TUP BULLETIN

速報581 リバーベンドの日記 2月2日 イラクを宗教国家にしないで! 060203

投稿日 2006年2月3日

DATE: 2006年2月3日(金) 午前11時43分

宗教会派が政権につくとき、政治批判は宗教否定、人格否定にされてしまう


 戦火の中のバグダッド、停電の合間をぬって書きつがれる若い 女性の日記『リバーベンド・ブログ』。イラクのふつうの人の暮らし、 女性としての思い・・・といっても、家宅捜索、爆撃、爆発、誘拐、 検問が日常、女性は外へ出ることもできず、職はなくガソリンの行列 と水汲みにあけあけくれる毎日。「イラクのアンネ」として世界中で 読まれています。すぐ傍らに、リバーベンドの笑い、怒り、涙、ため 息が感じられるようなこの日記、ぜひ読んでください。(この記事は、 TUPとリバーベンド・プロジェクトの連携によるものです)。 http://www.geocities.jp/riverbendblog/


2006年2月2日木曜日

選挙の結果

イラクの選挙結果は、2週間ほど前に正式発表された。だが、どの政党が勝 利をおさめるか、選挙のその日から誰の目にも明らかだった。イラク中で見ら れたいんちきのさまざまを数え上げようなんてさらさら思わない。そんなこと うんざり。たっぷり1カ月以上も寄るとさわるとそのことばかりだったのだか ら。

イランにコントロールされたシーア派宗教会派が首位に立ったことは、意外 でも何でもない。でもこの結果に驚いているように見えるイラク人たちにはび っくりだ。この3年間、こうなるのはわかってたんじゃないの? イラン影響 下の法学者たちは、ちょうど2003年から決定的な力を握った。彼らの武装 私兵集団は、新生イラク防衛軍を作ろうという動きが起きると即刻、内務省と 国防省に組み込まれた。シスターニがことの最初からプッシュしてきたのだ。 [訳注:シスターニは、シーア派聖地ナジャフに住むイラン生まれのシーア派 最高権威]

悲惨な状況にあって人々が宗教にすがるのは、驚くようなことじゃないでし ょ? 同じことは、世界のいたるところで見られる。津波、ハリケーン、地震、 経済封鎖、戦争・・・そのさ中におかれた人々は神々に寄りすがる。多くの人 にとって、たとえこの世のよすがすべてが滅んでも、至高の存在は不滅だから だ――いたって簡単なこと。

これは私の個人的な考えだけれど、多くのイラク人は3年に及ぶ占領にすっ かり失望して、反アメリカ、反占領に1票をと思い宗教政党に投票したのだ。 アメリカの政治家たちが自国民に何と言おうと、ラムズフェルドやコンディが 我がへつらい政治家たちと何枚写真に収まって見せようと、ほとんどのイラク 人はアメリカ人を信用していない。アメリカというものは、よくて弱小国に独 善的な迷惑を押しつけ、最悪の場合は経済制裁を実施し侵略を仕掛けてくる好 戦的な恐ろしい国だと思われている。

アメリカは助けに来てくれているというイラク人でさえ(もっともこういう 人は日に日に少なくなってきているようだ)、イラク人のためを思ってではな く、自分たちの利益のためにやっているのだと考えている。

イラク・イスラム革命最高評議会(SCIRI)やダーワ党のような、シーア派宗 教政党は昨年、はっきりと姿勢を変えた。2003年、彼らはアメリカの味方 だった。アメリカのおかげでイラク国内で勢力を保っていられるのだから。居 座るアメリカにイラク人の我慢も限界になりつつある今日、彼らは自分たちが 「占領者」になり替わると言い始め、治安が悪くどこもかしこも混乱している のは、アメリカのせいだと公然と非難している。論調はまったく変わった。2 003年、政教分離国家としてのイラクというのは、ふつうの話題だった。今 はもう選択肢の一つでさえない。

2003年にジャファリは、イラクの女性が権利その他を失うのを許せない と言っていた。平等な権利とは決して言わなかったけれど、発言の中でイラク の女性には教育を受ける権利だけでなく仕事につく権利もあるとたびたび言及 していたのは確かだ。ところが、2、3週間前テレビのチャンネルをあちこち 回していたら、ジャファリがムスタンシリヤ大学(イラクの大きな大学のひと つで、バグダッド市内にキャンパスが分散している)の学生たちに話している 場面に行き当たった。学生たちは見えなかった。たぶんペンギンの群にでも話 していたのかも。カメラは、ずるそうな目とくぐもった声のジャファリの姿だ けをとらえていた。[ジャファリはイラク首相]

ジャファリの右に黒いターバンを巻き黒い長衣を着たアヤトラが座っていた。 いかめしい顔をして、ジャファリが学生たち(ペンギンかも)に話している間、 満足そうに頷いていた。演説は、科学のことでも技術のことでも発展のことで もなかった。天国と地獄、善と悪に関する宗教的訓話だったのだ。[アヤトラ はシーア派上級宗教指導者の称号]

私はすぐ2つのことに気がついた。初めに気がついたのは、ジャファリは男 子学生だけに向けて話しているようだということ。聴衆の中に女性は一人もい なかった。ジャファリは、そこにいないものとして、女性である自分たちの「 姉妹たち」について語った。まるで女性にはその集まりに出る権利がまったく ないかのようだった。次に気がついたのは、彼がシーア派だけに向けて話して いるようだということ。なぜかというと、まるでそこにスンニ派がいないかの ように、一貫して「スンニ派の兄弟たちは」という言い方をしていたからだ。 ジャファリは、男性は女性を守らなければいけないこと、スンニ派は少しも悪 くないことをめんめんと説いた。イラクの統一について、また宗教上の違いを 言い立てないことの重要性について、いつ彼は話すのかと待ちかまえていた。 が、これらについては一言もなかった。

こういう状況であるのに、脳天気な主戦論者、共和党員は、うまく進むとい まだに思っている。うーん、そうだな、アヤトラたちがこの選挙に勝ったんだ から、次の選挙こそうまくいくぞ、ってね。だが、そうはいかない。

イラクのような国における宗教政党や宗教指導者の問題は、政治的な支持者 だけでなく、熱烈な信者である支持者たちを意のままにしていることにある。 たとえば、ダーワ党やイラク・イスラム革命最高評議会(SCJRI)の支持者たち にとって、政策や公約や権力の座にあるあやつり人形といった次元の話ではな いのだ。敬虔なカトリック教徒にとってのローマ法皇を考えてみるといい。神 から授けられたと見える権利によりその座にある人物に質問したりしないでし ょう。絶対に政策について聞いたりしないわね。

アヤトラって、そういうもの。ムクタダ・アル・サドルはこっけい。まるで 舌が腫れ上がっているようなしゃべり方をし、いつも風呂へ入った方がいいよ うな風体をしている。ペルシャ語なら自然に聞こえるのだろうと思えるアクセ ントで話す。それに・・・大勢の支持者を従えている。彼の祖父が宗派の大物 だったから。イラクで最も教養のない、最も愚鈍な男のはずなのに、彼の命令 で喜んで命を投げ出す人々を従えている。それもこれも一族の宗教的な背景の ため。(アメリカの方たち、ご愁傷さま、1週間前、彼は万一イランがアメリ カに攻撃されたら、郎党率いてイラン防衛のために独自に立ち上がると宣言し たわ)

とどのつまり、こういう輩につき従う人々は、たとえ現在の指導者が並以下 でも、天国と神のお告げは不変なのだからと自らに言い聞かせているのだ。つ まり信仰、神の言葉に従うということ。どんどん悪化していく状況、一寸先は 死という、戦禍に疲弊した国において生きるとき、よすがは神。だって、イヤ ド・アラウィじゃ電気も治安も回復できっこないし、万一車両爆弾に出くわし ても、絶対天国に入れてくれるはずないじゃない。[イヤド・アラウィは前首 相。今回の選挙では世俗勢力を率いたが少数派に転落]

イラクのように多様な人々の暮らす国で、宗教政党が政権につくと、困った ことに人は無意識に、その政党つまりその宗派でない人間を遠ざけてしまう。 宗教は個人的なもの。運命的に定められた何ものか・・・心、精神、霊に関わ ること。日々の営みの中には喜び招き入れられても、政治の道具とされてはな らない。

宗教を非難することはできないから、神権政治(イラクは今まさにそのイラ ン型になるかどうかの瀬戸際)は日に日に強権的になる。政治家はもはや政治 家ではない。アヤトラだ。現代の神の使いとなって、ただ尊敬されるのではな く拝跪される。彼らに異議を唱えることはできない。なぜなら、支持者たちに とっては、信仰への異議申し立てとなるからだ。ある人物や政党に対するもの ではなくて。

宗教政党を非難したりしたら、批判者あるいは「反対派」から一挙に不信心 者へ、転落だ。

アメリカ人たちは私にメールでこう言ってくる。「だけど識見の高いイラク 人なんて一体どこにいるの? どうして政教分離の政党に投票しなかったのよ」  識見ある人々は、2003年以来すっかり口を封じられているのだ。国を出 るよう圧力をかけられ嫌がらせを受け、暗殺され、拘束され、拷問され、誘拐 され・・・が続いてきた。その多くは、政教分離のイラクという可能性が信じ られなくなってしまっている。

それにまた・・・宗教政党に投票した多くの人々は不見識、なんて言ってい いだろうか? 実に識見高きイラク人で、ダーワ党やイラク・イスラム革命最 高評議会(SCIRI)などの政党に対する批判を、自分に対する侮辱と受け取る人 を私は何人か知っている。なぜなら、これら政党はシーア派という濃厚な宗派 色を身にまとっていているので、これらに対する批判はシーア派全体に対する 攻撃と受けとられるのだ。同じように、スンニ派の多くの人にとっても、スン ニ派政党に対する批判は自分たちの宗派に対する攻撃である。

ここに、政治と宗教を結びつけることの危険性がある。人格に関わる問題に なってしまうのだ。

選挙結果、つまりシーア派原理主義者たちが政権についているということは、 あまりこだわって考えすぎないようにしている。そんなことをすると、心の内 深く恐怖の感覚がいつまでも残るような悪寒でからだ中が震えてくるから。ち ょうど突然の停電で、深い重量感のある無音の闇に投げ込まれたら、周りのか すかな音や動きにあまり集中しないようにするように。何だろう、何の先触れ だろうかと暗闇に目をこらしていたら、気が狂ってしまう・・・

午前1時34分 リバー

(翻訳:TUP/リバーベンド・プロジェクト:池田真里)

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