TUP BULLETIN

速報325号 拘束された豪州女性の手紙No.2  04年6月20日

投稿日 2004年6月20日

DATE: 2004年6月20日(日) 午前9時18分

《豪州NGO女性ドナのファルージャ拘束報告No2》


イラクのファルージャでは、米軍の包囲網作戦が2004年4月5日から、4 月の末に米軍が複数の陣地から撤退し始めるまで続いていました。11日には 「一時停戦」が成立したとはいわれたものの、実際には激しい戦闘が行われて いました。そんな中、オーストラリア人女性ドナ・マルハーンさんは、4月1 3日に3人の外国人同行者と共に、戦火の中、救援活動のためバグダッドから ファルージャに向かいました。その帰り道、ファルージャ郊外で地元ムジャヒ ディンに20数時間拘束されました。その顛末を、8本のメールにしたためた マルハーンさんの文章を紹介します。本稿は、その2本目です。戦争とはどん なものなのかを知る手がかりになればと思います。

翻訳 TUP/福永克紀 (翻訳・再配布了承済み)
 


ファルージャ2:声なき犠牲者/うるさい一時停戦 ドナ・マルハーン 2004年4月22日

お友達の皆さんへ

診療所に戻った私たちは、今起こったこと――もし私の両手に擦り傷と出血が 残っていなければ到底信じられないことに戸惑いながらも、救急車から荷物を 降ろした。

それでも日没までの数時間、そこにいる人たちの手助けをしようとして数時間 を過ごした。土地の人からは好奇心たっぷりの目で見られることもあったが、 その反応は暖かく親しげだった。

そこで何をしているのかと聞くので説明すると、たちまち顔に笑みがあふれ、 穏やかに「シュクラン」(ありがとう)と返ってくる。これが、何にもまして 私たちがやるべきことの大半だと思う――孤立し痛みを味わっている人にただ 単に連帯を示すこと。ひとりじゃないって、だれかが気遣ってるって伝えるこ と。

援助物資を届けることもそのひとつ、でも平和と友好のメッセージを送るのも やっぱり大切なこと。

その日の午後、診療所の外の歩道で戦争の一番悲しい一面を見た。10歳ぐら いの小さな少年だった。いつも負傷者や死人を運んでくるバンから、彼が飛び 出してきたのである。心を乱すのはその子が負傷していたことではなく、その 反対だ――その子がバンを運転して負傷者を連れてきたのである! 彼は負傷 者たちをおろし、医者や周りの者に事情を報告し、あれこれと指示を与えなが らカラシニコフ自動小銃を手に持ち、まるでクリケットのバットのように何気 なくあつかっていた。しかし、それは銃なのであって、クリケットのバットで はないのである。でも本当はクリケットのバットじゃなきゃいけないと思わず にはいられなかった。首にスカーフを巻き、強靭な顔つきと自信あふれるその 態度から、この子は経験豊かな兵士なのだと分かる。ビー球のかわりに弾丸で 遊ぶこの小さな少年、今や小さな「ムジャヒディン」のことを思うと心が沈ん だ。住民によると、射撃の腕はいいそうだ。

さらに悪いものを見た。おさげ髪で、ピンクのシャツに水玉のスカーフの、や はりカラシニコフを振りかざす10歳ぐらいの小さなかわいい女の子。その銃 はその子の背丈ほどもあるものの、難なくあやつっていて、以前にも何回もあ つかっていたことがあるのは間違いなかった。実際には使っていないことを 願った――ここの絶望的な人たちに団結の証としてポーズを取っているのだと 思いたかった。家では人形で遊んでいることを願った。爆撃で負傷しようが殺 されようがトラウマを受けようが、それとも成長前に兵士にさせられようが、 いつでも子供たちこそが戦争の声なき犠牲者なのである。

ファルージャに夜がおとずれると、無人の通りに反響する散発的な銃声が、無 気味な静けさを破るだけである。

しかし、おそくなるといわゆる「一時停戦」から交戦に変わってしまい、夜の 半分も寝られなかった。

私たちはモスクの導師の家に泊めてもらっていた。マットレスに寝転んでその 日のことを報告しあい、明日の予定を決めた頃には眠りに落ちていた。

最初は夢かと思った――間違いない、前の庭から迫撃弾が撃たれている、いや 実は窓のすぐ外からだ、大きくて深い音、「ドーン、ドーン、ドーン」と響 く。毎回お腹にこたえる。醜い音だ。身が縮み上がる。

それは長く続いた。ロケット砲の打ち合い:まるでボクサーの打ち合いのよう に地上から空中へ、空中から地上へと。午前3時頃には、モスクもこの騒音に 参加してみんなを勇気づける祈祷をと拡声器から呼びかけた。それで耳につい て離れない導師の歌声と絡み合った爆弾と迫撃砲の音とで、去年の戦争の時に 感じたことと同じことを感じた。「この人たちにとって、戦争が終わったなん てとてもいえないようだ」そう考えた。

外に出てみると、ロケットは前の庭から発射されているのではないことが分 かってひと安心した。しかし、ほんの1ブロック先からで、なにか相手側から 場所を特定されない方法があるようにと願った。真っ暗な、星の輝く空を見上 げて、私は涼しい夜の空気に一息つき、爆音の合間にやはり去年の爆撃の最中 に幾度と無くささげた祈りをささやいた。ほかにどんな言葉があろうか … 「主よ、あわれみたまえ」

爆撃はその後1時間ほど続いた。神よ、一時停戦中は眠りにくいものです。

巡礼者より

ドナ

追伸:先週あたりから「The Pilgrim」メーリングリストへの参加者が増えて きました。過去5箇月(それ以前も)私がイラクから書き送った話を読みたい 方は、www.groups.yahoo.com/group/thepilgrim でどうぞ。

追追伸:次回はファルージャの写真がもっと。

追追追伸:「すべての銃の鋳造も、すべての戦艦の進水も、すべてのロケット の発射も、最終的にその意味するところは、食べられもせず飢えている人々 や、着るものもなく凍えている人々からの盗みでしかない」 アイゼンハワー 大統領

原文 http://groups.yahoo.com/group/ThePilgrim/message/76

同行者のジョー・ワイルディングのファルージャ報告 原文 http://www.wildfirejo.org.uk/feature/display/115/index.php 訳文 http://www.jca.apc.org/~kmasuoka/places/iraq0404i.html