TUP BULLETIN

速報349号 真夏の夜の夢 04年8月3日

投稿日 2004年8月2日

FROM: minami hisashi
DATE: 2004年8月3日(火) 午前0時48分

☆真夏の夜の夢☆
自由と民主主義の国アメリカで、オレンジ、イエローなどと色分けされた警報が恣意的に発令され、テロに対する戦争を名目に人権侵害が横行する風潮のなか、地球温暖化時代の暑苦しい夜に見る夢は、ナイトメアのトーンを帯びるようです。原文には、作家の感性が捉えた現代アメリカ社会を特徴づけるメタファーが散りばめられているはずですが、非才による拙訳でどこまで汲み上げられたかは、心許ないかぎりです。/TUP 井上

[お断り]本稿は当局発表ニュースのパロディ作品なので、差別的な表現が一部あります。なお、タイトルは、パロディCM「ユナイテド・カラーズ・オブ・ベネトン」のそのまたパロディ。/凡例:(原注)[訳注]
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ユナイテド・カラーズ・オブ・アメリカ=アメリカ合色国(がっしょくこく)
――レベッカ・ソルニット
トム・ディスパッチ 2004年7月27日
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2004年8月15日――本日、イラクで米軍兵たちが市民を標的にした爆撃を拒否していると報じられたのを受けて、国土安全保障省のトム・リッジ長官が、クリーム色がちのライラック色警報とやらを全国に発令しました。「我われの情報筋によれば、連中はかような作戦は醜いと主張しているそうだ」とリッジは語り、そういう姿勢をとるのは、アルカイダに指令を受けたホモの仕業に違いないと強調しました。「わが国は、基調色に染め上げられた国家なのだ。色が気に食わない連中は、この国にいる権利がないし、イラクでもダメだ」とも長官は語っています。一方、大統領は、テキサス州クロフォードのペンタゴン本部で、同性愛者がアルカイダの手先だと分かる理由を記者団に質問され、次のように応えました――「君たちが連中から聞かされているのとは大違いで、アメリカ国民を惑わす、こういう卑劣な企みによって、わが国は改竄(かいざん)されない。我われは乳化剤ではないのであり、この立場が揺らぐことはありえない」
[発言内容に意味不明瞭なところがあるので、筆者に確かめたところ、ブッシュ氏は英語に弱いので、仕方ないとのこと。日本語で読めるブッシュ傑作語録をどうぞ―― http://www.fugafuga.com/bushism/index.html ]

2004年9月2日――ブッシュ政権は、国の保育施設を通じて全米にインフルエンザ・ウイルスを撒き散らす陰謀の疑いがあるとして、ダッキーイエロー[かわいい黄色]やらベビーブルー[空色]とかの警報を全国に発令しました。広くはびこっている保育所開設運動は、フェミニストや勤労女性を装ったり、“トイざラス”でブラブラし、ブカブカでリラックスできるスラックスを着用したりしているアルカイダ工作員による、米国の生産性を標的にした生物兵器戦を発動する戦略であるとする通報がいくつか寄せられ、議会が調査しています。これらの条件に該当する女たちはすでに拘束されました。拘束者の多くは、ハンドバッグに汚染ティッシュペーパーと無洗浄の“おしゃぶり”を所持しており、証拠品として押収されました。

2004年9月23日――アリゾナの州都フェニックスで、タコスの上から発見された物質が、米国の固い意志を挫くことを狙って、テロリストがばらまいた化学物質の可能性があると判明したとかで、ピスタチオ・グリーン色警報が全米に発令されました。相反する報告も出てきました。コーキー・ロバーツ[ABCニュースの政治解説者]は、未確認情報筋の話として、問題の物質は、ワッフル地コーン入りのピスタチオ・アイスクリームのトッピングに偽装されていた可能性があると伝えています。一帯の病院およびタコス・ショップ周辺の警備が強化され、州知事は、アリゾナ州スナック・デザート決議の履行を監督するために、州兵軍の出動を命令しました。シカゴのリチャード・デイリー市長が、9・11事件後の数ヵ月間にシカゴの歩道で販売されていたグアカモーレ[メキシコのアボカド料理]の疑わしい“しみ”によって引き起こされた州政府非常事態の体験を買われて、専門的見地からの助言を求められました。

話変わって、国家の保育危機を緩和する目的で、余裕のある世帯に在宅保育を奨励する「2004年オペアガール[ホームステイして家事手伝いをしながら言語を習得する外国人女子学生]管理法」にもとづいて拘束されていたインド、アイスランド両国籍者、イラン人、トルコ人、イボ族[ナイジェリア南東部の部族]、イヌイット部族民の計7452人が釈放されました。これは、昨年クリスマス・シーズンを迎えて深紅色危機警報が発令中、多くの外国人が予防検束され、特にイラク隣接諸国、および頭文字が“I”の国・地域・民族の入国者が一網打尽になっていたものです。米国内のサウジアラビア市民については、「特恵乳化柔軟法」にもとづき例外扱いになっていました。

2004年10月2日――国土安全保障省当局は、国家安全保障および人権にかかわる一連の問題に関して不穏当な質問を投げかけることにより、政権の安定性を掘り崩す謀議の疑いが新たに浮上したとかで、新聞第一面の色、すなわち汚(けが)らわしい白黒色警報とやらを発令しました。女性ニュース解説者は、警報発令中、監視下に置かれる必要がありましたが、幸い、ダッキーイエロー・ベビーブルー複合色警報にもとづきすでに収監されていました。一方、アフガニスタン、イラン、ウズベキスタン各国領内の秘密監獄とドナルド・ラムズフェルドとの関連を暴きたてた報道記者6名が、新しく公布された戦時処遇法にもとづき拘束されております。

2004年10月27日――大統領選挙を間近に控え、アメリカの公的色調危機管理体制も第2週目に突入しましたが、現今の警報レベルを何色に引き上げるべきかを決定するために、専門家たちがホワイトハウスの非常時円卓協議に召集されました。マーサ・スチュアート[インサイダー取引で有罪になったアメリカのカリスマ主婦]帝国の元従業員たちは、暖色系カボチャ色に縁取られた黄褐色に移行すべきだとの立場に固執し、早春ではなく収穫期の今、これこそ相応しい警報であると、コンドリーザ・ライス[国家安全保障担当大統領補佐官]とともに論じたてました。FBIとCIAの連絡不行き届きにより“本土安全保障に関する色分類専門家”と誤認されたために、ホームデポウ[大型ホームセンター・チェーン]店舗の警備員たちが呼ばれ、これはモグラ調ベージュ・クリーム色危機以上であり、おそらくは国内用ゴム製品の色であり、チャールストン[サウスカロライナ州]濃厚スープ色と呼ばれるものであろうと意見陳述しました。マーサ・スチュアートがブリキナファソ[アフリカ西部ギニア湾北方の内陸国]の政治難民収容所からメッセージをよせ、「ウンブリア[イタリア中部の州]暗褐色のものを黄褐色と呼ぶのは賛成いたしかねます」と表明しました。8月のライラック色危機で軍法会議にかけられた囚人たちが、色問題に関して証言することを交換条件に、早期釈放を提示されました。かれらは、民間人爆撃は醜いと今でも考えているとする声明を発表しました。

2004年11月1日――先週末のアメリカは、ナス調青リンゴ色ファッション犯罪警報下にありましたが、移住民たちが市民権取得と投票登録を促進して、自らの利益を代表する人たちに投票するという「巨大で拡大中の共同謀議」を、FBI捜査官たちが暴いたことから、茶色警報に突入しました。明日の選挙は無期限に延期されます。

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[筆者]レベッカ・ソルニット=サンフランシスコ在住、ネバダ核実験場閉鎖運動、経済グローバル化反対運動など、幅広く行動する思想家・作家。『影なす河(仮題)River of Shadows: Eadweard Muybridge and the Technological Wild West』で2004年全米書評家連盟賞受賞。新刊『暗闇のなかの希望
(仮題)Hope in the Dark: Untold Histories, Wild Possibilities』が、今秋、七つ森書館から邦訳出版の予定。
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[原文]United Colors of America by Rebecca Solnit,
posted at TomDispatch, July 27, 2004.
http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?emx=x&pid=1620
Copyright C2004 Rebecca Solnit TUP配信許諾済み
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[翻訳] 井上 利男 /TUP

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