TUP BULLETIN

速報553号 リバーベンドの日記 9月23日 憲法草案を読む(2) 051003

投稿日 2005年10月2日

DATE: 2005年10月3日(月) 午前5時35分

イラクは連邦制という名の内戦時代へ? 国連に提出された憲法草案


 戦火の中のバグダッド、停電の合間をぬって書きつがれる24歳の 女性の日記『リバーベンド・ブログ』。イラクのふつうの人の暮らし、 女性としての思い・・・といっても、家宅捜索、爆撃、爆発、誘拐、 検問が日常、女性は外を出ることもできず、職はなくガソリンの行列 と水汲みにあけあけくれる毎日。「イラクのアンネ」として世界中で 読まれています。すぐ傍らに、リバーベンドの笑い、怒り、涙、ため 息が感じられるようなこの日記、ぜひ読んでください。(この記事は、 TUPとリバーベンド・プロジェクトの連携によるものです)。 http://www.geocities.jp/riverbendblog/ (転載転送大歓迎です) (TUP/リバーベンドプロジェクト:池田真里)



2005年9月23日 金曜日

リンク… イラク人によるおもしろいブログのリンクをいくつか。

「自由なイラク」Free Iraq (イマド・ハドゥリのブログ)、「モスルの星」 A Star from Mosul (イラクの女の子のブログもうひとつーこっちはモスルから )、 「バグダードの宝」Treasure of Baghdad (バグダードに住んでるブロガー )、 それから、海外にいるイラク人ブロガーによる「イラク人の真実 」Truth About Iraqis。

午後11時53分 リバー

憲法草案 パートII 警告: 超〜長文です。

10日ほど前、イラク憲法草案の最終版(第3バージョン)がようやく国連に 提出され、9月15日のニューヨークタイムズ紙に英語で公表された。

私は先週、冒頭2つの章の一部の条文についてブログに書いた。だからきょう は第3章からはじめよう。「連邦政府」の章だ。ニューヨークタイムズで公表さ れた最終版と、アルサバで公表されたアラビア語版とのきわだった違いは、国会 の成立要件を定めた第3章第47条。アラビア語版では要件は6つあるが、英語 版では5つしかない。

英語版で消えた要件は、国会議員の25パーセント以上が女性でなくてはなら ないというものだ。

第47条: 4ー選挙法規においては、国会における女性議員の割合が4分の1以上に達するこ とを目標とする。

今まで、人権団体が憲法草案はイラン型神権政治から女性の人権を擁護する ことを保障するにはあまりに不十分だと批判すると、草案の支持者たちはこの条 文を指して「ほら、女性の人権はたしかに守られてるじゃないか」と言ったもの だ。

アラビア語版憲法を読んでみると、その言葉は必ずしも当たっていないーこ の文のキイワードは「目標とする」。かみくだけば、こういう意味になる:国会 に女性議員が25パーセントというのは必須要件じゃない。これはただの目標。 ごりっぱな操り人形政府が文書に記したたくさんの崇高な目標と同じ類の。

2年近く前のことになるが、統治評議会(当時のリーダーはSCIRIのすばらし い操り人形、アブドゥル・アジズ・ハキム)は個人身分法を廃止するために布告 137号を公表した。女性人権団体は立ち上がり、ポール・ブレマーに布告の撤 回を要求し、ブレマーはそれに応じた。私たちは、占領軍べったりの操り人形た ちが世俗法を廃止できなかったことを喜んだ。

この憲法草案で、布告137号が事実上復活したことになる。国会議員の2 5パーセントを女性議員にするという目標を掲げるだけではその埋め合わせには ならない。とくに、そうした女性たちの大多数がダーワやSCIRIのような政党から 出るとしたら。

不思議だー占領軍を支持し、戦争を支持する女性の権利の擁護者は怒らない の?女性たちよ、なぜこんなに静まり返っているの?

同じ章の同じ節にある第58条によると、国会は大統領選出の責任を負う( 投票により)。なぜ大統領選が直接選挙じゃないの?

共和国大統領の件では、同じ章のなかの最高執行機関という節に、おもしろ い条文がある。第65条は共和国大統領の要件(首相についても同じ)を列挙して いる。

第65条 大統領候補者は以下の要件を備えていなければならない。 1.イラク人の両親を持つ、生まれながらのイラク人であること。 2.法的能力を有し、40歳に達していること。 3.よい評判と政治的経験を持ち、高潔、清廉、公正、祖国への愛で知られてい ること。 4.名誉を損なう犯罪で有罪判決を受けていないこと。

「イラク人の両親を持つ、生まれながらのイラク人であること」では、『両 方の』親がイラク人でなければいけないと強調している点が重要だ(アラビア語 版では ‘abouwayn iraqiayn’という表現を用いているため、この点がさらに明 確になる)。あたりまえなことなのに注目すべきだというのは、これはすてきな アヤド・アラウィ、あの世俗的アメリカ人が大統領や首相の候補者になれないこ とを意味しているからだ。アラウィの母親がレバノンの著名な家系出身のレバノ ン人だということはイラクではよく知られている(チャラビ夫人の親戚だという ことも)。

最近、サウジアラビアがイラクにおけるイランの影響に対してはっきりとも の申しはじめた。それは、ガジ・アジル・ヤワルやアラウィのようなサウジアラ ビアのお気に入りが脇に追いやられ、ジャファリやハキムなどのイランの影響下 にある政治家たちが権力の座についたからではないか、と考える人が多い。

「名誉を損なう犯罪で有罪判決を受けていないこと」というのもおもしろい。 これって、タイプの違う犯罪で有罪になってもOKってこと?たとえばチャラビ のように公金横領なんてのはOK?いったいどんな犯罪が名誉を損なって、どん な犯罪なら名誉を損なわないのかしら。

連邦主義…

第5章「地方政府」はやっかいだ。連邦主義という概念に異存はない。わたし たちは何十年もクルド自治区に慣らされてきた。でも、憲法草案における連邦主 義と地方政策に関する目下の規定は「イラク分割ロードマップ」と題したほうが いいんじゃないだろうか。

第115条はとくに困ったものだ。その内容はというと、

第115条 すべての州は、単独でもしくは複数で、以下の方法のうちいずれかによって提出 されたレファレンダムの要請に基づき、1個の地方を設立する権利を有する。

1.地方設立を望む州の各州議会議員の3分の1の要請 2.地方設立を望む各州の有権者の10分の1の要請

これは、ふたつの州が同意すれば、周囲の地域と異なる法規を持つ「地方」に なることができるという意味だ。第116条がこの権利を強化している。

第116条 地方は、イラク国憲法の範囲内で、独自の憲法をつくり、地方の権限および権限 行使機構を規定する。

だから、基本的に、地方は憲法草案の範囲内で、それぞれ自分たちの憲法を持 てるというわけ。また、言語に関しては、第4条第5項にこうある。

第4条 5.すべての地方または州は、一般住民投票で住民の大多数の承認を得たならば、 地域の言語を付加的な公用語とすることができる。上述の地方は独自の「地方」 語を用いることができる。

第117条は「地方政府」の権限を規定する条文。

第117条 5.地方政府は地方を統治するために必要なすべての事柄に責任を負う。とくに、 地方警察、地方治安隊や警備隊のような地域内の防衛部隊を設立し、統制する。

ここでなぞなぞをしよう。独自の憲法と独自の政府と独自の地域内警備隊を 持ち、おそらくは独自の言語をも持つような地方のことを、なんていう?簡単よ ね。そういうのは国というのよ。

第6章第137条の「移行期間に関する指針」にはこうある。

第137条 「移行期間のためのイラク国家施政法」と附則は、同法第53条(a)および第5 8条を除き、新政府の創設とともに無効となる。

この条文では占領初期にポール・ブレマーが立案した「移行期間のためのイ ラク国家施政法」に触れている。そのうち、引き続き残される唯一の条項が次の ものだ。

第53条 【クルド自治政府】

(A)クルド自治政府は、ドフク、アルビル、スライマニヤ、キルクーク、ディヤラ、 ニネベ行政区域のうち、2003年3月19日に当該政府により統治されていた 地域の公式な政府と認められる。「クルド自治政府」という呼称は、クルド国民 議会、クルド内閣、クルド自治区司法当局に対して用いられる。

これはとんでもないものだ。というのは、2003年3月19日に「当該政 府」によって統治されていた領域については論議が絶えないからだ。キルクーク、 ディヤラ、ニネベ(モスル)はぜったいにクルド自治区の一部ではない。200 3年3月19日、戦争が始まったばかりのときに、クルド自治政府がどう考えて いたとしても。

実は、クルド地域はイラクの抱える懸念のうちもっとも小さなものだ。イラ ン寄りの過激派、ダーワとSCIRIが南部に自治地域をつくるかもしれないといわれ ている。もし、カルバラとナジャフが南部に地方をつくったとしたら、アメリカ は拡大イラン領の創設を歓迎するだろう。ふたつの州は、すでにそれぞれの武装 組織を持って、独自の法規を施行している。

国が安定しているならば連邦制はOKだ。国々や問題を抱えた地域が統一を めざしているときには、すばらしいものだ。でも、現在のイラクでは、連邦制は 破局をもたらす。文字通り国を分割し、不安定性を増す。イラクで実施されよう としているような類の連邦制の場合、ことにそうだ。

地形に基づく連邦制なら受け入れることができる。でも、民族と党派に基づ く連邦制なんて。いっそ、内戦を宣言してさっさとけりをつけてしまったらどう なの?

リバー 午後11時44分

(翻訳:リバーベンド・プロジェクト:いとうみよし)

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