TUP BULLETIN

速報216号 もう一つの戦争犯罪 03年11月18日

投稿日 2003年11月18日

FROM: Schu Sugawara
DATE: 2003年11月18日(火) 午後7時17分

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サラ・フランダースさんは、IAC/インターナショナル・アクションセンター
(国際行動センター)の共同代表で、元米司法長官ラムゼー・クラーク氏らと世界的
な反戦・反差別の運動を続けています。
湾岸戦争に関し、当時のブッシュ政権を戦争犯罪として告発し、世界各地で公聴会
や法廷を開きました。サラ・フランダースさんは、その後のアフガニスタン戦争に対
するアフガン民衆法廷の共同代表にもなっています。
イラク戦争で使われた劣化ウラン兵器について、まとまった論評が公表されました
のでお伝えいたします。
IACのホームページ http://www.iacenter.org/

なお、この文書は8月に書かれたものです。もっと早くお伝えしようと準備をしてお
りましたが、手違いで遅くなってしまいました。お詫びします。

しかしながら、遅れた結果として、自衛隊派兵先とされているサマーワの状況を、タ
イムリーにお伝えできることになった次第です。

報道関係の方々は、是非、IACなどにも取材をして、知られていないイラク南部の
現実を日本の人々に伝えてください。

山崎 久隆 劣化ウラン研究会/TUP翻訳メンバー
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もう一つの戦争犯罪

劣化ウランによりイラクの街が「高放射能汚染地帯」に

サラ・フランダース
国際行動センター

米英が劣化ウラン兵器を使ったため、イラクはイラク人と占領部隊兵士の双方にと
り放射能汚染危険地帯に変貌か。
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この問題は、すでに重大な結果を引きおこしていた。

バグダッドの下町で、報道記者は環境値の1000〜1900倍にものぼる放射線
量を計測した。

クウェートにいるオランダ軍1100名は、米英主導の占領軍の一部としてイラク
に入るための準備をしているが、オランダではイラクの放射能汚染と放射線障害の危
険性について懸念が高まっており、議会やメディアで議論が巻き起こっている。

ワシントンの米政府は、オランダ軍部隊の配備予定地域のアル・サマーワについて、
オランダ政府に対し劣化ウランの使用地域ではないことを保証した。しかし自由欧州
ウェブサイトに掲載された記事によれば、オランダのジャーナリストと反戦活動家は、
既に米国の作り話に穴があることを発見している。

ボスニア、コソボ、アフガニスタンに派遣されたNATO諸国の部隊から、ガン、呼吸
器疾患、その他の障害の発生率増大が確認された後、ヨーロッパでは劣化ウランによ
る被曝に対する警報が鳴り響いていた。劣化ウランという放射性廃棄物で作られた兵
器が、環境や人体に及ぼす危険性は、米国よりもヨーロッパで強い関心を引いている。

イラクにおける今回の戦争では、91年湾岸戦争の時のように砂漠を中心とした地
域ではなく、主に人口密集地域の都市部で放射性の武器が使用された。占領参加国の
英国、ポーランド、日本、オランダの兵士と共に、イラク人の間でも何百、何千もの
重大な被害を被ることになるだろう。慢性疾患、障害、長期にわたる就労不能、遺伝
子の先天性異常の本当の被害程度は、十年間は外見上明白にはならないだろう。

これまでに、1991年湾岸戦争従軍697000人の米軍兵士のうち、約半分が
重大な病気を申告している。米国湾岸戦争退役軍人協会によれば、そのうち30パー
セント以上が慢性疾患にかかっており、復員軍人援護局の障害補償を受けている。

これらは「湾岸戦争症候群」と呼ばれる病気として認識されているが、傷痍軍人が
これほどの数に上るとは衝撃的である。大部分は30代半ばの最良の健康状態にあっ
た人々なのだ。軍は兵士を湾岸地域に送る前にぜんそく、糖尿病、心臓疾患、ガン、
先天性疾患からくる障害、あるいは長期的な健康問題をかかえている人々はふるい落
としているのだから。

長期にわたる問題

何トンもの放射性廃棄物で汚染されたイラクの主要都市で、軍の占領下の混沌とし
た状況で生き延びようとしているイラク人の存在は、遠い世界のことに思われるかも
しれない。イラク市民は、夏の激しい暑さの間の停電、一軒一軒しらみつぶしに行わ
れる家宅捜索、恣意的な逮捕、定期的に行われる道路封鎖と銃撃、処理されていない
水が流れる上下水道、未収集のゴミの山、コレラや赤痢の発生、元軍人が半分以上も
失業状態、食糧の不足(戦争前にはバース党政権により配給されていた)といった事
態に、うまく対処しなければならない。

けれども、これと共に現在の脅威は、長期にわたる問題である。世界中で次々に公
表される科学調査研究では、湾岸戦争症候群や雑多な謎の病気の高発症率について、
劣化ウラン兵器からの放射線毒性が関連づけられた。

クリスチャン・サイエンスモニター紙のスコット・ピーターソン記者は、バグダッ
ドのいくつかの場所でガイガーカウンターによる放射線量の計測を行い、その結果を
5月15日付の記事で報告した。米兵が警備し、共和国宮殿のすぐ近くの毎日
1000人以上の従業員が集まる建物から、バックグラウンドの1900倍の放射線
量を計測した。これはイラク内で「最もホットな」量であった。劣化ウラン弾の使用
済アルミニウム被覆が、地上に散乱していた。

道端のスタンドで新鮮なパセリ、ミント、タマネギを売っている傍らで子どもたち
が遊んでいる燃えたイラク軍の戦車は、環境値の1000倍もの値を示した。米国が
戦車を破壊するために劣化ウラン弾を使ったからだ。

8月4日付のシアトル・ポスト紙は、バスラからバグダッドまでの間で6箇所の極
めて高い汚染を報告した。バグダッド近郊の一台の破壊された戦車からは、バックグ
ラウンドの1500倍の放射線量を測定した。「国防総省と国連は、米国と英国が3
月から4月にかけてのイラク戦争中に、91年湾岸戦争で使った375トンよりもは
るかに多い、1100トンから2200トンの劣化ウラン兵器を使用したと推定して
いる」と、ポスト紙は書いた。

シアトルのフレッド・ハッチンソン・ガン研究センターは、イラクの戦車から採取
した物質を分析し、高い放射性物質の汚染を確認した。

放射性と化学毒性

高密度金属の劣化ウラン弾は、鋼鉄製の装甲板を容易に貫通し、その衝撃のよって
炎上する。炎上した結果、酸化ウランの微少な粉塵が放出される。この微粉末は風に
より飛ばされ、吸入・摂取されやすい。さらに土壌と水に入りこむことで、汚染地帯
が拡大していく。

人間の体内で、劣化ウランはその重金属毒性(化学的毒性)と放射性毒性(放射線
被曝)により器官に障害を与える危険性がある。

劣化ウランはウラン濃縮過程の「不要な副産物」であり、政府から無償で提供され、
極めて安価なので軍需産業には魅力的なのである。

ウラニウム医療研究センター(UMRC)によれば、ウラニウムの金属(化学)毒
性と放射線の影響により、免疫機能を衰弱させる可能性がある。それは、肺炎やイン
フルエンザと同様のひどい咳や呼吸器疾患、肝臓や胃腸の疾患を引きおこすだろう。

UMRCのアサフ・ドラコビッチ博士は、初期症状の多くは頭痛、めまい、衰弱、
筋肉疲労あるいは神経症状として表れると説明する。長期にわたる影響はガンや、そ
の他の放射線被曝に起因する症状である。慢性疲労症候群、合併症として筋肉痛、発
疹、神経学的な障害あるいは神経の損傷、精神不安、感染症、肺と腎臓の損害、視力
障害、自己免疫の喪失や、ひどい皮膚症状のような、被曝に関連した病気、そして、
流産、妊産婦の死亡、遺伝子の先天性疾患を増大させる。

何年もの間政府は湾岸戦争症候群を「心的外傷後ストレス障害」だと説明してきた。
それは心理的な問題と分類されるか、あるいは謎の(被曝とは)無関係な病気として、
まったく軽く扱われた。この同じ方法で国防総省と復員軍人援護局はエージェント・
オレンジ(ベトナム戦争に使われた枯れ葉剤)の中毒症状に苦しんだベトナム退役軍
人の健康問題を扱ったのである。

もみ消し

米国政府は、劣化ウランと病気との関係を否定している。しかし国防総省の内部報
告では、劣化ウラン兵器が最初に広範囲に使用された湾岸戦争よりも前に、すでに劣
化ウランの放射線被曝と重金属毒性により、腎臓、肺、肝臓障害とガンの発生率増大
を引きおこす可能性があると警告されていた。

こういった危険を無視し、国防総省は兵器を使い続けた。それは戦車戦で特に大き
な利益をもたらした。けれども、戦後兵士の間に途方もない高率で発生した病気と劣
化ウラン使用との関係は否定した。

今日、国防総省はもっと二枚舌を使い続ける。劣化ウランに関連する「概知の」健
康問題は無いと断定し続ける。しかし陸軍訓練マニュアルでは、劣化ウランにより汚
染された装置や地域に25メートル(原文は75フィート)以内に近づくには、空気
呼吸器の着用と皮膚防護用に防護服が必要としている。「汚染は食物や水を、摂取す
るには安全でないものに換えてしまう」とマニュアルにある。陸軍環境政策研究所に
よれば、一つの劣化ウラン弾を所持していると、その被曝量は一般人の年間被曝限度
の二倍に相当する、毎時2ミリシーベルト(原文では200ミリレム)に達するとい
う。

3月から4月にかけて、米英軍は人口密集地の都市部に何十万発もの劣化ウラン弾
を撃ち込んだ。非常に細かい酸化ウランの粒子が、砂嵐に含まれて拡散した。

それにもかかわらず国防総省は、劣化ウラン弾が撃ち込まれた地域を隔離すること
も、使用地域を追跡調査することも拒否している。摂氏50度(原文は120度)の
暑さの中で、イラク人はもとより占領軍の兵士であっても、汚染地域から25メート
ル離れるとか、空気呼吸器や防護服の着用などは非現実的な話である。米湾岸戦争退
役軍人協会(AGWVA)は、病に苦しんでいる退役兵士が医学的治療を受けていな
いか、いたとしてもごくわずかであると報告している。「退役兵士が病気になるとき
は決まって、最初で、しばしば唯一の診断に「謎の病気」という用語が使われるよう
だ。それで退役兵士は、病にかかり、普通の生活に復帰する希望をほとんど絶たれ、
働くこともできずに自らの自助努力を余儀なくされる状態におかれるのだ」。

イラク保健省は、データにもとづくガンの高い発生率と劣化ウラン兵器の関係につ
いて、二つの国際会議を組織した。それは詳細な疫学報告と統計調査に基づいたもの
である。このデータは、乳ガンが6倍、肺ガンが5倍、卵巣ガンが6倍に増大してい
ることを示している。

米国により課された経済制裁のために、イラクの医師や科学者は、世界のほとんど
の場所で研究論文の発表を禁止されてしまった。

AGWVAのダグラス・ロッキーは、米国の劣化ウランプロジェクトの前責任者で
あり、自らが劣化ウランの影響を受けてひどい呼吸器疾患にかかっていながら、劣化
ウラン反対運動に取り組んでいる。ロッキーは現在、イラクの米軍兵士が、すでに一
連の湾岸戦争症候群になっていると報告する。

AGWVAは、この戦争で少なくとも100名の男女を病気にさせた「謎の肺炎」
の出現と兵士の「謎の死」に関する情報を、国防総省は持っているはずだと主張して
いる。

米国の立場;汚染除去作業はしない

英国が、イラクでの主要な戦闘行動において英国製チャレンジャー戦車から約
1.9トンの劣化ウラン弾を発射したことを認めたが、それにもかかわらず米国は、
軍事作戦で、いつ、どこで、劣化ウランを使ったかの情報を公表することを拒否した。
そして国連環境計画(UNEP)調査チームがイラクで劣化ウランの汚染調査を行う
ことも拒否している。

こうした拒絶にもかかわらず、米国が劣化ウラン兵器を大量に使ったことは周知の
事実だ。これらには発射速度が最高4200発/分の30ミリ機関砲を持つA-10
ウォートホグ戦車攻撃機、AC-130ガンシップ、アパッチ攻撃ヘリ、ブラッド
レー装甲車や105、120ミリ戦車砲弾を含む。

米国はバルカン戦争でも同じ策略を使った。UNEPバルカン調査への全面的協力
を表明するまでに、16ヶ月間も撃ち込まれた地点の公表を延ばし、さらに地図情報
も不正確で、爆弾やミサイルやクラスター爆弾の着弾点も除外された。NATOは
UNEP調査が始まる前に、10もの他の調査チームが現場に立ち入り、あるいは場
所の清掃を行うことも許した。

ワシントンは、劣化ウランの使用も、その危険性も認めることを拒否し続けている。
放射能汚染は直ちに除染の要求となって現れることを認識しているからである。

BBCのアレックス・カービー環境問題特派員によると「米国はイラクで使用した
劣化ウランやその残骸を除去する計画を持っていないと言っている。その理由は、汚
染除去が必要なほどの長期間にわたる影響が無いことが、これまでの研究でわかって
いるからだそうだ。」

劣化ウラン使用の証拠

しかしこの情報化時代に、国防総省が全ての証拠を隠蔽できるはずもない。オラン
ダの例はそのことを示している。米国政府は、オランダ軍が配備される予定だった、
サマーワの周辺で、劣化ウランのいかなる使用も否定したが、ジャーナリストが単純
にインターネット検索を行っただけで、このウソを見破った。

オランダ政府は派兵決定を国会で認めさせるために、サマーワは人の余り住んでい
ない砂漠で、注目に値するようなことは何も起きていないと説明した。

実際はサマーワはユーフラテス川に架かる橋への進入路にあたり、バスラからバグ
ダッドに通じる戦略上の要衝に位置している。米軍士官によれば、米軍がバグダッド
に侵攻した際、そこですさまじいイラク軍の抵抗に遭遇した。これは従軍取材の報道
でも十分伝えられている。

町や道路の抵抗点が全部除去されるのに一週間以上もかかり、112名の文民が戦
闘に巻き込まれて死亡したが、大部分がサマーワの住民だった。

劣化ウラン弾はこの戦闘でも広範囲に使用された。戦場に広く配布された文書で、
第三歩兵師団第七騎兵隊所属の一等軍曹クーパーは、サマーワとナジャフへの進撃途
中に兵器システム、特に25ミリと7.62ミリの劣化ウラン弾が、その能力を十分
に発揮したと報告している。

インターネット上に公表されている、若い兵士が実家の両親に宛てた戦場報告が、
特に研究者にとって重要だった。E.ペネルはサマーワの町で7人のイラク兵に遭遇
した際、第一歩兵大隊第41連隊所属のブラッドレー装甲車の乗員がどのような方法
で25ミリ劣化ウラン弾を発射したかを記述している。

ペネルの手紙はオランダ軍人労組のような団体に懸念を強める結果になった。その
メンバーは、劣化ウラン弾に曝されることで、ガンやその他の病気にかかるリスクが
あるかもしれないと恐れている。

レジスタンス:唯一の解決

帝国主義国家の軍人と政治家は、常に下士官や兵士を砲弾の餌食として扱ってきた。
これらの若い兵士の命は自由に扱える。占領された国の人々の犠牲も全く数えられる
ことはない。

軍事政策の立案者が戦争の本当のコスト、特に人的損害を隠蔽することに多大な労
力を費やしたのに対して、帝国主義戦争に対する世界的な運動は、これまで一世紀に
わたり高まってきた。ベトナム戦争で60000人近い米国の死傷者は、強力で大規
模な反戦運動を引き出した。今回は、米国兵士の死傷者が100名に達するずっと前
から、「兵士を家に返せ」という運動が勢いを増しつつあった。

この新しい運動では、不可欠なものとして、戦争の巨大な人的経費の本当の決算が
必要とされる。米国兵士だけではなく何百万人のイラクの人々の健康と未来に対する
影響も要求の一部でなければならない。

高まっている国際的な動きは、イラクの人々のために完全な補償を要求しなければ
ならない。化学毒性のある放射性廃棄物の除染は、地域の全ての人々にとっての権利
である。戦争のコストは、米国との戦争により破壊され数年にわたり破綻した社会福
祉、保健制度についても計算されなければならない。

サラ・フランダースは国際行動センター(IAC)の共同代表であり劣化ウラン教
育プロジェクトのコーディネーターである。また、「不名誉な金属 劣化ウラン」
(訳注;日本語版は「国際行動センター・劣化ウラン教育プロジェクト編、新倉修/
監訳『劣化ウラン弾』(日本評論社刊)」である)の本に寄稿していて、同名のビデ
オ制作にも協力した。
IACは劣化ウラン問題をジュネーブの国連人権委員会に提訴するための国際行動
に取り組み、2003年イラク戦争前に、汚染測定を支援した。

原文:http://www.khilafah.com/home/category.php?DocumentID=8116&TagID=2

(翻訳 山崎 久隆 劣化ウラン研究会/TUP翻訳メンバー)