TUP BULLETIN

速報760号 生き残りを賭けて石油を奪うアメリカ

投稿日 2008年5月6日

FROM: tup_bulletin
DATE: 2008年5月6日(火) 午後7時21分

「イランは心配いらん」だといいが・・・ ************************************

TUP エッセイ 著=パンタ笛吹

2008年5月2日

先日、イラン旅行で知り合ったイラン人から、小さな写真集が送られてきた。各 ページに美しいモスクやそこに暮らす人びとの様子が鮮やかに映し出されている。 しばし印象深かった旅の思い出にひたった。

ところがこの数日間、イランについてのキナ臭い報道が立て続けに流され、まる でイラク戦争前のデジャヴュを見ているような気にさえなってきた。イラン旅行 中に「もし米軍の空爆が始まったら、怖くはないのですか?」と現地の人びとに 聞いたとき、日本語をうまく話せるイラン人が駄ジャレのつもりか「イランは心 配いらん」と笑いながら答えてくれた。でもいま、わたしは内心で心配になって いる。

ペルシャ湾には現在、2組目の米航空母艦攻撃グループが向かっている。「空母 ハリー・S・トルーマンと空母エイブラハム・リンカーンの2隻も配備するのは エスカレーションではないのか?」との記者の質問に、ロバート・ゲイツ米国防 長官は、「2隻が配備されるのは一時的なもので、エスカレーションだとは思わ ない。しかし、湾岸の利益を守るという米軍の決意をイランに思い出させる役目 は果たすだろう」と答えたと、昨日(5月1日)の英ガーディアン紙は報じた。

先月には、レバノン沖に2隻の米海軍戦艦が配備された。米ニュース&ワールド によると、「米国はイランへの軍事行動が開始されたときに備えて、地中海東岸 にも戦艦を配備したかった」ということだ。

5年前、イラク侵攻が始まったとき、開戦の動機がいくつか論議された。そのひ とつがドルの防衛である。「サダム・フセインが石油の輸出をドル建てからユー ロ建てに替えたので、基軸通貨であるドルを守るためにイラクに攻め込んだ」と いう説を主張する専門家が少なからずいた。

奇しくもゲイツ発言の一日前、イラン石油省の高官がイラン国営放送テレビを通 じて、「米ドルはわが国の石油取引から完全に排除されることになった。原油輸 入国はこれから、ヨーロッパではユーロ建てで、アジアでは日本円建てで取引す ることに合意した」と発表した。イランによるこの決定で、基軸通貨として米ド ルが築いてきた地位は、足場の一角を崩されたわけだ。

ブッシュ政権はこの数週間、イランによる脅威をことさらに強調する発言を繰り 返している。軍事作戦も辞さないという勢いだ。マレン米統合参謀本部長は、4 月25日の記者会見で、「イラン政府やその精鋭部隊の策動をきわめて憂慮して いる。イラクの民兵組織への武器供与や訓練を拡大しているからだ。われわれは、 イランに対しての軍事行動の計画をすでにいくつも立てている。もしイランが、 『米軍はイラクとアフガニスタンで、にっちもさっちもいかなくなっている』と 考えているのなら、それは間違いだ。わが軍、特に海軍と空軍は、もう一つの戦 場で他国を爆撃する能力を温存している」とイラン攻撃の可能性を示唆した。

また、その前々日の23日には、イラク駐留米軍のペトレイアス司令官が米中央 軍の新司令官に任命されたと発表された。前任のファロン司令官は、「わたしの 目の黒いうちは、絶対にイラン爆撃などさせない」とイランへの軍事行動反対の 最先鋒だったので解任されたといわれている。ペトレイアス新司令官は先月の上 下院公聴会でも「イランがイラクの民兵組織を通じて多くの米兵を殺している」 と発言したほどのタカ派だ。「ペトレイアス新司令官の任命で、イラン攻撃のお 膳立てはそろった」との論評も新聞に掲載された。

チェイニー副大統領による3月の中東各国歴訪も、イラン攻撃への準備のためと 受け取られている。実際、ABCニュースのレポーターがトルコ訪問中のチェイニー に、「中東諸国の人びとは、あなたがこの地域に来るということは、何か軍事行 動の根回しのためだと思っていますが?」と質問すると、副大統領は、「そう、 実際にはそれが重要な目的だ。イランの核装備を許したら、この地域は不安定極 まりなくなるからね」と答えたという。

チェイニーがサウジアラビアを訪れると、翌日サウジ政府は、「イランのブーシ ェル原子炉が攻撃された場合を想定して、突然ふりかかる放射能汚染に対応する 国を挙げての対策」を発表した。

また、元国連主任兵器査察官のスコット・リッターは、「ペンタゴンは、地下深 部まで貫通するバンカーバスター爆弾や、それらを搭載できる爆撃機の追加を要 請していたが、4月中にはすべての配備が完了するだろう」と語っていた。イラ ンではもうすぐモンスーン(季節風)のシーズンが始まる。もしモンスーンの到 来とともに爆撃が始まれば、放射能を含んだ灰は季節風に乗ってさらに東の国々 (アフガニスタン・パキスタン・インド)にまで広がるという。

ブッシュ大統領はといえば、確たる証拠もないのに、イランがおよぼす脅威が、 アルカイダと同じくらい危ないと、両方をいっしょくたにして、くりかえし訴え ている。こうしてまた、米国人の意識の中で、イランとアルカイダが共通の敵と して溶け合うようにしむけていると思われる。

大統領は4月10日の演説で、「イラクには、アルカイダの存在から、イランに よる破壊的な影響まで、深刻で複雑な問題が残っている。今世紀、アメリカにと って最も脅威となる二つの勢力が、いまイラクに集結している。それはアルカイ ダとイランだ。もしわれわれが、アルカイダとイランがイラクに仕掛けた謀略を 粉砕できるなら、それは世界のテロリスト運動に対して歴史的な一撃になとなり、 イランにとってはきびしい敗北となるだろう」と訴えた。

アルカイダ・イラン、アルカイダ・イラン、アルカイダ・イランとお経のように 繰り返すのは、イラク戦争前のアルカイダ・フセイン、アルカイダ・フセインの くり返しを思い起こさせる。またブッシュ大統領は同じ演説で、イランに向かっ てこう警告した。

「テヘランのイラン政府は、次の二つの道からひとつを選ばなくてはならない。 その選択とは、隣国と平和に共存し、強固な経済的、文化的かつ宗教的なつなが りを享受するか、あるいは、イラクの違法な民兵組織に武器や軍事訓練や資金を 供給し続けて、イラク国民を恐怖におとしいれ、イランに敵対させるか。そのど ちらかだ。もしイランが正しい道を選ぶなら、米国はイランとイラクの平和関係 の醸成に手を貸すだろう。しかし、もしイランが間違った選択をするなら、われ われは米兵やアメリカの国益やイラクの友人を守るために行動に出るだろう」

プログレッシブ誌のマシュー・ロスチャイルド編集長は、この演説を聴いて、こ う解説している。

「この『米国は行動に出るだろう』という言葉により、ブッシュ大統領は『イラ ン爆撃にゴーサインを送る』という意向を、やけにはっきりと表明している。

「わたしたちは、『イラクで米軍が泥沼にはまっているなかで、いくらなんでも イランにまで戦争を広げるほど、ブッシュはばかではないだろう』と自分に言い 聞かせ続けることはできるだろう。しかし、『ばかさかげん』は今までいちども ブッシュの愚行を止まらせたことはない。

「だから、大統領の発言を、おろそかにしてはならない。ブッシュ政権は、テヘ ランのイラン政府に通告をしただけではない。米国会や米国民にも予告を発した のだ。この大統領は、またもうひとつ違法な戦争を計画している。そしてわたし たちは、非暴力なあらゆる手段を使って、なんとしてでも大統領の暴走を止めな くてはならない」

・・・では、大統領候補になろうとしている政治家たちは、イランに対してどん な態度を取っているのだろうか? 民主党のオバマ候補は「もしイランがイスラ エルを攻撃したら、それに対応する適切な作戦行動をとる」と、まだ穏やかな方 だ。しかしヒラリー・クリントン候補は、「自分が大統領になって、イスラエル が核攻撃を受けたら、イランを完全に抹消する」とテレビインタビューで答えた。 この「完全に抹消する」(Obliterate)という英単語が使われるのは極めてまれ で、わたしが知っている限りでは、以前、広島や長崎の原爆投下を表現する英文 で見たきりだった。「市民・女性・老人・子供・赤ちゃんまで、すべてを完全に 抹消する」ことを意味するこの単語には、背筋が凍るような響きを感じた。

イランのアフマディネジャド大統領が2005年10月に、「イスラエルは地図 から抹消されるべきだ」と演説したことは許される表現なのかという疑問が浮か ぶだろう。しかし中東政治の専門家であるホワン・コール教授や、ペルシャ語に 詳しい学者たちは、あれは西欧のメディアがアフメディネジャド大統領の発言を 「誤訳」したのであって、実際には大統領はアヤトラ・コメイニ師の昔の発言を 引用して、「イスラエルの現政権は時代とともに消え去るだろう」と言ったにす ぎないという。

フセイン政権が消えても、イラクが地図上から消えるわけではない。「別の政権 に取って代わられるだろう」という意味の発言が「地図から抹消」に誤訳され、 それがいまでも何かあるたびにイランを責め立てる絶好のネタとして使われてい る。それが国際政治の現状だ。

では共和党のマケイン候補はというと、「マックチェイニー」とニックネームを 付けられるほど、ブッシュ政権と同じくらいタカ派だ。昨年4月に、YouTube を 通じて話題になった替え歌をご存知の読者もいると思う。マケイン候補は講演の あとに、「イランについてどうしたらいいと思うか?」と質問を受け、マイクを 持って、ビーチボーイズの歌のリズムに乗って、「ボムボムボム、ボム・イラン」 (イランをボンボン爆撃しろ)と替え歌を歌った。イランをめぐる差しせまった 状況を考えると、あの替え歌がただの冗談だったではすまされない。

今からほぼ10年前、チェイニー副大統領がまだ石油関連企業ハリバートンの最 高経営責任者だったころ、ロンドンの石油学会でこう演説した。

「この地球に埋もれている石油資源には限りがあり、原油産出のピークは 2010年くらいに訪れるだろう。そのピークの後は、石油が枯渇するのは時間 の問題だ。だから残った石油を誰がコントロールできるかによって、誰が生きの び誰が死ぬのかが決まってしまう。世界の石油の6割は中東のカンサス州ほどの 面積の三角地帯に埋蔵されている。だから、中東の三角地帯の石油資源を得る者 こそが、究極の賞品を手にすることになる」

この三角地帯とは、サウジ・イラク・クェート・アラブ首長国連邦・イランを結 ぶ三角形を指す。米国はすでにイラクを占領しているし、他の国々は親米政権な ので、例外はイランだけというわけだ。

ジャーナリストのジョー・ローリアは、来るべき戦争はイランが核武装すること を懸念して起きるのではなく、「石油が欲しいからよ、おばかさん」と説く。彼 女は、アメリカがイランを侵略する理由を次のように解説している。

「それは、もはや欲深いためではない。アメリカが生き延びるためだ。米国の指 導者は、もとはといえば欲深いために、石油にしがみつき、太陽光や風力や地熱 などを利用して発電する再生可能な代替エネルギーへの移行をしぶった。今とな ってはもう手遅れだ。

「何兆ドルというお金をイラク戦争やそれに続く占領に浪費してしまった。その お金を代替エネルギーの開発に使っていたら、まだ何とかなったかもしれなかっ たのに。もう先はどうなるか分からない。

「ただ確かに分かっていることがひとつだけある。それは今の戦争が民主主義の ためでも、大量破壊兵器のためでもなかったということ。そして次に起る戦争も、 イランの核兵器開発計画が原因ではない。イランの石油が欲しいからなの。わか った? おばかさん」

・・・という感じで書き綴ってくると、やはり「イランは心配いらん」ととぼけ るわけにもいかない気がする。かといって「空に向かって平和を祈る」ほかに、 自分にできることなど何もないことに気がつく。

「杞憂」という言葉がある。このエッセイこそただの杞憂であってほしいと、願 うばかりだ。

(参考資料)

Iran Deployment of aircraft carrier a US ‘reminder’ to Iran, says Gates By Julian Borger The Guardian May 1 2008 http://www.guardian.co.uk/world/2008/may/01/iran.usforeignpolicy

Iran dumps U.S. dollars in oil transactions CHINA View April 29 2008 http://news.xinhuanet.com/english/2008-04/30/content_8083804.htm

Petraeus Promotion Frees Cheney to Threaten Iran by Gareth Porter   IPS April 23 2008 http://www.ipsnews.net/news.asp?idnews=42101

Is an Attack on Iran Imminent? By Dan Hamburg Santa Monica Mirror May 1 2008 http://www.smmirror.com/MainPages/DisplayArticleDetails.asp?eid=7672

Bush Hypes Threat from Iran in Surge "Success" Speech by Mathew Rothschild The Progressive magazine April 11 2008 http://www.commondreams.org/archive/2008/04/11/8229/

Bomb Bomb Iran by Summer’s End? By Steve Weissman t r u t h o u t | Perspective April 29 2008 http://www.truthout.org/docs_2006/042908J.shtml

The Coming War with Iran: It’s About the Oil, Stupid BY JOE LAURIA Huffington Post April 13 2008 http://www.huffingtonpost.com/joe-lauria/the-coming-war-with-iran_b_96428.html

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