TUP BULLETIN

速報417号 バグダッドの音は、あなたに届くか! 04年12月6日

投稿日 2004年12月6日

FROM: Schu Sugawara
DATE: 2004年12月6日(月) 午後11時26分

イラク入りを果たしたドナ・マルハーンからの報告第3弾
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4月、米軍包囲下のファルージャに、人道救援活動のために入り、その帰路、
地元のレジスタンスによる拘束を経験したオーストラリア人女性ドナ・マルハー
ンが、11月24日に再びバグダッド入りし、そこから送っている現地報告をお送り
します。この第3信は、バグダッドで聞こえる色んな音で、占領下のイラクの実
情を報告します。
(翻訳:福永克紀/TUP)
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バグダッドの色んな音 ドナ・マルハーン 2004年11月26日

お友達の皆さんへ、

どんなときでもバグダッドの空気には、騒がしさを競い合う雑多な音が混ざり合
って充満している。居間ですぐ横に座っている者にさえ、大声で叫びかけなけれ
ば聞こえないこともよくある。「平和と静寂」や「熟睡」などということは、と
うの昔に忘れ去られてしまっている。頭痛はいつものことだ。

バグダッドの騒音を構成する色んな音の例を挙げてみよう。

発電機:バグダッドでは停電が頻繁におこるため、毎日何時間ものつなぎの電源
として発電機が欠かせない。多くの家庭が発電機を購えるわけではないので、隣
近所で共同出資して小さな発電機を買い、通りの数家族が共同で使っていること
もある。多くの会社にとっては必需品だし、ホテルには不可欠だ。

ばちばちと音を立てて空気を汚す、薄汚い発電機というのは、サイズにもよるが、
窓のすぐ外でセミトレーラーがエンジンをふかしているような音から、百万台の
芝刈り機が同時にうなっているような音まで様々だ。この音は、ひどくひどくう
るさいし、それに、電気がきていないことを改めて思い出させる。これじゃ傷口
に塩を擦り込むようなものだ。ムムム…、電気が来なくなったのは誰のせいよ…。

ヘリコプター:ブラックホークとかアパッチとか強そうで男っぽい名前なのは知
ってるけど、私にとってはただのデカクてブザマなヘリコプター。映画「ロード
・オブ・ザ・リング」の不恰好な、ばかでかい鳥を覚えてます? たしか、ナズ
グルって言ったと思うけど。あんなのが何羽も、巨大な翼を一日中バサッバサッ
バサッと、あなたの家の上空で連打のように鳴らし続けるところを想像してほし
い! ヘリの音は、そんなバタバタという凄い音と、シンガポール行き英国航空
242便が屋根の上を離陸していく時のようなエンジン音とのミックス。そのう
え、あんまり近くで空中停止したり急降下したりするので、まるで自分の寝室の
窓を突き抜けて飛んでいくみたい!

しかもそれが一日中で、毎日。ひどくうるさいばかりでなく、そのヘリから機
関銃が突き出して、下のバグダッド郊外に照準を合わせているので、重武装した
奇妙な異国の渡り鳥が、ほんとはいてはならないのに、現実に存在し、空がそれ
に侵略されてしまっていることをいつも忘れさせてくれない(訳注:オーストラ
リア発シンガポール行きの英国航空便の音のことをいっているが、英国航空広報
によると、該当便は2桁の偶数になるとのことで、便数はドナの勘違いと思われ
る)。

戦闘機:シンガポール行き英国航空242便と似た音だが、その10倍も速く、
最高速度で飛んでいる。これを見ていると、誰かが何かよくないことをするため
にどこかへ急いでいるんだと思えてくる。だって、他にそんなにあわてて行くわ
けなんかある?

爆弾:その1。遠くの爆弾は、ズズーンと地中に響く深い音がする。お腹で感じ
ることが出来る、そして体の中に反響し、胃がむかつく。何かがいけないという
ことを思い出させる。

爆弾:その2。すぐ近くに落ちた爆弾は、深いズンという音で始まり、1秒後に
大音響で爆発して、地面が裂け、建物が燃えてこっぱみじんになる。ビルの解体
現場や採石場の爆破を聞いたことある? あれに似てる。ただ違うのは、爆弾の
音は不快で凶暴なことだ。それは、罪を免れることはできないのだ。いわば、神
のごとき全能の雷鳴が、天空からではなく、地獄からやってくる。大地が揺らぎ、
窓ががたがたと鳴り、それから、たいがいは、車やいろいろなものが炎に包まれ
吹き飛ぶ一連の二次爆発が後に続く。グリーンゾーン内での爆発は、空襲警報サ
イレンもついてくる。それは、何かが間違いなくいけないのだと思わせずにはお
かない。

ちょっと待って、今、ひとつ聞こえた。あれには、もっとほかのものも伴ってい
る。
でも説明できない。おお、神様、これが爆弾なのです。ちょっと、待ってて。今
までに聞いたことのある、すべての雷の音を想像して。巨人がそれらをひとつの
大きな音のボールに入れて、それを大地に投げつけて衝突させるのだと想像して
みて。そう、それが爆弾。目を閉じ、顔を手で覆いながら私は、怪我した人はい
ないかと思う。

胸が悪くなる。

爆弾:その3。建物のすぐ外の爆弾。地面が揺れ建物が震えると同時に、耳をつ
んざく爆発音に鼓膜が破れたような感じになる。鋭い電気的ショックが体中をめ
ぐる。しり込みし、地面に倒れるかしゃがみこんで、思わず頭を手で覆う。強風
が駆け抜け、窓を揺るがし打ち壊す。火がぱちぱち燃え上がる音、ガラスの割れ
る音が聞こえ、すっかり大混乱という感じになる。それから、誰かの悲鳴が聞こ
えてくる。

銃撃戦とRPG(訳注:ロケット推進型手榴弾):銃撃戦では、大晦日の花火が炸裂
するように、機関銃の速射と重厚なカラシニコフの銃弾が飛び交う。 RPGと迫撃
砲はもっと重厚だ。爆音とともに発射され、しばしの間とヒューッという音につ
いで、衝撃と同時に炸裂の大音響が鳴り渡る。

交通:どでかい戦車は、ゴロゴロと通りを走り回り、轢いていく地上のものをす
べて粉々にしていく。ビービーと鳴るクラクションの大合唱は、バグダッドの交
通渋滞に対するフラストレーションの現れである。

口蓋の舌打ち/ tte, tte, tte(訳注:硬口蓋での舌打ち音と思われる。あえて
日本語表記すれば「ッテ、ッテ、ッテ」):イラク人が暴力沙汰の話をテレビで
見たり、人から聞いたりすると、決まってこのような口蓋の舌打ちをする。女性
はまた困惑したとき、口蓋に舌をつけて発音するtuck, tuck, tuck(訳注:軟口
蓋により近い場所での舌打ち音と思われる。日本語表記すれば「タック、タック、
タック」)という音で不満を示す。私もまた、そうするようになってしまった。

ため息:4歳の子供が、悲嘆のため息をついているのを聞いたことがある? 私
はある。キャンディをもらえなかったからじゃなく、自分の家をなくし、今テン
ト暮らしをしていることに対してである。彼女の母親は泣き止むことがない。父
親はいなくなった。この子には靴もない。寒い。兄のアリは顔にガラスの傷があ
り遊んでもくれない。お腹がすいている。いつ家に帰れるかなど、この子には分
かりようもない。この子の家族になぜこんなことが起こったのか、その小さな心
には理解のしようもないし、いつ終わるのかも知りようもない。

バグダッドで聞こえるすべての音--ヘリや、爆弾や、銃--のうちで、おばあ
さんや、おじいさんや、若い母親や、4歳の子供のため息こそが、あなたに届く。

これが、いちばんあなたの胸を引き裂く音。

あなたの巡礼者

ドナより

追伸:ようこそ、リストに新加入された皆さん。これまでの話は
www.groups.yahoo.com/group/thepilgrim で読めます。

追追伸:今、電話でコンタクト可能です。ホテルのナンバーは、[訳注:番号略]
(大きな声ではっきりと私の名前を言ってください)、携帯は、[訳注:番号略]
です。時差に注意してください。

追追追伸:…俺には戦闘機が見える / あの戦闘機が見える / 子供たちが
眠る泥の小屋の向こうに / 静かな町の路地を抜けて / 君は階段を二階に
上がる / キーをまわしてゆっくりドアを開けると / 男がサキソフォンに
息を吹き込む / 壁から町のうめきが聞こえてくる / 外はアメリカ /
外はアメリカ

…――「青空を撃て」 U2

(翻訳 福永克紀/TUP)

原文:The sounds of Baghdad by Donna Mulhearn
URL: http://groups.yahoo.com/group/ThePilgrim/message/121