TUP BULLETIN

TUP速報 1025号 羊を沈黙させる — プロパガンダの仕組み

投稿日 2022年10月15日
Leni Riefenstahl, center, filming with two assistants, 1936. (Bundesarchiv, CC-BY-SA 3.0, Wikimedia Commons)Leni Riefenstahl, center, filming with two assistants, 1936. (Bundesarchiv, CC-BY-SA 3.0, Wikimedia Commons)
ヨーロッパ、アジア、そして北米大陸のあちこちで反動的な気運と政治の右傾化が目立ち、専制政治が広まっている。当時最も民主的な憲法と言われたワイマール憲法を持つ共和制国家から独裁者ヒットラーが台頭したドイツの歴史から学ぶことは多いだろう。

米国国務省の日本語広報ウェブページ(https://americancenterjapan.com/aboutusa/translations/3092/)に「民主主義の原則ー言論の自由」の項目があり、定義の第一項目として次の文面がある。

• 民主主義は、教養と知識のある一般市民に依存する。市民は、情報を入手することによって、公的な社会生活に、できる限り全面的に参加したり、分別に欠ける専制的な政府の官僚や政策を批判したりすることができる。市民と公選された代表者たちは、民主主義が、検閲を受けない思想、データ、意見を、可能な限り広範に入手できるかどうかにかかっていることを理解している。

民主政治の前提となる主権者「教養と知識のある一般市民」とはどのように形成されるのだろうか。「教養や知識」とされるものが真実に基づくものかどうか、誰が判断するのだろうか。その判断の基礎となる議論や検証を行う権威は誰に委ねられるのだろうか。現代の民主政治でこの権威を委ねられた報道機関、そして急速に浸透するソーシャルメディア企業のナラティブは誰を代弁しているのだろうか。そして特に軍事産業資本の配下にある米国の主流報道機関によって伝えられる地政学的情報は公正だろうか。

長年、戦争という人類の悲劇の構造を記録し考察してきたジョン・ピルジャーが現在進行中のウクライナ戦争にまつわるプロパガンダを解読する。

翻訳・前書き:宮前ゆかり

羊を沈黙させる — プロパガンダの仕組み

ジョン・ピルジャー:2022年9月7日

レニ・リーフェンシュタールは、ナチスを賛美した自作の壮大な映画はドイツ国民の「従順なる虚空」を拠り所にしていたと言った。これがプロパガンダの仕組みだ。

ジョン・ピルジャー、Consortium News特別寄稿

1970年代に、ヒットラーの主要なプロパガンダ伝道者の一人であり、ナチス賛美の壮大な映画を作ったレニ・リーフェンシュタールと会ったことがある。ヒットラー総統の他の友人たちが辿った運命を逃れ写真撮影の仕事をしていた彼女と、たまたまケニアで同じ宿に泊まっていたのだ。

リーフェンシュタールは自分の映画の「愛国的メッセージ」は「上からの命令」に依存していたのではなく、ドイツ国民の「従順なる虚空」と彼女が呼んだものを拠り所にしていたと私に話した。

それにはリベラルな教育を受けたブルジョワ階級も含まれていたのか、と私は尋ねた。「そう、特に彼らよ」と彼女は言った。

現在、西洋諸国の社会を呑み込んでいるプロパガンダの状況を見渡しながら、私はこのことを考えている。

もちろん、私たちは1930年代のドイツとは大違いだ。私たちは情報社会に生きている。私たちはグローバリストだ。かつてないほど意識が高く、理解も深く、繋がりも強まっている。

それとも、西側の私たちは、狡猾な洗脳が容赦なく行われ、国家や企業権力のニーズや嘘に基づいて見識がフィルターにかけられる「メディア」社会に住んでいるのだろうか?

米国は西側世界のメディアを支配している。メディア企業トップ10社のうち一社を除き、全てが北米に拠点を置いている。インターネットとソーシャルメディア(グーグル、ツイッター、フェイスブックなど)のほとんどが米国人に所有され管理されている。

私の一生涯の中で、米国は50以上の政府を転覆させたか、あるいは転覆を試みたが、そのほとんどが民主制の政府だった。30カ国の民主的な選挙に介入した。30カ国の人々に爆弾を落としてきたが、そのほとんどが貧しく無防備だった。50カ国の指導者たちを殺害しようとしてきた。20カ国で解放運動の抑圧に力を注いだ。

この虐殺の程度と規模はほとんどが報告も認識もされておらず、その責任者たちは今もなお英米の政界を牛耳っている。

ハロルド・ピンターが沈黙を破った

2008年に死亡する前の数年間、劇作家ハロルド・ピンターは類まれな二つの演説を行って沈黙を破った。

「米国の外交政策とは、」とピンターは言った。
「次のように定義するのが最適だ。つまり、俺の尻を舐めないなら、お前の頭に蹴りを入れてやる、というものだ。それほど単純で下品極まりない。興味深いのは、この外交政策が信じ難いほど成功を収めている点だ。ガセネタの構造、レトリックの使用、言葉の歪曲を備え持ち、非常に説得力があるが実は嘘八百で塗り固められている。非常に有効なプロパガンダだ。米国には金があり、テクノロジーがあり、咎められずに逃げ切るためのすべての手段があり、実際にそれで済ませている」

ノーベル文学賞を受賞するにあたり、ピンターはこう言った。

「米国の犯罪は、組織的で、絶え間なく、凶暴で、冷酷だが、実際にそれについて語る人はほどんどいない。アメリカには恐れ入るしかないのだ。米国は世界中で冷徹巧みに権力を操りながら、普遍的な美徳を広める原動力であるかのように見せかけてきた。これは見事で、実に気の利いた、大成功この上ない催眠術行為だ。」

ピンターは私の友人で、おそらく、異議申立てをする政治運動が去勢されてしまう前の最後の偉大なる政治的賢者だった。ピンターが言及した「催眠術」がレニ・リーフェンシュタールが説明した「従順なる空虚」なのかどうか、私は彼に尋ねてみた。

「同じことだ」とピンターは答えた。「それは、洗脳が徹底され、私たちが嘘八百を呑み込むようにプログラムされてしまっている、ということを意味する。プロパガンダを認識しなければ、それを普通のこととして受け入れ、信じるようになるでだろう。それが従順なる虚空なのだ」。

企業民主主義の私たちのシステムでは、戦争は経済的な必要性であり、富裕層にとっては社会主義、貧困層にとっては資本主義という公的補助と私的利益の完璧な結合だ。911事件の翌日、軍需業界の株価は高騰した。更なる流血の惨事が見込まれることはビジネスにとって朗報なのだ。

現在、最も収益性の高い戦争には独自のブランドがある。それらは「永遠の戦争」と呼ばれ、アフガニスタン、パレスチナ、イラク、リビア、イエメン、そして現在のウクライナがそうだ。すべて嘘八百に基づいている。イラクは、存在しなかった大量破壊兵器の件で最も悪名が高い。2011年のN A TOによるリビアの破壊は、起こらなかったベンガジでの大虐殺で正当化された。アフガニスタンは、アフガニスタンの人々とは何の関係もない911事件に対する都合の良い復讐戦争だった。

現在、アフガニスタンからのニュースは、タリバーンがいかに邪悪かというもので、米国のジョー・バイデン大統領がアフガニスタン銀行準備金70億ドルを盗んだことで広範囲に被害が拡散しているということではない。最近、ワシントンのナショナル・パブリック・ラジオがアフガニスタンについて2時間を費やしたが、飢餓に苦しむ人々についての画面は30秒だった。

6月のマドリッドで開催された首脳会議で、米国が支配するN A T Oはヨーロッパ大陸を軍事化する戦略文書を採択し、ロシアと中国との戦争の可能性をエスカレートさせた。この文書は、核武装した競争相手に対抗する多領域戦闘」を提案している。つまり、核戦争だ。

それは次のように述べている。「N A T Oの拡大は歴史的成功を収めた。」

私は信じられない思いでそれを読んだ。

ウクライナでの戦争から届くニュースは、ほとんどがニュースではなくて、一方的な好戦愛国主義、歪曲、事実の切り捨ての繰り返しだ。私は多くの戦争を報告してきたが、これほどの全面的プロパガンダは初めてのことだ。

2月に、ロシアはウクライナとの国境にあるロシア語圏のドンバスでほぼ8年間にわたる殺害と犯罪的破壊に対する対応としてウクライナを侵攻した。

2014年、米国は、民主的に選出された親露派のウクライナ大統領を追い出したキエフでのクーデターを支援し、アメリカのいう通りになることが確実な後継者を就任させた。

近年、アメリカの「防衛」ミサイルが東ヨーロッパ、ポーランド、スロベニア、チェコ共和国に設置されており、それらはほぼ確実にロシアに向けられているのだが、それらには1990年2月にソ連の指導者ミハイル・ゴルバチョフに対し、N A T Oはドイツを超えて拡張されることは断じてないとしたジェームス・ベイカーの「約束」以来の偽りの保証がなされている。

ヒトラーの国境線上にあるN A T O

ウクライナはその最前線だ。ヒトラーの軍隊が1941年に襲撃突破し、ソ連で2300万人以上の死者を出したあの国境地帯にN A T Oは事実上到達した。

昨年12月に、ロシアはヨーロッパに対する広範な安全保障計画を提案した。これを西側のメディアは撥ねつけ、嘲笑い、あるいは揉み消した。段階を追って示されたこの提案を読んだ人はいるだろうか。2月24日に、ウォロジミル・ゼレンスキー大統領は、アメリカがウクライナを武装させ保護しないのであれば核兵器を開発すると脅した。

その同じ日にロシアは侵攻したのだ—西側のメディアによれば、根っから悪名通りの完全に一方的な行為だ。歴史、嘘、和平提案、ミンスクで交わされたドンバスに関する厳粛な合意など何の価値もなかった。


4月25日、米国国防総省長官ロイド・オースティンはキエフに飛び、アメリカの目的はロシア連邦を破壊すること—彼が使った言葉は「弱体化させる」だった—である、と確証した。アメリカは望んでいた戦争、つまり、アメリカが資金提供し武装した代理人であり使い捨ての“駒”である国によって戦われる戦争を手に入れたのである。これについては西側の聴衆に対しほとんど何も説明されなかった。

ロシアのウクライナ侵攻は理不尽で弁解の余地はない。主権国家を侵略することは犯罪だ。「反論」は許されないが、例外が一つある。

ウクライナでの現在の戦争はいつ始まり、誰がそれを始めたのか。国連によると、2014年から今年にかけて、ドンバスに対するキエフ政権の内戦で約14000人が殺された。攻撃の多くはネオナチによって実行された。

2014年5月のI T Vのニュースレポートをご覧になるとよい。これはベテランレポーターのジェイムズ・メイツによるもので、彼はマリウポリ市で一般市民と共に、ウクライナのアゾフ(ネオナチ)大隊によって砲撃を受けた。

その同じ月に、ナチスの協力者で反ユダヤ主義狂信者であるステパン・バンデラの信奉者たちによるファシスト犯罪結社に包囲されたオデッサの労働組合の建物内で、数十人のロシア語話者の人々が生身で焼き殺されたり窒息死したりした。ニューヨーク・タイムズ紙はこの犯罪結社を「ナショナリスト」と呼んだ。

「この決定的瞬間における我が国の歴史的使命は、セム族が主導するウンターメンシェン(劣等人種)を撲滅する十字軍の戦い、生き延びるための最後の十字軍の戦いに、世界中の白人人種を率いることです。」とアゾフ大隊の創始者アンドレイ・ビレツキーは述べた。

2月以降、自称「ニュース監視人」の組織的活動(主に各政府に繋がりを持つアメリカ人とイギリス人により資金が提供されている)は、ウクライナにはネオナチは存在しないという馬鹿げた主張を維持しようとしてきた。

かつてスターリンの粛清につきものだったぼかし修正工作は主流ジャーナリズムのツールとなってしまった。わずか10年も経たないうちに「良い」中国は修正工作を施されて「悪い」中国に置き換えられ、世界の工場から駆け出しの悪魔へと塗り替えられた。

このプロパガンダの多くは米国に端を発しており、兵器産業を代弁する悪名高いオーストラリア戦略政策インスティチュートなどの代理人や「シンクタンク」を介して伝播し、さらには中国の影響力を広めている人々に「ネズミ、ハエ、蚊、スズメ」とレッテルを貼って、このような「害虫は根絶するように」と提案したシドニー・モーニング・ヘラルド紙のピーター・ハーチャーなどのジャーナリストによって拡散されている。

西側の中国に関するニュースは、ほぼ完全に北京からの脅威に関するものだ。ぼかし修正工作を施されているのは、中国の大部分を取り囲む400もの米軍基地で、それはオーストラリアから太平洋や東南アジア、日本、韓国にまで届く軍事武装ネックレスだ。日本の沖縄島と韓国の済州島は、至近距離から中国の産業の中心部に向けられた銃弾装填済みの銃のようなものだ。国防総省の高官の一人はこれを「首吊り縄」と説明した。

私が覚えている限り、パレスチナは誤報され続けてきた。B B Cにとって存在するのは「二つの物語」の「対立」だ。現代における最も長い、最も残忍で非合法な軍事占領を話題にすることはできない。

打ちひしがれたイエメンの人々はほぼ存在しないに等しい。彼らはメディアに非人間化されている。サウジアラビアがアメリカ製クラスター爆弾を雨霰と降らせ、英国の顧問がサウジの標的担当官と協力している間、50万人以上の子供たちが飢餓に直面している。

このような事実の切り捨てによる洗脳は新しいことではない。第一次世界大戦の殺戮は、命令を順守して騎士の称号を与えられた記者たちによって抑圧された。1917年にマンチェスター・ガーディアン紙の編集者C .P .スコットは、ロイド・ジョージ首相に「人々が本当に(真実を)知ったとしたら戦争は明日にでも終わるだろうが、彼らは知らないし、知ることもできないのです」と打ち明けた。

他の国の人々が見ているのと同じように人々や出来事を見ることを拒むのは、C O V I Dと同じくらいの衰弱をもたらす西側諸国のメディアウィルスだ。それはまるで世界をマジックミラー越しに見て、「私たち」は道徳的で善良、「彼ら」はそうではないとする見方だ。これは大いに帝国的な見解だ。

中国やロシアに脈々と流れ存在する歴史はめったに説明されることはなく、ほとんど理解されていない。ウラジミール・プーティンはアドルフ・ヒトラーで、習近平はフー・マン・チュー(*小説の架空の人物)だという。中国における赤貧の撲滅などといった壮大なる功績はほとんど知られていない。これは何と邪悪であさましいことだろうか。

いつになったら私たちは理解できるようになるのだろう。ジャーナリストを工場方式で訓練することは答にならない。驚くべきデジタルツールも、指一本で叩くタイプライターや植字機械と同じように、単に手段であって決して目標ではない。

近年、最良のジャーナリストの何人かが主流職場から職を解かれている。「窓から放り出された」という言葉が使われている。かつて独立独行の型破りな人々、言論の流れに逆らうジャーナリスト、真実を語る人々に開かれていた空間が閉じてしまった。

ジュリアン・アサンジの件は最も衝撃的だ。ジュリアンとウィキリークスがガーディアン紙、ニューヨーク・タイムズ紙、その他の尊大ぶった「公式記録の新聞」の読者を獲得し賞を受けた時には、彼は賞賛された。

暗黒国家が異議を唱え、ハードドライブの破壊とジュリアンの人格抹殺を要求した時、彼は公衆の敵にされた。副大統領ジョー・バイデンはジュリアンを「ハイテク・テロリスト」に喩えた。ヒラリー・クリントンは「こいつをドローンで殺せないの?」と尋ねた。

その後に続いたジュリアン・アサンジに対する虐待と誹謗中傷の組織的活動は、拷問に関する国連特別報告者に「暴徒行動」と言わしめ、リベラル報道機関をその最低の衰退期へと墜落させた。私たちはそれが誰なのか知っている。私はこれらの人々を対独協力者、ヴィシー政権のようなジャーナリストだと考えている。

本物のジャーナリストたちはいつ立ち上がるのか。インスピレーションが湧くサミズダト(地下秘密出版社)は既にインターネットに存在する。偉大な記者ロバート・ペリーが設立したConsortium News、マックス・ブルメンタールの Grayzone、Mint Press News、Media Lens、DeclassifiedUK、Alborada、Electronic Intifada、WSWS、ZNet、ICH、CounterPunch、Independent Australia、クリス・ヘッジス、パトリック・ローレンス、ジョナサン・クック、ダイアナ・ジョンストーン、ケイトリン・ジョンストーン、その他ここに言及しなかったことを許してくれる人々の仕事がある。

そして、1930年代にファシズム台頭に反対したように、作家たちはいつ立ち上がるのだろうか。1940年代の冷戦に反対したように、映画制作者たちはいつ立ち上がるのだろうか。一世代前のように風刺作家はいつ立ち上がるのだろうか。

正義はわれにありという、前回の世界大戦についての公式戦争観に82年間もどっぷり浸かった後、記録をただすべき人々はそろそろ独立を宣言し、プロパガンダを解読する時が来たのではないか。緊急性はかつてないほど高まっている。


Consortium News注:

ジョン・ピルジャーは、英国におけるジャーナリズムの最優秀賞を二度も受賞し、さらに年間国際レポーター最優秀賞、年間ニュースレポーター最優秀賞、年間描写ライター最優秀賞の受賞者でもある。ピルジャーは61のドキュメンタリー映画を制作し、エミー賞、BAFTA(英国映画テレビ芸術アカデミー)賞、ロイヤル・テレビジョン・ソサエティ賞を受賞してきた。彼が制作した「カンボジア・ゼロ年(仮題)」は20世紀最重要映画10編の一つに指名されている。連絡先は www.johnpilger.com

ここで表明される意見は著者のものであり、Consortium Newsの意見を反映しているとは限らない。