TUP BULLETIN

速報564号 リバーベンドの日記11月17日、18日、白燐弾と拷問 051122

投稿日 2005年11月22日

DATE: 2005年11月23日(水) 午前0時35分

骨になるまで焼かれ、頭蓋骨に穴を開けられ・・・


 戦火の中のバグダッド、停電の合間をぬって書きつがれる若い女性の日記 『リバーベンド・ブログ』。イラクのふつうの人の暮らし、女性としての思 い・・・といっても、家宅捜索、爆撃、爆発、誘拐、検問が日常、女性は外を出ることもできず、職はなくガソリンの行列と水汲みにあけあけくれる毎 日。「イラクのアンネ」として世界中で読まれています。すぐ傍らに、リバ ーベンドの笑い、怒り、涙、ため息が感じられるようなこの日記、ぜひ読ん でください。(この記事は、TUPとリバーベンド・プロジェクトの連携に よるものです。転送転載大歓迎です。)  http://www.geocities.jp/riverbendblog/ (TUP/リバーベンド・プロジェクト:池田真里)


2005年11月17日木曜日

通常の恐怖・・・

これがコンピュータのデスクトップに5日間居座っていた。 http:// www.rainews24.r ai.it/ran24/inchiesta/video/fallujah_ING.wmv [2005年11月9日にイタリアニューステレビ局Rainews24で放送されたドキュメン タリー番組の映像。2004年11月の米軍によるファルージャ攻撃で化学兵器(白燐 弾)が使用されたこと、また攻撃対象には一般市民も含まれていたことを元米兵 の証言などから立証]

この映像のことをインターネット上のあるサイトで初めて読んだ日、心が重く 沈んだ。ファルージャで白燐弾。もちろん白燐弾についてはなにも知らなかった けれど、詳しいことは知りたくないという思いが私の内にあった。映像を4回も ダウンロードしようとしたのに4回とも接続に失敗して、少しほっとした。

E.もこの映像のことを聞いていたのだが、とうとう友達のS.が映像をCDに入れ て持ってきた。 S.とE.は部屋に閉じこもって、コンピュータでこの短いドキュメ ンタリーを観ていた。30分後、E.は部屋の外に出てきた。顔は青ざめ、唇を真一 文字に結んでいた。物思いに沈んでいるときの表情だ。できれば話題にしたくな いことについて考えるときの。

「ねえ、私もそれ観たいな…」S.と戸口に向かうE.に、私はおずおずと声をかけ た。

E.は言った。「デスクトップにあるよ―でもほんとは観たくないんでしょ」

それから5日間、私はコンピュータを避けていた。だって、電源をいれるたび に、そのファイルが私の目を捉え、呼びかけるのだから…あるときは悲しげに観 てくださいと懇願し、あるときは怒りをこめて私の無関心を非難する。

無関心どころじゃなかった…私の胃に深く腰を下ろしていたのは、一種の怯え だった。小さい石ころを一ダースも飲み込んだような気がした。私はそのフィル ムを観たくなかった。頭の中にしみついている殺された市民たちの映像が中に含 まれていることを知っていたから。

米軍がファルージャで化学兵器を使用したことについて疑いを持つイラク人は ほとんどいない。かれこれ1年以上も前から、にんげんが骨になるまで燃えてし まったというおぞましい話を聞いてきた。だけど私はそのことを確認したくなか ったのだ。

私はそのことを確認したくなかった。ファルージャで起こった残虐行為を確認 するのは、アメリカ占領下で私たちがイラク人としてどれほどのものを失ったか を証明することを意味するから。そして、全世界が信じられないほど役立たずだ と証明することを意味するから―国連、コフィ・アナン、人道支援機関、聖職者 たち、法王、ジャーナリストたち…なんでもいいから挙げてみて。私たちはもう なにも信頼することができなくなってしまった。

私はついに勇気を振り絞って映像を観た。そこにはもっとも恐れていたものが あった。この映像を観ていると、内側に侵入されたような気がした。だれかが私 の心の中にしのび込んで、私自身の悪夢をこの世に持ち込んだのじゃないかと感 じた。男の、女の、子どもの死体の映像が次から次へと続く。あまりにもひどく 焼かれ、傷つけられているので、男性か女性か、子どもか大人か、見分けるには、 身に着けた衣服で判断するしかない。衣服だけは不気味なほど無傷なのだ―まる で、どの死体も骨になるまで焼いてしまった後に、日常の衣装でやさしく着飾ら せたかのようだ―レース襟がついた水玉模様のネグリジェ…木綿のパジャマを着 た女の赤ちゃん―小さな耳には小さなイヤリングが揺れて。

眠っているうちに穏やかに亡くなったかのようにみえる人たちもいる…ひどく 苦しんだようにみえる人たちもいる―皮膚が完全に黒く焼けて、焼け焦げた骨か ら滑り落ちている。

この人たちにどんなことが起きたのだろうと想像してみる。たぶん、自分たち の家で身を寄せ合っていたのだろう。ある人たちは―何十、何千人もの人たちは、 町を離れることができなかった。輸送の手段を持たなかったか、あるいはたんに 行き場がなかったか。自分たちの家に留まり、アメリカ人について言われている ことがほんとうであるようにと望んでいた―巨大な乗り物や無尽蔵な兵器を持っ てはいるけれど、彼らも人間なのだと。

そこに爆弾の雨が降り注ぎはじめた…ミサイルがヒュ〜〜ンと落ちてくる。目 標に当たって爆発する音…爆発に対してどんなに覚悟を決めたつもりでも、いざ 爆発音がするといつもたじろいでしまう。想像してみる。子どもたちは耳を覆っ ただろう。なかには泣き出す子もいただろう。戦争の機械音を人間らしい泣き声 で消してしまおうとして。戦車が近づくにつれ、戦闘機が低く飛ぶにつれ、恐怖 は増してくる―親たちは顔を見合わせ、互いの表情を探りあい、恐怖から抜け出 す方法を考える。我が家で待つと決めた人たちもいただろうし、いちかばちかで 外に出た人たちもいただろう―次の瞬間には自分たちの墓に変わってしまうかも しれない家の中に閉じこもっているより、降り注ぐコンクリートと鋼鉄を恐れな がらも外に出たほうが生き延びるチャンスがあると考えて。

それは、アメリカ人たちがやって来るより前に私たちが聞いていたことだった ――空襲のときは屋内にいるより外に出たほうが安全だよと。屋内にいると、近 くを飛ぶミサイルが窓ガラスを砕いて無数の短剣に変えてしまうし、壁は崩れ落 ちるだろう。庭か、それとも路上ならば、よほど近くで爆発が起きたときに爆弾 の破片が飛んでくることさえ心配すればすむ―そんなことが起こる可能性はいっ たいどのくらいある?って。

それは2003年よりも前の話…そう、確かにファルージャよりは前のこと。

それは、家から逃れ出た男たち、女たち、子どもたちが、結局爆弾の雨に飲み 込まれてしまうより前の話。

去年私はファルージャについてブログし、こんなことを書いた。

「クラスター爆弾はじめ禁止兵器が使われているという噂だ。」 [2004年11月 10日付のブログより 同年11月29日のブログでリバーはファルージャ攻撃での化 学兵器使用について詳しく書いた。しかし、現在、原サイトでは11月29日の記述 は削除されている]

そうしたら即座にアメリカ人たちからメールの集中砲火を受けた。いわく、私 は嘘つきだ、どこにも証拠がないじゃないか、アメリカ人がそんな恐ろしいこと をするわけがない!今、あの人たちがどうやってこのことを正当化するのか知り たいものだ。ショックを受けてる?イラク人は人間ではないと自らに言い聞かせ ている?それともただ否定するの?

最近、国防総省の広報担当官はこう述べている。 「これはわれわれの通常兵器 のリストにあるものだ。われわれは他の通常兵器と同様にこれを使用する」 http://news.yahoo.com/s/nm/20051116/pl_nm/iraq_usa_phosphorus_dc_2;_ylt= AgdFF_ 4lSCBbdFP64V7ORgZsb EwB;_ylu=X3oDMTBiMW04NW9mBHNlYwMlJVRPUCUl [ 2005年11月16日付ロイターの記事。同日、米国防総省が昨年11月のファルージャ 攻撃において白燐弾を使用したことを認めたが、白燐弾は化学兵器ではないと主 張し、また、市民に対して使用したことを否定した、とある]

この戦争は「通常の」と言う言葉を定義しなおした。残虐行為が新しい段階に 入った。今まで私たちが知っていたことはもう時代遅れになってしまった。「通 常の」が恐ろしいことと同義語になったのだ。通常兵器とは、白い炎で皮膚を焼 き尽くすもの。通常の尋問方法とは、アブ・グレイブやその他の捕虜収容所で行 われたようなもの…

まさに…通常の恐怖。

午前1時32分 リバー

(翻訳:リバーベンド・プロジェクト:いとうみよし) ================================

2005年11月18日 金曜日

恐怖の館(やかた)・・・

いま町の話題は、ジャドリヤで見つかったという拷問ハウスのこと。 http://news.yahoo.com/s/nm/20051115/ts_nm/iraq_abuse_dc_1 [11月15日付けロイターの記事。13日日曜夜、米軍の強制家宅捜索により、 バグダード市内の内務省の建物の地下に161名が拘束されているのが発見され た。そのほとんどが栄養失調で虐待の跡があった。]

世界中の人の前に、ジャドリヤのこの拷問ハウスのことが明らかになった。米 軍が近頃捜索したのだ。かつてのジャドリヤはバグダードで最高の地区の一つ。 川が流れていて、豊かな緑と清潔さでほかの地区とは一線を画していた。バグダ ード最大の大学、バグダード大学はジャドリヤにある(別の地区にキャンパスが もう一つ)。ジャドリヤにはすてきなお店やレストランがあって、もちろんバグ ダードで有数の優雅な邸宅の数々も・・・ところがいまや拷問ハウスがあるとい う。[ジャドリヤとバグダード大学については、2003年11月9日にも書か れている]

このような拷問牢については、たえず噂があった。戦争直後からすでに、これ これの地区と名があがっていた。なぜ「拷問ハウス」かといえば、見ればわかる。 以前はふつうの住宅だったのだ。それがいまは、容疑者と無実の人々に対する拷 問施設になってしまった。イラク政府は都合よく「拘束施設」と呼んでいるけれ ど、イラク内務省が所管し経費も出している。

戦争直後から拷問ハウスで名をはせたのは、バグダードのサドル・シティだ。 当時は拷問ハウスとは呼ばれなかったけれど。そこを取り仕切っている連中は、 「裁判所」だと言っていた。尋問のためといって容疑者(たいてい普通の市民) を連れ込んでは、罪状や容疑を自白させようと殴打し折檻するのだった。殴打が 続くうち、「サイード」なる人物が入ってきて、罪人に刑を宣告する。刑は、時 に手や足の切断もあり、死ということもありえた。私たちはこういうことを、お ばの近所の人から聞いて知った。その人は誤って捕らえられ、前政権の治安要員 であったという容疑で殴打された。たまたま家族が地区の有力なシーア派法学者 とコネがあったから、生きてこの人を助け出すことができた――ぶちのめされ傷 だらけになって、でもともかくも生きて。

このような拷問ハウスは、占領が始まってからずっとあった。イラク・イスラ ム革命評議会(SCIRI)が背後にいるということは広く知られていたけれど、ほか の宗派の政治団体だってきれいな身ではない。アメリカはその存在を知っていた ――なのに、この突然のショックと怒りは何? グリーンゾーンのアメリカ人に とっては、ぜんぜん耳新しいことじゃない。このタイミングはたいへん興味深い。 このたびの捜索が白燐弾攻撃の全貌が明るみに出た直後に行われたということが 重要なのではない。ペンタゴンと米軍が、目くらまし戦術実行の頂点にいること が明らかになったことが重要なのだ。

つい昨年もガザリヤという地区で、こういうハウスが発見された。今度のより 小規模なものだったけれども。いとこがガザリヤに住んでいて、彼の言うには米 軍が中に入ったとき、遺体数体と天井から当座の縄でつるされた人を発見したと いう。近隣の人は何カ月も前から米軍に捜索させようとした。が、誰もまともに 取り合わなかった。米軍はようやく強制家宅捜索に入ったが、それは地区の誰か からその家が暴徒の隠れ家だという情報を得たからだった。昔こんな話を読んだ ことがある。ニューヨークでは、レイプされそうになったら、「レイプだ!」で はなくて「火事だ!」と叫ばなくてはいけない。「レイプだ!」と叫んでも、誰 も助けに来てくれないからだ。イラクの拷問ハウスについても同じこと。捜索さ せるには、テロリストの巣だと言うしかない。

さらに――ニュースで新生イラク治安部隊の凶行が語られるとき、「内務省の 制服を着た男たち」とか「公用車に乗り内務省から来たと言う男たち」とか言う ときがあるのに気がついている? それはこういうこと。男たちは「自称してい る」のでも仮装しているのでもない。「ほんとうに」内務省から来たのだ。イラ ク人や人道団体を怒らせないために、こういうことはこっそりやるだろうとふつ う人は考えるものだ。だけど、SCIRIやダーワ党にとってそんなことは問題じゃな い。彼らは民心を獲得しようなんて思っちゃいないからだ。[SCIRIとダーワ党は、 1月30日の暫定国民議会選挙で過半数を占めた統一イラク同盟の中心的シーア 派政治団体]彼らはアメリカのお気に入り。新生イラクでやっていくのにこれ以 上のもの、要る?

ここ1年以上もバグダードのいたるところで、遺体が思いがけなく見つかる日 々が続いている。深夜家から連れ去られた人々の遺体が(最近ではもっと図々し く――連行だろうが何だろうが白昼はばかることなく行われる)、どこかで遺体 となって現れる。そのこと自体はたいしたことじゃない。遺体について聞かされ ることに比べたら。どうしても頭から振り払うことができないのは、遺体の多く は、頭蓋骨に電気ドリルで開けられた穴があったというもの。

アブグレイブ行きはまだラッキーな気がする。

それに、姿を消すのは「暴徒容疑者」だけではないのだ。イラク治安部隊は、 地区を襲って隈無く調べ上げ、スンニ派地区では特に12歳から60歳の男性で あれば誰でも拘束することで知られている。こういう「テロリスト容疑者」が狩 り立てられて連れ去られる。そして、今日にいたるまでも行方が知れないという 結果となる。

バヤン・ジャブル内務相(SCIRI殺人強盗集団政府のイタリア製スーツに身を固 めた高官)は、これっぽっちの隠し球でイラク国民を懐柔しようとしている。

「・・・収容者にはスンニ派だけでなくシーア派もいます・・・」 http://news.yahoo.com/s/ap/20051117/ap_on_re_mi_ea/iraq_051117130019;_ylt= AtDZ vu729Ao7YIdiGKt1NNRX6GMA;_ylu=X3oDMTBiMW04NW9mBHNlYwMlJVRPUCUl [11月17日付けAPの記事。イラク内相は同日、収容者はスンニ派だけでなく、 拷問と先に伝えられたニュースは誇張であり、傷を負ったものはわずかであったと 述べた。]

SCIRIとダーワ党の拷問実行者たちが宗派によって差別しないと知ってぐっすり 眠れるようになるわ――新憲法とアメリカ軍のお導きとペンタゴンのお恵みの下で ――すべてのイラク人は平等に拷問されるのですものね。

午前0時02分 リバー

(翻訳:TUP/リバーベンド・プロジェクト:池田真里)

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