TUP BULLETIN

速報 952号 第三次ナイ・アーミテージレポートの中身

投稿日 2012年9月30日

日本に原子力推進を促す米シンクタンクの重要文書






第三次ナイ・アーミテージレポートの危険な原子力政策への提言
米国の「国家安全保障」のために日本に原発推進を求める


「ナイとアーミテージ」とは、ジョセフ・ナイ元国防次官補とリチャード・アーミテージ元国防副長官です。ジャパン・ハンドラーなどと呼ばれる人物で、日本に対して繰り返し「集団的自衛権の行使」「改憲」(もちろん9条改憲)を迫っています。日本の歴代内閣と官僚は、彼らの提言をまるで「神託」のごとくに重用してきた経過があります。

「原子力政策の憲法」などと称されることもある「原子力基本法」。この法律がある時突然書き換えられていたら・・・それは、まるで悪夢のような出来事です。


なぜならば、原子力基本法には「自主・民主・公開」の原則が謳われ、さらに「原子力は平和利用に限る」という平和利用条項を有しており、核兵器開発を防ぐための規定だからです。日本が原子力開発に踏み出した1960年代に、多くの科学者が核武装を懸念し、その道を少しでも絶っておこうとして作った法律です。なお、「非核三原則」は法律ではありません。「国是」とされているとはいえ放棄することに法的制約はありません。だからこそ歴代自民党内閣は法制化を断固拒否してきたのです。しかし原子力基本法は違います。


なお、原子力基本法は原子力推進法でもあるので、その点においては重大な問題があり、原発からの撤退を求める立場からは、修正が必要であることは確かです。


日本が世界最大級の核燃料サイクル施設を有し、容易に核兵器開発に転用できる「ウラン濃縮工場」「高速増殖炉」「再処理工場」などの「機微技術」を大量に保有・開発し続けられたのは、米国の支援はもちろんですが、国際的には核拡散防止条約(NPT)とIAEA保障措置条約を遵守することを約束し、国内法においては原子力基本法を始めとした法令を整備してきたからです。そうでなかったらとっくにどこかの国に爆撃されていたかも知れません。


その「憲法」法案が、誰の目にも触れないままに、こっそりと「書き換えられていた」のです。


6月20日に成立した「原子力規制委員会設置法」の付則(法令の実施時期などの付随的事項を定めた規定)の中に「原子力基本法」の第二条「目的」を書き換える規定が忍び込ませてあるのです。


「我が国の安全保障に資する」これがこっそりと押し込まれた言葉です。


一般に「国家の安全保障」とは、軍事力による国家防衛(戦略)のことを指すことが多く、普通はナショナル・セキュリティと英訳されます。


原子力規制庁設置法の改定で、「国家の安全保障」を原子力開発の目的として自民党が「ねじ込んだ」のは、米国の差し金であった可能性があります。それというのも、米国の保守系シンクタンク「戦略国際問題研究所・CSIS」が、対日提言の第三弾を発表した際に、原発を国家の安全保障上、重要な構成要素としているからです。


8月15日(米国東部時間)に公表されたレポート「米日同盟・アジアの安定の支え」に、原発を再起動し、原子力開発推進国に「復帰」するよう日本に「提言」したのは、冒頭に述べたジョセフ・ナイとリチャード・アーミテージ、そう、過去何度も日本の安全保障政策に対して「提言」を述べ、日本をコントロールしてきた人物達による第三の「提言」です。


主要な論点は「日米戦略と同盟強化」にありますが、その中で原発についても重大なことを言っています。その点のみ翻訳しました。このような米国のリモート内閣に、ずるずると原発再稼働など許してはならないということと、普天間・オスプレイ問題と同様、米国のために日本の原子力政策は存在してきたし、今も存在している部分を無視してはいけないということです。


このレポートが公表されてわずか2日たった17日の読売は、社説でレポートの概要を掲載しました。このような提言が来たからちゃんと読んでおけと言わんばかりの社説です。どんなことが書いてあるのかを要約しているのです。


「米有識者提言 幅広い協力重ねて同盟深化を(8月17日付・読売社説)」というタイトルの次の一文を読んで、この新聞は米国の機関誌かと思いました。


「中国の台頭や北朝鮮の核開発など、アジアは依然、多くの不安定要因を抱えている。地域の平和を維持するため、日米同盟が果たすべき役割は今後も大きいことを自覚したい。」


全体で1,000字の社説で、読売の「解説」はたったこれだけ。あとは全部要約です。「米国の指示が出たぞ」と言わんばかりの書きぶりです。


「日本は原子力を推進せよ」の主張を翻訳してみました。

http://csis.org/files/publication/120810_Armitage_USJapanAlliance_Web.pdf
に全文が掲載されています。そのうちの Energy Security「エネルギー安全保障」の中の、Nuclear Energy「原子力エネルギー」の部分です。
2~3ページにかけての部分です。


TUP/たんぽぽ舎 山崎久隆

─────── (ナイ&アーミテージ文書抜粋ここから) ───────
「エネルギー安全保障」
「原子力エネルギー」

2011年3月11日の惨事は我々の記憶に新しく、地震、津波、その後に起きた炉心溶融により苦しめられた、すべての被害者に心から哀悼の意を表明する。当然のことながら、福島原子力災害は、原子力発電に大きな痛手を与えた。

後退は日本だけではなく、世界全体に波及した。英国や中華人民共和国のようないくつかの国は慎重に原子力拡張計画を再スタートしているが、他は、例えばドイツのように原子力を段階的に廃止することを決定している。

日本は、原発の徹底的な検査を行なったうえで原子力保安規程を改定している。

野田佳彦首相の政府は、原子力に対する強い国民的反対にもかかわらず、一部原発の再開を開始し、二基を再稼働させた。今後の再稼働については、安全確認と地元住民による合意次第による。そのような状態下において原子力発電を慎重に継続することは正しく、かつ賢明な歩みであると我々は考える。

日本は、エネルギー効率の改善において多大な進歩を成し遂げるとともに、エネルギー研究開発についても世界のリーダーである。日本国民がエネルギー消費を削減し、国内が結束して世界最高水準のエネルギー効率の達成を実証しているとはいえ、近未来の原子力エネルギーの欠如は日本にとって重大な影響があるだろう。原子力発電所の再稼働なしでは、日本は2020年までに二酸化炭素(CO2)排出量を25パーセント削減する目標に向かって期待されるような前進を成し遂げることは不可能であろう。原子力は今後も排出削減策として唯一の現実的な電源であり、基底負荷発電であり続ける。環境省の資料が
伝えるところによれば、日本の排出量は原子力の再稼働をしなければ2020年までに削減できるのは、せいぜい11パーセントに過ぎないが、原発を再稼働させることができれば排出削減量は20パーセント近くまで達成可能であろう。

原発を永久に運転停止した場合、日本は原油、天然ガス、石炭の輸入量を増大させることになる。さらに、国家エネルギー政策に関する決定を延期することは、日本の重要なエネルギー依存産業を追い出すことになり、国家の生産性を脅かす可能性を秘めている。

同様に、永久に停止した場合は、責任ある形での国際原子力開発を妨害することにもなる。発展途上国は引き続き原発の建設を続けるからだ。

中国は、福島の事故後一年以上にわたり原子炉認可を一時停止したが(ただし、進行中のプロジェクトの進捗は中断しなかった)国内の新たな建設計画を再開し、最終的には重要な国際的なベンダーとして台頭する可能性がある。世界的な民生用原子力発電開発で、中国がロシア、韓国、フランスといったトッププレーヤーの仲間入りを計画している現在、世界が効率的で信頼性が高く、安全な原子炉や原子力サービスの利益を受けるべきであるなら、日本が後れをとっていていいはずがない。

米国としては、使用済核燃料の処分を取り巻く不確実性を取り除いて、明確な許認可プロセスを導入する必要がある。我々は福島から学び、修正した保障措置を実施する必要性を十分に認識しているが、原子力発電は、まだエネルギー安全保障、経済成長、および環境上の利点の分野で大きな可能性を保持している。日本と米国は、国内外の安全かつ信頼性の高い民生用原子力発電を推進する上で共通の政治的、商業的利益を持っている。日米は福島の経験を生かしながら、この分野で、その同盟関係を活性化し、安全な原子炉の設計や、健全な規制業務を促進する上で、指導的役割をグローバルに再開する必要がある。

3月11日の悲劇を経済的、環境的衰退の根拠とすべきではない。安全でクリーンで責任感を伴った開発を行い、利用することで、原子力発電は日本の包括的な安全保障に欠かせない要素を構成する。この点に関して、米日原子力研究開発協力は不可欠である。
─────── (ナイ&アーミテージ文書抜粋ここまで) ───────
米国の国家安全保障戦略上、日本が勝手に原子力から撤退されては困るといった一方的な主張です。また、米国の利益を守るために日本が原子力分野でちゃんと役割を果たせとも主張しています。

つまるところ、米国と日本が同盟関係の下で、旧西側(あるいは米主導)の核戦略の維持を図ろうとしているときに、日本が原子力開発から抜けると、旧東側(中ロ)とフランスによる原子力産業の寡占状態になり、米国の優位性が崩れることを心配しているようです。もとより米国にとって原子力とは核兵器や原子力動力など軍事利用を含むものです。

この提言に早速飛びついたのが、原子力産業協会(旧原産会議)や各電力会社や自民党です。米国も原発からの撤退はアジアの安定を損なう、日米同盟に大きな打撃を与えるなど、言いたい放題です。

日本の原子力産業を含め、原子力開発国を自国の影響下に置くためには、日本の拠出する資金と技術力が必要です。そのためにウエスチングハウスやゼネラル・エレクトリックを買収「させた」のではないかと、言いたいようです。

これでは、日米安保と同じく日本には選択権も決定権もありません。米国の指示の下に核開発を続けるしか、残された道は無いのだと、このレポートは言い放っています。それに唯々諾々と政府は従うのでしょうか。いったい私たちはどっちを向いているのでしょう。米国の顔色をうかがうのか、福島、広島、長崎の人々と共に核の無い世の中を作るのか。言い古されていることかも知れませんが、その分岐点にいるのです。