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TUP速報1019号 1月26日:インド人が共和国を取り戻した日

(2021年03月05日)

[Photo: Sanjeev Rohilla]

◎1月26日の出来事は、インド史上前代未聞の節目

本稿はアルジャジーラ紙オピニオン欄に掲載された、”January 26: The day Indians reclaimed their republic” の邦訳である。この前書きでは、複雑なインド社会を理解しやすくするために、背景を少し説明したい。

2020年にインドの国会で可決された新しい農業法が、大企業を潤し農民には不利であるとして、農民の大反発を招いた。最初は局地的であった抗議は瞬く間にインド全土を揺るがす大規模デモへと発展し、2021年春現在もまだ収拾の見込みはついていない。インド全土で2億5000万人が一斉にストライキに参加した日もあり、これらの抗議デモやストライキは歴史上最大規模の動員数と言われる。

世界中で分断が憂慮されるご時勢において、このうねりがここまで大規模にインド人を動かしたのは、既存の政党や思想、宗教やカーストといった囲いをなぎ倒し、カオス的に繋がった人々の底力と言えるだろう。

一連の抗議デモで中心的な役割を果たしてきたのは、インド有数の穀倉地帯であるパンジャブ州の農民たちで、シーク教徒が多い。彼らはインドの中で、宗教的にも歴史的にも独特の立ち位置を占めている。歴史的にはムガル帝国のムスリム勢力と何度も戦い、インドとパキスタンが宗教を元に分離独立した際には、ヒンドゥー教徒が多数のインド側についた。しかしその後、シーク教徒の国を樹立しようとインドから分離独立を求める運動が高まった時期もあり、必ずしも常に多数派のヒンドゥー教徒と良好な関係を保っていたわけではない。

また、本文中に出て来る「ダリット」とは、インドにおけるカースト制度の最底辺、あるいはカースト外に位置する「アンタッチャブル(不可触民)」と呼ばれてきた人々のことである。彼らはインド社会で長く虐げられ搾取されてきた人々で、過酷なカースト差別から逃れるために、平等を説くイスラームに改宗した人々もたくさんいる。

本文中に何度も出て来るレッド・フォートは、ユネスコの世界遺産にも登録されており、インドの共和国記念日である1月26日と切っても切れない関係にある。17世紀にムガル帝国によって建造された城塞で、デリー城、または赤砂岩でできているためラール・キラー(ヒンディー語、ウルドゥー語で「赤い城」という意味)とも呼ばれる。時代によって支配者がムガル人であったりイギリス人であったりしたが、ここに旗を掲げることは、インド人にとって支配者からの解放のシンボルでもある。その「支配者」が、今度はインド人自身、資本主義の波、あるいはヒンドゥー至上主義の政権と結びついた大企業だった。

インド近代史上もっとも右傾化した政権、また社会風潮の中で起こった2021年1月26日の出来事は、象徴的なものに過ぎないかもしれないが、カオスの中から民衆のパワーを引き出すインドらしさ、人々が運営する共和国という国の在り方を、もう一度見せてくれたと言える。

(前書き・翻訳:法貴潤子/TUP)

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TUP速報1018号 ルース・ベイダー・ギンズバーグは聖者にあらず

(2020年10月31日)

◎米国の故最高裁判事の聖人伝で失われたもの、それはバランスが取れた一片のクリティカルシンキング

本稿はミドル・イースト・アイのオピニオン欄に掲載された、米国コロンビア大学のイラン人教授ハミッド・ダバシによる論説 ”Ruth Bader Ginsberg was no saint”の邦訳である。

2020年9月18日に亡くなった米国の連邦最高裁判所陪席判事、ルース・ベイダー・ギンズバーグ(RBG)は、リベラル派の間では聖人扱いされ、ポップカルチャーの一部になるほど大人気の判事だった。80歳を過ぎてから、早世したラッパーの「The Notorious B.I.G.」をもじった「Notorious RBG」という愛称で呼ばれるようになり、絵本の主人公やTシャツのデザイン、果ては入れ墨のモチーフにされるほど若者の間でも人気があった。

しかし彼女は、俗に言われるようなリベラルの権化、聖人だったのだろうか。彼女が亡くなってしばらくの間、ソーシャルメディアは彼女に対する賛辞に溢れ、その批判を許さない風潮があった。聖人伝やヒーロー/ヒロイン伝は、聞いていて心地よいものだ。ファンとしてはヒロインの汚点は聞きたくない。しかしこの伝説化された判事は、おとぎ話や映画の主人公ではなく、実際に米国の政治や生活に多大な影響を及ぼす、8人の連邦最高裁陪席判事の一人だった。

本稿は彼女に対する手放しの賞賛に待ったをかける論説である。彼女に対する批判を受け止め、立ち止まって考えられるかどうかは、RBGという判事への個人崇拝をいさめるといった次元の話ではない。これは民主主義国家において重要な、国民が、そして特に自称「リベラルな」人々がどれほどクリティカルな視点を持てるか、というリトマス紙でもある。

(前書き・邦訳:法貴潤子/TUP)

 

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TUP速報1017号 独立のために闘ったコンゴの女たちを忘れない

(2020年07月21日)

1961年2月11日、NYのベルギー領事館前で反ベルギー、ルムンバ支持のプラカードを掲げて抗議する人々 [AP Photo/Jacob Harris]

1961年2月11日、NYのベルギー領事館前で抗議する人々 [AP Photo/Jacob Harris]

◎女たちの物語を記憶し、歴史を語りなおす

本稿は、アルジャジーラ紙オピニオン欄に掲載された“Remembering the Congolese women who fought for independence”の邦訳である。

著者は、コンゴ独立から60年経った今、アフリカ解放のために闘った女たちのことはほとんど記憶されず、歴史の周縁に追いやられてしまっていると嘆く。そして、コンゴ独立に貢献したアンドレ・ブルアンの物語を通し、コンゴやアフリカの文脈を超え、今こそ、国家の暴力の被害者となった女たちの存在を認識し、公正を勝ちとる闘いの歴史で女たちが重要な役目を果たしてきたことに光を当てる必要があると説く。

コロナ禍が世界を覆うなか、“Black Lives Matter”の抗議運動もまた、国境を越えて共感をよんだ。国家の暴力に抗議するこの運動で掲げられた“Am I Next?” や “I Am A Man” といったメッセージは皮肉にも、人の尊厳へのより強いまなざしが向けられている今日だからこそ、より多くの人に実感をもって受け止められたのかもしれない。しかし実のところ、人種差別問題は政治と切り離すことができず、根深く、その歴史にいたっては非人道的極まりない。これはもちろん米国社会に限った問題ではなく、また人種だけの問題でもない。本稿でも、同じように警察の暴力の犠牲者でありながら、(現在の運動の発端となった事件の被害者である)黒人男性のジョージ・フロイドさんと黒人女性のブリオナ・テイラーさんの違いが指摘されているように、多くの社会において、弱い立場におかれた人びと、つまりは女や子どもは未だに虐げられ、その声は沈黙させられている。忘れられた物語に光を当てる本稿の試みを通し、歴史に埋もれてしまった声なき声に耳を傾ける必要があるという認識が広まり、人の尊厳につながるさまざまな問題がただされていくことを願っている。

(前書き・翻訳:和田直/TUP)

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