TUP BULLETIN

速報54号 03年4月15日 マイケル・ムーアからのメッセージ

投稿日 2003年4月15日

DATE: 2003年4月15日(火) 午後4時18分


今年度アカデミー賞で最優秀ドキュメンタリー賞を獲得 したマイケル・ムーア監督。オスカーの壇上でも痛快なブッ シュ批判を講じた彼からのメッセージ。善良なアメリカ 国民よ。今こそ声をそろえて平和を訴えるべきだ、と。

(TUP翻訳メンバー:中西 仁美)

中西さんとの共同作業中、是非とも”Bowling” を観賞した くなったが、小生は映画館もない山奥の住民……いつになっ たら、ビデオ・レンタルにリリースされることやら…… それも、「6泊7日」OKまで待たないと……ハーァ^_^;

(TUP翻訳メンバー: 井上 利男)


マイケル・ムーアからのメッセージ

2003年4月7日 私のオスカーの『しっぺ返し』――『アホでマヌケなアメリカ人』がベストセラー1 位に返り咲き、『ボウリング』は新記録を達成

友人諸君、

この2、3日中にブッシュ政権はイラク植民地化の達成には成功するだろう。これこ そ、途方もない大間違いであり、そのために、これから何年間にもわたって、我々は その代償を支払い続けることになる。こんなことは、亡くなった何千ものイラク人は 言うまでもなく、アメリカの軍服を着た餓鬼たった1人の生命にも引き合わず、私と しては、この人たちすべてを哀悼し、祈りたい。

さあ、今度の戦争の口実になった大量破壊兵器はいったいどこにある? ハッ! ここ で言いたいことは山ほどあるが、後の楽しみにとっておく。

たった今、もっとも気になるのは、あなたがた、しょっぱなからこの戦争を支持しな かった大多数のアメリカ市民が、軍事的大勝利の大宣伝を目の当たりにして、沈黙し たり、怖じ気づいたりはしないだろうかということだ。今こそ、これまでにも増し て、平和と真実の声が聞こえていなければならない。私は心底から絶望した人々から のメールをどっさり受け取り、彼らの声は嘘っぱちの愛国心の鳴り物と爆撃音でかき 消されてしまったと信じる。平和主義を明言してしまったことで、職場、学校、町内 でしっぺ返しを受けるのではないかと怖れる人々もいる。いったん戦時ともなれば、 抗議は『妥当』ではなく、『兵を支持する』ことこそが務めだと耳に蛸ができるほど 聞かされた。

2週間前のオスカー授賞式ステージでブッシュとこの戦争でを批判する演説をぶって 以来、私の状況がどんなものだったか、あなた方に分かち合いたい。私の説法が、討 論でもなんでも、あらゆる機会を捉え、あなた方が声を挙げる励ましになることを望 む。アカデミー賞ドキュメンタリー部門の最優秀作品が『ボウリング・フォー・コロ ンバイン』と発表された時、観衆は総立ちになった。偉大な瞬間だった。私はいつま でも忘れないだろう。我々アメリカ人は希に見る暴力的な国民であり、大量に隠し 持った銃で、互いに殺し合い、世界中の多くの国々に突きつけていると告発する映画 に、総立ちで歓呼したのだ。ジョージ・W・ブッシュが架空の恐怖で国民を脅し、思 うがままに野心を達成させていると、暴露する映画に拍手喝采していたのだ。第一次 湾岸戦争はクウェートの独裁者の返り咲きを図った企みであり、サダム・フセインは アメリカが供与した武器で武装し、アメリカ政府は、制裁と爆撃により、これまでの 10年間で、イラクの子どもたち50万人の死に対して責任があることを申し立てる 映画に支持を表明したのだ。そういう映画に彼らは歓声を上げ、投票したのであり、 私はスピーチで是非とも応えなければならないと意を決したのだ。

だから、オスカーの壇上から私は次のように発言した。

「私たちのプロデューサーであるキャサリン・グレン、(カナダの)ミカエル・ドノ ヴァンを代表し、私はアカデミーにこの受賞を感謝いたしたいと思います。ドキュメ ンタリー部門にノミネートされた他の方々にもこの壇上に一緒に上がっていただきま した。私たちはノンフィクションが好きなので、このステージで連帯しているので す。ノンフィクションを愛するのも、嘘偽りの時代に生きているからなのです。嘘偽 りの選挙結果による、嘘偽りの大統領を戴く時代に、私たちは生きているのです。 たった今、嘘偽りの理由により、嘘偽りの戦争を推進しているのです。ミスター・ ブッシュ、ダクトテープの作り話であれ、嘘偽りの『オレンジ警報』であれ、私たち はこの戦争に反対だ。恥を知れ。ミスター・ブッシュ、恥を知れ。ローマ教皇も、 ディキシー・チックスも反対した今となっては、あんたはもうお終いだ」

私の発言の半ばから、観衆の中から歓声が上がった。バルコニーの連中がすぐさま対 抗して、ブーイングを始めた。すると、私の支持者たちが大喚声でブーイングを黙ら せた。ロサンジェルス・タイムスの報道では、私の言葉を遮るために、ステージ監督 が「音楽! 音楽!」とバンドに叫び、恭しい演奏が始まり、私の発言時間は なくなった。(私の発言主旨について、ロサンジェルス・タイムスへの私の投稿記事で もっと詳しく読めるし、私のウェブサイトにアメリカ中からの反響を掲載している)

翌日に始まる2週間、右翼有識者たち、ラジオのお下劣系ディスクジョッキーたちが 私の首を狩ろうと躍起になっている。私がこんなゴタゴタで傷ついただろうか? 私 を『黙らせる』ことができただろうか?

では、私のオスカーの『しっぺ返し』を観てみよう。

――私がアカデミー授賞式でブッシュと戦争を批判した日の翌日、 (BoxOfficeMojo.comサイトのDaily Varietyによれば)『ボウリング・フォー・コロン バイン』上映館の観客全米動員数が110%アップ。続く週末、ボックス・オフィス 集計は桁外れの73%アップ(バラエティ部門)。今や全米最長ロングラン興行を記録 し、26週連続ランクイン、しかも大盛況だ。アカデミー賞この方、上映館数も『増 加』している。興行収入は、これまでのボックス・オフィス集計のドキュメンタリー 部門最高記録を300%近くの大差で塗り替えてしまった。

――昨日(4月6日)のニューヨークタイムズ紙ベストセラーリストで、『アホでマヌ ケなアメリカ人』が1位に返り咲いた。これでリスト入り50週目であり、うち8週 がナンバー・ワンだったことになる。トップへの返り咲きは4度目であり、これは前 代未聞のことだ。

――アカデミー受賞に続く週、私のホームページのヒット数は『1日』に1000万 から2000万(ある日など、ホワイトハウスのヒット数を凌駕!)。寄せられるメー ルは圧倒的に私を肯定し、支持してくれている(罵倒メールは実に滑稽!)。

――アカデミー賞に続く2日間、アマゾン・コム・オンライン書店ビデオ予約数で、 『ボウリング・フォー・コロンバイン』はオスカー最優秀作品賞『シカゴ』を上回っ た。

――この1週間で、私はドキュメンタリー映画次回作の製作資金を獲得し、テレビ作 品『テレビ王国TV Nation』『恐るべき真実The Awful Truth』アップデイト版製作の 機会提供を受けた。

我々が毎日のように聞かされているメッセージ――『その気になって、政治的な発言 でもすれば、後悔する。傷つくことになるが、たいがいは経済的に困る。職を失い、 雇ってくれなくなる。友人も失う。そんなことがどんどん続く』――こんな脅しに対 抗したいから、私は皆さんに上記のように告げるのだ。

ディキシー・チックスの話は皆さん既にご存知だと思うが、そのボーカルがブッシュ と同じテキサス出身だから恥ずかしいと発言をしたので、CD売り上げは『ガタ落 ち』、ラジオのカントリー専門局も曲を流すのをやめてしまったと言う。しかし実を 言えば、CD売り上げは『落ちていない』 攻撃に晒された後も、ディキシー・チッ クスのアルバムは今週のビルボード・チャート、カントリー部門で1位につけている し、エンターテインメント・ウィークリーも、この大騒ぎにもかかわらず、彼らの曲 はポップ・チャートで6位から4位に上昇したと報じている。フランク・リッチが ニューヨーク・タイムズで、ディキシー・チックスのライブステージのチケットを何 とか手に入れようとしたが、どのステージも完売だったと書いている。(昨日の ニューヨーク・タイムズ紙のリッチ記者のコラム『ボウリング・フォア・ケネバンク ポート』を読むには、ここをクリック。リッチ記者はこの件について実に適切に解説 し、私の次回作と、その潜在的な影響力についても書いてくれている)ディキシー・ チックスの『トラベリン・ソルジャー』(美しい反戦バラード)は先週のインター ネット・リクエストで1位になった。彼女たちは実はなにも傷ついてなんかいないんだ

――しかし、メディアが視聴者に信じさせたいのはこんな事実ではない。何故か? 今、異議の声、それに疑問の声を『沈黙』させることよりも重要な事はないんだ。嘘 偽りで塗り固めて、わずかの情報通の芸能人を押さえ込めさえすれば、平均的アメリ カ人に「わぁ、ディキシー・チックスやマイケル・ムーアがあんな仕打ちを受けるん だったら、取るに足らない自分だったら、きっとひどい目に遭うだろう」と思わせる ような、明確で声高なメッセージを届けることができる。言い換えれば、『黙ってろ !』なのだ。

友人諸君! まさしくこれこそ、私がオスカーを獲得した映画の要点なのだ――すな わち、廻し者たちはいかにして『恐怖心』をかきたて、大衆を言うなりに操っている か。

さて、こんな週にも良いニュースがあったとして、グッド・ニュースは、私も、他の 人たちも沈黙などしていなかっただけではなく、同じ考えを分かち合っている何百万 人ものアメリカ国民と結ばれていたという事実だ。いんちき愛国者たちが政治日程と ディベート用語で煙に巻こうとしても、脅されることはない。戦争支持率70%とい う世論調査にくじけてはならない。調査対象になったのは、自分の(または近所の)子 供がイラクの戦地に行かされた人々だということを忘れないで欲しい。人々は兵を心 配し、望んでもいない戦争を支持するように囲い込まれたのだ。人々は友人、家族、 隣人の無言の帰宅を怖れている。皆、兵士たちが生きて帰還することを望んでいる し、私たち皆、この人たちに手を差し延べ、知るべき事を知っていただかなければな らない。

残念なことに、ブッシュ一族はこれでも満足しない。この侵略と征服に味をしめて、 彼らはどこでも同じことをするだろう。この戦争の真の目的は『テキサスの邪魔をす るな。お前の物は、我が物!』と全世界に宣言することだった。 今は、平和と共にあるアメリカを信じる我々、多数派が黙っている時ではない。 声を大にしよう。連中が骨抜きしようとも、それでも、ここは我々の国なのだから。

諸君と共に、 マイケル・ムーア

(翻訳:井上利男・中西仁美/TUP)

参照サイト http://www.latimes.com/ *ロスアンゼルス・タイムズは1週間で記事が削除されるようです。