しているこ
とを知らせて下さい。

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原文: “Here’s How to Fix the Wall Street Mess
…from Michael Moore”
Wednesday, October 1st, 2008
http://www.michaelmoore.com/words/message/index.php?messageDate=2008-10-01

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