TUP BULLETIN

速報488号 チャルマーズ・ジョンソン アメリカ国民に告ぐ 050418

投稿日 2005年4月18日

FROM: liangr
DATE: 2005年4月19日(火) 午前0時55分

☆ひるがえって、わたしたち日本国民は……★
チャルマーズ・ジョンソン氏は、前稿(TUP速報485号「米中の狭間で
日本は……」)において、中国の新興経済大国としての台頭と日米を絡めた国
際関係を論じましたが、本稿では、論点を新しい国際環境におけるアメリカの
政策に絞り、ブッシュ政権のこれまでの財務・外交などの姿勢を痛烈に批判し、
変革への道筋を指し示します。
ひるがえって、わたしたちの国、日本の対外関係、とりわけ東アジアにおけ
る位置を見つめると、北朝鮮との関係改善が一向に進展しないばかりか、韓国、
中国でも反日気運の盛り上がりを目撃するありさまになっています。わたした
ち日本国民としても、この危機にあって、外交相手国の粗探しをするのではな
く、対中東・アジア政策における対米追随一辺倒や政治家の言動とメディアな
どに見え隠れする先進国意識など、自国の姿勢こそを問うべきでしょう。
/TUP 井上 凡例: (原注)[訳注]
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目覚めよ!
Wake Up!
――チャルマーズ・ジョンソン
ツルースアウト 2005年3月31日
(初出: イン・ジーズ・タイムス)

憂慮すべきワシントンの対外政策
Washington’s alarming foreign policy.

ルビコン川は、イタリア北部、ラヴェンナ市街のすぐ南の小さな流れだ。こ
の川は、紀元前最後の2世紀ほどつづいた共和政体ローマ全盛のころ、イタリ
ア心臓部とローマ市街とをローマ帝国軍そのものから守る境界線になっていた。
古代ローマ法制では、常備軍を率いてルビコン川を渡り、イタリアに進入する
将軍はすべて反逆者とされていた。紀元前49年、ユリウス・カエサル[ジュ
リアス・シーザー]、つまりローマ一番の切れ者にして、やり手の将軍は、配
下の軍と共にルビコン川のほとりにとどまり、みずからの行動をじっくり考え
たすえ、南部へと侵攻した。共和政体は内戦のうちに瓦解(がかい)し、カエ
サルは独裁者になり、ついで紀元前44年、元老院内で、われこそは共和制を
圧政から解放すると自認する政治家たちの手にかかり暗殺された。ところが、
カエサルの死がさらなる内戦を誘発し、紀元前27年になって、カエサルの甥
の息子オクタヴィアヌスがアウグストゥス・カエサルの称号を名乗って、共和
制を廃し、みずからを終身“皇帝”として軍事独裁体制を確立した結果、内戦
はようやく終息をみた。このようにして、大いなるローマの民主主義実験は終
息した。それ以後、「ルビコン川を渡る」という慣用句は、後戻りできない行
動に打って出ることを意味する比喩表現になった。つまり、取り返しのつかな
い一歩を踏み出すことである。

2004年11月2日[ブッシュ再選]を期して、アメリカはルビコン川を
渡ったと筆者は信じる。昨年の大統領選挙まで、アメリカの一般市民は、イラ
ク侵略をも含め、自国の対外政策はジョージ・ブッシュがやっていることであ
り、自分たちは彼に投票したわけではないと言い訳することができた。200
0年選挙では、ブッシュは一般投票で負けながら、最高裁によって大統領に指
名された。2004年には、ブッシュはケリーに対し得票数で350万の差を
つけた。その結果、ブッシュの戦争はアメリカの戦争になり、国際関係におけ
るブッシュのふるまいはわたしたち自身のおこなっていることになった。

このことは、今でもアメリカの対外政策の健全さや思慮分別を取り戻せるの
かという問いを投げかけるので重要である。1970年代初めの恥ずべきウ
ォーターゲート事件のころ、大統領の首席補佐官だったR・H・ハルデマンが、
ホワイトハウスの顧問ジョン・ディーンに対し、ニクソンが命じた重犯罪行為
について議会であけすけにしゃべりすぎると叱責した。「ジョン、歯磨きペー
ストがチューブから出ちまえば、元に戻すのは非常に難しい」と彼は言った。
ウォーターゲート事件に関わったために18ヵ月の監獄生活を送る羽目になっ
た広告会社の幹部あがりの男が口にした、この当然といえば当然の警句は、ジ
ョージ・W・ブッシュ再選後のアメリカの状況をきわめて正確に言い表してい
る。

イン・ジーズ・タイムス創立編集者ジェームス・ウェインステインが筆者に
問いかけた――「アメリカが世界でより建設的な役割を果たせるようになるた
めに、どのように対外政策を変えるべきだろうか?」。この設問は相互に関連
しながら異なっている三つの問題を投げかける。一番目のものを解いて、はじ
めて二番目に取り組むことができ、二番目のものを正して、はじめて三番目に
取りかかる意味をなす。

アメリカ丸を沈没させる
Sinking the Ship of State

第一に、アメリカは切迫した破産の危機にあり、これが現実化すれば、対外
政策をあれこれ論じても無意味になる。すべての財政危機の母[根源]が、こ
れからの数ヵ月以内にわたしたちを破滅させ、アルゼンチン国民の北米版にし
かねない。かつて彼らは南アメリカで最も裕福だったのだが。こうした事態を
避けるために、わたしたちはわが国の巨額の貿易・財政赤字を制御下に置き、
国家財政のイロハを理解し、わが国の膨れあがる借金に自殺的なほど無関心で
はないと世界に気づいていただかなければならない。

第二に、わたしたちのとんでもない国際市民意識をなんとかしなければなら
ない。わたしたちは、他の諸国がわが国との関係において互恵主義のよりどこ
ろとする確立した規範を恒常的に踏みにじっている。これは政策を改革すると
いうよりも態度を正すという問題だ。これを怠れば、わが国のじっさいの対外
政策に変更があっても、世界の国ぐにに気づかれることすらないだろう。筆者
の心中には、米陸軍やCIAによる隠密裏の誘拐や拷問、イラクやアフガニス
タンのような場所における、ろくな訓練も受けず、ろくに統率もされていない
兵たちによる銃器による火遊び、それに中絶に関するわたしたちの妄想にもと
づく他の文化に対するイデオロギー的な罵倒や、ブッシュ政権によるジョン・
R・“ボンカーズ[衝突屋]”・ボルトンの米国代表国連大使指名に明確に示
されている、国際法(特に国際刑事裁判所)を軽視するわたしたちの姿勢が去
来する。

第三に、もしもわたしたちがわが国の直面する財政危機および海外で粗野に
ふるまう傾向を克服できるなら、わたしたちの対外政策を改革できるかもしれ
ない。当面する課題のなかに、世界の勢力バランスの緩慢で漸進的な変化があ
り、そのために新しい方法論が求められている。“単一”スーパーパワーとし
てのわが国の余命がきわめて短いことを示す最も重大な兆しは、別の形態の影
響力にわたしたちの巨大軍事力の独占が出し抜かれているという事実にある。
変化の中核に中国の驚くべき成長があり、わたしたちがこの事態に順応する必
要がある。

それでは、これら三点をより深く掘り下げて論じてみよう。

2004年におけるアメリカの輸出に対する輸入の超過分は、2003年に
比べて24.4パーセント拡大し、6170億ドルという記録的な額になった。
対中貿易における年間赤字幅は1620億ドルであり、単一の国に対するアメ
リカの貿易不均衡の規模としては過去最大である。同じく重要なことに、アメ
リカの国庫借入金が2005年3月9日時点で7兆7000億ドルの大台に乗
ってなお増えつづけ、わが国は優に世界最大の純債務国になっている。アメリ
カは、みずからの浪費的な消費様式の対価と軍事費を自国民から徴集した税金
で支払うのを拒みながら、日本、中国、台湾、韓国、香港、インドから借りま
くって、これらの経費を賄っている。 アメリカは政府予算を捻出するために
一日あたり少なくとも20億ドルの外資導入を必要としているので、この状況
はますます不安定になっている。東アジア諸国の中央銀行が、自国をドル下落
から守るために、外貨保有の相当部分をドルからユーロなど他の通貨に移す決
定をくだせば、それがどのようなものであっても、アメリカ経済のメルトダウ
ン[原子炉の炉心溶融にたとえる]を引き起こすだろう。韓国の中央銀行は約
2000億ドルの準備金を保有しているが、2005年2月21日、「投資先
通貨の多様化を図る」意向であると暗に公言した。ドル相場は急落し、アメリ
カ証券市場は(その後、持ちなおしたが)一日の下げ幅としては過去2年近く
の間で最大の暴落を記録した。このささいなできごとが、わが国が綱渡りのよ
うな状況にあることを示している。

日本は世界最大の外貨準備金を保有し、その額は2005年1月末時点で約
8410億ドルに達している。そればかりか、中国もわが国に対する輸出超過
で稼ぎ、現金6099億ドルの米ドルを積みあげている。ところがアメリカ政
府は、思いつくかぎりの難癖をつけ、とりわけ中国の分離領土・台湾島をネタ
に中国を侮辱している。先日、著名な経済評論家ウィリアム・グレイダーは
「銀行家を侮辱する浪費家の債務者は、穏やかに言っても、賢明ではない……
アメリカの指導層は……文字どおりに――ますます思い違いするようになり、
勢力関係の不均衡が自分側に不利な方に傾きつつあることに目を閉ざしてい
る」と記した。

これらの赤字や[対外]依存は、帝国を自負する国としては異常な経済統計
値に表れている。19世紀において、大英帝国は膨大な経常収支剰余金を動か
し、ボーア戦争のような惨澹たる帝国的冒険の挙にでても、その経済的影響を
無視することができた。第一次世界大戦の直前、英国はGDP[国内総生産]
の7パーセントに達する剰余金を保有していた。アメリカの現在の経常収支赤
字はGDPの6パーセントに迫っている。

わが国政府の正常さや政策の健全性に対する外国の信頼を回復するためには、
いま直ぐに、ジョージ・W・ブッシュ大統領によるキャピタルゲイン[資本所
得]や不動産を含む減税を差し止め(どっちみち金持ちはぬくぬく暮らしてい
るので、気づきもしない)、わが国の軍事支出を抜本的に削減し、アグリビジ
ネス[農業資本]や軍産複合体に対する助成を廃止しなければならない。ほん
の数年前、アメリカは大幅な連邦財政黒字を享受し、公的債務の削減に取り組
んでいた。わが国が財務支払能力を回復すれば、おそらくアジアの預金者たち
はわたしたちの債務に資金を廻しつづけるだろう。わたしたちがそうしなけれ
ば、わが国に対する融資者たちはみな恐怖にかられて、ドルから逃げ出し、わ
が国の株式市場は破綻し、2年間にわたる世界同時不況を招来するという危険
を冒すことになる――世界規模の景気後退という事態になっても、そのうち世
界の他の国ぐには回復する。だが、その時までに、値打ちのあるものなどたい
して生産できなくなるわが国はバナナ共和国[欄外]になっているだろう。わ
が国の対外政策に関する討論などは無意味になる。わたしたちは人様のお情け
にすがるようになる。
[一次産品の輸出や外資などへの依存度が高く、政治的に不安定な中南米など
熱帯の小国]

醜いアメリカ人
Ugly Americans

こうしているうちにも、ディック・チェイニーやドナルド・ラムズフェルド
と彼らの一派、アメリカン・エンタープライズ国策研究会に巣くうネオコン狂
信集団の無作法なふるまいがアメリカの対外政策の行状を決定づけている。ア
ブ・グレイブ拷問スキャンダルのあと、拷問を許した行政機関の連中に対する
調査を、これまで議会が始めることができていないのは、まったく承服できな
い。公機関による秘密の拷問について大統領のために主だって弁解した人物が、
目下、司法長官であったり、ラムズフェルド国防長官が辞任しなかったり、軍
による軍に対する7回目の調査(今回の統轄者はアルバート・チャーチ三世中
将)はまたもや将官のすべてを免罪し、たまたまアブ・グレイブ監獄の独房棟
で夜間勤務についていた運の悪い下士官兵たちのみに責任を押しつけたりした
ことも同じく許しがたい。ウェスト・ポイント士官学校出身者で、陸軍士官と
して23年間就役した退役軍人アンドリュー・ベースヴィックは、著書”The
New American Militarism”[『アメリカの新軍国主義』]において「アブ・グ
レイブの大失態は、解放者ではなく拷問者、プロフェッショナルではなく、安
っぽいスリルを求めるサディストとしての米兵たちを見せつけた」と語る。こ
れが正されなければ、大統領と国務長官が自由とデモクラシーなどと長広舌を
振るっても、世界の人びとは単なる表看板として受け取るだけだ。

対外政策の解説者たちは“信頼性”概念――ある国が信頼に値するかどうか
――にひとかたならぬ関心を寄せる。信頼性を損なうには、いくつかの方法が
ある。ひとつには、ブッシュとディック・チェイニー副大統領がイラクに対す
る予防戦争の準備段階でおこなったように、諜報を政治的に利用することであ
る。今となっては、CIAであれ他の何であれ、わが国の秘密情報機関が言う
ことを額面どおりに受け取るのは愚か者だけだ。すでに中国は北朝鮮に関する
わが国の情報を信じないと通告しているし、ヨーロッパのわが同盟諸国もイラ
ンに関するわたしたちの終末論的な評価について同じことを言っている。

諜報部と同じく、わが国の増長した軍部は真実でない発言をおこなっている。
将軍や提督の輩たちが――従軍記章を左肩にずらっとぶらさげ――連邦議会の
委員会でぬけぬけと嘘をついている場面は、全米ネット・ニュース番組の視聴
者たちにお馴染みだ。

例えば、1998年2月3日、米海兵隊パイロットたちが軍用ジェットのコ
ックピットでぼんやりしていて、イタリア北部のスキー場リフトのケーブルを
切断し、20名の人びとを墜落死させた。海兵隊は全力あげて責任逃れに終始
したすえ、パイロットたちを軍法会議にかけるとして本国に連れ戻し、事件を
事故として片づけ、無罪放免してしまった。イタリア国民はこの事態を忘れて
いないし、アメリカが同盟国をどのように扱ったのかも憶えている。2005
年3月4日、アメリカ兵たちがバグダッド空港に向かう途中の民間車両を銃撃
し、イタリア情報当局高官を殺害、誘拐者たちによって解放されたばかりの報
道記者ジュリアーナ・ズグレーナに傷を負わせた。米軍は、ただちに隠蔽工作
を始め、車が高速走行していたとか、米兵たちは照明や威嚇射撃で警告したと
か、イタリア側は事前に通行を告知していなかったなどと主張した。ズグレー
ナは米軍の言い分のすべての点に反論した。ホワイトハウスは事件を「ひどい
事故」と言い表したが、どのように説明しようとも、ヨーロッパにおける最も
緊密なわが同盟国が、アメリカと協力して、いい面の皮であるような仕打ちを
性懲りもなくおこなってしまったのである。

ブッシュ政権は、傲慢さとうぬぼれのゆえに、わたしたちの政府が無能であ
ると世界に悟らせるようなことをしでかしたのだ。この政権は自国に不都合と
思う条約をないがしろにしただけでなく、そのような条約をより有効にするた
めの正常な外交活動をおこなうことを拒んだのである。かくして、政権の顔役
たちは、地球の温暖化を防止するために二酸化炭素放出量の抑制をめざす19
97年の京都議定書に、コストが高くつくという理由だけで、背を向けた。
(アメリカはどの国にも抜きんでて大量の二酸化炭素を放出している) わが
国の参加拒否にもかかわらず、民主主義を掲げる、すべてのアメリカの同盟諸
国は条約遵守の努力をつづけた。2001年7月23日、ドイツのボンにおい
て、先進諸国が厳守すべき二酸化炭素排出量削減幅に関する合意が成立し、達
成できない場合、罰則が課せられることになり、その結果、現在までに180
を超える国ぐにが支持する強制力を備えた条約になった。改訂された京都議定
書は完全なものとはとても言えないが、それでも温室効果ガスの削減に向けた
第一歩である。

同じような例をあげれば、、2001年の8月から9月にかけて南アフリカ
のダーバンで「人種差別に関する国連会議」が開催されたが、アメリカとイス
ラエルが退場してしまった。イスラエルを民族優越主義として弾劾する字句を
挿入すべきであるとしたシリアの要求は、会議に残った国ぐにによって最終的
に票決で退けられた。会議の最終声明は、奴隷制度について「人間性に対する
罪」として謝罪を表明してもいたが、それにしても奴隷所有諸国の賠償責任を
明言したうえでのことではなかった。アメリカにおける奴隷の歴史をふりかえ
っても、会議の確定文書がアメリカの利害に配慮して調整された程度を考えて
も、わが国の代表たちが退場したのは、帝国の傲慢さ――“われわれ”は、こ
の世界を動かすのに“君たち”を必要としないという鉄面皮なメッセージ――
をまたもや見せつけたようだ。

アメリカが諸国間の礼儀正しい対話の規範に立ち返るまで、他の国ぐには全
力をつくして――穏便かつ非公式に――わたしたちを孤立させ、遠ざけると思
われる。

未来の改革
Future Reforms

なんらかの奇蹟でもおこって、わたしたちが財政の合理性、公正、外交上の
礼節を回復し、わが国の政治に正しく位置づけることができるなら、わが国の
対外政策の改革に目を向けることもできるだろう。わたしたちは、まず第一か
つ最重要事として、イラクから撤退し、連邦議会に占有的な開戦権限があると
定める米国憲法第一条第八節第11項[欄外]を二度と無視しないように議会
に要求しなければならない。そのうえで、ぜがひでも変革を求められている死
活的な分野は、イスラエル、輸入石油、中国、核兵器拡散に対するわが国の政
策であると筆者は信じる。環境、ラテンアメリカとの関係に取り組むことも、
もちろん等しく重要だろうが。
[同条文=(連邦議会は次の権限を有する)戦争を宣言し、敵国船傘捕免許状
を付与し、陸上および海上における捕獲に関する規則を設けること]

たぶん最も破滅的なブッシュ政権の過ちは、イスラエルとパレスチナとの間
に公正な和解を達成するために、わが国のすべての歴代政権が取り組んできた
政策を放棄したことである。それだけでなく、ブッシュはアリエル・シャロン
によるパレスチナ人に対する土地収用や民族浄化に肩入れした。その結果、ア
メリカはイスラム世界における信頼、影響力、信用をすべて失ってしまった。
2004年7月にゾグビー国際調査がモロッコ、サウジアラビア、ヨルダン、
レバノン、エジプト、アラブ首長国連邦のアラブ人3300人を対象に世論調
査をおこなった。アメリカに「親近感」と「反感」のどちらを抱くかという設
問で、「反感」を選んだ回答者は69から98パーセントまでに分布した。2
000年時点の世界のイスラム人口は13億であり、世界人口の約22パーセ
ントを占めていた。わが国の政策のために、わたしたちはイスラムの大多数を
反米に追いやったのである。わたしたちはクリントン前大統領が先鞭をつけた
イスラエル人とパレスチナ人とを取りもつ善意の仲介者の役割に今すぐ立ち返
らなければならない。

アメリカは、年間38億バレルの石油、一日あたりにすれば1060万バレ
ルの石油を輸入している。これほどの輸入量は史上最高水準であり、とりわけ
ペルシャ湾岸諸国からのものが増大しつつある。たった今、サウジアラビアが
同国産の石油をわが国に販売する能力または意志に陰りが見えれば、それが経
済破局に直結する。現時点で利用可能な自動車技術、それにトヨタやホンダの
新型車に組みこまれている技術を採用するならば、ペルシャ湾石油への全面的
な依存から脱却できるであろう。強制される前に実行すべきである。

2004年における中国の国内総生産は年率9.5パーセントで成長し、こ
の伸びかたは大国のなかでは最速を優に記録している。現在、中国のGDPは
1.4兆ドルに達し、経済規模で世界第6位につけている。中国はまた発展途
上世界にとって別格の貿易相手国になり、莫大な量の食料、原材料、機械類、
コンピューターを吸い上げている。アメリカは、中国――世界最古でありなが
ら途絶えることなく今に続く文明――の再登場、しかも今度は現代の超大国と
しての復活に適応できるのだろうか? それとも、中国の急浮上が、前世紀に
繰り返したような世界大戦をまたもや再現するのだろうか? これこそが鋭く
問われている。富める資本主義中国はアメリカにとって脅威ではなく、この国
との協調こそが、太平洋におけるわが国の最善の軍事的安全保障になる。

核兵器の拡散にまさるわが国に対する脅威はない。わたしたちは1970年
の核拡散防止条約においては正しい政策を推進したし、この条約は188もの
諸国による賛同を得て、歴史上施行されたなかで最も広範に支持された軍備管
理協定になった。北朝鮮が脱退した2003年1月10日時点まで、インド、
イスラエル、パキスタンだけが条約の枠外にいた。この条約のもと、核保有5
か国(アメリカ、ロシア、中国、フランス、英国)は核軍縮の保証に同意し、
他方の非核国は核兵器を開発または取得しないことに同意している。非核保有
国の条約遵守を確実にするために、国際原子力機関(IAEA)に査察の権限
が与えられている。ブッシュ政権は、イラク、イラン、北朝鮮に対する戦争を
煽る一方で、インド、パキスタン、イスラエルの核兵器を容認したり、新型核
兵器の開発を計画したりすることで、IAEAの権威を傷つけ、この国際条約
を事実上の破綻を招いている。わが国の政策はこの確立された法規制にただち
に立ち戻らなければならない。

最後に、わたしたちになしうるアメリカの政策の最も重要な変革は、わが国
の帝王的大統領制を解体し、わが国の政治における行政、立法、司法の三権均
衡の回復を図ることであろう。国防総省とCIAの圧倒的で隠然たる支配権が
わがデモクラシーの共和制構造を転覆し、国民を軍部による乗っ取りの現実的
な脅威にさらしている。わが国の憲政構造の再興こそが、なににも増してわた
したちの平和と安全を守ることになるだろう。

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【筆者】チャルマーズ・ジョンソン
日本政策研究所(the Japan Policy Research Institute, カリフォルニア
州)代表として旺盛な執筆活動。一九六二〜九二年、カリフォルニア大学でア
ジア政治の研究・教育。「帝国シリーズ三部作」のうち既刊2著作――『アメ
リカ帝国への報復』(鈴木主税訳・集英社刊)、『アメリカ帝国の悲劇』 (村
上和久訳・文藝春秋刊)。 目下、シリーズ3冊目を執筆中。
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【原文】Wake Up!
By Chalmers Johnson
placed at Truthout, Thursday 31 March 2005
http://www.truthout.org/docs_2005/040205F.shtml
Originally posted at In These Times.
Copyright C 2005 Chalmers Johnson TUP配信許諾済み
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【翻訳】井上 利男 /TUP