TUP BULLETIN

速報964号 イラクから帰還+重要な新報告書

投稿日 2013年3月16日
放射性毒性と化学毒性を兼ね備える重金属劣化ウランを、まだまき散らすのか




オーストラリア人女性ドナ・マルハーンは、2003年の春にはイラクで「人間の盾」に参加した。04年春にはイラクで米軍包囲下のファッルージャに入り、その帰路地元レジスタンスによる拘束を経験し、つぶさにその報告をしてくれた。04年冬から05年春にかけてはイラク・パレスチナ「巡礼の旅」を伝えてきた。05年8月には、シンディ・シーハンのキャンプ・ケーシーに駆けつけ、アメリカからの報告は、ほとんど実況中継だった。05年12月にはオーストラリアがイラク戦争に最も貢献してきたパイン・ギャップ秘密基地に侵入し、「市民査察」を強行して逮捕されたが、08年2月に無罪判決を勝ち取った。09年末から10年初頭には、イスラエルによる包囲封鎖に苦しむパレスチナ・ガザ地区に入って援助を届け、現地から報告してきた。10年2月に、『普通の勇気━━わが旅、人間の盾としてバグダードへ』を出版した。11年3月に、アフガニスタンのカーブルに向かい、地元の「青年平和ボランティア」と共に行動した。12年7月に4度目のイラク訪問を敢行し、劣化ウラン弾などの有毒兵器の被害に苦しむファッルージャの女性や子供の現地調査を終え、無事帰国した。


ドナは映画監督のデービッド・ブラッドベリと共に、今年の2月初旬にイラクに入国して、イラク国内を巡って有毒兵器の被害を現地調査してきました。その過程をブラッドベリ監督がカメラに収めた約1カ月の旅を終えて、3月初旬にオーストラリアに無事帰国しました。帰国後の最初の報告です。

(翻訳:福永克紀/TUP)

イラクから帰還+重要な新報告書
ドナ・マルハーン
2013年3月7日

お友達の皆さんへ

イラクで一カ月過ごして帰ってきたばかりです。戦争で疲弊したこの国で訪れた六つの町それぞれで、いろんな経験をたくさん積み、お茶をいただきながら数え切れないほどの会話を交わし、いくつものインタビューを行ない、各家庭や史跡、病院や大学を訪れ、デモに参加して……

疲れ切ったイラクの人々の幻滅と絶望をとても感じると同時に、いろんなところで希望のかけらも感じました。

2003年の侵略から10年の今、多くの物語や比較すべきことがありますのでここ数週間のうちに感想を書き送る時間が取れればと思っています。

もし私のイラクからの第一報を見逃した方がおられましたら、以下にあります。 http://donnamulhearn.com/2013/02/18/greetings-from-iraq/ また、フェイスブックとツイッターにも恒常的にポストしています。

もうひとつ皆さんにお知らせしたいのは、イラクでの劣化ウラン使用に関する初めての、しかも本日公開されたばかりの重要な報告書で、『不透明な状態で』(In a State of Uncertainty:仮訳)と題されたもので、下記からダウンロードできます。 http://www.ikvpaxchristi.nl/media/files/in-a-state-of-uncertainty.pdf

この報告の世界的な公表は、最初に入手した『ガーディアン』紙が以下の記事にすることで始まりました。http://www.guardian.co.uk/environment/2013/mar/06/iraq-depleted-uranium-clean-up-contamination-spreads

世界中の活動家と同様、私もオーストラリアのメディアに報道発表文を送り、それを下部に貼り付けましたので、ご自由にこれを使って関心を持ちそうなメディアに送ってください。

これから2週間いくつか講演の予定(詳細は下記に)が入っており、皆さんの何人かとお会いできることを願うと同時に、近いうちにデービッドが撮影したいくつかの場面の試写会を行ないたいと思っていますので、今後もご注目を……

皆さんの巡礼者
ドナより

追伸:今後の講演予定
3月14日(木)、15日(金)メルボルン、「あれから10年後のイラク」会議、ディーキン大学シティキャンパス、詳細ならびにプログラムは下記を参照 http://www.deakin.edu.au/arts-ed/ccg/events/symposiums/2013/13-australia-iraq/index.php

3月17日(日)午後5時30分 レッドファーン、緑の党シドニー地区候補者ダイアン・ハイルズの「戦争反対」募金イベント、レッドファーン・ストリート107 http://www.facebook.com/events/434176750000826/

3月18日(月)午後6時~8時30分 シドニー、パネル・ディスカッション「あれから10年後のイラク」、ピット・ストリート280 シドニー・メカニックス・スクール・オブ・アーツ、入場料10ドル/割引5ドル、戦争をとめよう連合(Stop the War Coalition)主催http://www.facebook.com/events/340747502696286/

3月20日(水)午後5時~6時30分 ジェイク・リンチ教授による「あの日まで遡ること10年、反戦抗議運動は何を達成したか」、オーストラリア反戦デモの短編映画「ライオンハート(Lionhearts)」の世界初上映も、ニュー・ロー・ビル024講堂、シドニー大学平和・紛争研究センター主催

3月21日(木)ブリズベン 市民集会、詳細未定

3月24日(日)ブリズベン シュロの主日集会、詳細未定

3月28日(木)午後7時30分~9時 ラケンバ、レバノン人ムスリム協会(Lebanese Muslim Association)

追追伸:以下が報道発表文です。このアドレスにも載せてあります。 http://donnamulhearn.com/

【10年を経て、いまだに劣化ウラン汚染がイラクをしおれさせている】
━━本日公表の新報告書、オーストラリア人目撃証人が語る━━
2013年3月7日

イラクにおける400トン(40万キログラム)の劣化ウラン兵器使用の影響とその遺物については、本日世界的に公表された新報告書がそれを立証しており、またそれはフリーのジャーナリストであり活動家でもあるオーストラリア人ドナ・マルハーンがじかにその目で確かめてきたことである。

2003年のイラク侵略10周年を間近にひかえて公表されたこの報告書は、民間人が居住する地域でどれほどの劣化ウラン兵器が使用されたのかを初めて明らかにし、地域社会住民の健康に与える影響の不透明さを浮き彫りにしている。

ドナは、2003年以来5度目の渡航となるイラクを巡る1カ月の旅行から今週帰国したばかりだが、この問題の10年にわたる調査に加えて、医師や科学者、学者やNGO、そして民間人家族にインタビューして、イラクでの劣化ウランの影響を調査して記録してきた。

ドナが訪れた病棟では、癌で亡くなるバスラの子供たちも、ファッルージャの先天的肢体障碍児も、現代の「オレンジ剤」と呼ばれる劣化ウラン兵器の毒性遺物と関連付けられている。

オランダのNGOであるIKVパックス・クリスティが発表したこの報告書『不透明な状態で』は、イラクで劣化ウラン兵器がいかに広範囲に、またどのような状況下で使用されたかを暴いている、とドナは言う。

「それは米軍が今までずっと拒否してきたことです」と彼女は言う。

「この報告書はまた、10年たった今も多くの汚染問題は未解決のままで、市民を劣化ウランによる慢性的被曝の危険に曝していると指摘し、劣化ウラン使用に伴う経済的ならびに技術的な負担を分析しています」

「劣化ウランは人の健康と環境に明白な危険を与え、その最大の被害者は女性と子供、そしてこれから生まれてくる子供たちです。そればかりか、毒にまみれた生態系のもとで農業用地として土地を活用しようと悪戦苦闘するコミュニティー全体もそうなのです」

この争点となっている劣化ウラン兵器の使用は、装甲車両に対しては正当化されると使用国家は主張するが、『不透明な状態で』では2003年にはもっと広範囲にわたる標的に向けて使用され、攻撃が行なわれたのはしばしば民間居住地域であり、住民を汚染の危険に曝してきたことが記録されている。これは、米軍が対空および対装甲戦闘車攻撃で中口径の劣化ウラン弾を使用した結果であり、また2003年には市街地での戦闘活動の頻度が増した結果である。

報告書はまた、残された汚染がもたらす処理費用と技術的問題にイラク政府が苦闘し、米軍が劣化ウラン兵器の標的データの開示を拒否していることが状況を悪化させていると伝えている。汚染が確認された場所が300以上あると、イラク政府が限られたデータに基づいて認識しているものの、恒常的に新しい汚染現場が発見されている。現場の汚染除去は概して15万米ドルを必要とするが、周囲の環境や汚染の範囲や程度によって大幅に変化する。

健康への懸念
赤十字国際委員会の報告によると、南部イラクの部族指導者たちは、劣化ウラン被曝への恐怖がイラクで広まるなか、主要な健康懸念として劣化ウラン汚染を挙げている。

通例イラク人は、癌、先天性肢体障碍児の誕生、さらに他の病気の発生率の増加を劣化ウランと関連付けており、不安は深刻なレベルに達している。ファッルージャの健康危機に関するおびただしい報道が溢れ、それを研究者が軍事行動の毒性遺物と結びつけるのを受けて、世界保健機関(WHO)とイラク保健省によるイラク6県の肢体障碍児発生率の一大調査結果が近く公表される。

『不透明な状態で』では、軍隊由来の金属スクラップの保管や取引が貧弱な規制のもとで行なわれていることからくる重大な問題を記録している。[当初イラクを統治した米軍主体の]暫定占領当局がスクラップの取引規制を撤廃したため、無頓着な金属スクラップ収集業者に不必要な劣化ウラン被曝を負わせることとなり、また近隣諸国に汚染スクラップが輸出される結果となった。スクラップ業者は今も曝露の危険に曝され続けており、いくつもの無管理状態のスクラップ収集場近辺に生活する者も同様である。イラク政府は軍隊由来の汚染されたスクラップを分析し処理するための協力を国際社会に求めてきた。

国連総会は、劣化ウラン使用に関して更に透明性を求める決議を2度行なってきた。もっとも最近の決議は2012年12月で、155カ国が賛成した。劣化ウランの使用が危険を及ぼす可能性を認めると同時に、戦後の地域管理に予防措置原則に基づく対処を求めるこの文面に、米国、英国、仏国、イスラエルの4カ国だけが反対票を投じた(オーストラリアは棄権した)。

効果的に劣化ウランの汚染を基準以下に下げようとすることは、こういう兵器を採用している国の人々でさえ重大な難題を抱えることであり、戦争から回復しようとする国にとってはなおさらだ、とドナは言う。劣化ウラン兵器使用がこのように広く受け入れられていることが示唆するところは明らかである。

「ここで問題となるのはこういうことです。化学的毒性があり放射性の、広く危険だと認識されている重金属を、通常戦争で大量に撒き散らすことが政治的に受け入れられるのか、ということです」と、ドナは言う。

最後に
『不透明な状態で』報告書は以下からダウンロードできる。 www.ikvpaxchristi.nl/media/files/in-a-state-of-uncertainty.pdf

この問題に関してイラクで最近撮影されたビデオ映画がある。詳しい情報やドナ・マルハーンとのインタビューをご所望なら、[電話番号・メールアドレス省略]でドナに連絡を。

報告書の著者 Wim Zwijnenburg は[電話番号・メールアドレス省略]で連絡できる。

IKVパックス・クリスティについて
IKVパックス・クリスティはオランダの市民社会団体で、他の仲間の団体と共に、世界中の平和と和解と正義の実現のために活動している。

ウラン兵器禁止を求める国際連合(ICBUW)について
ICBUWは世界的な市民社会のネットワークで、メンバーはオーストラリアを含め30カ国におよび、劣化ウラン兵器に関する調査と提唱に取り組んでいる。ICBUWは、紛争時に劣化ウランを制約もなく拡散させることは放射線防護の基準に反し、民間人を危険に曝し、紛争後の回復を目指す国家に歓迎されざる重荷を負わすと主張する。ICBUWは、劣化ウランへの予防措置原則を適用するには劣化ウランの使用を排除しなければならないと唱える。ICBUWと劣化ウランに関する詳しい情報は、ICBUWのサイト(www.icbuw.org)を訪れるか、報告書『予防措置を実践に』を下のアドレスからダウンロードしていただきたい。 http://www.bandepleteduranium.org/en/docs/195.pdf

劣化ウラン(DU)
ウラン濃縮の副産物であるDUは、冷戦このかた機甲車両に対する運動エネルギー弾に採用されてきた。高密度で自然発火性を持ち、兵器製造業者に安価で供給されるDUは、それを採用する国からは効果が非常に高くて軍事的に不可欠な材料として賞賛されてきた。
その同じ国々で、DUは中レベル放射性廃棄物として国内環境、安全保障、健康と安全上の一連の問題として規制の対象となっている。紛争時における制御もないその放出は高濃度に汚染されたホットスポットを生成し、大量の汚染瓦礫を生み出す可能性がある。放射性毒性と化学毒性を兼ね備える重金属、ならびにDU弾の衝突時の発火による高温状態の金属から生成される微粒子状物質は、民間人が肺に取りこむ危険を生じさせる。DUは遺伝毒性があり(DNAを損傷する)、世界保健機関(WHO)の国際癌研究所により内部被曝の場合には、他のアルファ線崩壊核種と同様に第1級のヒトに対する発癌性が認められる物質として分類化されている。ホットスポット周辺や金属スクラップ業界で生活したり働いたりする市民は、DU残留物に慢性的に曝露され、長期的な健康被害をこうむるかもしれない。DUが飲料水源に侵入し得ることは示されてきたが、さまざまな気候条件や土壌条件でどのような環境的作用を及ぼすかは甚だ不透明なままである。
環境モニタリングやDU汚染地区の改善は、紛争後の回復途上国に技術的・経済的負担を強いており、また汚染が疑惑であろうが実在であろうが一般市民に深遠な心理的影響を与えると考えられている。

国連決議
劣化ウラン兵器に予防措置原則の適用を求めた2012年の国連総会決議 http://www.bandepleteduranium.org/en/unga-2012-vote

世界保健機関(WHO)
WHOとイラク保健省による、イラクの先天性肢体障碍児の発生率FAQ http://www.emro.who.int/irq/iraq-infocus/faq-congenital-birth-defect-study.html

原文:Back from Iraq + Important New Report
URL:  http://groups.yahoo.com/group/ThePilgrim/message/266