TUP BULLETIN

速報586号 リバーベンドの日記2月23日 サマーッラーの破壊されたモスク 060225

投稿日 2006年2月25日

DATE: 2006年2月25日(土) 午後0時30分

作られていく「宗派対立」の構図


戦火の中のバグダード、停電の合間をぬって書きつがれる若い女性 の日記『リバーベンド・ブログ』。イラクのふつうの人の暮らし、女 性としての思い・・・といっても、家宅捜索、爆撃、爆発、誘拐、検 問が日常、女性は外へ出ることもできず、職はなくガソリンの行列と 水汲みにあけあけくれる毎日。「イラクのアンネ」として世界中で読 まれています。すぐ傍らに、リバーベンドの笑い、怒り、涙、ため息 が感じられるようなこの日記、ぜひ読んでください。(この記事は、 TUPとリバーベンド・プロジェクトの連携によるものです)。  http://www.geocities.jp/riverbendblog/ (TUP/リバーベンド・プロジェクト:池田真里)


2006年2月23日木曜日

緊張状態

バグダードの状況はひどい。

住民のほとんどがスンニ派である町サマーッラーで、今朝モスクの爆破があ った。このモスクはスンニ派にとってもシーア派にとっても神聖とされている のだが、イラク内でシーア派が訪れる最も重要な場所のひとつとされている。 サマーッラーは、アッバース朝のカリフだったアル-ムッタスィムによって、 バグダードの後アッバース朝の首都とされ、多くのムスリムたちや歴史家に神 聖な都市であるとみなされている。

“サマーッラー"の名前は、アラビア語の“サッラ マン ラーア"に由来 していて、“見る者すべての喜び"という意味。当時の偉大な都市の数々に優 るとも劣らぬものにしようとアル-ムッタスィムが建設計画を立てた時、彼が 命名したのだ。この都市を見る人々すべてにとっての喜びとなるように… という思いが込められている。60年間にわたってアッバース朝の首都であり、 首都がバグダードに戻された後ですら、サマーッラーは代々のカリフの保護下 で栄えた。

今日の爆発で破壊されたモスクは、“アスカーリ モスク"で、シーア派1 2イマームのうちの二人、サマーッラーで生活したことのあるイマーム・アリ ー、アル-ハーディ(父)と、イマーム・ハサン、アル-アスカーリ(息子) が葬られたところと信じられている重要なモスクだ。[訳注1]モスクのある ところに、アリー、アル-ハーディとハサン、アル-アスカーリが埋葬された と人々は信じている。多くのシーア派の人たちが、アル-マハディー“アル- ムンタダール"[救世主]がこのモスクから復活すると信じている。[訳注2]

何年か前…戦争の前、そのモスクに行ったことを覚えている。私たちは 有名な“マルウィーヤ"塔[訳注3]を見るためにサマーッラーを訪れ、誰か がアスカーリモスクにも行こうと提案したのだった。私はその時ちゃんとした 服装をしてなかったので気が進まなかった。ジーンズとTシャツがモスクを訪 れるのに適切とは思えなかったのだ。私たちは町の小さな店に立ち寄り、私た ち女性のために手頃な値段の黒のアバーヤ[長い上着]を数枚調達して、モス クに向かった。

私たちが到着した時は太陽がちょうど沈んでいくところで、モスクの外に立 ち止まって、金色のドームと複雑な形のミナレット[尖塔]を賞賛したのを覚 えている。それは夕日に映えてキラキラ揺らめき、オレンジ・金・白など無数 の色で燃えたっているように見えた。信じられないくらい素晴らしい眺めで、 その景色は平和で穏やかだった。普段私たちが訪れる宗教的な場所にありがち な、喧騒や騒音とは無縁の完璧な時間がそこにはあった。モスクの内部も私た ちを失望させなかった…凝ったアラビア文字の書体と、もっと多くの黄金、そ して絶対的な平和…そこを訪れる決心をしたことに私たちは感謝した。

今朝私たちはイラク治安部隊の制服を着た男がそのモスクに入って来て爆発 物を起爆させたというニュースで目が覚めた。モスクはほとんど修復不可能な までに破壊されたということだ。恐ろしくて心臓が破れそうだ。朝からバグダ ード中では発砲騒ぎだ。この近所の通りが不気味なほど静かで人影がなかった けれど、私たちみんなは、刃の上に居るような緊張を感じていた。バラディヤ のような地区では、暴動や破壊行為などの問題があったことを聞いた。また、 バグダードでモスクがいくつか襲撃されたことも。誰もが最も心配し動揺して いるのは、待ってましたとばかりに反応がそのように迅速に起こったことだ。

毎朝、私たちはシーア派とスンニ派両方の宗教指導者たちが爆発について、 「これはイラクの敵が望んでいることなのです、これこそが彼らが達成したが っている分割と征服なのです」と強調して話しているのを見たり聞いたりして いる。極端なシーア派は極端なスンニ派を非難し、イラクはバラバラに崩れ落 ち、外国人占領者と国内の狂信者の下に占拠されているかのように見える。

通りはほとんど閉鎖されていたので、今日は誰も働きに出るものはいなかっ た。状況は本当にひどい。みんなただ静観して静かに待っているというこうい う緊張状態は、私の記憶にはないように思う。このところの争いについてはさ まざまなうわさでもちきりだ。それでもなお、私の知っている人々(スンニ派 もシーア派も)を見ている限りでは、内戦の可能性なんてとても信じられない。 教育を受け、教養あるイラク人は、お互いに相争うようになることを懼れてい るし、そんなに教育を受けていないイラク人でさえ、これがもっと不気味な氷 山の一角であることを、しっかり意識している。

数ヵ所のモスクがマフディ軍に乗っ取られ、バドル旅団はいたるところにの さばっているようだ。明日はもう誰も出勤することも大学へ行くことも、どこ かに出かけたりすることもできないだろう。

人々はおびえて用心深くなっている。

わたしたちはただ祈ることしかできないでいる。

午前1時 21分  リバー (翻訳:リバーベンド・プロジェクト/ヤスミン植月千春)

訳注1:イマームはイスラームの宗教指導者のこと。12イマームとは、イマー ム・アリーの子孫が代々のイマームであるべきだという考え方をする、シーアの 12イマーム派で認められている12人のイマーム。12代イマームは現在は現 世から隠れていて、終末のときアル-マハディー(救世主)として現れると信じ られている。

訳注2:イスラームの伝承では、終末の前兆として、人々に最後の誘惑をしかけ るアル-ダッジャールと呼ばれるムスリムの敵を、再臨したキリストが倒し、さ らにアル-マハディー(救世主)があらわれて、シャリーア(イスラーム法)に よる正義が実現するとされている。

訳注3:モスクの尖塔は通常はミナレットと呼ばれるが、“マルウィーヤ"は、 特異な螺旋状をしていることで有名。

(ヤスミン植月千春)

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