TUP BULLETIN

速報905号 海中の放射能汚染は、薄められてはいるが、無害からはほど遠い

投稿日 2011年4月22日

地球全体の生態系に影響を及ぼす放射能汚染水海洋投棄

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海洋の放射能汚染の影響を憂う寿司シェフ、コロラド州ボルダー市在住のパンタ笛吹氏から届けられた第三弾。(宮前ゆかり/TUP)



先日、コロラド州ボルダー市の新聞に、あまりありがたくない風刺マンガが掲載された。アメリカ人が苦々しい表情で巻き寿司を食べているのだが、そのネタが核のシンボルマークだったのだ。



魚の卸業者と話す機会があったが、「いやあ原発事故以来、日本から輸入する魚の放射線量をいちいち調べられているんでたいへんですよ。コロラドの寿司屋はどこも売り上げがガタ減りだしねえ」とこぼしていた。



今日(4月16日)ネットでmsn産経ニュースをあけたら、「福島原発、1500億ベクレル放出も海影響なし」という見出しが躍っていた。記事を読むと、 「東電では『付近の水産物を1年間、毎日食べ続けても、自然界から受ける年間放射線量の4分の1にとどまる』としている」と書いてあった。



厚労省は4月5日、それまで定めていなかった魚介類の暫定規制値を、放射性ヨウ素131の場合、1kgあたり2000ベクレルと規定した。このベクレルと いう値を別の単位ピコキュリーに換算すると、1ベクレル(Bq)=27ピコキュリー(pCi)なので、2000ベクレルは、54000ピコキュリーとな る。



米国環境保護庁(EPA)は、安全飲料水法で、飲み水の最高汚染基準値を、ヨウ素131の場合は1リットルあたり3ピコキュリーと規定している。



飲み水と魚を一概には比べられないが、日本の魚の規制値が、米国の水道水の汚染基準値の18000倍というのは、度を超しているような気がする。



翻訳・前書き:パンタ笛吹



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海中の放射能汚染は、薄められてはいるが、無害からはほど遠い(抄訳)
エリザベス・グロスマン
エール大学「環境360」掲載 2011年4月7日(木曜)

日本の福島原発事故で排出された汚染水が太平洋に流出し続ける中、科学者たちは放射性物質が海洋生物に与える影響を心配している。海が放射線を薄める能力は非常に大きいが、放射性元素は海中で広まり、すでに地元の水産物を汚染している。

過去半世紀にわたって世界中で、放射性物質を海洋投棄したり海に放出したりする事件が後を絶たなかった。英国核燃料会社(BNFL)は、放射性廃棄物を繰り返しアイリッシュ海に放出したし、フランスの核再処理施設も同様の核廃棄物をイギリス海峡に放出した。また旧ソ連は、数十年にわたって大量の放射性物質を北極海やカラ海、バレンツ海に投棄し続けてきた。
 
それらの放射性物質には、少なくとも16隻の原子力潜水艦や原子力砕氷船の原子炉と、ソ連軍基地や核兵器製造施設から放出される大量の液体および固形放射性廃棄物が含まれていた。

それでも、いま東日本の沿岸でくり広げられている事故は、未だかつて世界中の誰もが経験したことのない大惨事だ。事故を起こした福島第一原子力発電所は何千トンという放射能汚染水を海に直接垂れ流している。
 
海は広大なので、核汚染を薄める力は大きいが、放射性物質が日本近海に広がった兆候はすでに現れている。東日本の沖合25マイル(40キロ)の海水から高濃度の放射能が計測されたし、福島原発の数十キロ南で採取された小魚からは、格段に高い濃度の放射性セシウムや放射性ヨウ素が検出された。

このような放射能汚染が続いたとして、海洋生物、または人間がどのような影響をこうむるかは、まだはっきりと分かっていない。しかし科学者たちは、日本政府や米国政府、そして太平洋を囲む他の国々が、海中の放射能汚染がどれほどの濃度を保ちながら、どれくらい遠くまで広がるのかを徹底的に調査する必要がある、という趣旨で合意している。

マサチューセッツ州にあるウッズホール海洋研究所の海洋化学研究主幹のケン・ブッセラー博士はこう語る。「福島原発が海岸沿いに立地し、放射性汚染水を海に直接放出していることを考えれば、その海洋汚染への影響はチェルノブイリの比ではないでしょう。チェルノブイリは内陸部に位置し、どこの海からも何百マイルも離れていますからね。
 
私が最も心配しているのは、情報が得られないことです。私たちは未だに、どのような放射性化合物が海に放出されたのかも、その拡散分布状態も知らないのですからね。日本からいくつかの海洋地点での検査結果を得ていますが、それらはすべて沿岸部だけでのデータです。汚染水流出の総合的な影響を理解しようとするなら、水産物も含めて、広範囲における科学的調査が必要なんです」

ブッセラー博士や他の専門家たちが、ここまでは確かだと口を揃える見解がある。それは、ヨウ素131 などの半減期の短い放射性元素や、半減期が30年のセシウム137 などの長期にわたって放射線を出し続ける物質の両方とも、植物プランクトンや動物プランクトン、それに昆布や他の海洋生物により吸収され、またそれらを捕食する魚から海洋哺乳類、人間へと、放射線物質が食物連鎖の上部にある生き物に取り込まれていくという説だ。
 
福島原発の土壌で検出されたプルトニウムを含む他の放射性元素もまた、海洋生物にとって脅威となる。ここで鍵となる問題は、それらの放射能汚染が、どれくらいのレベルまで濃縮されているかということだ。日本政府は、放射性汚染水の海への流出を食い止めることができるまでは、東北地方の一部沿岸での漁を一時的に禁止することで、国民の健康被害を十分に回避できると望んでいる。

しかし蛇口はいまだに締まらぬまま、汚染水は流れ続けている。3月11日に起きた地震と津波により福島第一原発が損傷して以来、高温にヒートアップした4機の原子炉を冷却するために、すでに大量の水が注ぎ込まれてきた。
 
福島原発では、何千トンという放射性の汚染水を太平洋に放出する作業が続けられた。深刻な被害を受けた原子炉2号機から海に漏れ出ていた高濃度の放射性物質を含む汚染水は、今週になってやっと止めることができた。しかし、原子炉の炉心を冷却するために注がれた水は、今でも継続的に海に流出している。それに付け加えて、原発周辺の風はほとんど海に向かって吹いているので、大気中に放出された放射性物質が風に運ばれ太平洋上で降下し、海洋をさらに汚染している。

東京電力は、福島原発近くの海中から、法的基準値の500万倍の濃度の放射性ヨウ素131が検出されたと公表した。また日本の公共放送NHKによると、近ごろ採取した海水からは、基準値の110万倍の放射性セシウム137が計測されたという。

これまで、アイリッシュ海、カラ海、バレンツ海、そして太平洋に放出されてきた核物質への研究で分かっていることは、それらの放射性物質は、実際に海流に乗って運ばれるし、海洋堆積物の中にも沈殿するし、海洋食物網を通じてプランクトンから大きな魚へとよじ登っていくということである。
 
イギリスの北西にあるセラフィールドの英国核燃料会社(BNFL)は、1950年代から数十年間にわたって放射性物質をアイリッシュ海に放出してきた。アイリッシュ海で行われた綿密な調査では、放射能汚染された魚を食べて成長したアザラシやイルカから、いちじるしく高い濃度の放射性セシウムとプルトニウムが検出されたと報告されている。
 
別の研究調査では、英国セラフィールドとフランスのラ・アーグ再処理工場から流れ出た放射性物質が、北大西洋や北極海まで海流に乗って運ばれていたことが証明されている。2003年に出版された研究によると、世界中に放出された放射性物質のうち、実際にかなりの量が海洋環境を汚染していることが記されている。

しかし、これらの放射能汚染が海洋生物や人間にどんなかたちで影響をもたらすかについては、未だにその全貌は明らかにされていない。旧ソ連が北極海に投棄した大量の核物質でさえ、海洋生物に広範な被害を与えたという決定的な証拠は報告されてはいない。まあそれは、棄てられたいくつかの原子炉の格納容器がまだ健在で、放射能漏れを防いでいるのかもしれないが。

核廃棄物が投棄されたエリアで、ロシア人科学者による包括的な研究がなされていないのも、私たちの理解の妨げとなっている。バレンツ海と白海で起きた血液ガンによるアザラシの絶滅と、白海で起きた数百万にものぼるヒトデ、貝類、アザラシ、イルカの大量死、、、これら1990年代初頭に起きた二つの事件について、ロシア人科学者たちはその死因を、公害か又は核汚染によるものとみなしている。

<中略:6パラグラフ分省略。海産物の食物連鎖や甲状腺への影響など学術的記述部分を省略しました。興味のある方は原文をご参照ください>

今までのところ日本政府と東京電力は、海洋の放射能汚染について、ほんの限られたデータしか提供していない。グリーンピース・インターナショナルの核エネルギー問題担当、イアン・ベラネック氏は、「緊急な状況なので、原発沿岸での独立した監視活動を行うのは難しい」と語った。
 
この4月5日、日本政府は初めて、魚介類中の放射性物質の暫定規制値を定めた。いくつかの国々は、日本からの魚介類の輸入を禁止した。米政府も、福島県に最も近い県から産出する食品の輸入を禁じたし、米食品医薬局(FDA)は、魚介類を含む輸入食品の放射能汚染に対する監視を厳しくすると発表した。

カリフォルニア大学サンタバーバラ校の化学および機械工学教授、テオ・テオファ二ス博士は、「これは今すぐ健康被害を憂慮しなくてはならないというわけではないが、私たちはまだこの問題の終結を見ていません」と語った。

米国立海洋大気圏局(NOAA)は、海洋環境の放射能汚染に関する監視は今のところ行っていない。また米国環境保護庁(EPA)の広報係は、「空気中の放射線量は監視しているが、海洋環境のモニターをしているかどうかは、はっきりとは言えない」と語った。

ウッズホール研究所のブッセラー博士や環境活動家のベラネック氏などの専門家は、「福島原発で汚染された水が、どんな海流に乗ってどの方向に運ばれて行くのかに注意深く監視の目を向けつつ、海洋生物や海底や海中に溜まる放射性核種のサンプル測定調査を、世界中の科学者たちが一致協力して、できるだけ早いうちに開始するべきだ」と語った。

原文リンク: http://e360.yale.edu/feature/radioactivity_in_the_ocean_diluted_but_far_from_harmless/2391/

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110416/dst11041609480009-n1.htm
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000012bpc-att/2r98520000012buz.pdf
http://uranzando.jpn.org/uranzando/j_sosho/15main.htm
 

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