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TUP速報1000号 英国国会における若き議員の反核演説

(2016年08月04日)

 
◎祖父母と親の世代に核ミサイルの愚を説く熱弁
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原爆71周年を迎えるにあたり、核兵器保有国の足下で行われた、若き国会議員による反核演説をご紹介します。 2003年、日本政府も支持した米英イラク侵攻の時期に発足したTUPの第1000号の速報になります。

▽EU国民投票から下院における核兵器更新議論までの流れ

国民投票によって英国のEU離脱が決まった数時間後、残留派を率いた与党保守党のキャメロン首相が、任期4年弱を残してスピード辞任。「潔い引き際」との評価もある一方で、離脱に決定した場合のプランが何も用意されていなかったことなどから、後に続く大混乱を収拾する重責を放棄したとの批判も少な くありません。この辞任劇には、イートン校時代からの盟友であったにもかかわらず、離脱派の旗振り役を担って自分を窮地に陥れたボリス・ジョンソン議員 (保守党、元ロンドン市長、現外務大臣)への意趣返しの側面もあったとも言われています。

その後に続く、出来の悪い政治風刺ドラマのような保守党内のスッタモンダについては詳細を省きますが、結果的に、当初は秋に見込まれていた次期党首 選が流れて、キャメロン内閣の内務大臣だったテリーザ・メイに、保守党党首および首相の座が禅譲されました。以下にご紹介する翻訳稿は、メイが首相として初めての議会での議題に選んだ「トライデント(潜水艦搭載核兵器)更新」に関する討論におけるものです。

この議題は、5月の地方議会選と6月のEU国民投票の間に行われた、キャメロン内閣の今国会における所信表明(*)に含まれていたものの一つですが、数ある議題の中からメイ首相が最初の議題にこれを選んだのには理由があります。
(注*) 公式名称は「女王の演説」、首相官邸が用意した原稿を女王が上院で代読する。2016年「女王の演説」全文はこちらで読める

第1に、トライデント更新に関して保守党議員の立場は一致しており、EU国民投票で残留と離脱に分かれて激しく争った議員を(少なくとも、形だけでも)一つにまとめることが可能になるため。この日の議決でも、更新反対に票を投じた保守党議員は1名だけでした。

第2に、公式野党(#)で ある労働党で表面化していた内紛、つまり党首と他の多くの同党議員との亀裂の深さを、衆人環視の議会で明確にする狙いがあったと見られています。現労働党 党首のジェレミー・コービンは一方的核放棄を生涯の信条とすることで知られていますが、彼が党首になるまでの労働党はトライデント更新に賛成の立場であり、昨秋の党大会でコービンが望んだ再検討が叶わなかったことから、党としては今も更新賛成という捩じれた構造になっています。
(注#) 野党第1党には、議会での議論の質を高めるために「公式野党」予算が配分されている。

核兵器の更新は防衛問題ですから、本来なら、議論の口火を切るのは防衛大臣の演説になるところです。しかしこの日、メイ首相は自ら冒頭の演説に立つことで、野党も党首の演説で受けて立つように仕向けました。

そもそもトライデントは2007年に更新が決定されているため、再検討の材料のない状態で、改めて議論する必要はありませんでした。そのため、キャメロン首相が今国会の所信表明に盛り込んだ時から、この議題は労働党の揺さぶりに使われると言われていました。メイ首相はそれを絶好のタイミングで使用したと言えるでしょう。この日の議論でも、労働党の反コービン派議員がメイ首相の演説に賛同したり、コービン党首を激しく批判する姿が見られました。(現在、コービン影の内閣では、英国唯一の核武装であるトライデントを代替する防衛再検討が進められており、将来、コービン労働党が政権を取った場合には再び 議論される可能性があります。)

これに対し、昨年の総選挙で議会第3党に躍進したスコットランド国民党は更新反対で一致しており、この日の議会でも何人もの議員が素晴らしい演説をしました。以下の速報本文は、その一つ、議会最年少のマーリ・ブラック議員による演説です。

昨年5月に、労働党の元閣僚を破って初当選したとき、ブラック議員は20歳、グラスゴー大学政治学科に在籍し、卒業試験の真っ最中でした。ソーシャリストである故トニー・ベン(労働党元閣僚)と故キーア・ハーディ(スコットランド社会主義者、初の労働党議員)に強く影響を受けたと述べており、将来の党首との呼び声も高い彼女の演説(§)は、ソーシャリズムに裏打ちされた明確な議論と血の通った語り口が特徴です。(注§: 末尾のリンクから、実際の演説の動画を視聴できます。)

彼女はまた、LGBT議員の1人でもあり、いつカムアウトしたかとの質問に「1度もインだったことがない(セクシュアリティを隠したことがない)」と答えています。スコットランド議会は主席閣僚(首相職にあたります)が女性であるばかりか、主要政党党首の過半数が女性であり、同じく過半数がLGBT というリベラルな政治風土で、そのような土壌だからこそ誕生した議員と言えるかもしれません。

藤澤みどり/TUP(前書き)、坂野正明/TUP(本文)
凡例: (原注) [訳注]

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TUP速報999号 英国のEU離脱キャンペーンに見る市民の政治誘導と参院選

(2016年07月08日)

◎東西で、国民の愚かな選択と史書に記されるか?


質問「前進か、後退か。」

ただそう訊かれたら、誰しも「前進」と答えたくなりそうです。これが心理ゲームの一節ならば、その後、司会者が、「はい、目の前は崖でした。南無阿弥陀仏……」で一同、笑いに包まれる、というオチかも知れません。

でも、笑ってすまないのは、これが、まぢかに迫った参議院選挙において、安倍首相ひきいる自民党のキャッチコピーであることです。理性や論理ではなく、人の直感にどことなく感覚的に訴える政治的駆け引きですね。

先日、そんな形のキャッチコピーが人心をつかんだ、とも言えそうな世界的政治ニュースがありました。イギリスで行われた国民投票の結果、同国がEU(欧州連合)を離脱することが決まったものです。投票前、英国のほとんどの知識人がEU残留を支持していたことに示されるように、EU離脱の支持には、論理らしい論理がありませんでした。しかし、蓋を開けてみれば、 EU離脱がわずかながら上回りました。英国在住の筆者も含めて、数多くの英国人にとって、頭を金槌でぶん殴られたような衝撃でした。

この結果をあえて一言でまとめるならば、EU離脱を推すプロパガンダが成功を収めた、と言えるでしょう。折しも日本では、参院選が間近に迫り、戦後70年で初めての改憲が問われています。英国と同じように、後世、国民の愚かな選択と史書に記されることになるのでしょうか。以下、英国の国民投票におけるEU離脱キャンペーンと有権者の行動を振返り、その背景と示唆するところを考えます。

坂野正明/TUP (前書き、本文とも)

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TUP速報998号 バーニー・サンダース バチカン演説

(2016年07月05日)

昔も今も、公平な経済の仕組みを求める人類の葛藤は絶え間ない。現在の日本でもオリンピックに使うお金はあるのに、毎日ご飯が食べられない子供たちが多く存在する。

それぞれの能力にふさわしい労働でなりたつ暮しは可能だろうか。搾取することなく、お互いが支えあい、分かち合う経済は可能だろうか。勤労の成果や恩恵、余剰価値の配分は誰がどのような動機で行い、誰がどのような形で享受するのか。戦争の根源である貧困を人類は克服できるのだろうか。

現在、金権政治と軍事経済の既得権益の規模が多国籍にわたり、貧困と階級の格差が世界中に広まっている。そのような世界的環境で「倫理」が果たす役割とは何か。

新約聖書マタイ福音書25:14-30に伝わるキリスト自身の資産に対する考え方からマルクスの「ゴータ綱領批判」に至るまで、経済的正義という理念の系譜は時代を超えて受け継がれてきた。西欧的な「倫理的経済」の概念は、資本主義経済の歪みを修正し、貧困を撲滅するための近代の命題に活気をもたらした。経済的には社会主義の理論の検証や実践が試みられ、倫理的には解放の神学の台頭で南米の革命の動機や韓国の民衆神学への影響が高まった。

そのような歴史と言論空間の中で、バーニー・サンダーズ上院議員は2016年4月15日、大統領選挙の民主党予備選挙中に「倫理的経済への展望」に関するバチカンの学会に招待された。この学会には中南米諸国から多くの首脳が出席していた。ボリビアのモラリス大統領の隣に着席したサンダーズは「倫理的経済の緊急性:『新しい課題』回勅25周年への回想」と題する演説文を読み上げた。

米国民主党に内部改革をつきつけ二大政党政治の癒着を揺さぶるサンダーズと、 カトリック教会の巨大な金融汚職の構造を内部から改革するために奮闘しているフランシスコ法王の非公式のツーショットには、画期的で波乱に満ちたシンボリズムが潜んでいる。

(前書き:宮前ゆかり 、翻訳:法貴潤子/TUP)

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