TUP BULLETIN

速報1003号 トランプ政権が目論む日本と韓国の核武装、中国への威嚇:東アジアの転換期?

投稿日 2017年5月4日
◎日本と韓国が核武装した世界



国務長官に就任する以前から、南シナ海問題に言及し中国をけん制していた米国のティラーソン国務長官が、就任してひと月後の3月に日本、韓国、中国へと訪問した。

訪問で、ティラーソン長官は日本と韓国の核武装を容認したともとれる発言をしている。日本は憲法九条で、国際紛争を解決する手段として武力の行使を放棄した国のはずなのだけれど、改憲を主張する安倍首相は平和憲法のことなど忘れたかのように、朝鮮半島の近海で米空母と共同訓練に自衛隊の艦隊を送った。

ティラーソン長官の発言は、あり得ないと思っていた、核武装した「普通の国・日本」が現実になる明日を予想させる。東北アジアの緊張が煽られて、否が応にも高まるなかで、日本と韓国の核武装が実現してしまえば世界の紛争地図はあっという間に変わってしまうだろう。

オーストラリアのロイヤル・メルボルン工科大学ノーチラス研究所の上級研究員、リチャード・タンター氏が、日韓の核武装した世界に警鐘をならす報告書をアジア太平洋ジャーナルに寄稿した。

キム・クンミ/TUP(前書き・本文訳)

トランプ政権が目論む日本と韓国の核武装、中国への威嚇:東アジアの転換期?

リチャード・タンター
2017年4月1日

レックス・ティラーソン国務長官はいまや、ワシントンに残された楽観主義者たちから、ホワイトハウスに浸透する外交政策マニアの影響を抑えられる、「安心して任せられる男」と称される。しかし実際は正反対だ。米国と世界にとって残念なことだが、3月中旬の日本、韓国、中国訪問におけるティラーソンのコメントは、日本と韓国の核武装を米国が奨励することによって中国を威嚇するものだった。アジア・太平洋地域で緊張が高まるこの時期に米国がこれほどのリスクを冒すのを前にして、オーストラリアなど地域の諸国には核兵器に対して正気を保ち、独立した外交政策が求められている。

3月19日、ティラーソンの東アジア旅行に同行を許された唯一のジャーナリスト、「インデペンデント・ジャーナリズム・レビュー」のエリン・マクパイクは、ソウルから北京に向かう途中に30分間に広範なインタビューを行った。 ティラーソンの主な話題は、大統領が「やつら(北朝鮮)は何年も米国を“弄んで”きた。中国はこれまでほとんど何もしてこなかった!」とツイートしたように、北朝鮮の核兵器を中国が抑える必要性があるというトランプ政権の見解だった。

ティラーソンは北朝鮮に対する米国の「戦略的な忍耐」が終わり、「すべての選択肢は卓上に出そろった」と強調した。マクパイクは、日本と韓国には核兵器は必要としないという上院の聴聞会の見解をティラーソンがまだ維持するかどうか尋ねた。返事は衝撃的だった。

マクパイク:昨日フォックス・ニュースで、朝鮮半島の核武装に関して「いかなる選択肢も排除されていない」とおっしゃいましたね。上院の聴聞会では、韓国と日本が核兵器を持つ必要はないというようなことを言っておられました。北朝鮮の状況の緊急性を考慮し、特に日本が必要とあらば核兵器の開発を早急に終えることができることで、見解は変わりましたか?

ティラーソン:いいえ、変わっていません。米国の政策も変わっていません。我々の目的は朝鮮半島の非核化です。朝鮮半島が非核化を保つということは、日本が核武装を検討する必要性が無くなるということです。すべての選択肢が卓上にあると言いますが、未来を予測することはできません。なので、地域のすべての国が、相互抑止という理由から状況がその時点に発展する可能性があること考慮しなければならない。それをはっきりと理解することが重要だと考えています。しかし私が昨日言ったように、そこにはたくさんの、、、たくさんの段階があり、現時点と、そのような決断を下さなければならない時点までにはまだかなりの距離があります。

これら2つの文章が意味するところは明らかだった。ティラーソンは中国に、北朝鮮を抑えるか、さもなくば米国が同盟国の日本と韓国に核兵器を開発する承認を与え、最悪の戦略的悪夢に直面することになるかのどちらかだと、最も鋭い警告を発したものだ。

このようなシグナルが作用するのは二つの前提に基づいている。一つは中国と北朝鮮に関して、もう一つは東アジア同盟国の核拡散に対する米国の利益に関してだ。どちらも妥当ではない。第一に、米国は中国が北朝鮮にミサイルと核兵器開発を止めるよう説得する手段を持っていると仮定している。一年以上にわたって、北朝鮮が武器の習熟曲線に沿って進歩するなか、中国が北朝鮮の核挑発を頻繁にかつ実質的に批判していることについて、金正恩政権が騒然としていることは明らかだ。中国にはいくつかの選択肢が残ってはいるが、どの選択肢も核武装した北朝鮮の体制転覆のリスクがある。厳しいエネルギーや経済制裁でじわじわと、あるいは直接の介入によって迅速に。どちらにしても北朝鮮との戦争のリスクは高い。

第二に、日本と韓国が核武装した世界は米国よりも中国にとって脅威となるという前提は、少なくともブッシュ政権の時代から続く米国の政策思考の流れだ。前提の中国についての部分は確かに正しい。中国は東アジア全域への戦略的姿勢を完全に再考しなければならないだろう。中国は大いに高まった近隣の朝鮮半島で核戦争の危険性に直面することになるだろう。これは米国にとっても興味深い問題でもある。

日本の核武装は、「西側」に並びながらも1960年代にNATOからフランスを脱退させたド・ゴールを模倣した国家主義的な日本政府を、米国がしぶしぶ受け入れることで起こるかもしれない。またはティラーソンが想定しているように、米国の奨励によって日本が、リチャード・アーミテージが主張したような「東アジアの英国」-おそらく英国を、ミサイルのために米国に依存する超忠実な核保有従属国とみなして-となることによって起こるかもしれない。これは日本を、おそらく高レベルの「通常兵器軍備」を備えた第二層、少なくとも第三層の核兵器国として、依然として忠実で従属的なパートナーであると想定していると思われる。この考えは韓国政府には歓迎されざるもので、日本と韓国の核武装する時期は歴史適刹那の違いくらいしかなく、同様に台湾も核兵器開発という究極の選択を迫られることになるだろう。

東アジア核覇権を再構築する米国のこの幻想では、東アジア核武装には米国主導の東アジア版NATOが伴うことになっており、それは南はオーストラリアに、そして、遅れてきた帝国主義的な夢である「民主国家同盟」の辺境では米国の同盟国インドにつながっている。うまく行かないわけがない。

しかし長期的に、このような出来事が当の米国に及ぼす直接的なリスクを別にしても、今や70年になろうとする米国の核優位と核の傘下を日本と韓国が受け入れることに基づいたこの東アジア同盟ネットワークは劇的に変わり、良くも悪くも東アジアと東南アジアにおける米国の覇権に終わりをもたらすだろう。ド・ゴール風か英国風かのどちらの想定で起こるにしても、韓国と日本の米国との関係の基盤は不可逆的に変わり得る。北朝鮮についての明らかな疑問はさておくとして、日韓が核を持った場合に、東アジアで起こる核戦争の数学的リスクは、インド – パキスタン核問題の現在の危険性よりもはるかに大きくなる。地域の核安全保障計画は、様々な核の脅威の可能性を考慮し編成されるだろう。中国と米国の核関係は、中国がインドやロシアという従来の懸念に加えて、少なくとも名目上は米国と協調関係にある新たな二つの潜在的脅威に直面し、あっというまにはるかに複雑になる。米国にとって核武装して完全に「正常化した」日本は、ポスト英国のリトル・イングランドのように疑いの余地のない忠実なペット犬にはならない。そして、核武装した韓国と日本の相互の算段は歴史的な関係による懐疑に終始するだろう。

世界的なレベルでは、米国が日本と韓国に核武装の扉を開くことは、西太平洋だけでなく中東、中南米、そしておそらくアフリカにも、核兵器の地域レースを促すことになる。地域核戦争ということになれば環境と気候に壊滅的な影響が引き起こされること*について詳しい研究文書**がいくらでもあるが、その地域核戦争のリスクが現在よりもはるかに高く多岐にわたるものとなる。

*報告書『Multidecadal global cooling and unprecedented ozone lossfollowing a regional nuclear con?ict』Michael J. Mills1, Owen B. Toon2, Julia Lee-Taylor1, and Alan Robock
*米国の医師団体「社会的責任のための医師の会(Physicians for Social.Responsibility=PSR)」による報告『Nuclear Famine:Two Billion People at Risk?』

米国の従順な同盟国であるオーストラリアには、これほど厳しい選択肢は今までなかった。ターンブル政権は、米国が日本と韓国に核爆弾を持つことを許すだけでなく、実際に奨励していることを手をこまねいているだけだろうか? ジュリー・ビショップ外務大臣はトランプの瀬戸際政策がオーストラリアの安全保障を強化させると想像しているのか? すでに集結しているオーストラリアの核兵器擁護派の影響力が増すことはないと、ちらとでも考えているのだろうか? そしてこのどれもが今も、核武装したインドネシア諸島を長く夢見てきたスカルノ派を勇気づけることはないとでも考えているのだろうか? オーストラリアは、ティラーソンによる威嚇をオーストラリアの核軍縮政策が完全に失敗したことを知らせる警鐘とみなし、一層独立した外交政策を始めるチャンスをつかむことが重要だ。

このすべては国連の「核兵器を禁止するために法的拘束力のある手段を作り出し、完全な排除に導く」という歴史的に先例のない試みと同時に起こっている。核保有国が長く破り続けてきた核不拡散条約の約束を誠実に果たすことなどもはや待ってはいられない非核兵器国(オーストリア、ブラジル、アイルランド、メキシコ、ナイジェリア、南アフリカ)とグローバルな市民団体は世界的な核禁止条約構想を主導しており、その目的は何よりもまず、核兵器をすべての側面にわたって非難すること、そして、核保有国にもその同盟国にも支援される非合法化政策のプロセスを通して、核抑止という虚構の広大な覇権に異議申し立てをすることである。

核禁止条約交渉をボイコットするようにNATO同盟に命じた後に米国は、意見の割れている日本の内閣にボイコットに同調するように並外れた圧力をかけたと伝えられている*。米国の同盟国の中で最も満足そうなオーストラリアはこうした圧力を必要としなかった。注目すべきは、東南アジアと太平洋島嶼国のすべての国が協議に参加して提案を支持し、米国の同盟国である日本、韓国、オーストラリアを孤立させたことだ。

*ジャパンタイムズ “Trump administration opposes Japan’s participation in U.N. talks on banning nukes”, 

一方、世界はトランプ政権の冒険主義と核を保有している9カ国が地球に及ぼす脅威の両方に二重の人質として拘束されている。「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」のティム・ライト氏は、「The Bulletin of Atomic Scientists」に、以下のように書いた。

「近年の核兵器競争の脅威と、古い核弾頭をさらに致死的なものに更新する現在進行中のプログラムの脅威は、無分別にも今度の国連交渉をボイコットすることと同様、核拡散防止条約に大きなダメージを与える。」

核武装した日本と韓国というトランプ-ティラーソンの威嚇は、米国が核不拡散政策という建前さえ恥ずかしげもなく捨てているという、これ以上はない明白なメッセージであり、たとえ厳しく遠い道のりであろうとも、核廃絶が唯一の実行可能な道となるメッセージでもある。

出典:The Asia-Pacific Journal/Japan Focus

Donald Trump’s Japanese and South Korean Nuclear Threat to China: A tipping point in East Asia?
Richard Tanter, Apr 1, 2017