TUP BULLETIN

速報348号 英国下院補欠選挙レポート 04年7月31日

投稿日 2004年7月31日

FROM: Schu Sugawara
DATE: 2004年7月31日(土) 午後7時08分

◎レスターからの現地レポート:英国の下院補欠選挙

2004/7/15木曜日、英国国会下院の補欠選挙が、レスター(Leicester)とバーミンガム(Birmingham)でありました。レスターは、県全部ではなく、レスター南区(Leicester South)で一議席、つまり小選挙区です。バーミンガムも同じ。日本と対照的に、英国では、二大政党体制終焉の動きが加速する結果でした。以下、現地の一住民から見た選挙の様子を報告します。

TUP 坂野 【レスター発】 ================================================================

英国では先に欧州議会の(英国選出議員)選挙と統一地方選挙がありました。この時、現ブレア首相率いる労働党(Labour)が大敗したのは記憶に新しいところです。しかし、対抗馬と目される保守党(Conservative/Tory)も決して奮わず、最も喜んだのは第三党の自由民主党(Liberal Democrat)でした。実際、同選挙後、自由民主党は、二大政党体制の終焉を宣言しました。今回の補選は、その後、最大の選挙になります。

与党労働党には、イラク戦争の関係で逆風が続いています。先日は、ブレア首相が、イラクで大量破壊兵器が見つかることはないかも知れない、とついに認めて、メディアを賑わせました。選挙直前には、イラクの大量破壊兵器疑惑の政府の取り扱いなどに関する独立調査委員会のバトラー(Butler)報告が出されました。誤りは色々あったと指摘しつつも、結局誰も悪くはない、皆一所懸命、任務に忠実だった、と玉虫色の報告でした。つまり、政権攻撃にも擁護にも使える報告でしょう。ブレア首相は報告を「真摯に受け止め」ると共に、当時の判断について正当化するコメントを発表しています。一方、(以前のハットン(Hutton)報告で非難された)BBCなどは、ブレア政権批判を強めていますし、与党労働党の旗色は決してよくなさそうな雰囲気でした。

今の英国では、地方の国会選挙であれ、イラク戦が最大の争点になっているように感じます。逆に与党側は、イラク戦以外を争点にしたがっている様子が垣間見えます。つまり…、イラク戦に関する政策は国民から支持されていないことを労働党も自覚している、ということでしょう。

さて、今回の二つの選挙区は、どちらも労働党の地盤でした。実際、レスター南区の前回選挙(2001年)では、4万数千票の投票で、労働党:保守党:自由民主党 = 7:3:2つまり、労働党の圧勝で、保守党が第二党でした。レスターは、特に市内は人口の半分が非白人という移民の街で、裕福な英国貴族という印象とはかけ離れた場所なので、保守党(=金持ち優遇)に票が流れにくいのは頷けるところです。

今回のレスター補選には、11人の立候補がありました。労働、保守、自由民主党はもちろん、Respect(リスペクト/敬意)党、社会労働党(Social Labour)、loony(狂人)党、加えて無党派が数人。

選挙前、レスターの街は、各党のビラが飾りました。日本のような写真入り公式立て看板は見かけません。一方、色々な家々や個人商店にビラが貼られているのが印象的でした。日本と違って、選挙で候補者名があまり意味をなさなくて、とにかく政党が投票基準になるようなので、政党の広告が圧倒的に多いです。

個人の家々にも、ビラは毎日のようにまかれます。労働党と自由民主党のせめぎ合い、特にアンチ・キャンペーンが激しかったものでした。例えば労働党は、選挙数日前に地方紙に、自由民主党をチキン野郎と罵倒する全面広告を出しました。それを見た私のある友人曰く「自分らの政策のかけらも言ってない。あれ見て、労働党だけには投票すまい、って思った」。アンチ・キャンペーンは印象よくないというのは洋の東西を問わないのでしょう。

一方、ビラ以外のいわゆる街宣はほとんど見かけませんでした。日本で言う「小泉○○をよろしくお願いします!」という例の絶叫。Respect党がオープンバスを使ってブッシュやブレア非難をしていたくらいでしょうか。それを見て、センスないよ、と舌打ちしている友人もいたものでした。英国人には受けないのでしょう。

マスコミの報道や選挙前の世論調査を見るに、今回、「労働党」対「保守党」のせめぎ合いではなく、本来「労働党」的立場にいる人の中で、現政権に嫌気がさして(労働党から)逃げる人がどれくらいいて、かつどこに流れるか、というのがポイントのようでした。ダークホースは、Respect党---反戦を第一に掲げる新興政党です。小選挙区で議席を取るのはかなり難しいでしょうが、今回の選挙では無視できない勢力と見なされているようで、労働党、自由民主党とも、Respect党への投票は敵勢力を利すだけです、と盛んに宣伝してました。

私には残念ながら投票権はありませんでした。役所に問い合わせると、英連邦国民でないからだめだ、と言うことでした。今時、英連邦なんてのが選挙にまで関わってくるとは!驚きでした。

投票は木曜日、朝7時から晩の10時まで。平日に行なわれることを考えると、この時間帯の長さは嬉しいですね。立ち会う人は大変でしょうが…。私の最寄り投票所は、どう見ても一般の家が早変わりしたような…。投票当日に、普段はないスロープ(当然車椅子用)が臨時につけられていたのが印象的でした。

さて、投票結果は…??

バーミンガムはごく僅差(460票差;投票数20439票)で、労働党が何とか座席を守りました。一方、レスターは、自由民主党が勝って、労働党から座席を奪いました。  自由民主党 10274 (34.94%)   労働党 8620 (29.31%)  保守党 5796 (19.71%)   Respect 3724 (12.66%) 自由民主党は破顔、労働党は2席とも取られなかっただけまし、というところでしょうか。一方、Respect党の健闘は目を引きます。前回、そもそも存在もしていなかった党としては、驚異的かも知れません。

今回の選挙は、後になって振り返ると時代の変わり目になるようなものだったかも知れません。本来、名前の通り庶民の政党であったはずの労働党がリベラル路線から離れゆく中、有権者は労働党を見限りつつあり、しかも最大対抗馬の保守党に流れるのでなく、(今までの)第三政党や新興政党に近づく動きをはっきり見せた、という点で。

この動きが本物かどうか、今後に引続き注目したいところです。

================================================================ 文責 坂野 正明/TUP