TUP BULLETIN

速報959号 ジュリアン・アサンジの演説 (I):2012年9月国連総会に宛てた人権に関する演説

投稿日 2012年12月25日

今や米国はウィキリークスと、情報源とされる人々への迫害をやめ、正義を行うべきときです




ウィキリークスとその編集長ジュリアン・アサンジは、世界各国の権力構造の実態を暴く膨大な量の重要文書を公開してきた。米国大使館公電や、米軍の戦争犯罪の実態を暴き、米国の怒りをかったアサンジは、超法規的な処断による弾圧を受けてきた。身の危険に迫られたアサンジはエクアドルに亡命を希望し、現在ロンドンのエクアドル大使館で保護されている。すでに6カ月が経った。


去る9月26日、アサンジは国連総会に向けてエクアドル大使館から衛星回線経由でオバマ大統領に迫害を止めるように呼び掛ける演説を行った。


アサンジはその後12月20日にもうひとつの演説を行い、2013年には、さらに10万件にもおよぶ重大文書を公開すると発表した。両方とも素晴らしい演説だったのでTUP速報シリーズとしてお届けします。


今回分はこのyoutubeで見られます。
https://www.youtube.com/watch?v=IjPAmTn0WYA&feature=endscreen&NR=1


(なお、これまでのウィキリークスの活動やアサンジに対する弾圧の諸事情については過去のTUP速報をご覧ください)


速報946号 ジュリアン・アサンジ支援集会でのダニエル・マシューズのスピーチ
https://www.tup-bulletin.org/modules/contents/index.php?content_id=979




速報937号 "勇気は伝染する"―マニング、ウィキリークス、ウォール街占拠
https://www.tup-bulletin.org/modules/contents/index.php?content_id=970


[前書き:宮前ゆかり、 翻訳:川井孝子・寺尾光身・藤谷英男]

国連総会に宛てたジュリアン・アサンジの人権に関する演説(2012年9月26日水曜日)

パティーニョ外務大臣閣下* 、各国代表の皆様、ご列席の皆様
[訳註: *エクアドルの外務・貿易・統合大臣]

今日私は一人の自由な人間として皆さんにお話しいたします。起訴されないまま659日勾留されてはいるものの、最も基本的で最も重要な意味で私は自由だからです。自分の考えを述べる自由があります。この自由があるのは、エクアドル国民が私の政治亡命を受け入れて下さり、他の国々の方々が結束してその決定を支持して下さったことによります。また、ウィキリークスが「あらゆる手段により、また、国境を越えると否とにかかわりなく、情報及び思想を求め、受け、及び伝える」* ことができるのは、国際連合の世界人権宣言第19条によります。そしてまた私が他の人々とともに政治的迫害からの保護を受けることができるのは、「迫害を免れるため他国に避難する権利」を明記した世界人権宣言第14条1項や1951年の難民条約その他国際連合が定めた諸協定によるからです。
[訳註:* 世界人権宣言第19条邦文より引用]

国連のおかげで、私は自分の不可譲* の権利を行使することができ、私に対して、そして私の組織のスタッフや支持者たちに対し諸政府が行っている恣意的で過剰な行為から保護を求めることができます。国際慣習法と国連の拷問禁止条約に、拷問に対する絶対的禁止が明記されているからこそ、だれが犯人であるかに拘わらず、一組織として、私たちは揺るぎない立場に立って拷問と戦争犯罪を断罪するのです。
[訳註:* 何人も奪うことのできない、何人にも譲ることのできない(基本的人権)]

エクアドル政府のご厚情により今日再び国連で話す機会を提供されたことに感謝したいと思います。ジュネーブの普遍的定期審査*で証言したときとは状況はまったく異なっているのですが。
[訳註:*国連人権理事会が定期的に加盟国の人権状況を審査するための制度]

ほぼ2年前の今日、私はそこで10万人以上のイラク民間人に対する拷問と殺人を暴露した私たちの仕事について話しました。けれども今日はアメリカの話をしたいと思います。イラクに配備されていた 、ある若い米軍兵士のことを語りたいのです。

その兵士は、オクラホマ州クレセントでウェールズ人の母と米国海軍の軍人だった父との間に生まれました。彼の両親は恋に落ちたのです。父親はウェールズの米軍基地に勤務していました。その兵士は幼いころから将来が楽しみなほどの利発を示し、科学研究発表会(サイエンスフェア)では最優秀賞を3年連続して受賞しました。彼は真実の価値を信じ、私たちみんなと同じように偽善を憎みました。 彼は自由の価値を信じ、だれもが幸福を追求する権利を信じていました。独立した合衆国の基盤となった諸々の価値を信じていました。彼はマジソンを信じ、ジェファーソンを信じ、ペインを信じていました。
[訳註:*第4代米国大統領ジェームズ・マジソン **第3代米国大統領トーマス・ジェファーソン ***トーマス・ペイン、著書「コモン・センス」を著してアメリカ独立革命の機運を高めた]

多くの十代の若者と同じように、彼は人生をどう生きるか迷っていましたが、祖国を防衛したいという気持ちは確かでしたし、世界について学びたいという希望を持っていました。彼は合衆国軍に入隊して、父と同じように情報分析官としての訓練を受けました。 2009年末に21歳でイラクに派遣されました。 彼はそこで、米軍の一部がしばしば法規に背き、それどころか、殺人に関わったり政治的腐敗を後押ししたりするのを目撃したとされています。

彼が2010年に、ある情報をウィキリークス、ひいては世界に向かって提供したのは、そこバグダードの地であったと言われています。その内容は、イラク人の拷問やジャーナリストの殺害を暴露し、イラクとアフガニスタンにおける12万人を超える市民の殺害を詳細に記録するものでした。彼はまた、25万1,000通の合衆国外交公電をウィキリークスに提供したとも申し立てられています。これはその後「アラブの春」を触発するのに与ったものです。この若き兵士はブラッドリー・マニングといいます。

その後彼は、伝えられるところによると、ある情報提供者仲間の裏切りのためバグダードで投獄され、クウェートで投獄され、さらにバージニアで9カ月に亘って独房に投獄されて、そこでは苛烈な虐待に曝されたのです。拷問に関する国連特別報告官ホアン・メンデスは調査の結果、公式に米国を非難する結論を出しました。

クリントン国務長官のスポークスマンは辞任しました。かつてのサイエンスフェアの花形、兵士そして愛国者のブラッドリー・マニングは、自国の政府に貶められ、虐待され、精神的拷問を受けました。死刑に値する罪を犯したとして告訴されています。こうした事態に至ったのは、ウィキリークスと私にとって不利な証言をさせるため、アメリカ政府がマニングの気力を挫こうとしたからです。

今日現在、ブラッドリー・マニングは裁判もなく856日間にわたり勾留されています。米軍での法的上限は120日です。アメリカ政府は秘密政治体制を敷こうとしています。暗黒政治国家になろうとしています。機密情報をメディアに漏洩した国家公務員は誰でも、政府の裁量で死刑、終身刑を宣告され、あるいはスパイ行為で断罪され、メディアのジャーナリストも道連れにされる政治体制なのです。

ウィキリークスに対する捜査の規模を過小評価してはいけません。こうした事態の犠牲者はブラッドリー・マニング一人にとどまると言えたらどんなにいいかと思います。けれども、この件その他でウィキリークスに仕掛けられた攻撃により、オーストラリアの外交関係者が前代未聞と評する規模と内容の調査が行われています。アメリカ政府が「政府をあげての調査」と称した調査です。

この捜査に関わっていることが確認された政府機関は、公式記録によるものだけでも次のとおりです。──国防総省および傘下の合衆国中央軍、合衆国国防情報局、合衆国陸軍犯罪捜査部、イラク駐留軍、第一軍、米軍コンピュータ犯罪捜査隊(CCIU)、第二軍サイバー司令部。

また、こうした諜報捜査に関わっている三系統の別組織の内もう一つは、もっとも中心的な司法省とその管轄下のバージニア州アレクサンドリアにある米国大陪審、それに連邦捜査局(FBI)。そしてもう一系統は国務省と国務省外交保安局です。
このうちFBIは、今年はじめの裁判所での証言によれば、ウィキリークスに関して42,135ページものファイルを作成したとされますが、そのうちマニングに関するものは8,000ページもありません。

これらに加えて、私たちは国家情報長官室(ODNI)、国家防諜局長、中央情報局(CIA)、下院監視委員会、国家安全保障スタッフの庁間委員会、それに大統領諮問委員会(PIAB)からも捜査を受けています。

司法省のスポークスマン、ディーン・ボイドは今年7月に、ウィキリークスに対する司法省の調査が現在も継続中であることを認めました。昨日オバマ大統領が連ねた美辞麗句、多くの立派な言葉にもかかわらず、これまでの全ての米国大統領が処罰した言論をまとめたよりも多くの言論を処罰の対象としたと、選挙用のウェブサイトで自慢しているのはこのオバマ政権なのです。

「厚顔なる希望*」という言葉が思い出されます。まったく厚顔無恥なアメリカ合衆国大統領ではありませんか。
[訳註:*原文は”The Audacity of Hope”。オバマ大統領の著書のタイトル(邦訳は『大いなる希望を抱いて』)で、直訳すれば「希望の大胆さ/厚かましさ」]

ここ2年間の怒涛のような進展が米国政府のお陰だというのは厚かましくありませんか?
9月25日に、「アメリカは」アラブの春の「変革を求める勢力を支持した」と言っていましたが、これは厚顔では ありませんか?

チュニジアの歴史は2010年12月に始まったのではありません。モハメド・ブアジジは、オバマ大統領を再選させるために自らを炎に包んだのではありません。彼の死は、ベンアリ政権下で余儀なくされた絶望を象徴するものでした。

ウィキリークスが発表した資料を読んだ世界の人々は既に知っていました。米国がベンアリ政権の圧政と犯罪行為を知りつつ、支持はしないまでも黙認してきたことで、この政権とその支配体制がぬくぬくとしてきたことをです。

ですからチュニジア国民にとって、米国が変革を求める勢力の側を支持したことは驚きに違いありません。アメリカ製の催涙ガスにやられたエジプトの十代の若者たちにとって、米政府がエジプトの体制変化を支持したことは驚きに違いありません。

以前のクリントン国務長官の発言を聞いていた人々にとっては驚きに違いありません。国務長官は、ムバラク体制は「安定している」と言い張っていました。そうではないことが誰の目にも明らかになると、今度は、情報機関の責任者だった嫌われ者のスレイマンが後継者としてふさわしいと言い出しました。スレイマンが行っていた拷問についてアメリカ政府が認識していたことは、私たちが明らかにしました。バイデン副大統領の発言を聞いていたエジプトのすべての人々にとっても、これは驚きに違いありません。副大統領は、ムバラク大統領が民主主義者で、ジュリアン・アサンジはハイテクテロリストだと言っていたのです。

米国が「変革を求める勢力を支援した」と主張することは、バーレーン蜂起で殺された人たち、投獄された人たちに対して、礼を失することになります。実に厚顔というべきです。
あの指導者としての見栄を張りたい大統領が、この大転換、民衆の変化を振り返って、自分の手柄だと称するとは、誰が見ても厚かましいことです。

でも、これも私たちの元気の元になります。大統領府がこの成り行きを必然と見ていることを意味するからです。この「進歩の季節」に大統領は、風向きを悟ったのです。そして今では大統領は我が政権こそがその風を吹かせたのだと見せかける必要に迫られています。いいでしょう。世界が前進している時に、見当違いの方向に流されて行くことを選ぶよりましです。

ここで明確にしておかなければなりません。米国は敵ではないのです。米政府は一枚岩ではありません。いくつかの事例では、米政府の良識ある人々が変革勢力を支援しました。そして、バラク・オバマも個人としてはその中の一人だったかもしれません。しかし政府全体としては、初めのころ、他のいくつかの事例で変革勢力に積極的に反対していたのです。

これは歴史の記録の問題です。そして、政治的利益のために、あるいは美辞麗句を連ねることに躍起となるあまり大統領が史実を捻じ曲げるのは、公正でないし、妥当でもありません。

ほめるに値するときにはほめるべきですが、値しないときは控えるべきです。
で、美辞麗句の件です。確かに立派なことを言っていました。言われた内容については賞賛もしますし、同意もします。

オバマ大統領は昨日、人びとは不一致を平和のうちに解決できると言いましたが、私たちはこれに同意します。外交が戦争に取って代わることができると、私たちも思います。
そして、この世界は相互に依存している世界であり、私たちは皆利害関係者であることに同意します。

自由と自決は単にアメリカ的価値あるいは西欧的価値であるばかりでなく、普遍的価値であることに同意します。このような考えに真剣であろうとするなら正直に語らねばならない、と大統領が言うのなら私たちは同意します。

しかし、立派な言葉は相応の行動がともなわなければ色褪せます。オバマ大統領は表現の自由を支持すると強く発言しました。「権力の座にあるものは、反対派を弾圧する誘惑に抵抗すべきだ」と大統領は語りました。

言葉を費いやすべき時もあれば、行動を起こすべき時もあります。

言葉を費やすべき時は去りました。今やアメリカがウィキリークスへの迫害をやめ、私たちの仲間への迫害をやめ、そして、私たちの情報源とされる人々への迫害をやめるときです。
今やオバマ大統領は正しいことを行い、変革勢力に加わるべきときです。立派な言葉によってではなく、立派な行動によってです。

原文:Transcript of Julian Assange’s Address to the UN on Human Rights – given on Wednesday 26th September – Proofed from live speech
http://wikileaks.org/Transcript-of-Julian-Assange.html