TUP BULLETIN

速報566号 ホアン・コール、米軍のイラク撤退を語る 051128

投稿日 2005年11月27日

FROM: minami hisashi
DATE: 2005年11月28日(月) 午前1時07分

☆「既定路線を堅持」しても地獄、「今すぐ撤兵」しても地獄★
情報操作による虚偽の根拠にもとづいて強行されたイラク侵略のあげくのはて、
ブッシュ政権の米国は、イラクの将来像も描けず、出口戦略も構想できない袋
小路に入りこんでしまっているようです。トム速報インタビュー・パート1に
引き続き、ファン・コールは米軍のイラク占領・対ゲリラ戦術の現状を語り、
シーア派とスンニ派、クルド人とトルクメン人の抗争が近隣のイラン、サウジ
アラビア、トルコに飛び火した場合、世界経済がこうむる危機的な影響、すな
わち悪夢のシナリオを警告します。
このインタビューにおいて、ホアン・コールは明解な対処法を示していませ
んが、泥沼化したイラクの現状に対する単純な処方箋は、現実としてありえな
いのでしょう。たった今、求められているのは、平和を真摯に願う世界市民た
ちの声の結集であると訳者は思います。私たちの一人ひとりも、そのために何
ができるか、真剣に考えなければならないのは言うまでもないでしょう。井上

凡例: (原注)[訳注]〈ルビ〉《リンク》
お願い――URLが2行に渡る場合、全体をコピーしてください。
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ホアン・コール、米軍のイラク撤退を語る

(本稿は、トム速報インタビュー「ホアン・コール、ブッシュのイラク戦争を
語る」《*TUP速報563号》の続編)
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/609

世界経済の操縦席に手榴弾
――トム速報インタビュー: ホアン・コール(パート2)
[聞き手: トム・エンゲルハート]

トム・ディスパッチは、9月22日付けで、マイケル・シュワルツの記事
“Why Immediate Withdrawal Makes Sense”[「即時撤退が理にかなう理由」]
《*》を配信している。その結びの言葉は次のとおりだった――
http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?pid=23549

「米軍が撤退すれば、われわれが、引き裂かれ貧窮化したイラクを、問題山積
のまま、将来の武力紛争の重大な懸念を残したまま、武器の海に漂流するまま
に放置してしまう結果に終るだろうことは疑いない。現下の状況をどっちに転
じるにしても、いずれも芳しいものにならないかもしれないが、ただひとつの
現実が陰惨な光景のうえにクッキリと際立っている。すなわち、米軍の駐留は、
民間人死傷の主因であるだけでなく、イラク内戦の恐れの生まれる第一要因に
なっているということ。わが国が撤退を躊躇〈ちゅうちょ〉しているのが長引
けば長引くほど――米国にとっても、イラクにとっても――状況が悪くなりそ
うである」

翌日、ホアン・コールが彼のサイト「情報通評論」《1》に意見《2》を掲載
し、「私には、この類の主張はまったく理解できない」と書いたうえ、彼の異
論の成り立ちをかなり詳しく説明した。この記事が発端となって、彼のサイト
上(および他のサイト上)で、さまざまな専門家、学者、ブロガーたちが数日
にわたり論争を展開し、その結果、コールは自分の立場をいくぶん再考し、ア
メリカの地上部隊をイラクから撤退させるべきであるとする雄弁な要求《3》
を公表するにいたった。(あなたがまだお読みでないなら、読むべし!)
1 http://www.juancole.com/
2 http://www.juancole.com/2005/09/schwartz-us-out-now-violence-
continued.html
3 http://www.juancole.com/2005/09/why-we-have-to-get-troops-out-of-
iraq.html

この論争と議論とが、トム速報インタビューに応じたコールの発言・パート2
の基礎になっている。撤退に関する私自身の考えについては、2005年6月
更新の記事 “Withdrawal on the Agenda”《1「日程に入った撤退」》、およ
びバクダード陥落の6か月後[2003年10月]に書いているトムグラム記
事 “Time of Withdrawal”《2「撤退の時」》をご覧いただきたい。また、読
者の皆さんには、コールが以下に展開する「悪夢のシナリオ」はイラクの将来
における(肝をつぶすような)可能性のひとつにすぎないというのが、私が考
えであることをご承知願いたい。米国が撤退する場合、あるいはあまりにも拙
速に撤退する場合、私は、ベトナム戦争時代の記憶にもとづいて「来るべき大
虐殺」を恐れるばかりでなく、必ず現実となるだろうあらゆる恐怖の事態を警
戒している。これは複雑なことがらであり、今週中の速報で私は取り上げたい
と思っている。とりあえずはインタビューを続けよう。
1 http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?pid=3717
2 http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?pid=1041

【トム・ディスパッチ】さて、イラクからの撤退の問題に移りたいと思います。
あなたのサイトで、いわば、あなたご自身の知的活動を衆目に曝すような投稿
をなさったこと――しかもそれに併せてあなたに口論を挑む人たちの書簡や論
文を掲載なさったことに私は格別な感銘を受けました。これは信じがたいほど
稀なことです。読者の皆さんは、ひとつの頭脳が活動しつつ、変化する状況を
不断に見直しているのをじっさいに見ることができるのです。そのことは、イ
ラクからの米軍の撤退の問題に関して格別に言えていました。最近、あなたの
最初のころの記事を改めて読んでみましたが、時の経過とともに、あなたがブ
ッシュ政権に対して手厳しくなり、怒りを募らせるようになられたことは明ら
かです。先ごろ、あなたは米国の地上軍は「イラクのために、アメリカのため
に」ただちに撤退しなければならないと主張する記事《*》をお書きになりま
した。この件に関するあなたの考えの展開を説明していただけますか? 撤退
の問題に関して、またそれが実現する経緯に関して、あなたの立場はどのよう
なものですか?
http://www.juancole.com/2005/09/why-we-have-to-get-troops-out-of-
iraq.html

【ホアン・コール】まず言っておかなければなりませんが、この件に関して自
分が考えることは非常に重要であるという幻想など、私はまったく抱いており
ません。

【TD】(笑う)私たちのどちらも、米軍をイラクから撤退させる力を持って
いるとはあまり言えませんね。人びとがあれやこれやと計画を示してほしいと
要求する度に、無力であることが私の念頭に絶えず浮かびます。ちょっと待て
よ……とつい考えてしまうのです。

【コール】(笑う)あなたは、私が読者相手におこなった論争や、私の見解に
対する批判を掲載する流儀について話されましたが、学問の場が提供しなけれ
ばならないものは、開かれた議論であり、各自の情報源について、また各自が
結論にいたった経緯について率直に語ることなのです。私のブログの肝心な点
は、公開の討論の場における知的な営みを示そうと試みていることなのです。
政治の世界では、発言したことを断固変えない、自分の論点を絶対動かさない
と固執したりしますが、私は、自分のやっていることを、それとは違ったもの
として見ています。政敵を前にした人だったら、相手が煮えきらない、優柔不
断である、と馬鹿にしたりしますね。でも、真摯にものを考える人が、ああで
もない、こうでもないと考えなくて、どうするのでしょう? 最初のものとは
別の選択肢も考慮したり、時がたつうちに経験に学んで、違った見解を採用す
ることもあったりするということがなければ、頭が変になっているんです。

ほら、ホイットマン[ Walter Whitman (1819-92)=詩人]も言ってるではな
いですか――「私が自分と矛盾してるって? 上等じゃないか /それなら私
は自己矛盾しているのだ /私は大きく /私は多数のものを包みこむ」。こ
れがアメリカの精神であり、だから私はこういうことを論争し、自分の考えを
明らかにし、中東に関心を寄せる一インテリが、時とともに押し寄せてくる大
量の情報に対処しているようすを世界に見せる――これが嬉しいのです。

そうですね、私は今、イラクにおける結末が、中東にとって、米国にとって、
世界にとって、なにを意味するのか、実に心配でなりません。私は、ほんとう
に心配でなりません。悪夢のシナリオがいくつか頭に浮かぶのです。

【TD】一例をあげてください……

【コール】米国と同盟諸国が軍を引くとします――すると、あたりまえのこと
ですが、同盟はお終い! 12月15日の選挙の後、だれもが撤兵すると言っ
てきました。だが、撤退が、間違った方法、あるいは分別もなく実施されると、
次のようなことが起こりえます――

バベル州のような地域で、この低強度の宗派間戦争がすでに進行しています。
朝、22人の男たちが遺体で発見されますが、その耳の後ろに銃弾が撃ちこま
れ、マフィア流儀です。その男たちは、シーア派であっても、スンニ派であっ
てもおかしくありません。だから、両派とも――米国による監視の目が届かな
い闇夜にまぎれて――相手を圧倒するまで戦いぬくつもりでいることが分かり
ます。この戦争は土地を巡るものです。バベル州は古くからシーア派が主体の
土地でした。サダムがシーア派を追放し、スンニ派を呼び寄せました。彼によ
るスンニ派入植[政策]の一部だったのです。

【TD】キルクークと同じように……

【コール】そっちはアラブ化でしたが、こっちはスンニ化でした。そこで言っ
てみれば、そこら辺に駐屯する米軍の規模がたいしたものでなくなるとして、
スンニ派戦士たちの大軍がマフムディアから下ってきて、ヒーラを攻撃するよ
うな状況になれば、どうなるでしょう? 同じような事態がレバノン内戦で発
生したことがあります。これらの地域で住民たちが組織する民兵団が軍隊に転
化して、自分たちの在所から出撃し、他の地域で軍隊化した民兵団に対する戦
争をしかけるようになります。さて、こういう状況になって、スンニ派アラブ
人が勝つようになると、イランの革命防衛隊が国境を越えて、シーア派を支援
するために馳せ参じるでしょう。イラクのシーア派が虐殺されているのに、イ
ランが座視しているはずがありません。イラン革命防衛隊はスンニ派のイラク
人たちに虐殺で仕返しするでしょうし、そうなれば、サウジアラビア、ヨルダ
ン、シリアのスンニ派も黙っていないでしょう。介入するはずです。同時に、
クルド人がトルクメン人を虐殺することもありえますし、そうなれば、トルコ
が入ってきます。あげくのはてが地域的な低強度戦争です。スペイン内戦がい
い例です。

1980年代を振り返ると、サダム・フセインとホメイニとは、8年間にわた
り戦争していましたが、相手の石油施設を攻撃することはたがいに避けていま
した。両者とも、そんなことをすれば、自国の国力を消耗し、第四世界[*]
国家に転落してしまうことが分かっていたのです。このように、一種の相互確
証破壊ドクトリンが働いていたのであり、これは国家間では可能になることな
のです。だが、イラクにおけるゲリラ戦争の場合を見ると、スンニ派ゲリラは
すでにパイプライン破壊活動や石油生産妨害戦術に踏み込んでしまっています。
[第一世界を資本主義諸国、第二世界を共産主義諸国、第三世界を発展途上諸
国とし、ここでは、第四世界は発展さえも望めない最貧諸国を指す。広義には、
第四世界は、いわゆる発展を望まない先住民などのプリミティブな世界を含
む]

【TD】じっさい、私は、そのような破壊行為がカスピ海油田パイプラインや
その他の方面にまで及んでいないことに驚いています。

【コール】そうですね。もっと拡大していてもおかしくなかった。2004年
8月のことですが、ナジャフで[米国]海兵隊がムクタダ・アル・サドルの信
奉者たちを相手に戦っていたとき、バスラのサドル軍団は南部でパイプライン
破壊戦術を開始すると脅しをかけていましたが、それが実行されていれば、イ
ラクの経済基盤は甚大な損害をこうむったことでしょう。地域的ゲリラ戦争に
おいて、イランのパイプラインは、スンニ派ゲリラの目におおいに攻撃欲をそ
そる標的として映るでしょうし、イランの石油生産地帯には、いくつかのスン
ニ派一族が居住していて、この目的のために動員されるかもしれないのです。
サウジアラビアが巻き込まれるなら、それは過激なシーア派がサウジのパイプ
ラインを攻撃する動機になりますし、サウジアラビアの石油生産施設はシーア
派が多く住む地域に立地しています。基本的に言って、私たちがイラクから学
んだのは、地域の有力な諸勢力が石油の生産を望むような、人間の安全保障が
確立された環境でこそ、石油が生産されるということです。地域の諸勢力のう
ちのかなりの部分が石油の生産を望んでいなければ、彼らは生産を妨害できま
す。

【TD】ナイジェリアであったように……

【コール】私たちはこれを世界各地で目にしています。私たちは国家に目を向
けますが、国家が何百マイルも伸びるパイプラインの防護手段を用意すること
は無理です。そんなことはまったく不可能です。それでどういうことになるか、
まあ、考えてもご覧ください。世界では、毎日、およそ8000万ないし84
00万バーレルの石油が生産されています。サウジアラビアは、そのうちの9
00万バーレルを保証付きで賄っていますし、もっと多くなるときもあるでし
ょう。イランは日量400万バーレルを生産しています。よき時代には、イラ
ンはほぼ300万バーレルを生産していました。今は、それが180万バーレ
ルあたりまで落ちこんでいます。これらの国ぐにの石油がすべて市場から失わ
れると、これは世界石油生産量の約5分の1に相当します。そうなれば、価格
にどう跳ね返るか、想像つきますか!?

ガソリン1ガロンに3ドルかかるのが気に食わない人なら、私が描いている世
界を心底嫌うはずです。ガソリン価格ショックは世界的に経済成長を鈍らせ、
いくつかの国ぐにを、経済不況、または恐慌にまでさえ追い込むと私は思いま
すよ。そうなれば、世界規模の破局になります。さらに言えば、この事態が一
度動きはじめると、どのように終息させるか、見通しが立ちません。

【TD】このような背景があって、それでもあなたは、先日、米軍地上部隊を
ただちに撤収するように要求なさりました。

【コール】どうしてかと言えば、私には、米軍地上部隊がこの種のシナリオが
現実になるのを防いでいると思えないからです

【TD】では、撤兵について、あなたの考えをお話しください。

【コール】そうですね。私の懸念は、ファルージャ作戦やタル・アファール作
戦、あるいは今回はディサ作戦ですが、米軍の地上部隊がこのようなことのた
めに使われている点にあります。これは、部隊を動員して、スンニ派アラブ人
の(また、タル・アファールの場合、スンニ派トルクメン人の)都市を攻撃す
ることを基本的に意味しています。これらの都市はゲリラ行動の拠点であると
見なされ、外国人戦士たちのイラク侵入を助長しているとされています。住民
を追い払って都市を空っぽにすること、地域全体を更地にすること、都市基盤
や建物に大規模な打撃を与えること、住民たちをテント生活や難民暮らしに貶
〈おとし〉めること、そして、たぶん段階的に帰還させるにしても、彼らのい
た住宅の残骸の上でのテント暮らしを余儀なくさせること――こういうやり方
では、反乱鎮圧作戦としては勝ち目はありません。他の都市の人びとはこの事
態の推移を見て、自分たちと同じスンニ派の人びとに同情しますよ。

反乱に対抗することを望むには、3つのことが必要です。もちろん、罪もない
民間人を吹き飛ばすような連中は叩かねばならないでしょう。爆弾攻撃を阻止
する努力は必要ですが、その政治的指導者たちと交渉するための裏ルートを開
いて、彼らを体制に組みこむ方策を探る努力も必要でしょう。そして、一般住
民に、連中を支持しないように説得しなければなりません。ファルージャ、タ
ル・アファール、ハディサでおこなったような作戦は、ゲリラ行動と渡り合う
ためには一定限度の効果があるかもしれません――それにしても、たいしたこ
とないと私は思いますが。けっきょく、こんなことでは、閉じこもっている政
治的指導部をこちらに引きいれるとか、スンニ派の一般住民が米国とそのイラ
ク側同盟者についてじっくり考え、ゲリラのことをこちらに通報してくれるよ
うになるとかの結果に結びつきません。

このように、スンニ派地域では事態が悪化する一方です。もう忘れられていま
すが、一年前、つまり第2次ファルージャ作戦の以前には、モスルは模範とし
て引き合いに出されていたのです。この街は(デーヴィッド・H)ペトレウス
に統治されていました。地域のスンニ派アラブ人を説き伏せることができると
思えるほどでした。ところが、ファルージャ作戦のさなか、モスルは爆発しま
した。4000人の警官が職務を放棄しました。ゲリラたちが大挙して、全市
にわたり検問所を占拠しました。爆弾事件が発生し、事態が沈静化することは
まったくありませんでした。アル・ザーマン(タイムズに相当するバグダード
の新聞)が最近伝えていますが、目下、モスル北部は基本的にゲリラ支配地に
なっています。

【TD】ペトレウスはイラク陸軍の“立ち上げ”にも関わっておりましたが、
在任15か月を過ぎた時点で米国内勤務に戻されました。

【コール】彼は更迭されたのです。この成り行きは、全体状況がうまくいって
いないことを示していると私には思えます。彼は遂行不可能な仕事を与えられ
ていたということかもしれません。

だから、米軍地上部隊をこのような流儀で使えば、時が経過するにつれ、より
多くのゲリラを生み出すだけです。私はこの状況に前進の徴候を認めていませ
ん。退歩の証拠を目にしているだけです。これは、フランスがアルジェで対ゲ
リラ作戦に一定の成果をあげていた1950年代半ばのアルジェリアよりも、
むしろ60年代のアルジェリアにますます似てきています。したがって、わが
国は、地上軍を引き上げるべきであり、。都市を無人地帯にし、近隣を破壊し、
スンニ派アラブ住民に対する露骨に懲罰的な焦土戦術をとるために地上部隊を
使うことはやめるべきだと私は思います。

【TD】私はこれをカルタゴ型[*]解決策と呼んできました。
[北アフリカのフェニキア人植民都市国家・カルタゴが、紀元前2世紀、地中
海の派遣をめぐって、ローマに滅ぼされた故事にちなむ]

【コール】なるほど。それに、近代ゲリラ戦争としても、おそらくこれは最悪
の展開でしょう。だが、私は、私よりも左寄りに位置する友人たちとは違って
――もっとも右派の強硬な自由主義者たちも同じようなことを言うので、これ
は左右対立の問題であるかどうか、私には判然としませんが――唐突かつ全面
的に撤退などして、イラクを内戦状態に突き落としてしまうだけでは、実に危
険だと考えます。人びとはとんでもないビックリするようなことを言います。
例えば、「いやもう、イラクはすでに内戦状態なので、わが国が抜けたとして
も、どうして問題になるんだ?」 否! 否! 否! これは厳密な意味で
の内戦の前の段階なのです。違いは規模にあります。イラクで、ゲリラ攻撃の
ために殺される人びとの数は1週間に数百の単位です。数千人、数万人、数十
万人ではありません。言っておきますが、私たちは他の国ぐに――カンボジア、
アフガニスタン、コンゴ――でこういう規模のものを目にしてきたのですよ。
この種の紛争では、人口の5分の1を失うこともありえます。人びとが「さっ
さと抜けて、成り行きに任せよう」と言うのは、とんでもないことだと思いま
す。この事態に対するブッシュ政権の不始末があまりにもひどいので、損害が
もっと膨れあがる前に撤兵だ、と言いたくなるのも分かりますが、それにして
も、大量虐殺が私たちの良心にのしかかってもかまわない、とでも言うのでし
ょうか?

私は、「ままよ、われわれが撤退すれば、何が起ころうとも、われわれの責任
ではない」と言った一人物を知っています。これはほんとうに正しいでしょう
か? ひとつの国を侵略し、政府を倒し、軍隊を解体し、そのうえで立ち去っ
て、百万の人びとが死んで、これで自分の問題ではないのでしょうか? 私は
こんな考えが理解できません。

【TD】ちょっとの間、話題の舞台をワシントンに移させてください。あなた
は、最近、アラブの新聞がワシントンの反戦デモ参加者たちを「アメリカの大
通りを占拠した人びと」《*》と表現したとお書きになり、私はそれをおもし
ろいと思いました。あなたはまた、黒人議員連盟[*]の一部を除き、民主党
議員たちはデモ行進に参加することさえほとんどなく、ましてや集会で演説な
どしないとも指摘なさいました。私たちがイラクおよび将来について思いを巡
らすとき、国民のあいだに(あちこち多方面から、それこそわが国の勝ち戦で
ないからという単純な不満からのものも含め)戦争に対する反対の声が高まっ
ているにしても、それを除いては、政治的な反対論は存在していないかのよう
です。ほんのちょっとだけ誇張して言えば、議会内の民主党員の半数は、いま
だにイラクへの部隊の増派を――そんなの無い物ねだりにすぎないのに――要
求しています。あなたの最近の米軍地上部隊の撤収の要求に鑑みて、これにつ
いてあなたはどう考えておられるか、私は知りたいと思っていました。
http://www.commondreams.org/views05/0929-31.htm
[ Congressional Black Caucus =1969年、連邦下院の黒人議員13名が、
黒人・マイノリティ市民のための法制化運動を強化する目的で結成――
http://www.house.gov/cummings/cbc/cbchistory.htm ]

【コール】そうですね。最初に言っておくべきなのは、民主党のイラク政策に
関わる影響力が私やあなたのとほぼ同じだということです。民主党議員たちが
どんな主張をしても、ブッシュがホワイトハウスにいるかぎり、実施に移され
る望みがあるという意味合いでの政治的主張には必ずしもなりません。それに
私は思うのですが、彼らは対外政策がらみで弱気に映るのを恐れています……

【TD】……その結果、信じられないほど弱い立場になる……

【コール】戦略としては、強気に語って、ブッシュを失脚させることかもしれ
ません。

【TD】最近、あなたはそれを「危険な戦略」と名指されました。

【コール】米国内にはイラク戦争とブッシュの対外政策を巡って途方もなく不
満がみなぎっており、民主党員たちがそれに対応する方策を見つけ、これらの
問題に関わって指導力を発揮するなら、この不満が2006年[*]における
民主党候補たちの草の根的な勝利に転じることはありえます。これが、私が一
文を書き、特殊部隊と空軍力をイラク軍を支援するために用いる方策に転換す
るように、あえて提案した理由です。私はこれを、入口戦略ではなく、出口戦
略として捉えているのですが、イラク軍をアフガニスタン戦争期の北部同盟の
ように扱うのです。私は、民主党員たちは違った姿勢を取ることもできるでは
ないかと示唆することを主目的として、わざとそう書いたのです。イラクのた
めに出口戦略が必要だが、それは軍事的・政治的に賢明なものでなければなら
ず、人びとがヘリコプターにぶら下がってベトナムから逃げ出したような19
75年スタイルの撤退であってはならないが、また、黙ったまま、ブッシュに
みずからの墓穴を掘らせるようなものであってもいけない、と言うこともでき
るでしょう。私は、まず第一に、これは卑怯な物言いだと考えます。第二に、
論争がなく、問題の他の側面における指導力がないのは、国家にとってよくあ
りません。
[連邦議会中間選挙の年=任期2年の下院議員の全員と、任期6年の上院議員
の1/3が改選される]

【TD】ブッシュはみずから墓穴を掘ったと、あなたはお考えですか?

【コール】私が言いたいのは、これは米国史上に残る対外政策上の重大な失策
のひとつだということです。ペルシャ湾の石油が重大な危機にさらされていま
すし、ブッシュが世界経済の操縦席のなかに手榴弾を放りこんでいるのです。
だから、対イラク政策に関して、彼はみずから墓穴を掘ったと私は考えます。
しかし、米国の政治家たちの大半は国内問題に焦点を合わせています。

【TD】いつもの内政中心主義があるのは分かっていますが、それでも私は、
侵略開始からこのかた、他のなににも増して戦争がブッシュ一派を突き動かし
てきたと思います。例えば、最近のAP通信・イプソス合同の世論調査を見る
と、他のなによりも福音主義者たちを悩ましているのは、なんでしょうか?
それは戦争ですよ。

【コール】そのとおり。彼らがイラクで目にしていることに動転しているのは、
ブッシュが敬虔なシーア派と同盟を結び、これは、イラクの法制に対するコー
ランにもとづく拒否権を設定したイスラム教原理主義者たちとの同盟を意味し
ているからです。ご承知のように、福音主義者たちは大きな夢を描いていまし
た。イラクでは伝道の成功が約束されている、イラク人をプロテスタントに改
宗できると考えていました。だが、今、伝道師がイラクで人目に立つようであ
れば、じきに命乞いするところを私たちはビデオで見ることになるでしょう。
イラクに関しては彼らの目標のどれひとつとして達成されていません。

ところで、これは、福音主義者たちが1850年からこのかた夢見てきたこと
なのです。これが、ベイルートのアメリカン大学が設立された由来です。長老
派教会の伝道活動は、もともと中東を改宗させようと試みるものでしたが、こ
とごとく失敗に終わり――今も、やはり失敗続きです。ブッシュの時代は、福
音主義的な伝道と帝国主義的な力とが融合した19世紀の夢が束の間だけ復活
した瞬間だったのです。こんなことは実現などしないとハッキリ分かったので、
彼らは怒り、ガッカリしているのです。当然のことです。

[原文]Tomdispatch Interview: Juan Cole on Withdrawal from Iraq
posted October 18, 2005 at 7:49 pm
http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?emx=x&pid=29333
Copyright 2005 Tomdispatch TUP配信許諾済み
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[翻訳] 井上利男 /TUP

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