TUP BULLETIN

速報567号 リバーベンドの日記11月25日 暗殺また暗殺 051202

投稿日 2005年12月1日

DATE: 2005年12月2日(金) 午前2時47分

この事態はイラクから何を失わせているか・・・


戦火の中のバグダッド、停電の合間をぬって書きつがれる若い女性の日記 『リバーベンド・ブログ』。イラクのふつうの人の暮らし、女性としての思 い・・・といっても、家宅捜索、爆撃、爆発、誘拐、検問が日常、女性は外 を出ることもできず、職はなくガソリンの行列と水汲みにあけあけくれる毎 日。「イラクのアンネ」として世界中で読まれています。すぐ傍らに、リバ ーベンドの笑い、怒り、涙、ため息が感じられるようなこの日記、ぜひ読ん でください。(この記事は、TUPとリバーベンド・プロジェクトの連携に よるものです。転送転載大歓迎です。)  http://www.geocities.jp/riverbendblog/ (TUP/リバーベンド・プロジェクト:池田真里)


2005年11月25日

暗殺・・・

きのうの朝は、このニュースで目が覚めた。「スンニ派部族指導者と息子たち、 射殺される」

「親族の語ったところによると、水曜、イラク軍制服姿の複数の狙撃者が、就 寝中のスンニ派部族長老と息子3人を射殺した。」

http://news.yahoo.com/s/nm/20051123/ts_nm/iraq_dc_2;_ylt=AlL98zItt63INJ0eI6B8u jmaK8MA;_ylu=X3oDMTA5bGVna3NhBHNlYwNzc3JlbA– [ロイターの記事。イラク国防省の当局者はイラク軍によるものではなく、 軍兵士に変装したテロリストの犯行であると述べた。押し入った狙撃者は40名、 テレビはベッドに横たわる遺体、床に散乱する薬莢を映し出していた]

ネット上で読むのでなければ、テレビで現場の映像を見るのが一番だ。遺体と 家族――中に年配の婦人がいて嘆き悲しんで髪や顔をかきむしり、内務省の兵士 が息子たちを殺したと叫んでいた。母親、妻と子どもたちの目の前で撃ち殺した のだ・・・羊を屠(ほふ)るときでさえ、囲いの外に連れていき、ほかの羊たち が見て脅えないようにするのに。

戦争のさ中、人はとんでもないことを考えつく。あり得ないことを思い描く。 夜眠れないとき、心はあれこれと起こるかもしれないことを数え上げていく。戦 火に荒れた国の未来をしかと思い描こうとしてもかいなく、心は目に見え手の触 れることのできる対象――友人たち・・・濃淡さまざまなつながりへと向かう。 この2年半、イラク国内のイラク人で、家族の誰かれを失う可能性を考えなかっ た人は一人もいないと思う。この世で何よりも大切に思う人々を失う、と想像し てみる。瓦礫の下に埋もれてしまう? 過激派に虐殺される? 車両爆弾で吹き 飛ばされる? 誘拐されて身代金を要求される? それとも検問所で無惨に銃殺 される? 気になる可能性をすべて考えてみる。

そして、もし万一私が愛する人々を失ったとしたら、私に何が起こるだろうか と考えてみる。どのくらいで、報復したいという欲求が起こるのだろうか? ど のくらいで、失うべきものを何も持たない人々―― 一撃ですべてを失った人々 を狙う何者かにリクルートされることになるのか? 世界中の人々はわかってい ないと思う。人は、天国で70人、いや何人であれ大勢の処女を手に入れられる から(世に言われているように)自爆者になるのではない。なぜ自爆者になるか。 それは、もはや生きるに値しない人生に対し――国内の、あるいは外国のテロリ ストによって、暴力的に人間的なものを奪われてしまった人生に対し、復讐して 結末をつけているのだ。

自爆攻撃者は身震いするほど嫌だ。疑わしい車のそばを通るたび(おまけに今 日この頃ではどの車も疑わしく見える)、めちゃめちゃ激しく動悸がするのが嫌 だ。スンニ派のモスクとシーア派のモスクがいたるところで攻撃されているのが 嫌だ。病院に積み上げられた遺体を、苦痛に食いしばられた歯を、嘆き悲しむ男 たち女たちを、見るのが嫌だ。

ある犠牲者は娘を抱きしめていた。親族の一人は、「狙撃者たちはその子にど くように言って、父親を射殺したのです」

この話の少女が、激しい憎悪と報復の欲求をもって成長し、彼女がそれを糧に 生きることとなったとして、誰が驚くだろうか。

また3日前の話。米軍とイラク軍が町から町へ移動中の家族を銃撃し、5人を 殺した。

「全員子どもです。テロリストじゃない」と親族の一人は叫んだ。「ほら、子ど もたちでしょう」その時、死体保管所の職員が冷蔵室に小さな子どもの遺体を運 び込んでいた。

ダーワ党があり、イラク・イスラム革命評議会(SCIRI)があり、アメリカに占 領されているときに、「テロリスト」をリクルートするために誰がアルカーイダ を必要とするだろう?

もちろん、イラク内務省はあらゆることを否定している。ジャドリヤの拷問ハ ウスに関することすべて、暗殺の数々とやりたい放題やってきた殺人のすべてを 否定し続けているように。内務省はついに、ジャドリヤの拷問ハウスについて米 軍は嘘をついていると言うまでになった。

この3週間に、少なくとも6人の著名な医師、大学教授が暗殺された。シーア 派の人もいればスンニ派の人もいる――元バース党員もいればそうでない人々も いる。共通点はひとつ、どの人も戦争前、イラクの大学で重要な役割を果たして いたということだ。殺されたのは、ハイカイ・アル・ムサウィ博士、生物学者の ラアド・アル・マウィア博士、サアド・アル・アンサリ博士、小児科医のムスタ ファ・アル・ヘエティ博士、アミル・アル・ハズラジ博士、外科医のモハンムド・ アル・ジャザエリ博士。

すべての殺人について詳しく知っているわけではない。ラアド・アル・マウィ ア博士は知っていた。彼は、バグダード大学理学部の教授で学部長だった。そし てシーア派。穏やかな人柄で、問題を抱えた人がいつでも近づいていけるような 紳士だった。キャンパスの外の彼のオフィスで射殺された。たいへん惜しいこと だ。

今月初め殺されたもう一人の教授は、薬学部長だった。今年の初めダーワ党の 学生といざこざがあった。ジャファリとその一党が選挙で勝利した後、学部内の ダーワ追従者たちが学内で祝典をしようとした。混乱を招くと考えて、彼は通常 のバナー以外の祝賀行為を許さなかった。そして学生たちに、ここは学ぶための 場であるから政治を除外するようにと言った。学生たちの何人かは彼を恫喝し学 内では小競り合いがいくつかあった。彼は1週間ほど前に殺された。もう少し前 だったかもしれない。

暗殺の背後にいるものが誰であれ、イラクは急速に教育界の人材を失いつつあ る。ますます多くの医師や教授がイラクを去って移住している。

この事態が問題なのは、大規模な頭脳流出だということだけではない。問題は、 この失われつつある知識階層は、イラクの世俗階層でもあるというという点にあ る。[世俗主義とは、宗教と、政治・経済・社会の分離を認める考え方]

午前1時3分 リバー

(翻訳:TUP/リバーベンド・プロジェクト:池田真里)

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