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TUP速報1018号 ルース・ベイダー・ギンズバーグは聖者にあらず

(2020年10月31日)

◎米国の故最高裁判事の聖人伝で失われたもの、それはバランスが取れた一片のクリティカルシンキング

本稿はミドル・イースト・アイのオピニオン欄に掲載された、米国コロンビア大学のイラン人教授ハミッド・ダバシによる論説 ”Ruth Bader Ginsberg was no saint”の邦訳である。

2020年9月18日に亡くなった米国の連邦最高裁判所陪席判事、ルース・ベイダー・ギンズバーグ(RBG)は、リベラル派の間では聖人扱いされ、ポップカルチャーの一部になるほど大人気の判事だった。80歳を過ぎてから、早世したラッパーの「The Notorious B.I.G.」をもじった「Notorious RBG」という愛称で呼ばれるようになり、絵本の主人公やTシャツのデザイン、果ては入れ墨のモチーフにされるほど若者の間でも人気があった。

しかし彼女は、俗に言われるようなリベラルの権化、聖人だったのだろうか。彼女が亡くなってしばらくの間、ソーシャルメディアは彼女に対する賛辞に溢れ、その批判を許さない風潮があった。聖人伝やヒーロー/ヒロイン伝は、聞いていて心地よいものだ。ファンとしてはヒロインの汚点は聞きたくない。しかしこの伝説化された判事は、おとぎ話や映画の主人公ではなく、実際に米国の政治や生活に多大な影響を及ぼす、8人の連邦最高裁陪席判事の一人だった。

本稿は彼女に対する手放しの賞賛に待ったをかける論説である。彼女に対する批判を受け止め、立ち止まって考えられるかどうかは、RBGという判事への個人崇拝をいさめるといった次元の話ではない。これは民主主義国家において重要な、国民が、そして特に自称「リベラルな」人々がどれほどクリティカルな視点を持てるか、というリトマス紙でもある。

(前書き・邦訳:法貴潤子/TUP)

 

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TUP速報1017号 独立のために闘ったコンゴの女たちを忘れない

(2020年07月21日)

1961年2月11日、NYのベルギー領事館前で反ベルギー、ルムンバ支持のプラカードを掲げて抗議する人々 [AP Photo/Jacob Harris]

1961年2月11日、NYのベルギー領事館前で抗議する人々 [AP Photo/Jacob Harris]

◎女たちの物語を記憶し、歴史を語りなおす

本稿は、アルジャジーラ紙オピニオン欄に掲載された“Remembering the Congolese women who fought for independence”の邦訳である。

著者は、コンゴ独立から60年経った今、アフリカ解放のために闘った女たちのことはほとんど記憶されず、歴史の周縁に追いやられてしまっていると嘆く。そして、コンゴ独立に貢献したアンドレ・ブルアンの物語を通し、コンゴやアフリカの文脈を超え、今こそ、国家の暴力の被害者となった女たちの存在を認識し、公正を勝ちとる闘いの歴史で女たちが重要な役目を果たしてきたことに光を当てる必要があると説く。

コロナ禍が世界を覆うなか、“Black Lives Matter”の抗議運動もまた、国境を越えて共感をよんだ。国家の暴力に抗議するこの運動で掲げられた“Am I Next?” や “I Am A Man” といったメッセージは皮肉にも、人の尊厳へのより強いまなざしが向けられている今日だからこそ、より多くの人に実感をもって受け止められたのかもしれない。しかし実のところ、人種差別問題は政治と切り離すことができず、根深く、その歴史にいたっては非人道的極まりない。これはもちろん米国社会に限った問題ではなく、また人種だけの問題でもない。本稿でも、同じように警察の暴力の犠牲者でありながら、(現在の運動の発端となった事件の被害者である)黒人男性のジョージ・フロイドさんと黒人女性のブリオナ・テイラーさんの違いが指摘されているように、多くの社会において、弱い立場におかれた人びと、つまりは女や子どもは未だに虐げられ、その声は沈黙させられている。忘れられた物語に光を当てる本稿の試みを通し、歴史に埋もれてしまった声なき声に耳を傾ける必要があるという認識が広まり、人の尊厳につながるさまざまな問題がただされていくことを願っている。

(前書き・翻訳:和田直/TUP)

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TUP速報1016号 みんなに一律:ベーシックインカム保証のすすめ

(2020年05月30日)

ベーシックインカムは社会の希望になるか

現在、世界的コロナ禍、いわゆるパンデミックの中、社会のあり方が否応無く問われる状況になっています。ウイルスの蔓延を防ぐために取られた数多くの政策、例えば三密を避ける、ソーシャルディスタンシング(他人と物理距離を取る)、ステイホーム(外出しない)、などのいずれも、経済活動の停滞や後退を意味します。しかし、失業者が「街にあふれる」ことは、社会として三つの意味でなんとしても避けねばなりません。一つには失業者個々人にとって苦難であること、一つには経済停滞により国全体が悪循環に陥る問題、そしてもう一つ、感染病流行の特徴として、多くの人々が外出すればするほど感染拡大が止まらない、もしくは終息の日が遠くなり、数多くの人々が苦しみ続け、少なからずが命を落とすことになる問題があります。

コロナ禍において、ある意味では皮肉なことに、世界の国々あるいは地方政府レベルで福祉政策が急速に発展しました。欧州の多くの国では、国民や被雇用者や(分野は限られるとはいえ)広範なビジネスに前例ない規模の公的補助が出ています。ロンドンでは、すべてのホームレスに住居が用意されました(BBC報道)。ニューヨークでは、不法移民まで含めてすべての人にコロナ関係検査が無償で提供される(ビザ関係の記録も不問かつ残されない)ようになりました(AMニューヨーク・メトロ報道)。これらは、路上生活者がいたり新型コロナウィルス感染症に罹ったまま社会で生活する人がいれば、そこから感染が拡大するから、という極めて合理的な理由が最大だと理解しています。新型コロナウィルスが蔓延している限り、多かれ少なかれ社会の誰もが脅かされます。英国では首相さえ罹患して一時は集中治療室に入院したものでした。したがって、いままでは恵まれない人々の生活や厚生を歯牙にも掛けなかった、もしくはそこから利益さえ得ていた既得権益層さえも、福祉政策推進が喫緊であるという事実を無視できなくなったと解釈してもよいでしょう。ある意味では、人道的理由が合理的理由に大敗したと言えるかも知れません。しかし、理由がどうあれ結果的に社会福祉が進んだことは歓迎すべきことではないでしょうか。

そんな中、注目を浴びているシステムに、ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)があります。しばしば、単に「ベーシック・インカム」とも呼ばれます。一言で述べれば、全国民に等しく(健康で文化的な生活を送るのに十分な)生活保護費を政府が支給する制度です。世界的には、フィンランドの一部で3年前(2017〜2018年)に試験導入されたことが有名です(フィンランド厚生健康省の初期報告書(英語))。コロナ禍の4月はじめには、スペインの現政権がそれに近いものを導入することを発表して話題になりました(ブルームバーグ報道)。ベーシックインカム地球ネットワーク(BIEN)記事によれば、スペイン政府の導入予定のものは「ユニバーサル」とは言い難い、ということですが、従来の社会保障制度よりは一歩進んだものと言ってよさそうです。

さて、イギリスのスコットランドで、リフォーム・スコットランド(Reform Scotland)というシンクタンクが、UBIを推奨する白書を4月に発表しました。それを受けて、スコットランド政府主席閣僚(=首相)のニコラ・スタージョンが以下のようなツィートで応えました。


端的には、スタージョン氏は、UBIに大いに興味あり、導入に積極的である意思が表明されています。

「現在の[コロナ禍の]状況は、[UBI]支持する根拠を計り知れないほど強めることになっている」 (current situation strengthens case immeasurably)

とまで言っています。ただし、スコットランド自治政府の権限は限られるため、英国政府/国会との折衝が必要なので、仮にスコットランド政府/議会が求めてもすぐにそうなることはありません(同氏のツィートにも触れられています)。ちなみに、英国では、すでに「ユニバーサル・クレジット」と名付けられた制度が導入されていて、生活保護や失業保険を含めた数多くの社会保障が統一されています。そういう意味では、下地がないわけではない、と言えるかも知れません。

興味深いのは、スタージョン氏率いるスコットランド議会与党のスコットランド国民党は英国の主要政党の中で最左派である一方、白書を発表したリフォーム・スコットランドは保守党系であることです(: 保守党は現在の英国国会の与党)UBIは拡充した社会保障と解釈するならば、その精神はむしろ左派的だと考えるのが自然でしょうが、現実には保守派・右派にもUBI支持者が少なくない様子です。実際、フィンランドの一部で実験導入を決めた時は、右派の推薦だったと聞きます。主たる理由は、UBIにすると、社会保障に関する政府の運用コストが激減するので、ある程度の福祉出費は政府として必要不可欠であるという前提に立つ限りは、結果的にトータルの福祉出費が少なくなる可能性があるからだと私は理解しています。一般論として、右派は小さな政府を求める傾向があると言っていいでしょうが、UBIは右派の方向性とも合致することになります。スコットランドの例にもれず、UBIは、左右両派が一致する政策になりそうです。

コロナ禍は、多くの国における現在の極端な不平等社会が感染症の流行にとても弱いことを浮き彫りにしました。ロンドンやニューヨークの社会的弱者救済がその端的な例です。UBIはそんな社会の弱点を緩和する救いの政策になるかも知れません。

以下、リフォーム・スコットランドによるUBIを推奨する白書を全訳してお送りします。具体的にどのような形で導入し、その影響がどうなるか、が議論されています。

(前書き:坂野正明/TUP、邦訳:法貴潤子/TUP)


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