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TUP速報1024号 ヨーロッパで突如として難民支援熱が高まったわけ

(2022年05月22日)

◎ヨーロッパで「使い古しの毛布を中東の難民にやるくらいなら、燃やしたほうがマシ」と思っていた人々が、今度はウクライナ人のために寄付を募っている


ロシアによるウクライナ侵攻に終わりが見えません。国連の常任理事国が隣の主権国家を武力攻撃するという異常事態は、他国政府からの要請を受けてその国の武装勢力への対応に乗り出したり自国の武装勢力と戦ったりすることと比べ、その問題性においてレベルが違います。プーチン大統領のロシア政府が決断した侵略を言語道断とする感覚が欧州で広く共有されているからでしょう、ウクライナ市民への同情が集まり、欧州各国でのウクライナ難民受け入れが、前例のない盛り上がりを見せています。一方で、難民の苦難に変わりはないにもかかわらず、今までのシリアなどからの難民受け入れ政策とは対照的になっているのも事実で、そのダブルスタンダードは批判を免れないところです。以下、移民・人身売買に関する研究者がアルジャジーラに投稿した記事をご紹介します。

ちなみに、日本政府はウクライナ難民の受入れを推し進めたものの、難民を「避難民」と呼び替えることで、受入れが極端に少ない他の国からの難民との差別化をしようとしています。地理的な近さと歴史的経緯からウクライナに親近感を覚えるという事情のない日本人こそ、ダブルスタンダードの問題を真剣に考える必要があると思います。ダブルスタンダードといえば、もうひとつの国連常任理事国である米国もこれまでロシア以上に他の主権国家を武力攻撃してきましたが、経済制裁などは受けていません。米国のそのような行動に強く反対できる立場にあるロシアが、結局同じ轍を踏んで新たな軍拡競争の端緒を開いてしまったことが残念でなりません。

(前書き・翻訳:川井孝子/TUP)

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TUP速報1023号 ロシアによるウクライナ侵略についてのコードピンクからの声明

(2022年03月02日)

NATOの東方拡大(1949-2020), original file created by Patrickneil and fetched from https://commons.wikimedia.org/wiki/File:History_of_NATO_enlargement.svg with country names and title added by Masa Sakano, under a license of Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0 Unported

NATOの東方拡大(1949 – 2020年)。原作者 Patrickneil (https://commons.wikimedia.org/wiki/File:History_of_NATO_enlargement.svg), 国名とタイトルとをM Sakanoが加筆。(Licence: Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0 Unported)

◎ロシアによる侵略は言語道断。しかし蛮行を誘発した西側諸国の行動もまたあった。

2月24日、プーチン大統領率いるロシアが、隣国であるウクライナに対し、大規模かつ全方位的な軍事侵略を突如開始しました。欧州内においてある国が別の国をこれほどあからさまに軍事侵略するのは、第2次世界大戦以降初めての暴挙です。

「『強い国家』だけが危機を生き残る力を持つ」と公言する[1]プーチン大統領と政権による外国への積極的軍事介入は、枚挙に遑がありません。なかでもシリアでは、アサド政権と協同して過去7年間、今に至るまで各地で大虐殺を繰り返しています。シリア最大の都市アレッポを、病院を含めて灰燼に帰したのは特に有名です。ウクライナへの軍事介入も今回が初めてでは全くありません。2014年にはウクライナ領クリミアを軍事制圧してロシアへの併合を宣言し、同じく2014年以来現在に至るまでウクライナ領ドネツィク州(ロシア語読みドネツク)に軍事介入しています。乗客・乗組員298人が全員死亡したマレーシア航空17便撃墜事件もこの時に起きました。しかし、「(西側諸国が干渉するならば)ロシアは直ちに反応し、その結果は歴史上誰も見たことがないものになるだろう」[2]とあからさまに脅しをかけながら、独立国一国全体を軍事制圧しようとする今回の侵略行動は、それらとも一線を画するものと言えるでしょう。

今回、プーチン大統領は、恐ろしいことに、国際社会による「違法な経済封鎖に対抗する」として、核兵器部隊に臨戦態勢に入ることを命じました。クリミア併合にせよ今回のウクライナ侵略にせよ、国際常識的には「まさか本気ではあるまい」と考えられたことを実際に実行に移してきた同氏のこと、この行動が単なる脅しとは言い切れない恐怖があります。実際、プーチン大統領は、「ロシアがないならば、地球が存在する必要なんてない」という内容のことを過去繰り返し発言しています[3]。あるいは、ロシア軍による2017年の大規模演習では、プーチン大統領自身が4発の弾道ミサイルの発射命令をすべて発した、と伝えられていることからも、核使用を現実的選択肢と見做している恐れがあります[1]。

米国および西側も、強面のプーチン政権に対抗する形で、近年、核の軍拡に舵を切っています。たとえば、米国は中距離核戦力全廃条約(INF条約)から2019年8月に脱退しました。そもそも、米国と西欧を中心とするNATO(北大西洋条約機構)が、この四半世紀にわたり東欧諸国を取り込んでいて、ロシアから見るとこれは明らかな軍事的脅威です。地政学的に「緩衝国」であったウクライナのNATO編入への危機感が今回、ロシアが攻勢(ひいては侵攻)をかける引き金になったという指摘には説得力があります[4]。(参考までに、「緩衝国」の政治的に難しい外交政策について、フィンランドについてまとめたスレッド[5]が興味深いです。)

以下、米国発の草の根の非暴力反戦市民組織であるCODEPINK(コードピンク)によるプレスリリースを邦訳します。CODEPINKは、2002年、(TUPに似て)米国によるイラク戦争を阻止するために、女性を中心として結成されました--名前(ピンク色)の由来でしょう(なお、今は性別を問いません)。この声明も、主に米国に呼びかける形になっています。プーチン政権のウクライナ侵略が非道であり、最大限の非難に値することは言を俟ちません。しかし、米国(と西側諸国)にもまたできること、すべきだったし今すべきことはある、という内容です。人類生存をかけた気候変動問題に英知を結集して立ち向かうべき現在、一刻も早く軍事衝突を解決し今後の道標を示す理性的な呼びかけだと考えます[筆者後記(2022-03-02): CODEPINKのウェブサイトの説明によれば、当時のブッシュ政権がテロ警報に黄色や赤色で色付けしていたこと(参考: TUP速報349号、レベッカ・ソルニット著)に対するアンチテーゼとして平和を願ってピンク色を含む名前にした、ということです]。

なお、コードピンクによるこの声明の題名は、実は、英国最大の反戦市民同盟であるStop the War Coalitionが今週末(2022年3月6日)にロンドンで企画している大規模デモの題目そのものでもあります(イベントのウェブサイト)。同デモは、「世界連帯行動」と銘打たれています。憶測ですが、コードピンクのこの声明もその世界連帯行動の一貫かも知れません。

(前書き・翻訳: 坂野正明/TUP)


参考文献



  1. 現代ロシアの軍事戦略』 (小泉悠著、筑摩書房、2021-05-06刊行)

  2. Can anyone in Russia stop Putin now?』 (Angus Roxburgh、The Guardian、2022-02-25)

  3. Ukraine invasion: Would Putin press the nuclear button?』 (Steve Rosenberg、BBC、2022-02-28)

  4. なぜウクライナで欧米とロシアが対立? 経緯や今後は…知っておきたい基礎知識5選』 (六辻彰二、Yahoo! Japan、2022-01-31(ウクライナ侵略の3週間前発表))

  5. Twitterスレッド: ウクライナ情勢を理解するためにフィンランドほど適切な例はない』 (よしログ(@yoshilog, 山本芳幸)、Twitter投稿のまとめスレッド、2022-02-25)


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TUP速報1022号 アナンド・ゴパル『もう一方のアフガン女性たち』抄

(2021年09月27日)

Women in Afghanistan.
◎アフガニスタンの地方の庶民女性の目には戦乱の過去40年はどう映るか

ジャーナリストのアナンド・ゴパル[*]が、米国『ザ・ニューヨーカー』誌で9月6日に以下の長文記事を発表しました。

『もう一方のアフガン女性たち–地方では市民の殺戮が止むことなく、それゆえに女たちは、支援を謳う占領者を嫌う』

これは、アフガニスタンの地方(具体的には南部の山岳地帯)に住むパシュトゥーン人の女性の目を通じて、過去30年あまりのアフガニスタンを記述する調査報道記事です。記事構成の主題となるのは、農村に住む老若数十人のアフガニスタン人の女性へのインタビューです。これらの証言をそのまま報ずるだけでなく、アフガニスタン現地の公式死亡証明書や米国の公文書公開制度を使って開示請求した資料や、政府および現地関係者へのインタビューも組み合わせて、丁寧に裏を取っている様子も伺えます。

著者のゴパルは、ターリバーン統治下のアフガニスタンを取材した数少ない欧米ジャーナリストの一人です。2015年の著作『No Good Men Among the Living: America, the Taliban and the War Through Afghan Eyes (善人はみな死んでしまった–アフガニスタン人の目から見たアメリカ、ターリバーン、そして戦争)』は、ピューリッツァー賞の最終選考に残ったほど高い評価を受けています。

日本も含めた西側諸国に伝わるアフガニスタンの情報の大半は、都市部が情報源と言っていいでしょう。国連や外国駐留軍などの機関は基本的に都市部にあり、ジャーナリストが地方に旅して取材するのも容易でありません。そもそも地方は交通の便が悪く、インフラも未整備、外国人には文化的な壁もあれば言語も不自由で、そして何よりアフガニスタンでは一貫して政情不安がありました。反政府・反外国駐留軍ゲリラがずっと活動していた以上、取材に出かけるジャーナリストには相応の危険があったことは想像に難くありません。

しかし、アフガニスタンでは、都市部に住むのは人口の3割未満です。都市部以外の地域、端的には農村地方を語らずして、アフガニスタンの実情は見えてこないことは疑いありません。ターリバーン以前の内戦下、90年代後半以降のターリバーン統治下、そして2001年以降の外国占領軍の下で、過去40年間、アフガニスタン農村部がどれほどの暴虐にさらされてきたか。そしてそのような地方住民の目にターリバーンはどのように映っているのか。

主流メディアで採り上げられることの少ない側面を掘り下げた、ゴパルの貴重な報告の一部を紹介します。

なお、本稿では、ジャーナリストの春日孝之(元毎日新聞イスラマバード支局長)によるこの9月のアフガニスタンについてのオンライン講座で学んだ内容を随所に引用します(以下で、「春日によれば」などと表現している箇所です)。

(執筆: 坂野正明/TUP (文中では時に「筆者」))

凡例: 本文中に登場する訳文の中では[ ]は訳注を表す。

注[*]: 著者の名前の表記につき、米語の発音的には、「アナン・ゴーパル」のように聞こえることが多いのではと思われます。

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