TUP BULLETIN

速報409号 殺害された人質からの家族の手紙 04年11月19日

投稿日 2004年11月19日

FROM: Schu Sugawara
DATE: 2004年11月19日(金) 午前11時57分

◎ある英国人でありイラク人である女性の死
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
[訳者による背景解説、紹介]

1カ月前、アイルランド系英国人イラク人であるマーガレット・ハッサン
(Margaret Hassan)さんがイラクで誘拐されました。誘拐グループからの
英軍撤退などを求めた脅迫メッセージが流れ、英国で大きな話題になっ
ていました。

ハッサンさんは、イラク人と結婚し、サダム・フセイン政権ができる前、
イラン・イラク戦争の前から、ずっと(30年以上)イラクに住み、国際
援助団体などで働いてきました。第一次湾岸戦争の空襲の間も、その後
に続く国際経済制裁の間(少なくとも100万人の主に子供が死んだと報告
されています)も、そして2003年に始まるイラク攻撃の間も、ずっとイ
ラクに住んでいました。ハッサンさんは、イラク国籍を持ち、アラビア
語を自由に操り、イスラム教徒でもありました。最近は、国際的な
非政府組織(NG)「ケア・インターナショナル」のバグダッド事務所代表
を務めていました。

ハッサンさんの誘拐事件後、バグダッドでは、ハッサンさんの解放を
求める(イラク人による)デモも組織されました。それだけの人望がある
方だったということでしょう。誘拐グループは、要求が(英国政府に)
聞き入れられない時は、ザルカウィのグループに引き渡すと脅迫したの
ですが、一方、ザルカウィのグループ(と主張するグループ)は「もしも
彼女が自分たちに引き渡されれば、危害は加えず、解放する」と発表し
ました。助かるかも、という希望が出てきた矢先、つい最近、白人女性
の死体がイラクで発見され、次いで殺害の様子を撮影したビデオ画像
が流されるに至り、ハッサンさんの死が確定されました。

イラクで日本人人質が取られた時、あんなところに行くのが悪い、と
いう意見がしばしば聞こえてきました。百歩譲ってそれを認めたとしま
しょう。では、ハッサンさんのようにイラク人としてイラクで生きてい
る人はどうなるでしょう。さらに言えば、生まれた時からイラクでただ
普通に生活を送ってきた2300万の人はどうなりますか。ハッサンさんと
他のほとんどのイラク人とには、ひとつだけ違いがありました。2003年
の攻撃開始後、10万人を超えると報告されるイラク人の死は、数字だけ
でも出ればましな方ですが、ハッサンさんの死は英国の新聞の一面を
飾りました。

しかし、ここに私たちをつなぐひとつの鍵があるかも知れません。もし、
自分の娘/孫/姉妹/友人がイラク(や他の紛争地)と直接つながりがあっ
て、その場で生きるしかないとしたら…。以下、マーガレット・ハッサン
さんの4人の兄弟姉妹が11/16夜に発表した談話を紹介します。この哀し
い死を少しでも自分たちに近づけられたら、という気分で邦訳しました。

(解説、邦訳: 坂野 正明/TUP)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

マーガレット・ハッサンの兄弟姉妹のマイケル、デアルドリー、
ジェラルディン、キャスリン・フィッチモンズが昨夜[11/16]発表した
談話 (全文)

私たちは悲しみに打ちひしがれています。私たちは、できる限りの間、
希望をつないできました。しかし、マーガレットは多分、逝ってしまっ
て、ついに彼女の苦しみも終わった、ということを今や受け入れ
なければならなくなりました。私たちの祈りと心は、義兄(弟)[訳注:
マーガレットの夫]のトーシーンと共にあります。マーガレットは、
アラブの世界の、そしてすべての宗教の人々の、友人でありました。

1960年代以来、マーガレットはアラブの人々をこよなく愛してきました。
当時、マーガレットは、パレスチナの難民キャンプで働いていて、貧民
の中でも最も貧しい人々と共に生き、難民支援活動をしていたものでし
た。

この30年間、マーガレットは、イラクの人々のために休みなく働いて
きました。マーガレットは、誰に対しても善意でもって接してきました。
どんな信念や(宗教的)信条に対しても、一切の偏見を持っていません
でした。また、貧しい人々や弱者のために生涯を捧げ、他に誰も助けて
くれる人がいないような人々をこそ助けることに力を尽くしてきました。

この残虐な仕打ちを行なった人間とそれを支援した人間には、弁解の
余地はありません。この行為は誰にも正当化できません。マーガレット
は、経済制裁にも戦争にも反対していました。

誰に対してであれ、このような犯罪を起こすことは、許されることで
はありません。しかし、よりによって、私たちの優しい、思いやりに
あふれた姉(妹)に対して、こんなことをするとは、信じられない気持
ちで一杯です。

彼女を失ったこの喪失感が埋められることは決してないでしょう。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
原文:
Michael, Deirdre, Geraldine and Kathryn Fitzsimons による声明文。
The Foreign and Commonwealth Office press office 発表。
たとえば以下に原文が掲載されている。
http://www.assistnews.net/Stories/s04110065.htm
http://news.independent.co.uk/world/fisk/story.jsp?story=583686 (有料)
など。