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【差し替え稿】 TUP速報223号 星川 淳のピースウォッチ#6  03年11月25日送付

投稿日 2003年11月29日

FROM: Schu Sugawara
DATE: 2003年11月29日(土) 午後6時09分

TUP読者の皆様、

11月25日にお送りした「TUP速報223号」星川 淳のピースウォッチ #6
の最後の部分の原文クレジットが抜けてしまいました。重要な論考ですので、お
差し替えの上、ご利用いただきたく、よろしくお願いします。

TUP速報係

菅原 秀
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■■□■  ★彡 星川 淳のピースウォッチ #6(03.11.25) ■
■■  ■ for TUP ■ □
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………………… 気になる海外ニュース&論考をダイジェストで …………………

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> 侵略の動機
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★彡 今回は文字どおり「気になる」論考をご紹介します。他のTUPメンバー
が掘り出してくれたものですが、不思議な説得力があって頭を離れません。ここ
までブッシュ政権の支離滅裂と非道ぐあいを見せつけられると、まったくの杞憂
と思えないところがあります。また、元国連査察官スコット・リッターが、もし
イラクで戦況が不利になった場合、いまのアメリカは核兵器を使いかねないと強
調していたことも思い出します。それでも、こうでないことを祈ります。

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by マイケル・ドライナー

マキャベリの『君主論』はいう。
「新しく征服した民には占領軍その他の重圧を与え、占領で傷つけた人びとの敵
意を買う。征服の後押しをした友人たちは、結果に満足せず離反するが、味方だ
から叩くわけにいかない。武力ではめっぽう強くても、異国へ入ったらそこの住
民の善意が欠かせない。……しかし、兵士を植民地にとどめ置く代償はもっとあ
る。軍費は国庫を枯らし、征服で分捕った以上の損失が出るし、国全体が傷つい
て怒りを抱く者が増える。占領地を軍が行き来するごとに、住民は苦しみを味わっ
て敵意をつのらせる。自国で敗地にまみえた者たちだが、反撃する力はある。つ
まりどう考えても、植民地は有益な反面、それを守るのは無益なのだ。」

◎ ◎

統治に関心がある人間にとって『君主論』は必読書に入るから、イラクに戦争
をしかけた人びとは、当然この一節を知っていただろう。イラク侵攻計画はもと
もと無理なもので、それを進めた連中は完全な無能か、あるいは現状がそれほど
狙いと外れていないかのどちらかと考えざるをえない。もちろん、レジスタンス
がこれほどしぶといのも、戦争の名目がここまであからさまにウソだとばれるの
も予想しなかったはずだが、イラクがまともな国に立ち直ることなど予定してい
なかったのではないか。国を安定させるつもりなら、官僚機構を崩壊に追い込ん
だり、軍を解体してしまったりするのは禁じ手だが、国を壊すつもりなら理にか
なう。まったくの無能でないかぎり、彼らは戦後の混乱をわかっていた。

イラク再建は、経済的に見てもバカげている。アメリカ占領のもとでのイラク
復興などけっして起こらないだろう。イラクの債務状況は見積もりによって60
0億ドルから数千億ドルまで差があるが、米戦略国際問題研究所(CSIS)の
試算だと1270億ドルで、そのうち470億ドルが未払利息。さらに湾岸戦争
の賠償金が1990億ドル、フセイン政府が各国の政府や企業と結んだ未決契約
が570億ドルで、イラクの負債は合計3830億ドルになる。この数字にもと
づけば、イラクの債務はGDP270億ドルの14倍、つまり国民一人あたり1
万6000ドルの巨額にのぼる。債務とGDPの比率でいえば、イラクの負債は
ブラジルやアルゼンチンの25倍で、途上国中最大の債務国だ。

GDP270億ドルは侵攻前の石油収入だが、現在はよくてその3分の1とさ
れ、戦前の日産2400万バレルまで戻すには、インフラ整備に最低100〜1
50億ドルの資本投下が必要と考えられている。いまのような政治的泥沼で投資
する石油会社はなく、投資がなければイラクのGDPは借入金の利子にも遠くお
よぶまい。戦後すぐに債務帳消しを主張する声が多く出たものの、耳を貸す債権
者はいなかった。5月に国連でブッシュ政権が12以上の債権国にイラクの債務
帳消しを求めたのに対し、米主導の侵略に反対した仏独ロはほとんど反応せず。

ゴールドマン・サックスグループの取締役で、レーガン政権の国務次官補代理
をつとめたロバート・ホーマッツは、ロシア、ポーランド、エジプト、ドイツな
どに対する負債と、90年のクウェート侵略に対する賠償金の扱いが、復興の足
枷になる可能性を指摘する。フォード政権とカーター政権でも経済顧問をつとめ
たホーマッツによれば、これは史上最大の債務交渉で、確執も最悪になるだろう
という。支配的立場の国々はほとんど債権がないため、債権国に帳消しのプレッ
シャーをかけるいっぽう、債権国は見返りの利権を求めるからだ。

米国のスノウ財務長官が先進7か国財相会議でこの問題を取り上げたところ、
パリクラブのような国際会議で議論することに前向きな国もあったが、公の場で
それ以上の提案は出なかった。ホーマッツによると、戦前の日産2400万バレ
ルの石油売上げが回復するまで、最大1000億ドルかかる復興資金がとうてい
まかなえないため、イラクの債務削減は成否の分かれ目になる。

5月以来、状況は改善どころか、イラクの破壊と人びとの困窮が進んだだけで、
いまや国民のほぼ100%が国際食料援助に頼る。しかしゲリラ攻撃で国連は援
助事業を管轄できず、復興の推定費用は毎日上昇するばかり。とにかく、イラク
は債務免除により白紙からやり直せないかぎり、この破滅的状態を抜け出せまい。
しかし、アメリカの支配下にあるかぎり、そのような道はたどれない。なぜなら、
アメリカが対イラク債権放棄に賛成すれば、それはロシアが旧ソ連から引き継い
だ債務や、ラテンアメリカ諸国がかつての独裁者たちから引き継いだ債務の放棄
も認めることになりかねないからだ。

結局、アメリカがイラクに居座るかぎり、イラクの混乱は続き、おそらくその
混乱は周辺諸国にも広がっていく。このような結果を予想することは難しくなかっ
たはずだが、ブッシュ政権はこういう結果を狙ったのだろうか? 同じく、イラ
クの債務や再建費用の見積もりも、侵攻にともなう政治的混乱の予想も難しくな
かったはず。ブッシュ政権に足し算や政治的思考のできる人間がいないのか、最
初から再建など頭になかったのか。無能なのか計算づくなのか――。

マキャベリが『君主論』を著した16世紀はじめには、その国の富を吸い上げ
るには国民が必要だった。しかし石油というイラクの富は、国民がいないほうが
もっと値打ちが上がる。国民など石油会社が原油を汲み上げる邪魔になるだけだ
ろう。石油を吸い上げ、OPECを弱体化し、イスラエルが周辺アラブ諸国と戦
うのを助けることが動機なら、イラクを壊滅状態にして二度とレジスタンスが起
こらないような計画を立てたはずだ。もしそうだとしたら、ブッシュ政権はまだ
まだ破壊を進めるだろう。レジスタンスがもう数か月続けば、アメリカ国民はそ
んなとどめを刺す心の準備ができるかもしれない。

一国の政治構造を壊滅させ、国民から搾取に抵抗する力を奪うことは、おぞま
しいけれども、マキャベリ流には理にかなった政治目標といえる。ブッシュ政権
は、大量破壊兵器やアルカイダ・コネクションその他の名目から、これほど化け
の皮がはがれるとは予想しなかったろう。何かかにか言い訳の立つ材料が出てく
ると思っていたにちがいない。そうなれば支持は高まっただろうが、それがなく
てもまだ支持率は高い。最悪の場合、計画の成就は再選後にのばせばいい(小型
戦術核兵器はいま準備中)。最初からイラクの破壊が目的だったなどという発想
は恐ろしいものだと認めるが、ブッシュ政権がまったくの無能者集団でないかぎ
り、本気でイラク復興を信じていたとはとうてい思えない。そして、可能性はこ
の二つにひとつしか思いつかない。

アメリカがイラクにとどまり続けることは、完全な破壊という目的しか達成し
ないだろう。イラクはアメリカのもとでは立ち直れない。マキャベリの慧眼。イ
ラク国民はここまで痛めつけられてしまった以上、アメリカも、その傀儡(かい
らい)もけっして受け入れまい。復興には巨額の費用と債務帳消しが必要だから、
アメリカ(ないしその傀儡)政府のもとでは進みようがない。イラクを破綻国家
にして、そこから石油を搾り取る以外に、アメリカが達成できる目標は考えられ
ない。そんな政策を追求すれば、アメリカと世界の関係がどうなるかは容易に想
像がつく。しかし、最初からこういう計画だったとしても、私は驚かない。帝国
主義的な野望を公言してはばからないブッシュ政権なら、いかにもやりそうなこ
とだ。
【11月22日 アンチウォー・ドット・コム】

[マイケル・ドライナーは、1964年から70年にかけてシカゴ大学でハンナ
・アーレントと机を並べ、ヴァルパライソ大学とイサカ大学で教鞭をとったのち、
現在はイサカで事業を営む。]

(抄訳:星川 淳/TUP)

The Motive for the Invasion
by Michael Doliner, Antiwar.com
November 22, 2003
http://www.antiwar.com/orig/doliner2.html