TUP BULLETIN

速報323号 注文の多い選挙応援演説 04年6月17日

投稿日 2004年6月16日

FROM: Schu Sugawara
DATE: 2004年6月17日(木) 午前0時56分

◎注文の多い選挙応援演説
アメリカ軍事基地戦略に対する批判の急先鋒のひとり、あのチャルマーズ・ジョンソンがジョン・ケリー上院議員の大統領選挙運動の応援演説と聞けば、首をかしげる読者もおられるでしょう。でも、内容を読めば、選挙民としての注文が宮沢賢二の料理店なみに多いようで、納得できます。「レストラン山猫亭」の客は店主からの要求に戸惑いながらも従いましたが、ケリー候補は支援者の声に応えてくれるでしょうか? /TUP 井上
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凡例: (原注)[訳注] [数字]=巻末に出所サイト一覧(英文)。
U.S.の訳語として、本稿では「合州国」を用いる。ただし、他の文献からの引用ではママ。
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トムグラム: チャルマーズ・ジョンソン、ケリーを大統領に推挙
トム・ディスパッチ 2004年6月10日
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[編集者トム・エンゲルハートによる前書き]

ほんの二日前、ワシントン・ポストにハワード・カーツが書くメディア短評

[1]に次の一節を見つけ、けっこう楽しめた――「こういうのは、11月にはなんの意味もなくなっているだろうが、読者もご承知のように、今の時節、他にこれといったニュースはない。まるで、80年代に戻ってしまったかのようだ。テレビを観れば、ベイカー、ミース、ディーバー、シュルツ[いずれも往年の政治の顔]ばっかりで、ゴルバチョフや共産党の話でもちきりである。欠けているのは、ビリー・ジョエル、バリー・マニロウ、ボブ・シーガーのバックミュージックだけだ」

テレビの外の世界は、もちろん現在の混乱と不和の中であいかわらず動いているが、メディアがこぞって同じ特報ダネに跳びつき、報道枠が目一杯にふさがるまで膨らませ、弾けてなくなるまで追っかけてくれるありさまなので、今週、わたしたちの耳目を集めていたのは、ロナルド・レーガンのブーツを後ろ向きにつけて夕日に向かって運んだ、乗り手のいない馬[大統領経験者の葬送儀礼のひとつ]の名前と経歴についてのこまごまとした話題だけ、あるいは、わがアメリカ軍は、今回のも含め国葬を演習・準備するのが専門の一部隊を抱え、レーガン政権が1989年に編纂し、毎年改訂されてきた300頁の国葬企画書[2]が存在するという興味深い事実だけだった。

では、今回のトムグラムは、わたしなりの対抗番組だと考えてほしい。本稿は、チャルマーズ・ジョンソンが、南カリフォルニアの民主党クラブに、今年11月の大統領選挙にむけて、ジョン・ケリー上院議員に対するできるかぎりの支援を依頼され、同クラブで行った応援演説である。わたしからも、かれのスピーチにちょっとした注釈を加えておこう。かれは、イラクにおける「方針堅持路線」がアメリカ国民を災難の淵に追い込んでいると感じている、さまざまなアメリカ軍人の言葉を引用している。米軍士官たちも含めて、みなさんは、政権傘下の国務省には「パウエル・ドクトリン[自国側の損失を最少に抑えるための基本戦略]」があるにもかかわらず、ブッシュ政権は「出口戦略」など持っていなかったと驚きを隠せないだろうが、これには理由があって、ただそれが論議されることは滅多にないだけである。出口戦略の欠如は、占領下イラクにまつわる生半可な計画や夢物語ぜんたいの核心部分に位置づけられ、少なくとも民間「請負企業」と陸軍技術部隊が、わたしたちのお金を何十億ドルと使って、恒久基地を建設している間は、あらゆる意味で計画に織り込み済みなのだ。ブッシュ政権の戦略家たちが撤退計画などは立案しなかったので、出口戦略は存在しない。これは、判断上の誤りではなく、かれらの意向そのものであり、イラクにおけるアメリカの戦争のまぎれもない真実なのである。

さて、国をあげて、考えうるかぎり美しく編集された第二次世界大戦とレーガン時代のテレビ映像に浸りきっていた2週間を振り返って、もう一言いっておきたい。これがレーガンのショーであれ、ブッシュのショーであれ、他の誰かのであれ、まがいものの夢の雲で作った綿菓子のようなノスタルジックな世界に長く漂っていることもできるだろう。このようなものに夢うつつでいると、目が覚めたとき、水のないプールの底で震えていることになる。/トム

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『スペインにおけるサパテロ首相の選出は、わが陣営の最初の勝利』
――チャルマーズ・ジョンソン
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アメリカは本物の危機に直面しております。この危機は、イラクにおけるブッシュの政策の軍事的失敗、あるいはアメリカの軍部と諜報部門の不名誉、すなわち堕落、無能、犯罪性の暴露にとどまるものではありません。危機は、なににもましてアメリカが法秩序を蔑視したがために、国際的に孤立と面目失墜を招いてしまったことにあるのです。合州国憲法第6条から抄録すれば、「合衆国の権限をもってすでに締結され、また将来締結されるすべての条約は、国の最高の法規である」とうたわれています。戦時における戦争捕虜と民間人拘留者の処遇を定める1949年ジュネーブ条約は、アメリカ政府が成立に努め、署名し、批准した国際協定なのです。したがって、国の最高法規です。大統領と国防長官のいずれも、ジュネーブ条約を改変し、または順守するか否かを決める権限を与えられていません。ブッシュ大統領が発明した「非合法戦闘員」「邪悪な者」あるいは「ならず者」などという前代未聞のレッテル貼りは、またそういう部類に指名された人物を、起訴もなく、裁判を受ける権利を与えず、弁護士もつけず、無期限に勾留する一方的な権限があるとする主張は、憲法の乗っ取りそのものなのです。国際刑事裁判所を開設する条約をアメリカが批准すべきだったのは、疑問の余地がありません。この裁判所において想定される訴追対象は、正真正銘のテロリストたちやサダム・フセインのような人物によるものだけではなく、ブッシュ大統領が犯した類の犯罪なのです。

前副大統領アル・ゴアは、ニューヨーク大学における5月26日の講演[3]で、「(ブッシュの)政策のせいで、わたしたちは安全を損なっています。わたしたちが国として存在してきた228年の歴史で、かれほどに、アメリカ国民であるわたしたちに対する怒りと正当な義憤を掻き立ててしまった国家指導者はいません。自分に賛同しない相手は、いかなる人物、機関、あるいは国家であれ蔑視で望むという、かれの態度のせいです」と述べました。

いかにアメリカがアフガニスタンとイラクの国民に自由をもたらしたかと吹聴し、どこまでも善人面していても、米軍と遭遇した両国の市民は、たとえ生き残ったとしても、ほぼ例外なく生活が破壊されてしまったことをわたしたちは知っています。リバーベンドは、精神的に強い、無名のイラク人女性ですが、「イラクからの女性ブログ」というサブタイトルがつけられたインターネット日記『バグダッド・バーニング』を記しています――5月7日「時々解決策を提案せよと言ってくるEメールを受け取る。いいわ。本日のレッスン。強姦するな、拷問するな、殺すな、そして、できるうちに、つまりまだ選択の余地があるうちに、出ていくこと。混乱が起きるって? 内戦が? 流血が? 私たちは私たちの運命を引き受ける。だから、あなたたちの操り人形、あなたたちの戦車、あなたたちの精密兵器、あなたたちの愚かな政治家、あなたたちの嘘、あなたたちのカラ約束、あなたたちの強姦魔、あなたたちのサディスティックな虐待者を連れて出ていって」[翻訳:山口陽子/リバーベンド・プロジェクト] リバーベンドのインターネット報告[4]は、アメリカが「予防戦争」の名のもとに侵略した国に、わたしたちが押しつけた惨事を理解するために欠かせないものになっています。
[リバーベンドの日記『バグダッド・バーニング』日本語サイト:
http://www.geocities.jp/riverbendblog/ ]

お前はゴアのような反ブッシュ政治家を引き合いに出しているだけだ、あるいは、きわめて文学的ではあるが、紛いなく反米主義のバグダッド女性を引用しているだけだと、あなたがたは考えておられる。では、音に聞こえた米軍高位高官の何人かの見解を紹介してみましょう。

4月14日の記者会見で、ブッシュ大統領は「我われはイラクで既定路線を堅持しなければならない」と何回も強調しましたし、ジョン・ケリーも同意見ですが、自分ならもっと上手くやれると主張しております。問題は、元米中央軍司令官アンソニー・ジニ大将がニュース番組「60ミニッツ」で語った[5]ように、「既定路線はナイアガラの滝にまっしぐらに向かっている」ことにあるのです。海兵隊の元司令官ジョセフ・ホアー大将は、「わが国は完全に失敗の瀬戸際にあると信じています。我われは奈落を覗きこんでいるのです」と言いました[6]。ジニにしても、ホアーにしても、退役軍人です。では現役はどうかと言えば、第82空挺師団司令官であるチャールス・スワナック陸軍少将は、ワシントン・ポストにわが国はイラク戦争で負けているかと質問されて、「戦略的に考えて、我われの負けです」と答えています[7]。海兵隊のウィリアム・ウィットロー少将は、ワシントン・ポスト論説面に「戦略形成の基本原則、すなわち『戦争終結』局面戦略が見過ごされていた……今は、欠陥のあるイラク政策の責任をとるべき文官と軍人の公職からの引退を、大統領が求めるべき時である」と書いています[8]。

要するに、アブグレイブ監獄の拷問スキャンダル、チャラビ疑惑、CIA長官テネットの辞任、チェィニーに縁故があるハリバートン社の戦争利権、その他もろもろの最近の事態によって、アメリカの信用があまりにも損なわれてしまったので、わが国としては、撤退するか、追い出されるか、二者択一しか残されていないのです。

イラク戦争は、アメリカの対外政策史上で、おそらくもっとも深刻な自傷行為なのでしょう。その原因はアメリカの帝国主義および軍国主義にあり、わたしの新刊本『帝国の悲哀――軍国主義、秘密主義、共和制の終焉[9]』はこれをテーマにしています。ここで、わたしにとって帝国主義と軍国主義がなにを意味しているのか、ハッキリさせておきましょう。

ペンタゴンの不動産年次目録、いわゆる「基地造営物報告」によれば、アメリカは、世界132ヶ国ほどに725ヵ所以上の軍事基地を持っています。この米軍基地の巨大なネットワークが、旧い形態の帝国主義における植民地ではなく、新しい形の帝国、つまり軍事的飛び地の帝国を形成しています。

米軍が海外に配備している人員は、兵士、スパイ、技術者、扶養家族、民間請負業者をすべて加算すると、50万人を優に超えています。アメリカは、世界の海を支配するためにざっと13空母艦隊を保持し、それが海上に浮かぶ軍事基地の機能をはたしています。しかも、基地造営物報告にも記載されていない、おびただしい数の諜報基地を動員し、自国民を含む世界の人びとの通話、ファックス、Eメールを傍受しています。

米軍の海外軍事基地は、軍隊のための兵器を設計・製造、あるいはアメリカの前哨基地を設営・維持する業務を請け負う民間企業に利益をもたらしています。後者の代表株が、テキサス州ヒューストンに本社を置くハリバートンの子会社、今さかんに報道されているケロッグ・ブラウン&ルーツ社なのです。帝国将兵に、快適な居住区、十分な食事、娯楽、楽しくて料金が手ごろな休養施設を提供する業務も、民間請負業者の仕事のひとつです。

米軍基地は、住民にとって、生活の場としても、職場としても、居心地は必ずしも悪くありません。志願制になった現在の兵役は、第二次世界大戦、朝鮮戦争、あるいはベトナム戦争のころの軍務とはすっかり様変わりしています。洗濯、「炊事担当」、警備、トイレ掃除など、雑務のおおかたは民間軍需企業に外注されています。イラクにおける戦費の丸まる3分の1、約300億ドルは、まさにそうした業務の代価としてアメリカ民間企業に渡っています。

米軍が好んで基地の模範にしているのは、アメリカ国内の人口密集地である大都会近郊の街ではなく、バイブル・ベルト[南・中西部の聖書信奉地帯]のキリスト教原理主義者が住む小さな町なのです。例えば、海外の米軍基地には、女性現役兵士、配偶者・親族など、10万を超える女性が居住していますが、現地の陸軍病院で中絶は禁止されています。軍隊内で年間約1万4000件の性的暴行および同未遂が発生していますので、海外で妊娠し、堕胎を望む女性は、自費で帰国するなり、現地社会でなんらかの方策を探すしかありませんが、バグダッドであれ、今日の帝国のどこであれ、それは簡単にできることでも、愉快なことでもありません。

海外に派遣されたアメリカの軍人たちは、自己完結型の閉鎖空間に居住し、移動手段も、空輸機動司令部がグリーランドからオーストラリアまで世界各地のアメリカ前哨基地を結んで運航する、自前の路線網をにお任せです。将軍たちや元帥たちのためには、軍御用達のリアジェット71機、ガルフストリームⅢ型13機、セスナ・サイテーション豪華ジェット17機が用意され、バイエルン・アルプス山地ガルシュミッツのスキー保養センターでも、あるいは世界234ヵ所のペンタゴン直営ゴルフ場のどこへでも連れていってくれます。ドナルド・ラムズフェルド国防長官は、空軍型式名でC32Aと呼ばれる専用機ボーイング757で飛びまわっています。

帝国主義は、軍国主義を固い契りの伴侶としています。ここで言う軍国主義とは、国家の防衛に関連するものではなく、既成事実としての軍隊の既得権、すなわち、アメリカ政府の民生部門予算を侵食する軍事基地の拡張や、軍隊、軍事シンクタンク、軍需産業に就職して生計を立てるといったことに関連しています。軍役は、わたしが海軍に就役した1953年のころとは違って、市民の義務ではありません。1973年からこのかた、軍役は職業選択肢のひとつになっていて、アメリカ社会のどん底やなにかから抜け出したい市民が選ぶことが多いのです。だから、米軍兵力に占めるアフリカ系アメリカ人の割合は人口比の2倍に達して、女性兵士の5割が少数民族出身者で占められているのも、この理由によっています。陸軍上等兵ジェシカ・リンチは、バグダッド攻撃期間中にナシーリアで負傷しましたが、入隊の動機をメディアに質問されて、「ウエストバージニア州パレスタインのウォルマートに就職できなかったから」と答えています。「生まれた町から出るために、陸軍に入隊したのです」彼女は、入隊を勧誘された時、官給品窓口担当なので、撃たれる心配はないと言われていました。

今日、アメリカはプロの常備軍を抱え、これに、1兆ドルのほぼ4分3、約7500億ドルの年間経費がかかっています。この金額には、国防総省予算に占める武器・人件費4270億ドル、別口でドルイラク・アフガニスタンにおける経費750億、エネルギー省の核兵器資金200億ドル、それに退役軍人の年金・障害補償に少なくとも2000億ドルが含まれています。政府はこれらの支出を支払っているのではなく、借り方に記載しているだけです。今日、アメリカは近代経済史上で最悪の財政・貿易赤字に陥っていることを考えますと、軍国主義は、まさしくアメリカを破産に追い込む脅威になっているのです。

アメリカ史を見渡してみますと、軍国主義を警告する、もっとも有名な声が二つあって、そのいずれも大統領にのぼりつめた著名な軍司令官によるものです。最初のは、1796年の大統領辞任演説で述べられたジョージ・ワシントンによるものです。かれは「過大に膨張した軍事組織は、いかなる政体のもとにあっても、自由にとって不吉であり、特に共和政体の自由にとって敵であると見なされる」と述べました。この警句の鍵になる言葉は(小文字で書かれた)共和政体の自由です。ワシントンは、アメリカ政府権限の行政・立法・司法機関への分割、および三者間の抑制と均衡を説いたのです。その意図は、特定の一機関 または一人物に権力が集中し、その機関または人物が独裁権力をふるう事態を防ぐことにありました。常備軍が行政機関のなかで権力を集中すると、ワシントンは警告しました。常備軍が、結局、税の膨張と国家官僚機構の拡大に繋がり、今日のアメリカに見られるような帝王的大統領制を招くのです。わたしたちの政治形態において、権力分立こそが、わたしたち自身の自由を守る肝心要な防壁なのです。常備軍の膨張が権力バランスを崩壊させるようなことになれば、権利章典といえども一片の紙屑になってしまいます。

ワシントンの辞任演説に負けず劣らず重要なのが、1961年のドワイト・D・アイゼンハワー大統領による辞任演説でした。アメリカの巨大な軍事機構の背後にある既得権について、かれは国民に警告したのです。かれは言いました――「今日、わが国の軍事組織は、わたしの前任者たちの誰もが知っていた平時におけるそれとは、あるいは戦時、第二次世界大戦や朝鮮戦争の戦士たちが知っていたそれとは、似ても似つかないものになっています。わが国が関わった最近の世界紛争のころまで、アメリカには軍事産業は存在しませんでした……しかし今では、男女350万人が防衛体制に直接従事しているのです。わが国が毎年支出する軍事防衛費は、全アメリカ企業の純利益総額を超えています。このような巨大軍事機構と大規模兵器産業の結合は、アメリカ史における新しい経験です……政府内協議によって、わたしたちは、求められたものであれ、そうでないものであれ、軍産複合体による正統でない影響力の波及を防止しなければなりません。わたしたちの自由あるいは民主政治を、この連合の影響力が危うくするのを許してはなりません。わたしたちは看過してはならないのです」

残念ながら、わたしたちアメリカ国民はこの警告を心に留めなかったので、今日、国防総省とそれが支える軍産複合体がわが国政府を牛耳っています。わが国が対外関係で使う資金の93パーセントが、ペンタゴンの自由になり、国務省が握っているのは7パーセントだけです。わが国最大の兵器メーカーはロッキード・マーティン社です。イラク戦争勃発の前年、ロッキード・マーティンの利益は約36パーセント増大しました。戦争で同社の景気がよくなって、利益がますます膨らむことでしょう。

わたしは、『帝国の悲哀』の最終章をそっくり割いて、予測しうるアメリカの帝国主義および軍国主義の帰結、すなわち恒久的な戦争、共和制の終焉、公権力による虚偽と偽情報、そして破綻について記しました。わたしは、わが国の内部でこうした事態が進行しているありさまを記録しました。みなさん、わたしの分析を、どうかお読みになってください。わが国の共和制、そして共和制が護持する市民の自由権を失いたくないなら、情報が必要です。市民に知らしめないように、わが国の政府は総力をあげて努めていますので、必要な情報を市民が持っていないことは分かっています。不注意な市民を動かして、そのような情報に触れていただくことが、わたしの意図なのです。

今日は、ジョン・ケリー候補を支持する集会ですので、話題をかれへの応援に移し、はたしてアメリカ帝国の衰退と崩壊を防ぐことができるのか、問うことにしましょう。わたしが思うに、ケリーを応援するにさいし、考慮すべき主要な論点が4つがあります。第1に、かれは「チキンホーク[口先だけのタカ派]」ではありません。コリン・パウエルを例外として、大統領に始まって、下のほうまで、わが国政府の文民指導者たちは誰一人として戦争や兵営生活の体験がないこと、それに副大統領が、ベトナム行きを逃れるために徴兵延期を6回も繰り返していたこと――これはスキャンダルです。既婚男性で子どものある者の徴兵猶予が発令されましたが、ディック・チェイニー夫妻が娘さんを授かったのは、発令日から9ヶ月プラス1日後のことだったのです。ケリーは抜群の軍歴を誇っています。行政府のなかで、軍事機構が、他を寄せつけず最大で、もっとも経費のかかる部門になっている今日、この過去は重要です。

第2に、「戦争に反対するベトナム従軍退役者の会」指導者としてのケリーの立場は、かれの経歴の一番名誉ある側面のひとつです。わが国のあまりにも軍国主義的な風潮に負けて、選挙に勝つために、かれが35年前の勇気ある姿勢を捨て去らねばならないとしたら、それこそ悲劇です。ここにも、ベトナム戦争当時のアメリカ軍と今日の軍隊との間に見られる重要な違いが映し出されています。かつての米軍は、国民軍でした。国軍兵士たちは志願兵ではありませんでしたので、かれら自身が軍国主義に対する民主的なチェック機能を担っていました。戦争の目的は何か、どのように戦争を終わらせるか、政府や将官たちは自分たちに嘘をついていないか、ごく当然に兵士たちは目を光らせ、問題を見つめていました。今日、米軍は志願制になっています。軍務に就いている者たちは志願兵であり、武力紛争の渦中で武勲を立て、昇進することを願っています。将来、戦争に反対するイラク従軍退役者の会が活動を始めることもありうるでしょうが、参戦者たちの関心は、大統領、副大統領、最高司令部による、戦争そのものについての詐術よりも、兵籍期間の不本意な延長など、軍隊内部の不満な事情に向かいがちになるものなのです。

第3に、ケリー政権は、わが国の軍国主義が育つ土壌を作る秘密主義の野放図な蔓延に対する歯止めになることでしょう。ケリーが19年にわたり上院議員を務めてきたことを考えると、環境破壊、兵器の宇宙配備、化石燃料の浪費、その他、数多くの醜聞を隠蔽する秘密主義の少なくともかなりの部分は終わらせることでしょう。アメリカ政府は、昨年、新たに1400万件以上の国家安全保障機密事項を指定しましたが、一昨年は1100万件、その前年は800万件であり、大幅に増える傾向にあります。国防総省と諜報機関を取り巻く秘密主義を終わらせ、あるいは少なくとも抑制すれば、これら政府機関に対する民主的な統制を復活させるための最有力な方策のひとつにすることができるでしょう。

第4に、今回の選挙をめぐる最大の課題は、合州国憲法であり、国の最高法規としての整合性を回復させることにあります。ハワード・ディーンの選挙運動を活気づけていたのは、憲法侵害に対する懸念でした。ケリーはジョン・アシュクロフトを司法長官の椅子から追い出し、連邦刑務所における生粋の市民の違法監禁を止めさせることでしょうし、イラクとグァンタナモ湾における拷問の責任者たちを起訴することでしょう。わたしたちに運が良ければ、ケリーは、ジョージア州フォートベニンの米州学校を閉鎖するなんてこともやってくれるでしょう。同校で、アメリカはラテンアメリカの陸軍士官たちに国家テロの技術を伝授しているのです。かすかにでも人権に関心がある人にとって、ケリーの勝利は不可欠なのです。

いろいろと述べてまいりました。終わりにあたって、なお言っておきたいのですが、政治制度が共和制を救えるわけではありません。二大政党の誰が大統領になっても、ペンタゴンと隠密諜報機関を取り巻く強力な既得権に対抗できると思うことさえ難しいのです。国防予算の40パーセントが秘密であり、隠密諜報機関の予算全額が秘密であることを考えれば、連邦議会が望むとしても、そうした予算を実効的に監視するのも不可能です。これはブッシュ政権で始まったわけではありません。国防総省の「闇の予算」は、第二次世界大戦中のマンハッタン計画による原爆製造にまで遡ります。諜報機関による支出金額は、1947年にCIAが創設されて以来、秘密にされてきました。アメリカ合州国憲法第1条9節7項に「すべての公金の収支に関する正式の予算決算書を随時公表しなければならない」とうたわれている規定は、アメリカでは50年以上にわたり本当ではなかったのです。

お寒い監視の状態の好例が、最近、上院軍事委員会が開催した、アブグレイブ監獄における陸軍による捕虜の拷問に関する公聴会に見受けられました。この公聴会は茶番でした。かろうじてマケイン上院議員を例外として、委員たちは、国防長官と軍最高司令官が国民の代表に対する説明責任を超越している存在であるかのように扱っていました。役に立つ点では、陸軍広報紙「アーミー・タイムズ」の方がマシでした。同紙の5月17日付論説「最高首脳レベルの指導制欠如[10]」は、ラムズフェルド国防長官と統合参謀本部議長リチャード・マイアーズ大将の辞職または罷免を要求していました。

共和制が救われるとしたら、直接民主主義の急速な台頭の結果としてであろうとわたしは信じています。1年と少し前、全世界の真の民主社会において、約1000万の人びとが、イラクでの戦争とジョージ・ブッシュに反対し、デモクラシーを求めて、デモ行進をしました。英国では、同国史上最大の200万人のデモがあり、ニューヨーク市の40万人、ベルリン、マドリード、ローマのそれぞれ100万人が加わりました。4月末のワシントンDCで、女性の選択権を求め、若い女性たちの投票を促す、100万人を超える人びとの力強いデモを見ることができました。先週の金曜日のローマで、50万人がアメリカの「少年帝王」来訪に反対してデモしました。

3月14日、ホセ・サパテロのスペイン首相選出をもって、この運動は最初の勝利を迎えました。デモクラシーになんらかの意味があるとすれば、それは民意が重んじられることにあります。サパテロはスペイン国民の80パーセントがイラクにおけるブッシュの戦争に反対していることを理解し、ただちに全スペイン軍を撤退させたのです。トニー・ブレアの英国で、シルヴィオ・ベルルスコーニのイタリアで、小泉純一郎の日本で、そしてわたしたちの国アメリカで、わたしたちはスペインの勝利を繰り返さなければなりません。

ケリーは、スペインのサパテロと同じく民意に耳を傾けると思われ、アメリカではただひとり、選んでもさしつかえない政治家であると信じますので、わたしはケリーに投票する意向です。アメリカ国民の大多数が平和を望んでいると行動で示せるなら、ジョン・ケリーはその要求に留意するだろうとわたしは信じています。

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[本稿関連文献] チャルマーズ・ジョンソン『地球を覆う米軍基地戦略』(TUPアンソロジー『世界は変えられる』収録)
TUP速報 http://www.egroups.co.jp/message/TUP-Bulletin/257
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[筆者] チャルマーズ・ジョンソン Chalmers Johnson
「日本政策研究所」 http://www.jpri.org 代表。一九六二〜九二年、カリフォルニア大学でアジア政治の研究・教育。
○新刊 『帝国の悲哀――軍国主義、秘密主義、共和制の終焉』(未邦訳・仮題) “The Sorrows of Empire: Militarism, Secrecy, and the End of the
Republic,” Metropolitan Books, Jan.,2004

○既刊、ビフォーコロンブス財団アメリカ書籍賞二〇〇一年受賞作『アメリカ帝国への報復』(鈴木主税訳・集英社刊 2000年6月第1刷)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4087733289/qid%3D1087180109/249-9276161-2957924
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[原文] Tomgram: Chalmers Johnson on the case for Kerry
Our First Victory Was Zapatero
By Chalmers Johnson, posted June 10, 2004 at TomDispatch
http://www.nationinstitute.org/tomdispatch/index.mhtml?emx=x&pid=1486
Copyright C2004 Chalmers Johnson TUP配信許諾済み
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翻訳 井上 利男 /TUP
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[参照サイト・英文]
1 http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/nation/columns/kurtzhoward/
2 http://www.boston.com/news/nation/articles/2004/06/09/a_funeral_steeped_in_history/
3 http://www.moveonpac.org/goreremarks052604.html
4 http://riverbendblog.blogspot.com/
5 http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A50456-2004May23.html
6 http://www.commondreams.org/headlines04/0523-08.htm
7 http://www.boston.com/news/nation/articles/2004/05/10/us_military_divided_on_iraq_occupation/
8 http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A64719-2004May28.html
9 http://www.amazon.com/exec/obidos/ASIN/0805070044/nationbooks08
10 http://www.armytimes.com/archivepaper.php?f=0-ARMYPAPER-2897659.php