TUP BULLETIN

速報486号 リバーベンドの日記 4月3日 アメリカのメディア攻撃 050408

投稿日 2005年4月8日

DATE: 2005年4月8日(金) 午後10時39分

私がほんとに見たいリアリティ・ショー


 戦火の中のバグダード、停電の合間をぬって書きつがれる24歳の 女性の日記『リバーベンド・ブログ』。イラクのふつうの人の暮らし、 女性としての思い・・・といっても、家宅捜索、爆撃、爆発、誘拐、 検問が日常、女性は外を出ることもできず、職はなくガソリンの行列 と水汲みにあけくれる毎日。「イラクのアンネ」として世界中で読ま れています。すぐ傍らに、リバーベンドの笑い、怒り、涙、ため息が 感じられるようなこの日記、ぜひ読んでください。(この記事は、T UPとリバーベンド・プロジェクトの連携によるものです)。 (転載転送大歓迎です)

(TUP/リバーベンド・プロジェクト:池田真里) http://www.geocities.jp/riverbendblog/


2005年4月3日 日曜日

アメリカのメディア攻撃

朝、目が覚める。歯を磨く。眠気を目から洗い落としてキッチンに向か う。コーヒーか紅茶を一杯に、朝ご飯を何か。ふらりと居間に入って、リ モコンを探す。いつもの場所にあった。どういうわけか決まってソファー のクッションの間にはさまってる。テレビをつけ、立ったままチャンネル を回して、眠っていた6時間の出来事を要約してくれる短いニュースか何 かを探す。最後に、画面に収まったさわやかな顔におちつく。豊かな髪、 はなやかなパワースーツ、歯の装いも忘れず、色鮮やかな爪で、穏やかに ニュースを読んでいる。このアンカーはジュリー・チャン。CBSの「ア ーリー・ショー」(The Early Show)が、何とニューヨーク五番街から生放 送されている!

この番組を見ているのはどこの国の人か当ててみて。3回まで答えてい いわ。アメリカ人? いいえ。カナダ人? いいえ。イギリス人? 日本 人? オーストラリア人? ぜーんぶ、間違い。答はイラク人。でなけれ ばヨルダン人、レバノン人、またはシリア人、サウジアラビア人、クウェ ート人、それでなければ…でも、分かるでしょう。

2年前、イラクの戦争の大半はスマート爆弾やハイテク・ミサイルで爆 撃されることだった。今は違う種類の戦争になった。むしろ同じ戦争の別 の面に過ぎないのかもしれない。今や私たちはアメリカのメディアからの 攻撃にさらされている。メディア攻勢は瞬く間にあらゆる場を席巻した。

まず、「ボイスオブアメリカ」(VOA)のように戦争前でも聞けたラ ジオ放送が布石になった。戦後は他のラジオ局が次々生まれた。例えば、 無機的な声で私たちに武器を置け、家に留まれ、と命じたラジオ局。イラ ク訛りでアメリカのニュースを送り込んだラジオ局。音楽だけを流すラジ オ局。その上衛星放送があって、私たちは絶えずアメリカの音楽を聴き、 アメリカのホームコメディや映画を見ている。公平を期そう。標的はイラ クだけではない。アラブ諸国全体がねらい打ちされている。しかも、すべ て巧妙に仕組まれている。

「アル・フラ」(Al-Hurra)は自由を標榜するテレビ局で、アメリカが アラブ世界にプレゼントしたもの。何をしているかというと、歴史的出来 事に関するドキュメンタリー(アメリカのドキュメンタリー)や映画スタ ー(アメリカの映画スター)、リゾートスポットのドキュメンタリーを翻 訳して私たちに見せてくれる。いたるところでアラブ人アンカーがニュー スを伝える。(まるで「フォックスニュース」をアラビア語で見ているよ うな気分。)アラブ世界についてアメリカの偏向を加えて報道するのがこ のニュースだ。

イラクの新「国営」放送各局はお笑いぐさにほかならない。最高の傑作 は–ぞっとするという意味よ–アル・イラキヤ(Al-Iraqiya)。アメリカ がスポンサーだと言われているけれど、その姿勢は紛れもなくイラン寄り、 反スンニ派だ。これ見よがしに「テロリスト」を映し出して、わが国の国 家警備隊が家宅捜索に有能なばかりか、街ゆく人々を苦しめる技も優れて いることを見せつけようとする。おかしなことに、テロリストは大方オマ ールやオサマンなどのような「スンニ」風の名前がついている。彼らはモ スクでセックスをしたことや女性を強姦したことを認める。吐き気のする ような話ばかりだ。でもイラク人は信じない。なぜなら、イラク人、スン ニ派、イスラム教狂信者は困りものだというアメリカの定義を補強するた めに制作されたことが明らかだから。心理作戦の工作員はもっと巧妙な手 が思いつかないのかしら?

MBC放送のコレクションもある。実体はサウジアラビア資本だけれど、 知るかぎりドバイに本社を置く。チャンネルがいくつかある。最初はまず アラビア語放送が主体のMBCで、十分に無害だった。トークショーや討 論番組、エジプト映画のほか、時には音楽番組やファッションものを流し た。

次にMBCのアル・アラビアが登場した。サウジアラビアがアルジャジ ーラの解毒剤にするつもりで新たに開設したチャンネルだ。私たちは並行 してMBCのチャンネル2も見ていた。これは英語による映画とテレビ番組だ けが流れる。番組の中身はさまざまで、「オプラ・ウィンフリー・ショー」 [訳注:全米のトークショーで過去18年視聴率トップ。オプラ・ウィン フリーは映画『カラーパープル』に出演]のようなトーク番組から「フレ ンズ」「サード・ロック・フロム・ザ・サン」「サインフェルド」のよう なコメディーまで幅広かった。今年になって、MBCは不可思議なことを した。チャンネル2を24時間放送の映画専門チャンネルにして、あらゆ る種類の映画–古くはクリント・イーストウッドのカウボーイもの、近作 では『ビューティフル・マインド』など–を提供する、と発表したのだ。 テレビ番組とコメディーは新設のMBCチャンネル4に移されるというこ とだった。

私も初めはこうした変化を歓迎した。映画の大ファンというわけでなし、 ひとつのチャンネルで好きなコメディーやテレビ番組がみな2時間の映画 に邪魔されずに見られると知って、すてきだと思った。いつでもチャンネ ル4を回せば、せいぜい30分から1時間で終わる番組で、興味をそそる ものやおもしろいものが見つかるわけだから。初めてMBCチャンネル4 で「60ミニッツ」を見たとき、何かおかしいという気はしなかった。テ ーマが何だったか思い出せない。でも、ぼんやりながら興味を持ったこと と、なぜ私たちが「60ミニッツ」を見ているのかとどこかにとまどいが あったことを覚えている。間もなく、夜に放送される「60ミニッツ」だ けの問題でないことに気づいた。朝の「グッドモーニング・アメリカ」、 夜の「20/20」「60ミニッツ」「48アワーズ」「インサイド・エ ディション」「アーリー・ショー」…アメリカのメディアが絶え間なく攻 撃を浴びせていたのだ。快活な声がアラビア語で言う。「さあ、あなたも 『みんな』の見る番組が見られますよ!」。「みんな」というのは、明ら かに無数のアメリカ人を指している。

MBCチャンネル4の番組表はこんな具合。

9:00am CBSイブニングニュース 9:30am CBSアーリー・ショー 10:45am ザ・デイズ・オブ・アワー・ライブズ(The Days of Our Lives) 11:20am ホイール・オブ・フォーチュン(Wheel of Fortune) 11:45am ジェパディ(Jeopardy)[訳注:クイズ番組] 12:05pm 夜の番組の再放送–20/20、インサイド・エディシ ョ ン、など

番組はまだまだ続く。

ここ何週かはこんな番組に魅了されていた。最大の衝撃は、ニュースが あまりにクリーンすぎるという事実だ。まるで病院食のよう。なにもかも 整理が行き届き、消毒されている。いちいち区分けされていて、分量に細 心の注意を払って配分された有様が感じ取れるほど。アフガニスタンの女 性の権利に2分間、イラク軍の訓練に1分間、なんとテリー・シャイボさ ん[訳注:植物状態だった女性で、尊厳死をめぐり論議を呼んだ]に20 分。報道はどれも軽快で楽しげだ。アンカーはそれ相応に関心ありげな顔 をしているが、その実まったく気にも留めていない。

1カ月ほど前、私たちは「20/20」で、あるインタビューの供応を 受けた。インタビューされたのはサブリナ・ハーマン–アブグレイブの写 真の一部に登場した、あの魔女。例の人よ。顔のない裸のイラク人たちを 積み上げ、人間のピラミッドに仕立て上げて笑っていたわ。聞き手はエリ ザベス・バーガス。このインタビュー番組は吐き気を催すほど、何から何 まで不快だった。サブリナは潔白で、軍の規律に縛られ、上官への怖れで がんじがらめになっていた–これが、あの人たちが描こうとしていた姿。 番組は、米軍兵士がジュネーブ条約(人道教育の必要性など)について一 度もまともに教育されなかった状況を何度となく繰り返し、かわいそうな サブリナがスケープゴートに仕立てられる過程に幾度も触れた。戦争前に サブリナが働いていたレストランを映し、誰もかれも彼女が蝿一匹殺せな いほど「やさしい人」だと思っている姿を見せつけた。

私たちはテレビを前に座っていた。別世界に属するような、別の銀河に いるかのような気がした。さまざまなウェブサイトから、私はいつも嗅ぎ とっていた。アメリカのニュースの主流が現実からはるかにかけ離れてい ることを。どれくらい離れているかがわからないだけだった。すべてが爪 を抜かれ、単純にされる。誰もが誠実この上ない。

それに私は、リアリティーショーがなぜこれほど世の中に受けるのかわ からない。「サバイバー(Survivor)」「マーダー・イン・スモールタウ ンX(Murder in Small Town X)」「フェイキング・イット(Faking It) 」「ザ・コンテンダー(The Contender)」…きりがない。生活に飽き飽き したあまり、他人の生活が一変するさまを見なければやっていけないとい うの?

リアリティーショーについては私なりにアイディアがある。ブッシュ支 持者を15人選んで、例えばファルージャ郊外の家に最低14日間放り込 むの。そうしたら私たち視聴者は、水の問題や電気不足、検問所、家宅捜 索、イラク国家警備隊、爆撃、それに「反政府集団」に彼らが対処する有 様が目の当たりにできるというわけ。彼らの家がこなごなに爆破されると ころも、なけなしの財産がすべてコンクリートやレンガでぺちゃんこにな ったり、燃えてしまったり、弾丸で蜂の巣にされたりするところも見られ る。まっさらから(ただし150ドル相当の資金をもらって)暮らしをや り直すところも見られる…。

「こんな」リアリティショーなら見るだけじゃあない。毎回欠かさずビ デオに取るわ。

午前1時08分 リバー

(翻訳:リバーベンド・プロジェクト/岩崎久美子)