TUP BULLETIN

速報446号 巡礼者ドナの手紙 エルサレムより 050118

投稿日 2005年1月18日

DATE: 2005年1月19日(水) 午前3時47分

聖地では、すべてがうまくいっているわけではない。何かがひどくおかしい。ドナか ら母への便り


 2004年4月、米軍包囲下のファルージャに、人道救援活動のために入り、その帰 路、地元のレジスタンスによる拘束を経験したオーストラリア人女性ドナ・マルハー ンは、11月24日に再びバグダッド入りした後、今回のイラク滞在を終え、現在パレス チナに滞在しています。イラク/パレスチナ/イスラエルと続く巡礼の旅をするドナ の心情と、イスラエル入国の際の状況を、母への手紙に託します。 (翻訳:福永克紀/TUP)


ドナ・マルハーン 聖地――国境より 母への手紙 2005年1月7日

親愛なるお母さんへ、

今、エルサレムにいます――聖地の中心です!

私は、とうとうここに来ました! でも、私以上にあなたのほうが興奮していること でしょう。週一の買い物帰りでのキャロットケーキとコーヒーの席で、聖地に行く計 画を立てていると初めてあなたに話したときのことは、忘れることはできません。

イラクへ戻るつもりだと明かしたとき、優しいあなたの顔が曇り、目には恐怖の色が あふれていました。しかしあなたは気丈にもこれを受け入れてくれ、私に行ってくれ るなと頼んだりはしませんでした。しかし、クリスマスには間に合うようにベツレヘ ムに移動するつもりだと話したとき、あなたの顔色が変わり目が輝くのを見ました。 その知らせがあなたに与えた喜びは、まるでこの危険な時期に私がバグダッドに行く ことへの心配を、ほとんど打ち消してしまったようでした。

私が計画を説明し終えると、「なんだ、それならいいわよ!」と言い切りました。そ れが私をどれだけホッとさせたか、知らないでしょうね。思えば、もし私がここ聖地 に来ることで、イラクでの私の活動への賛同という結果になったのなら、あなたに とって聖地は間違いなく特別なところなのです。

お母さん、あなたは聖地のことはよく知っていると思います。毎日聖書を読んでい て、この地を有名にしている出来事や場所には精通しているでしょう。ここには、あ なたの名前にちなんだ所があります――「カルメル山」。そこに行ってあなたに送る 絵葉書を買いたくて待ちきれません。

カルメル山へ行くのも、私の巡礼の旅の一環として行くつもりです。私にとって意味 のある場所にはすべて行ってみたいのです。巡礼者として、イエスが最後に歩いた古 都エルサレムのヴィア・ドロロサ(悲しみの道)を歩くこと、ガリラヤ湖で船に乗 り、ナザレの通りを歩くこと、そしてもちろんクリスマスイブにはベツレヘムで聖誕 教会の深夜のミサに参列します!

ああ、これを全部想像してみてよ、お母さん! 先週ヨルダンを出てイスラエル国境 に近づいていくとき、私たちふたりのために幸福感でいっぱいだったのです。

でも、いっぽうでは神経質にもなっていました。

あなたには、私のほかの計画は話していなかったでしょう、ともかく詳しくはね。今 ここで言おうと思います。時を惜しまずイスラエルを探索し、私たちふたりにとって 大切な当地の聖地を訪れるだけではなく、パレスチナ占領地域に入り、そこでなにが 起こっているのかこの目で確かめ、私になにかできることがないかを探ってみるつも りでもあるのです。

あなたはニュースも見ないし政治に興味がないのは知っています、しかし聖地ではこ とがうまくいっていないのはお分かりでしょう。この争いにまつわる有名な言葉はみ な聞いたことがあるはずです―― PLO、シオニスト、ヤセル・アラファト、アリエル ・シャロン、自爆攻撃、軍隊の暴力、市民への銃撃、ブルドーザーで家を踏み潰すこ と、そして何も生みそうにない和平プロセス。

お母さん、なぜだか分かりませんが、ここ数年、過酷な占領下に暮らすパレスチナの 人々の叫びや、自爆攻撃で我が子を亡くしたイスラエルの母親の痛みが、かつてなく 私にははっきりと伝わってくるようになったのです。今、私はそれに応えたいので す。

もっと早く私の計画を全部話さなくてごめんなさい、でも、すべてがうまくいくかど うか私自身にも分からなかったのです。今でも、それは分かりません。ただ私が感じ るのは、世界中の人々の間で大きく膨れ上がってしまった不安と敵意の核心が、この 聖地の危機にあるということなのです。私はそれをこの目で見たかったし、少しでも 整理したかったし、衝突の双方を理解することで、打開の道を見通せないかとも思っ たのです。これが、当地でなにか「平和の仕事」をするために行くつもりだとあなた に言ったときに、私が思っていたことなのです。これによって、私はどこへ導かれる のか、どんな状況に直面することになるのか、また誰に出会うことになるのか、私に もよく分かりません。でも、約束します、今からはすべてのことをあなたに伝えま す。信じてください、もう(あまりに)愚かなことはしませんから!

そんなわけで、国境に着いたとき、私の気持がものすごく混乱していたのは想像がつ くでしょう。いっぽうではガリラヤ湖見物への期待があり、もういっぽうでは危険な ヨルダン川西岸地区でイスラエル軍の検問所を通ることを考えると、なんだか不吉な 予感がしたのです。

しかし、その期待も国境を越えてイスラエル側の入国審査窓口についたとたんに消え うせ、不安感に取って代わられました。私には、何かが絶対におかしいという気がし ました。こんな複雑精巧を極めた警備システムを見たのは生まれてはじめてです。到 着したとたん、すべての旅行者から即座に荷物が取り上げられ、どこかに持ち去ら れ、いつ再びお目にかかれるかの説明もありませんでした。

それから、金属探知機のゲートに案内され、手荷物を入念に調べられてと、ここまで は飛行機に搭乗するときや厳重警備のビルに入るときと同じく、いたって普通でし た。しかし、普通なのはここでおしまい。それから私たちは、なんだかドクター・ フーのタイムマシーン「ターディス」のような機械を歩いて通り抜けなければなりま せんでした。それは、ぴかぴかの背の高い奇怪な機械で、その中に歩いていかなけれ ばなりません。いくつかの意味不明の障害柵があって、足を高く上げないと超えてい くことができません。それから、そこに数秒じっと立っていろと言われます。この時 点で、煙のような空気が床から大きな音を立てて噴出し全身に吹きかけられて、まる で全身をヘアーブローされ、巨大な缶のヘアースプレーをかけられるようです。私の 前の人たちが、一人一人このターディス機械の中に入り、煙のような空気に全身ブ ローされるのを、私は見ていました。この機械が何なのか、何をするのか、なんの掲 示も指示も説明もありませんでした。みんながなんの質問もせず、歩いて入り出て行 くことが、私には信じられませんでした。 [訳注:ドクター・フー BBCのSFシリーズの題名および主人公名。ターディスはそれ に登場するタイムマシーン]

もちろん自分ではどうしようもありません。私は、この列を監視しているイスラエル の警備員に穏やかに尋ねてみました――「これは何でしょうか?」 彼は身振りで英 語はしゃべれないと示すだけでした。私は少し不安になり、この奇妙な機械がどんな ものであり私にどんな影響を与えるのかも分からず、私が足を踏み入れる番になる と、手に汗が滲んできました。私はただ前の人のまねをして、障害物を歩きぬけ、空 気を強く吹き付けられ、服を持ち上げられ、髪を後ろにブローされました。まるで写 真撮影のモデルみたいに……

私は、受けた煙に咳き込んでしどろもどろになりながら、もう一度事実究明に挑戦せ ずにはいられませんでした。反対側の警備員に尋ねてみたのです――「これは何のた めなのですか?」 彼女は質問は理解したものの、説明はなしでした。ただ、肩をす くめただけ――「知らないわ」 彼女に強いるのはやめて、もう一度機械を見ようと 振り返ってみると、正方形4つが片隅に並んでいるパネルに気がついたのです。近 寄ってみてみると、異なる角度からの私の写真が見えるではないですか。「あらま あ」と、私は警備員に声をかけました。「写真を撮っているの?」 彼女は、また返 事もなく肩をすくめるだけでした。これがこの機械の役目のひとつに間違いはありま せんでしたが、あの無料ヘアーブローの説明はありませんでした!

私は首をかしげながらも、歩いていってビザのカウンターに並ぶ外国人の列に加わり ました。それは長い列で、ゆっくりとしか進んでいないので、そこで立ったまま昼食 を食べたのです。20分かそこら毎に数センチ進みながら、そして、事態をじっくり と観察してみました。

私に見えるかぎりでは、各人それぞれ一連の質問を受けていました。ゲートを通過し ていいと手真似で告げられる人たちがいる中、フランス語をしゃべる3人を含めて、 何人かの人が脇によけて待つように言われているのに気がついたのです。

私はドキドキしてきました。分かるでしょう、お母さん、イスラエルは誰に入国を許 可するか大変用心深い国です。状況が不安定なためにこのように極端な警備体制をと るイスラエルは、しばしば国境で入国拒否することがあるのはよく知られています。 あなたの娘が誰かを傷つけるなんて、どうしてそんなことを考える人がいるのか、あ なたには理解できないでしょう。しかし、彼らにとっては、私は怪しい人間なので す。私は、イスラエルへの旅行の理由について厳しい質問を受けるだろうと警告され ていました。私のパスポートのイラクやシリアのビザと、ファルージャで兵士に撃た れたときの血痕は、彼らの関心を大いにひくでしょう。

カウンターの職員は、カーキと緑の色の軍服に身を包んだ若い女の子でした。私は、 その若さにびっくりしました。彼らも、この周りで忙しそうに歩き回っている他の入 国審査の職員も、19歳か20歳を超えていることはないでしょう。こんなにたくさんの 若い女の子たちが周りにいて、私はとても安心しました。大柄でマッチョのイスラエ ル兵に、私が怒りだすような攻撃的な態度で質問を受けるのではないかと心配してい たのです。

前向きでいようと努めて、冷静でいなさいと自分に言い聞かせました。息を深く吸い 込んで、頭の中で「沈着、冷静、沈着、冷静」と呪文を繰り返しました。怒りに達し たことが助けになったことなどありません。私は心を決めて、イラクでの取り組みは 簡単に説明できるだろうし、イスラエルでの巡礼者としての計画に焦点をあてようと 思いました。

ついにカウンターまで来たときは、笑顔いっぱいの私でした。お尻に銃をぶら下げた 軍服姿の若い娘が、質問を始めます――「以前にイスラエルに来たことはありますか ?」 いいえ、ありません。「なぜイスラエルに来たのですか?」 私は、巡礼者で す。

「なんですって?」と、彼女が聞き返しました。

「巡礼者です。私は巡礼の旅をしに来たのです」と、意気揚々と答えました。

「巡礼ってなに?」と、彼女が訊いたのです。

私は、唖然としました。私が今いる入国審査窓口は、聖地への入口であり、毎年世界 中から何千という人が巡礼者としてやってくるのに、この娘はその言葉を知らないと いうのです。

私はぐっと我慢して説明しました――「キリスト教の巡礼者は、イエスがおられる聖 地を訪問するのです、分かりますか?」と、私の首の十字架を見せながら言いまし た。彼女はすぐに分かったようで、うなずきました。私は、これこそが問題なくビザ を手にできるチャンスだと思い、ほっとしました。

彼女は私のパスポートに目を通し、私を見て、さらにいくつか質問しました、そし て、このキリスト教の巡礼者が聖地を探索し何がしかのドルを使うのを、イスラエル 国家が歓迎するだろうと私が思ったとき、ついに来るべき言葉を聞いたのです。 「座っていてください」と、彼女は言いました。「またのちほど審査を続けます」

脇によけているように言われたわけは聞かないように決めました、そして息を深く 吸って、「沈着、冷静」の呪文を続けました。

呪文はよく効き、待機場所のプラスチックの椅子で、私は眠くなってきました。1時 間ほどあとに、若い女性兵士に肩をゆすられて目を覚ましたのです。

「あの人についていってください」と、彼女が言いました。

彼女が指差す男をよく見ようと、目を細めてみました。心が沈みました――それは、 私が悪夢で見た大柄でマッチョなイスラエル兵でした。彼は私の方をにらみつけ、で も視線を合わすことなく、自分についてくるようにといらつく様子で手招きしていま す。私はまだ半分眠たかったのですが、荷物を手に取り、混雑する場内を私に背を向 け足早に歩き出したその男のあとに、急いでついていったのです。

お母さん、あなたにはこのことは言いたくはないのですが、これが苦行の始まりでし た。あんまり悲しくて、いっそ回れ右してヨルダンに引き返したい、二度とこんなと ころには来たくないと思った6時間だったのです。

その経験は、何かがひどくおかしいと感じた最初の印象を裏づけることになりました ――奇妙な機械、銃を持った少女、尋問。私は怒りと恐怖をたっぷり味わいました。 なのに、まだ入国審査さえ通過できていなかったのです!

あなたを悲しませたいとは思いません、しかしこれだけは分かってほしいのです―― 聖地では、すべてがうまくいっているわけではないのです。この次どうなったかお知 らせします。

愛を込めて ドナより (翻訳:福永克紀/TUP)

原文:Letter to my mother from the Holy Land – the border URL: http://groups.yahoo.com/group/ThePilgrim/message/145