TUP BULLETIN

速報900号 カイロのつぎはウィスコンシンだ!市民と連帯する「冬の兵士」

投稿日 2011年3月22日

◎連帯する労働者、市民、そして兵士たち


雪の降り積もるアメリカはウィスコンシン州で、労働者運動がいま熱く動いている。運動の背景は後述しているので参照していただきたいが、ともあれ、労働組合をつぶそうとする州政府に反対して、労働者や市民約7万人が、「カイロの次はウィスコンシンだ」と掲げ、州都議事堂(キャピタル)を占拠し抗議している。昼間の間は公共の建物であるキャピタルのなかで、夜になると屋外でテントをはる抗議活動を続ける。

 

長期の不景気を理由にして教員をはじめとする公務員を解雇し、労働組合の力を殺ごうという動きは常にあり、私が住んでいるニューヨークでも市内で2000人(!!)の教員が解雇予告を受け取ったばかりだ。ニューヨークばかりではない。ミシガン、ニュージャージ、オハイオ、テネシー、ペンシルベニア、フロリダ、イリノイその他の州でも同じような動きがあり、すでに労働組合の団体交渉権を剥奪しているところもある。

 

ウィスコンシンでは、このような市民に対し州知事が「州兵を動員する」ことを示唆した。念のためにいっておくが、これは「人権を尊重する」、「民主主義の国」アメリカの政治家がとっている行動である。

 

そんな状況のなかで、「戦争に反対するイラク帰還兵の会」のメンバーが州都キャピタルにかけつけた。同じ軍務という公務につくものとして州兵に出動しないことを呼びかけている。この光景はチュニジアで、エジプトで、民衆に銃を向けなかった軍を思い起こさせる。短い映像だが「連帯」する民衆に力強いエールをおくっている。Youtubeの映像から、聞き取りを訳して皆さんにお届けしたい。

 

***ウィスコンシン州労働者デモの背景

 

2011年2月25日、ウィスコンシン州マディソンで新たに知事となったスコット・ウォーカーは、赤字予算対策のために労働組合の団体交渉権の削除法案を議会に提出した。ウォーカーの法案は、ウィスコンシン州の公務員の福利厚生的な利益、労働条件に関する交渉は一切禁止している。教育・医療・公共施設など市民生活に不可欠な場所で働く公務員の人数を削減し、その「労働条件を交渉する権利」にいたるまで認めない法案は、その一方で、警察や消防などに関わる公務員の利益は除外し、赤字予算対策のためにこういう法案を提出したとしながら、二つの法人税の減税を認め[1]、保守的な医療政策実験に1億2千万ドル(約100億円)の税の追加支出を認め、そのうえ高速鉄道建設を否決し、工事に対して連邦政府からつけられた予算8億1千万ドル(約670億円)を返上している。[2]

 

ウォーカーのこのような措置は、彼の属する共和党や、減税と「小さな政府」を提唱するティー・パーティが理想とする社会がどんなものであるのかを如実に教えてくれる。彼らが理想とする社会というのは、3月5日にウィスコンシン議会を占拠している市民を応援に来たマイケル・ムーアが言ったように「米国の上位400人の金持ちの収入は、国民の半数以上の収入を集めたものより上回る」、貧富の差を極端にまで広げていく社会に他ならない。

 

[1] Ezra Klein, "Unions aren't to blame for Wisconsin's budget," Washington Post, February 18, 2011. http://voices.washingtonpost.com/ezra-klein/2011/02/unions_arent_to_blame_for_wisc.html#more.


 

(前書きと翻訳:金克美(キム・クンミ)/TUP) 

 

 

反戦イラク帰還兵の会、ウィスコンシン州マディソンの州議会占拠に現る

 

>ドラムの音がなり、数名が州議会ホールに入ってくる。

マディソンからきたクロッドです。友人を連れてきたので少しお騒がせします。(歓声)

我々はウィスコンシン州兵たちに出動しないよう呼びかけに来た。労働者は自らの権利のために戦っている。 軍の任務に就き、公共のために働く者は立派な人間だ。私は米国海軍の公務員で原子力潜水艦サンタフェの予備役です。

 —

ゲーリックです。2004年のイラクで第1騎兵師団で任務についた公務員です。軍隊をサポートしたのと同じように公務員をサポートします。

 —

イラクで2003年から2005年まで、第一大隊第七海兵隊で任務につきました。戦争に大金をつぎ込みながら、組合に入っている教師や労働者を解雇しようとしてるんだ!

 —

ブレンダン・ボラッサ、ルイジアナ州ボックスデール基地の空軍で任務についたイラク戦争の帰還兵です。

 —

ミネソタの退役した元曹長です。組合の労働者諸君! 我々はイラクとアフガニスタンでの任務から戻り、この政治法案と戦っている! 自分でやろう! 我々は連帯のために立ち上がる!ウィスコンシン州兵とともに!組合のために!(歓声)

 —

中部イリノイの反戦イラク帰還兵の会から協力しにきました。([観衆] ありがとう!)私はイラクとアフガニスタンにかかわったが、間違いなくこの二つの戦争に反対する。戦費とは本来国内で支出すべき資金だ! 労働者との連帯に立ち上がろう!

 —

反戦イラク帰還兵の会のスコット(聞き取り不能)。ウィスコンシンの納税者は年間27億ドルもイラクとアフガニスタンの戦争に出資している!27億ドル!一方で、我々労働者の権利は奪われてきた!社会政策の削減に、何か言うことはないか!([観衆] ノー!)僕はここにいる!僕らは皆ここにいる!僕らは労働者のためにここに留まる!我々は成功するまでここを退かないぞ!

 —

ジェーン・クラーク、イラクには2004年にイラクに配備されていた帰還兵です。仲間の抗議行動にやっとこうして参加できて嬉しいです。イラクとアフガニスタンの戦争には、本当に、全く反対です!その資金は間違いなくここに帰属するものです! 仲間とともに、連帯に立ち上がります!

 —

インディアナからきたモリス・ドルーズ、2003年から2007年、米海兵隊員でした。(観衆:いいぞ、インディアナ!ありがとう!)いい? インディアナのどこが?(笑)。僕の母は教員で父は組合職員、そして息子は帰還兵です。

 —

スティーブ・ハドソン、米陸軍軍曹を5年間務めました。2005年にイラクに任命され、そのときは初めての民主的な選挙が行われたときでした。バグダッドの街中に立ち、本来なら本国のためにあるべき血税でイラク国民を護衛しました。労働者の権利を守ろう!ウィスコンシンの権利を!

 —

ビンス・マニオリ。同じくインディアナ在住で、同じく米海兵隊で任務についた帰還兵です。もはや我々はこのことを別々のもののように扱うべきではない! 年間に1兆ドルを使い、軍が我々を最初の戦地となってはならなかった場所に送り込んだことはちっとも別のことじゃない!(歓声のため、聞き取り不能)ここにいる労働者諸君、人権グループ、マイノリティグループ、反戦グループの皆が力を合わせなければならない!この戦いは明日に終わらない、この戦いは永遠に続く!ありがとう、ここにいる一人ひとりの皆さん、ありがとう!

 >ドラムの音とともに退場 


訳者後書き

 この聞き取りを仕上げている最中に、日本では大地震、津波、そして原子力発電所の起きてはならかなった事故がおきてしまいました。私はニューヨーク在住ですが、見知らぬ人からも日本で被災に遭われた方々にどうすれば力になれるのかと声をかけられ、会う人ごとに家族の安否や日本の状況に心よせる言葉をかけられます。この場を借りて、日本国外の多くの人々の気持ちが日本の皆様に寄せられていることをお伝えしたいと思います。

 ウィスコンシン州の状況ですが、この記事のあと、3月11日(金)にウォーカ知事によって、州外に逃れていた14人の民主党議員がいなくても法案が通せるように予算修正案を予算案と集団交渉権剥奪をはじめとする様々な組合に不利益な条項を盛り込んだ法案の二つに分けられ、可決されてしまいました。その後、同様の団体交渉権の剥奪をはじめとする法案がミシガンやオハイオでも吹き荒れています。

 一方、民主党議員をはじめとして、ウィスコンシン州での決議の方法に問題があったとして法的措置をとることや知事のリコールを求める声も高くなっており、まだまだ余談の許されない状況が続いており、マイケル・ムーア監督が「階級闘争」と呼ぶこの事態の行く末を見守っていきたいと思います。(キム・クンミ)