TUP BULLETIN

速報556号 ジェームズ・キャロル 蚊とハンマー 051015

投稿日 2005年10月15日

FROM: minami hisashi
DATE: 2005年10月15日(土) 午前11時34分

☆アメリカの文明史を背景にして見る対イラク戦争★
イラク戦争の本質は、ブッシュ米大統領の言う「テロに対する戦争」だけでは
説明がつかないはずです。本稿、トム速報インタビュー第2弾において、ト
ム・エンゲルハートが、歴史的視野を持つコラムニスト、ジェームス・キャロ
ルに、ヨーロッパ精神に根ざした“十字軍”や、アイゼンハワー第34代大統
領が警告した“産軍複合体”など、長期的な歴史を背景にした、この戦争の性
格を聞きます。井上

凡例: (原注)[訳注]〈ルビ〉《リンク》
お願い――URLが2行にまたがる場合、全体をコピーしてください。
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トム速報インタビュー:
ジェームス・キャロル、9・11後の世界を語る
トム・ディスパッチ 2005年9月11日

(読者の皆さんへ――本稿は当サイトのインタビュー・シリーズ第2弾。1回
目はハワード・ジン《*》に登場していただいた。次回は、今月中、または1
0月に配信の予定。トム)
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/595

蚊とハンマー
――トム速報インタビュー: ジェームス・キャロル
[聞き手: トム・エンゲルハート]

私たちは、ふたりとも休暇シーズンのややくだけた格好で、別べつの車で同時
に駐車場に乗りつける。彼は雷雨を恐れて野球帽をかぶり、紫色の短レイン
コートを羽織っているが、どしゃ降りになる前の間一髪で土地の珈琲店に落ち
着く。私が2台のテープレコーダーの扱いにてこずっていると、さっそく彼は、
インタビューはイヤだ、と文句をつけはじめる。いまさら言うことに目新しい
ことなど何もないと彼は請け合い、続けて、私たちの会話が生みだすいかなる
ものも、金輪際、どんな形であれ活用する必要はないと私に申し渡す。

キャロルは、ペンタゴン直属の国防情報庁の基礎を築いた長官だった中将の子
息にして、カトリック教会の元司祭、しかもベトナム戦争時代の反戦活動家
(*)であり、久しい前から、信仰と武力とが融合して歴史的に不幸な熟成を
きたす様相に関心を抱き、追究してきた人物。この分野では、例えば、ベスト
セラーになった著作 “Constantine’s Sword: The Church and the Jews”
《1》[仮題『コンスタンティンの剣――教会とユダヤ』]を世に出している。
(ベトナム戦争の時期を主題にした著書に “An American Requiem: God, My
Father, and the War That Came Between Us”《2》[仮題『アメリカの鎮魂
歌――神、わが父、私たちを裂いた戦争』]がある)
1 http://0618219080.books-us.asin.cync.jp/
2 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/039585993X/250-3315663-
6317831

2001年9月11日の攻撃から数日もたたないうちに、彼は、主流メディア
のなかでおそらくアメリカ随一の熱情的な――しかも、預言者的な――コラム
ニスト[論説寄稿者]になった。今も、毎週月曜日のボストン・グローブ紙に
彼の論説記事《1》が連載されている。ブッシュ政権は、彼らの原理主義的な
宗教基盤、マニ教的な二元論世界観、イスラムに対する文明間衝突に向かう衝
動、万能の軍事力に対する深い陶酔と信頼を政策の根っ子に置いているので、
ある意味で彼[キャロル]が料理するのにお誂え向きの素材である。さらに彼
は、9・11直後、わが国の大統領が「テロに対する戦争」を予告した当初の
時期から、政権の行動の帰結を抜群の正確さをもって把握してきた。世界貿易
センター双塔ビルの崩壊とペンタゴンの損壊に始まり、イラク侵略一周年に終
る、彼のグローブ紙寄稿記事の卓越した集成 “Crusade: Chronicles of an
Unjust War”《2》[仮題『十字軍――不当な戦争の年代記』]は、あの決定
的な時期のものとして、私たちの手にある最良の同時代史《3》になることが
確実だろう。
1
http://www.boston.com/news/globe/editorial_opinion/oped/articles/2005/
09/05/katrinas_truths?mode=PF
2 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0805077030/250-3315663-
6317831
3 http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?pid=1781

彼は穏やかな口調で率直に語る。話すとき、考えていることがほとんど手に取
るように分かる。ここ数年間、私たちが経験してきた世界を振り返って没入す
ると、彼の口調はピッチをあげ、しっかりした勢いのあるリズムを帯びる。彼
の声に、彼の週刊連載コラムの品質証明と同じ、情熱と知性、熱中と思慮深さ
との印象的な組み合わせを感じることができる。私はテープレコーダーを廻し、
私たちは2001年9月11日以降の世界を考えはじめる。

【トム・ディスパッチ】2003年9月と言えば、イラクへ侵攻からまだ5か
月しかたっていないころですが、あなたは「イラクにおける戦争は敗北だ。今
回の負け戦では、真実に向き合うために、なにが必要になるだろう?」とコラ
ム《*》に書いておられます。あれから2年たちました。その真実に向き合う
ために、なにが必要だったのであり、また、なにが必要になるでしょうか?
http://www.commondreams.org/views03/0902-03.htm

【ジェームス・キャロル】現時点で、真実の擁護者は、戦争の敗北を最も深く
味わっている人たち、戦死米兵の親御さんたちであるのは、私にとって興味深
いことです。8月時点において現実を直視することは、[戦争に]賛成である
にしろ反対であるにしろ共通して、こうした親たちだけの関心事であったのは
驚くべきことだと見ました。一方の側のシンディ・シーハンは、この戦争は、
その価値をどのように想定しようとも、私たちの負担に見合うものではなく、
ただちに終らせなければならないと明確に発言していますが、他方の側の親た
ちは、わが子の死に、なんらかの意味を見出すために必死になっており、彼ま
たは彼女を犬死にに終らせないためにも、戦争の継続を願っています。両者と
も、親の悲しみという基本的な真実に向き合っているのであり、あえて言って
おきますが、もっと大きな同じできごと、戦争の敗北に反応しているのです。
戦争に勝っていると発言している親御さんがいるとは思えません。負けている
戦争でわが子を失うという大変な悲劇に見舞われて、その戦争が正しいか否か、
あえて問題にする親はいません。

アメリカの政治演説のなかで、はたしてどのような人間的・政治的問いかけを
持つ議論が彼ら悲嘆に暮れる親御さんたちに届いたのかと考えると、私は悲痛
な思いがいたします。民主党員はどこにいますか? この件に関して、共和党
員はどこにいますか? 連邦議会の議場で、この戦争に関する議論はありまし
たか? 私が言いたいのは、ベトナム戦争時代には、驚くべきフルブライト公
聴会があったということです。(民主党上院議員、ウィリアム)フルブライト
は、この公聴会が開かれたとき、(民主党の大統領)リンドン・ジョンソンに
敵対していたのです。間違いありません。今日、どこで公聴会をやっています
か? 私たちは数多くの質疑を保証するとされる政治システムを有しています
が、そういう質疑が保証されていないのは明らかなのです。私たちが現実を直
視するのに、どれほどの時間がかかるのでしょう? 彼ら悲嘆に暮れる親御さ
んたちは――私と同じように――戦争に反対していても、私たちが陥っている
凄まじいジレンマを解消するための政治的な智慧を求めるべき対象とされては
いませんので、現実が彼らによって直視されなければならないのは、まことに
ひどいことです。

【TD】2004年3月、イラク侵略1周年を期して掲載された――そして、
あなたの本 “Crusade”[『十字軍』]の末尾を飾る――記事《*》にも、あな
たは「今週から先、イラクでなにが起こるとしても、米国にとっての戦争の肝
心な帰結は明白であり、われわれは自滅したのである」とあなたは再度お書き
になっています。

【キャロル】ジョナサン・シェルが、著書 “Unconquerable World”《*》
[『征服しえない世界』]で、とてもみごとに示した20世紀の歴史の概観に
よって、私はすでに教示を得ていました。彼は、広範な支持基盤を持つ民族抵
抗運動は、大きく優勢な軍事力によってすら倒しえないことを示す非常に多く
の例証をあげています。彼が慧眼をもって見抜いたのは、前世紀には、火器の
威力における圧倒的優位が、地元住民に基盤を置く少数派抵抗運動に対してさ
え的外れであることを示す――ベトナム戦争体験のあるアメリカ人には明白な
ことこの上ない――例証がふんだんにあるということであり、いわゆるイラク
における反乱において、スンニ派を主体とする少数派抵抗運動であることは、
また少数派であるかどうかは問題でないことが明らかなのです。抵抗運動の基
盤になり、それを煽る土着の住民が存在しています。そして、その全体像がた
ちどころに明らかになっていました。じっさい、1991年時点で、そのこと
がジョージ・W・H・ブッシュ[父]に明らかだったと私は考えます。この
ケースで一から学ぶのに必要だったのは、ベトナム戦争ではありませんでした。
必要だったのは実に第一次湾岸戦争であり、その戦争を停止したブッシュ
[父]の現実政策的な決定は、死ぬまで戦う用意のある土着の民衆宗教運動を
打ち負かす術がないと知る確かな知識にもとづいていました。

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米国陸軍の崩壊を看取る

【TD】では、あなたの見るところ、今、私たちはどの局面にいたっているの
でしょう?

【キャロル】私たちがこれに勝てないことは、すでに民衆の目に明らかです。
負けることがなにを意味するか、だれが知っているでしょう? 私たちの意志
をイラク国民に押しつけるわけにはいかないので、わが国は負けたのだと私は
言ったのです。イラク憲法制定過程の紛糾が示しているのは、このことです。
1か月前、ドナルド・ラムズフェルドは三者合意がなければならないと主張し
ていました。8月には、そんなものはありえないことがハッキリしました。そ
こで、今では二者合意になり、スンニ派は除外されました。イラク政治におけ
るこのような展開が、スンニ派をイラクの将来から切り離してしまいましたの
で、基本的に彼らの抵抗運動に正統性を与えてしまいました。彼らは石油の分
け前に預かれません。彼らはバグダードにおける政治的実権に関与できません。
われわれには失うものがない――これが無期限の戦闘を正当化する決まり文句
になります。

【TD】イラク駐留米軍の将軍たちが、最近、ワシントンからの承認がないこ
とが明らかなのに、兵力削減や撤退について発言しているものですから、私は
驚いています。底辺では、軍人家族の怒り、士気の低下、全志願制の軍隊の人
集めが思うようにいかないといった事情があり、上層部では、はなからイラク
駐在を望んでいなかった将軍たちが、今、滞在を嫌がっているという状況があ
ります。

【キャロル】そう、将軍たちは、一般社会に根ざした陸軍支援システム――州
軍と現役予備兵――を含めて、米国陸軍の崩壊の中心にいることを余儀なくさ
れているのです。これが、戦争の最も重要な帰結であり、ベトナム戦争のとき
もそうでしたが、私たちは一世代間は代償を払うことになります

【TD】ペンタゴンに関するあなたの知見に照らして、それはどのような代償
になるのでしょうか?

【キャロル】悲しいかな、私たちが繰り返そうとしていることのひとつは、空
軍力への過度の依存と遠方からの爆撃であると私は言っておきます。明白な例
をあげれば、現政権下の米国はイランが核兵器を開発するそぶりを見せるのを
許しません。核開発を阻止するために米政権が採りうる唯一の手段は空軍力で
す。現政権の手には、影響力を発揮できるほどの陸軍は残っていません。米国
陸軍の破壊力も凄まじいですが、海軍と空軍とは、両者とも遠距離攻撃戦力で
あり、攻撃時の惨禍から免れていられるという点で凄まじいものがあります。
これが海・空軍の存在理由であり、両軍とも無傷のままです。両軍のトマホー
クおよび巡航ミサイルは基本的に温存されています。わが国はこの大規模な高
性能火力兵器を沖合に配備していて、そのような戦力を遠方から必ず再び用い
ることになります。

アメリカ合州国が1990年代から学んだとして公言していることのひとつが、
ルワンダのときのような集団虐殺的な行動の再来を容認しないということです。
さて、大量虐殺の動きに対処するために使える唯一の軍事手段、すなわち地上
戦力をわが国は基本的に台無しにしてしまいました。鉈〈なた〉を振り回すよ
うな相手に空軍力は使えません。貧困がいかんともしがたく、生態学的災害が
どんどん悪化して迫ってくる地域に、あの種の紛争は起こらないだろうと考え
ているなら、考えなおすことです。そのような破局的状況に、有効に機能する
陸軍のない米国はどのように対処できるのでしょう?

お分かりでしょうが、私たちは、今ではかつて崩壊してロシアになったソ連の
ようなありさまになっているのです。ロシアは、自国の兵士たちに給料が払え
なくなったとき、ただひとつ、力の拠り所として核兵器備蓄に頼るようになり
ました。ソ連時代には、そのようなことは断じてありませんでしたが、今のロ
シアは徹底的に核兵器に依存したうえでの軍事大国になっています。もはや赤
軍は実質的には物の数にたいして入らなくなりました。私たちはイラクでわが
国じたいに対してこれと同じことをしたのです。これが、すでにこの戦争に負
けたということが意味するものです。私たちが自国にこんな仕打ちをするのに、
敵は必要ありませんでした。私たちが自分の手を下して、これをやったのです。

【TD】「私たち」とは、ブッシュ政権のことですか?

【キャロル】そうです、ブッシュ政権のことですが、この「私たち」は、去年
の大統領選挙戦で、戦争を争点にするのを拒んだジョン・ケリーや民主党員た
ちのことでもあります。私は、共和党員たちの欠陥を言いたてるのと同じほど、
あらゆる点で民主党員たちの欠陥をもあげつらうのです。ブッシュは少なくと
も首尾一貫し、信じがたいほど未熟な世界観によって、イデオロギー的に振り
回されています。その点、民主党員たちは極端な形の冷笑的傍観者です。彼ら
は予防戦争ドクトリンを容認しませんでした。この戦争に関して、大量破棄兵
器を口実にした正当化を受け入れませんでした。彼らはそのようなものにどれ
ひとつ賛成せず、しかも反対しなかった! 民主党員たちの冷笑的な態度は、
この戦争の最も驚くべき結果のひとつです。そして今でさえ、来年の議会選挙
に向けた政治会話が始まろうとしているときに、第二次世界大戦からこのかた
二度目の、このみずから招いた軍事的大失敗について、民主党員の議論がどこ
にありますか? 少なくとも最初の[大失敗の]ときには、民主党員たちは存
在を示していました。1972年の選挙でジョージ・マクガヴァン一派は[リ
チャード・ニクソンに]手ひどく負けはしましたが、この問題を真剣に取り上
げていました。

私たちは、ユージン・マッカーシー[*]のような人物、真に明確・強力に、
政治的文脈のなかで真実を語り、私たちが国民として対応できるようにしてく
れる人物をぜひ必要としています。ユージン・マッカーシーは果敢に発言して
います。上院と下院のすべての選挙で戦争が活きた論点になるように、次の選
挙期間に政治的抵抗を先導できる人物が必要なのであり、私たちに使えるのは
だれかと聞かれれば、消極的な気持ちながら言っておきますが、ニュート・ギ
ングリッチ[共和党。元連邦下院議長]のような人かもしれません。私たちは、
この議論をアメリカに呼び起こすに足る政治的素養を備えた人物を必要として
いるのです。
[ヴェトナム戦争に反対して1968年の大統領選に出馬した元上院議員]

イスラムに対する文明間戦争

【TD】あなたは、2001年9月11日の後、最初にお書きになった記事に、
「私たちがこの大惨事にいかに対応するかが、私たちの愛国心を定義し、世紀
を形作り、私たちの最愛の死者たちを追悼する形を決めることになるだろう」
《*》と書かれました。あれから4年経過した今、あなたは、それぞれについ
て、私たちの対応をどのように評価なさいますか。
http://www.commondreams.org/views01/0915-08.htm

【キャロル】愛国心は、わが国では、空虚で党利党略的な概念になってしまい
ました。私たちが若い兵士たちをスケープゴートや[大砲の]餌食にしたのは、
愛国心の名においてでした。愛国心の名における若者に対する裏切りは、9・
11後の私たちの反応にまつわる驚くべき事実です。老人たちが若い人たちを
山上に連れていって、祭壇に捧げたのです。これはまったくのアブラハムとイ
サクの物語[*]の再現です。これは、最古の物語であり人身御供、この8月、
あの親御さんたちの嘆きの声をあれほど悲痛にさせたものなのです。だが、あ
の叫びは、自責の要素をも含んでいるはずです。なぜなら、親たちはわが子に
そのような仕打ちをしたのですから。私たちは自分の子どもたちにそんなこと
をしたのです。これが、米国陸軍を破壊することが意味するものです。私たち
は、毎晩、あの破壊の実際の犠牲者が、年齢18ないし30歳の若い男たちで
あるのを、時には若い女たちであるのを見ているのです。そして、これが愛国
心の名によっておこなわれています。
[「神が命じられた場所に着くと、アブラハムはそこに祭壇を築き、薪〈たき
ぎ〉を並べ、息子イサクを縛って祭壇の薪の上に載せた」旧約聖書・創世記2
2・9]

二番目の論点、これからの世紀の世界の形については、アメリカ合州国が私た
ちに与えたもの――イスラムに対する文明戦争!――をご覧になることです。
オサマ・ビンラディンは過激な原理主義イスラム教徒と世俗的な西洋との間の
戦争に火を点けることを望みました。そして、彼は成功したのです。私たちは
彼の思う壺にはまりました。今では、私たちは、戦争がイラクやアラブ世界で
さんざんおこなわれているだけでなく、ヨーロッパでもすこぶる劇的に勃発し
ているのを目撃しているのです。

【TD】9・11直後、2、3日のうちに、あなたはブッシュのちょっとした
口の滑りを捉えたとき、このことを取り上げました。ブッシュは、私たちが
「十字軍」に向かっていると言ったのです……

【キャロル】……「テロに対するこの戦争、この十字軍」

【TD】そうです。それについて、あなたは「野球について話しているかのよ
うに、彼の頭に浮かんだ」とおっしゃいました。暴力行為を神聖なものとする、
このような発言の撤回を、今、私たちは、抗議の声をあげている兵士家族たち
とともに目撃しているのでしょうか?

【キャロル】いいえ! 私たちの周りには、起こったこと――原理主義キリス
ト教の政治化――を示す危険信号だらけです。私が言いたいのは、冷戦時代の
初期、ビリー・グラハム[1]が反共の指令塔になった時からずっとそうだっ
たということです。だが、新しいのは、この取るに足りない原理主義キリスト
教が政治の主流に入りこんで、キャピタル・ヒル[連邦議会の所在地]を牛耳
るようになったことです。今では、下院や上院の議員たちが目白押しになって
――ハルマゲドン[世界最終戦争]や終末論を援用した暴力行為の正当化とい
った範疇の宗教的言辞を含む――自分たちの神学を政治判断のために用いる公
然たるキリスト教原理主義者になっています。ロバート・ジェイ・リフトン
[2]が書いた《1》ような、この種の終末論的な政治思考は、今やあまりに
も主流になってしまったので、米国軍隊の内部にさえ、それを見ることができ
ます。少なくとも私の生涯で初めて、明白な宗教的狂信が軍人の徳目として浮
上したのですが、これは、故意に、またハッキリとイスラム教を侮辱した(ウ
ィリアム)ボイキン将軍《2》のことだけを言っているのではありません……
[1 Billy Graham / William Franklin Graham=アメリカ南部バプテスト教
会の福音主義牧師。テレビなどを活用する最も著名な大衆伝道師]
[2 Robert Jay Lifton=ニューヨーク市立大学の精神医学・心理学特別教授。
核戦争防止国際医師の会などを主導し、積極的に活動]
1[出所: リフトン著 “Superpower Syndrome: America’s Apocalyptic
Confrontation With the World” 仮題『超大国症候群――アメリカの世界との
黙示録的な対決』]

50-3315663-6317831
2 http://www.cnn.com/2003/US/10/16/rumsfeld.boykin.ap/

【TD】……そして、将軍は昇進した。

【キャロル】それに、いまだに権限を握っている。これは彼だけに終るもので
はなく、空軍士官学校における原理主義キリスト教の台頭という、最も警戒す
べきでありながら、じゅうぶんに注目されていない、この現象は、都合よくも、
政治的な二大信仰団体、フォーカス・オン・ザ・ファミリー[「家族に焦点
を」、日本名「ファミリー・フォーカス」]、ニュー・ライフ・ミニストリー
ズ[同「新生聖職団」]の近傍に位置しています。かなりの割合の士官候補生
たちが、間違いなく公然の再生派キリスト教徒であると分かっており、司令官
は軍事教練隊に見られる宗教を信奉する風潮に対する支持を明確にしてきまし
た。こういう彼らが、米国大統領により度を増して宗教的言辞で定義される戦
争で用いられる、米軍の最大威力兵器類の管理を私たちが任せている人たちな
のです。この全体のありさまが、ますます結集する一方のジハード主義イスラ
ム教徒に対する私たち側の宗教戦争なのです。

一方、ヨーロッパでは、最近まで、大英帝国は(前世代の時代全般を通して、
大人数のイスラム教徒移民を受け入れていたことからも分かるように)米国よ
りもずっと寛容な文化を保っておりました。これがまた、今では英国の立法者
たちによって確固として露骨に否定されています。ヨーロッパの大都会のどこ
でも、この動きを見ることができます。オランダとフランスとがヨーロッパ
[EU]憲法に反対票を投じたのも、部分的には、両国民の目に、それがトル
コおよびイスラム圏全般に対する開放を意味するものと映ったからであり、こ
れには、なにかきわめて大きなことが起こっているのです。

歴史の火口〈ほぐち〉に点火する

【TD】これは、あなたが深く研究なさった時代――中世――に私たちを連れ
戻しませんか?

【キャロル】そのとおりです。私たちはヨーロッパにおける十字軍のパラダイ
ム[ある地域・時代に支配的な対象把握の枠組み]が決して終っていないこと
を正しく認識しておりません。ヨーロッパはイスラムの脅威に対する反応とし
て成立しました。ヨーロッパの統治構造、ヨーロッパの王室は、すべて、ツー
ル[フランス]でイスラム軍を破った人物の孫、シャルルマーニュ[カール一
世とも称する。西ローマ皇帝(800-814)]に端を発しています。千年以上も
前、ヨーロッパで最初の帰属意識の体系が根を下ろし、それはイスラムに対抗
すると自己を規定するものでした。これはヨーロッパ精神における究極の政治
的なマニ教二元論です。

私たちはこの精神の申し子なのです。私たちの時代には、イスラムは忘れられ
ておりました。世界に10億人を超えるイスラム教徒がいても、気にかけてき
ませんでした。冷戦の時期全般にわたり、私たちは、他者、圏外の人、敵とは
共産主義者のことであると考えていました。だが、イスラム世界は私たちを決
して忘れてはいませんでした。彼らにとって、十字軍はつい昨日のことなので
す。なんらかの形で、西洋は彼らの対抗者と自己規定していると、彼らは私た
ち以上によく理解してきました。

私たちがイスラエル・パレスチナ間紛争を理解するにさいし、この背景がなけ
れななりません。千年の昔でも今と同じように、エルサレムの政治的命運が、
聖戦を動かす軍事的火花になっていました。とどのつまり、十字軍戦士たちは
聖地を異教徒から救うためにエルサレムに向かっていたのであり、その異教徒
とは、2宗教がセットになったイスラム教徒とユダヤ教徒だったのです。イス
ラムに対する攻撃は、ヨーロッパ内部のユダヤ人に対する最初の実質的な攻撃
と同時におこなわれました。中東諸国において、イスラエルでの紛争が西洋と
の決定論的な衝突と一体的なものとして容易に受け止められるのも、このよう
な歴史事象の一環なのです。

先週、ケルン(ドイツ)で、私はユダヤ人団体の代表に会いましたし、イスラ
ム系住民を率いるイマーム[イスラム教の学識豊かな学者の尊称]にも面会し
ましたが、ふたりとも同じ体験を語っておりました。ふたり揃って、ヨーロッ
パにおける同じ祭壇――犠牲の祭壇――の上に置かれていると感じていたので
す。両者とも、攻撃されやすいと思っており、そのように思って当然なのです。
これは非常に奇妙な捩じれ現象です。

ともかく、アメリカ合州国は、その手にもてあそんでいる火種を理解しておら
ず、ジョージ・ブッシュは、未熟にも十字軍に言及することにより、これらの
紛争が私たちの文化にいかに深く根ざしているものかについて並外れた無知を
曝〈さら〉けだしました。オサマ・ビンラディンはこのことをブッシュよりも
ずっとよく理解しています。ジハード主義者が好んで用いる二つの侮蔑語が
「十字軍兵士」と「ユダヤ人」であるのは偶然ではなく、これらは膨大な数の
イスラム教徒アラブ人を焚〈た〉きつける言葉になっています。

【TD】ブッシュは、オサマ・ビンラディンと一緒に踊ることによって、みず
からを何らかの形でスーパーパワーのような存在に仕立て上げたとあなたはお
考えですか? お分かりでしょうが、あなたが以前にお使いになった言葉が私
の目を捉えたのです。あなたは「ブッシュの傲慢な対外政策は、幻想に他なら
ないものにもとづくものであることを公式に曝け出した」と申されました。ビ
ンラディンがいかに賢くとも、これら全体にも、やはり幻想的なものがあるの
ではないですか?

【キャロル】仮想敵を超越者として扱うと、ある時点で、みずからも超越者に
なるのは、ほんとうのことです。

蚊とハンマー

【TD】あなたは、私たちがイスラムを「忘れていた」とおっしゃいました。
あなたの著述のテーマ――こう言って、許されるなら――あなたの生涯のテー
マは、アメリカ人流儀の意志による健忘症なのです。アメリカ人の生活におい
て“忘れられた”ように思える、あなたの二大関心事は、私たちの社会の軍国
化および核兵器です。あなたのお父上は将軍でした。あなたの次の著作はペン
タゴンについてのものです。私たちの生活におけるペンタゴンの位置づけで、
私たちに見えない側面はなんですか?

【キャロル】ジョージ・W・ブッシュが9・11の危機に反応したとき、それ
には二つの要素が介在しました。ひとつには、彼自身の――幼稚で未熟、危険
なマニ教二元論の勝利主義にもとづくイデオロギー的な衝動に駆られる――気
質であり、それに、アメリカの統治構造がそうであり、これは60年間をかけ
て築かれたものです。9・11に対する反応として、ブッシュに許された選択
肢はほとんどなかったわけですが、このことはじゅうぶんに理解されておりま
せん。

求められていたのは、国際法の協調的な執行を中心課題とした精力的な外交活
動でしたが、わが国政府は、先立つ二世代にわたって、そのような外交面での
国際協調主義のためには、持てる国力を活用してきませんでした。第二次世界
大戦以来、私たちが投資してきたのは、大規模な軍事力に対してであり、だか
らこそ、ブッシュにとって、まず大規模な軍事的対応に訴えるのが当然のこと
だったのです。ブッシュの気質と長年にわたり用意されてきたアメリカの制度
的対応の組み合わせは、不幸な事態でしたが、実際にそうなってしまったので
す。ある人がおっしゃっておりましたが、彼がオサマ・ビンラディンという蚊
を叩くために道具箱を覗きこむと、手持ちの道具はハンマーしかなかったので、
アフガニスタンにそれを振り下ろし、その国を叩き潰したのです。次にイラク
に振り下ろし、破壊しました。蚊は逃げてしまったのは、もちろんのことです。

わが国において、私たちが直接的な考慮に入れてこなかったなにかが、フラン
クリン・ルーズベルト[第32代大統領(1933-45)、民主党]時代に始まり、
今に続いています。私が書き上げたばかりの本は、サブタイトルを “The
Pentagon and the Disastrous Rise of American Power”[「ペンタゴン、そ
してアメリカの力の不吉な膨張」]としております。「不吉な膨張」という論
争を挑むような言葉遣いは、アイゼンハワー[第34代大統領(1953-61)、
共和党]の有名な軍産複合体演説に由来していますが、彼は、アメリカにおけ
る「誤った力の不吉な膨張」――そのころ、まさしく実現し、今に続くもの―
―に対する明白な警告を発しました。

【TD】そのくせ、これの妄想的な側面のひとつが、わが国が9・11後に対
応したあれだった……と、お考えになりませんか?

【キャロル】……力はむなしかった。もちろん、皮肉なことです。私たちは、
敵が私たちのために創り出したいと思っているような惨状を、みずから創り出
しました。これがアイゼンハワーの警告の核心だったのです。私たちはデモク
ラシーの価値を犠牲にしました。どう言えば、アブ・グレイブやグアンタナモ
で起こったことを説明できるでしょうか? どう言えば、告発された人たちを
扱うにさいし、守るべき基本的なアメリカの原則を手放してしまったことを説
明できるでしょうか? 私たちは、アメリカのデモクラシーという根本的な信
条をみずから投げ捨てた! 憲法を支える、この大黒柱を取っ払うのに、侵略
軍は必要でありませんでした。私たちは自分の手でそれを倒してしまったので
す。

そして、私たちは、ソ連と戦うために創り出し、ソ連消滅後も手をつけられな
いまま残った軍事機構について、かろうじて考慮しはじめたばかりです。冷戦
の最終局面で脅威が去ったとき、もちろん、それ[軍事機構の見直し]が啓示
だったはずですが、私たちの対応は変わりませんでした。これは党派にかかわ
る論議ではありません。なぜなら、決して実現しなかった、いわゆる平和の配
当を主宰していた人物は、ビル・クリントンだったのです。私たちがわが国の
貯蔵核兵器を解体できた、あるいは少なくとも(保守的な軍事理論家たちでさ
えも、実現していたらよかったと思うような)合理的なレベルにまで削減でき
た時期の責任者だった人物は、ビル・クリントンでした。ビル・クリントンは、
国際刑事裁判所、核兵器拡散防止条約、弾道弾迎撃ミサイル制限条約の精神を
最初にないがしろにした人物です。ジョージ・ブッシュは、大統領になったと
き、ビル・クリントンが用意した領域に足を踏み入れたのです。こう言うのも、
クリントンを悪魔に仕立てるためではありません。ただ単に、私たちが考慮に
入れていなかった存在のために、わが国の政治体制がすでに腐蝕されていたこ
とを示すためです――そして、この存在を一言で言えば、それは「ペンタゴ
ン」だったのです。

【TD】また、60年前のあの瞬間、原爆が登場し、あなたは、それについて、
万物のなかでも最もはなはだしく忘れられたものとして度たび書かれておられ
ます。

【キャロル】政治学者、マーク・トラクテンバーグの造語に「アトミック健忘
症」というものがあります。原子力兵器にかかわることならなんでも、私たち
は忘れる傾向があるというのが、1945年に起こったことの曲げられない事
実であり、日本の降伏サインを巡る交渉、日本侵攻、そしてその他の全部を考
慮に入れるさい、アメリカがこれほど難儀する理由なのです。例年、8月の第
一週になると、(左右を問わず、あらゆるイデオロギー上の立場の歴史専門家
たちによって完膚なきまでに誤りを暴かれている)原爆[投下]の必要性を主
張するアメリカ人の右往左往ぶりを目撃することになります。イデオロギー的
立場の一方の端で、核兵器に関するアメリカの今日の政策――今になってさえ、
核兵器製造を再開しようとしているという事実、今になってさえ核兵器を使用
すると脅かしつづけているという事実――の無意味さについて、私たちは考え
はじめてすらいないのです。どうしてこれらの問題がそれほどまで意識されな
いのでしょうか? そう、その答えは、それらがもっと大きな現象の一部だか
らであり、アメリカの居間のまんなかに象[共和党の象徴]が居座っていて、
私たちはそれを避けて通るだけで、だれもなにも言わないというものなのです。

ローマ帝国――そして、わが帝国

【TD】9・11の直後からイラク戦争までの、あの比較的に短い期間、識者
たちがわが国のことを新ローマ帝国として語っていたときのこと、私たちは、
地上から、宇宙空間から、どこからでも世界を支配する力を持つという、ペン
タゴンに非常に強く結び付いた風潮があったときのことを私は考えていました。
今、これについておっしゃることは、なにかありますか?

【キャロル】私たちは、西洋の私たちがローマ帝国の血筋を引いているという
事実にじゅうぶん馴染んでいるのではありません。ローマ帝国はいまだに私た
ちの内部に存在しています。ローマ帝国のよいところ――その道路、言語、法
律、建造物、古典など――は、私たち記憶に留められています。私たちは古典
世界の申し子なのです。だがローマ社会の底辺にいた人びと――その道路を造
った奴隷、市民一人につき非常に多くいた奴隷、服従すれば帝国内に連れてこ
られ、多少なりとも抵抗すれば、徹底的・完全に壊滅させられた、抑圧・占領
される側の諸民族――にとって、ローマ帝国はなんであったかについては、私
たちはごくわずかにしか注意を払っていません。

今、歴史家たちは、紀元70年から135年の間に、何十万人ものユダヤ人が
ローマ人に殺されたと示唆しておりますが、私たちキリスト教徒は、ユダヤ民
衆に対するローマ人の戦争を辛うじて憶えているだけです。どうしてユダヤ人
たちは殺されたのでしょう? ローマ人が反セム族だったからではありません。
彼らが殺されたのは、神を畏れぬ軍隊による聖地イスラエルの冒涜〈ぼうと
く〉的な占領であると、彼らの目に映るものに抵抗したからです。これは、2
0世紀までの歴史における、最も残酷な軍事力行使のひとつとして残るでしょ
う。

私たちアメリカ人は、情け深い帝王にふさわしい衝動を持つものとしての自己
意識に満ちています。だから、アメリカ帝国という構想は、よい現象として賞
賛されたのです。私たちは世界に秩序を伝えようとしていたのです。さあ、そ
のとおり……君たちがわれわれに抵抗しないかぎり。そして、そこに、私たち
はローマ帝国に共通する恐ろしいなにかをほんとうに持っているのです。われ
われに抵抗すれば、われわれは最善を尽くして君たちを滅ぼすというわけです
が、そのことが、たった今、イラクで起こっているわけであり、しかもこれは
イラクだけに限った話しではありません。これは実に悲しいことです。なぜな
ら、わが国が人びとを叩きのめすやり方は、公然の軍事力によるだけではなく、
わが国が支配する世界経済・政治体制から人びとを消し去ることによってでも
あるからです。あなたが、バングラデシュ、またはガーナ、またはスーダン、
あるいはことによるとデトロイトの未開人であるならば、これが私たちの対応
のしかたなのです。言い換えれば、ローマ帝国がなんであったかについて、私
たちがもっと複雑な概念を持っていたなら、私たちはもっとよい振る舞いがで
きたでしょう。私たちは、底辺の民衆が感じ取るままの帝国の権力のありさま
について考慮しなければなりません。ローマの権力です。アメリカの権力です。

[原文]Tomdispatch Interview: James Carroll on Our Post-9/11 World
posted September 11, 2005 at 2:46 pm
http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?emx=x&pid=21456
Copyright 2005 Tomdispatch TUP配信許諾済み
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[翻訳]井上利男 /TUP

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