TUP BULLETIN

速報595号 リバーベンドの日記 3月28日 荒れ狂う軍・警察の暴力と遺体置き場 060330

投稿日 2006年3月30日

DATE: 2006年3月30日(木) 午後11時05分

国防省が自らの軍隊、警察を信用するなと国民に向け発表


 戦火の中のバグダード、停電の合間をぬって書きつがれる若い女性 の日記『リバーベンド・ブログ』。イラクのふつうの人の暮らし、女 性としての思い・・・といっても、家宅捜索、爆撃、爆発、誘拐、検 問が日常、女性は外へ出ることもできず、職はなくガソリンの行列と 水汲みにあけあけくれる毎日。「イラクのアンネ」として世界中で読 まれています。すぐ傍らに、リバーベンドの笑い、怒り、涙、ため息 が感じられるようなこの日記、ぜひ読んでください。(この記事は、 TUPとリバーベンド・プロジェクトの連携によるものです)。  http://www.geocities.jp/riverbendblog/ (TUP/リバーベンド・プロジェクト:池田真里)


2006年3月28日

確認できないこと…

昨日の夜遅く、私は座り込んでイラクのチャンネルを切り替えてみていた(私 は時々6チャンネルくらいも観ようとする)。電気が来ている時、イラクのチャ ンネルで何をやっているか見るのは、私にとって深夜の習慣になっている。一般 的に言って、本当に‘中立な’イラクの番組は見当たらない。最もよく観られて いるものは、目下政権をめざして競い合っている、異なる政党の出資によって支 えられている。このことは、選挙の直前の期間にとりわけ明白になってきた。私 は、鳥インフルエンザのレポート番組、別のチャンネルの様々なラトミヤの映像、 3つ目は、エジプトの連続ドラマの中から選ぼうとしていた。イラク人の多くが、 あまり極端でない主張であると(選挙の間は特にアラウィー支持を打ち出してい た)考えているシャルキーヤのチャンネルで私は止まった。私は画面の下部に流 れるニュースの小さな見出しを読んでいた。お決まりのバグダードの地域での迫 撃砲の発砲によってここでアメリカ兵が死亡したとか、もうひとりあちらで怪我 をした…イラク人12人の死体がバグダードで発見されたなど。突然、その ひとつが私の注意を引き、読んだことが正しいか確かめるためソファにまっすぐ 座り直した。

E(弟)は居間の向こうの端に座って、後で組み立て直そうにもできないだろ うに、ラジオを分解していた。「ここに来てこれ読んで-私の誤解よね…」 私は彼をこういって呼んだ。彼はテレビの前に立って死体やアメリカ人や傀儡た ちの文字が流れるのを見ていたが、待ち構えていた記事が出たとき、私は飛び上 がってそれを指差した。Eと私は黙ってそれを読んだが、Eは私が感じたのと同 じくらい困惑しているようだった。

その記事はこうだ。

「夜のパトロールにおける軍隊または警察の命令には、彼らがそのエリアを管轄 している連合軍と一緒に行動していないかぎり、民間人はこれに従わないように と国防省は要請する」

これはいかにこの国が現時点で乱れているかをよく表している。

ムフサン=アブドゥル=ハミードと彼のグループと連携している「バグダード 」という他のチャンネルに変えてみた。彼らは同じ記事を扱っていたが、一般的 な「連合軍」という代わりに「アメリカ連合軍」と言っていた。私たちは他のふ たつのチャンネルをチェックしてみた。イラキーヤ(ダーワ党寄り)はそれを報 道していず、フォラート(SCIRI寄り)も彼らの記事では扱っていなかった。

それが他のチャンネルで繰り返された今日、私たちは議論した。

「それってどういう意味?」いとこの妻が昼食に集まったとき聞いた。

「やつらが夜やってきて家を襲撃したくても、家に入れないってことよ」と私は 答えた。

「やつらは許可なんて要求していないよ」とEが指摘した。「あいつらはドアを ぶち壊して人々を連れて行くだけさ―忘れたの?」

「国防省の言うことにきっちり従うならば、私たちはやつらを撃っていいわけよ ね、ちがう? それは不法侵入で、やつらは強盗か誘拐者ってことになるわけで しょ…」私は答えた。

いとこは頭を振って「もし家族が家の中にいるならば、やつらを撃つなんてこ としないよ。やつらはグループでくるんだ、覚えてるだろ?やつらは武装して大 人数のグループで来るんだ。だからやつらを撃ったり抵抗したりすれば、家の中 にいる人間が危険だ」

「それに、やつらが最初に攻撃してくる時に、アメリカ人と一緒じゃないってど うやってわかるんだ?」Eが聞いた。

私たちは可能性をあれこれ考えながら、座ってお茶を飲んでいた。結局初めっ からイラク治安部隊は宗教的で政治的な党派と連合した私兵集団だという、イラ ク人にとって自明だったことを確認しただけだった。

しかし、それはさらに懸念されることに火をつけた。治安状況がひどく悪いの で、イラクで治安に関して最高権限と責任を持っているふたつの省は、お互いを 信用することができないでいる。国防省は「アメリカ連合軍」を連れていない限 り、彼ら自身の要員すら信用することができないでいるのだ。

最近では何が起こっているのか理解することは、本当にむずかしい。私たちは、 アメリカとイランの間でイラクの治安について話されていることを聞いている。 イラク駐在アメリカ大使は、国内の私兵組織に出資したことでイランを非難して いる。昨日のフセイニヤ(注:イマームフセインの子孫を悼むシーア派のモスク の一種)への攻撃で、20人から30人のサドルの私兵を殺したのはアメリカ軍 だとの主張が今日でている。アメリカ軍は、イラク治安部隊(彼らが常に賞賛し ている)がやったのだと主張している。

これらの全ては、イラク軍と治安部隊は状況をうまくコントロールしていると いうブッシュや他のアメリカ人政治家の主張とまったく矛盾している。いや、多 分コントロールしているのだろう、ただうまくいっていないだけ。

この数週間バグダード中で死体が発見されている―いつも同じだ。頭部にドリ ルで開けられた穴、何発もの銃弾、絞殺の痕――犠牲者たちは吊るされたように 見受けられる。私兵集団の処刑様式だ。犠牲者の多くは治安部隊か警察あるいは 特別な軍団によって家から連れ去られた…彼らのうちの何人かは、モスクか ら一斉に連行された人たちだ。

数日前、私たちは大学に女性のいとこを迎えに行った。彼女の大学は偶然その 地域の遺体置き場に近い。Eと私たちのいとこのLと私は、交通状況を考えて大 学から少しばかり離れたところに駐車し、中でいとこを待っていた。私は遺体置 き場の近くの混乱を見ていた。

数十人の人々が-ほとんどは男性だが-集団で暗く立っていた。何人かは煙草 を吸い、他は車や小型トラックに寄りかかっていた…深い悲しみ、激しい憎 しみ、あきらめ、様々な表情があった。何人かの顔には怖れと期待の入り混じっ た心配の表情があった。それは、バグダードの遺体置き場の外で見かける特有の 表情だ。何かを探しているように、目は大きく開かれ血走っていて、眉根を寄せ、 顎は堅く、口は厳しく噛みしめられている。その表情は、彼らが死体の横たえら れている場所に入って行くときに、彼らの捜しているものが見つからないように と祈っている。

いとこは重いため息をつき、私たちに少し窓を開けてドアをロックするように 言い、遺体置き場を確認しに行った。一ヶ月前、彼の妻のおじがお祈りの最中に モスクから連れ去られ、まだ見つからないでいる。二日ごとに家族の誰かが彼の 身体が運び込まれていないか、遺体置き場に見に行っている。「彼が見つからな いように祈ってくれ…いや、むしろ…私はただ――確認できないことが ひどくいやなんだ」いとこは、重くため息をついて車を降りた。彼が通りを横切 り群集の中に消える時、私は無言で祈りの言葉を唱えた。

Eと私はまだ大学の中にいるHと遺体置き場にいるLを辛抱強く待った。何分 間もEと私は黙って座っていた。この状況では少ししゃべることも不謹慎な気が したのだ。Lがさきに帰ってきた。私は不安な気持ちで彼を見つめ下唇を噛みし めている自分に気付いた。「彼を見つけただろうか?インシャアッラー(神のお ぼしめしあれば)彼を見つけてはいない…」私は誰に言うともなくつぶやい た。彼は車に近づき頭をふった。彼の顔はこわばり険しかったが、その険しい表 情の後ろではほっとしいるのが見て取れた「彼はいなかった、ハムドリッラー( 神に感謝します)」

「ハムドリッラー」Eと私は一緒に繰り返した。

私たちは遺体置き場を振り返った。ほとんどの車が息子や娘や兄弟を予想して、 簡素な細い木製の棺を積んでいた。黒いアバヤ(長衣)を着た、取り乱したひと りの女性が、中にはいろうともがいており、ふたりの親族が彼女を後ろから引き 戻そうとしていた。3人目の男が車の上に伸び上がって縛り付けてある棺を解こ うとしていた。

「あの女性を見てごらん―息子さんを見つけたんだ。彼らが息子さんを確認して いるのを見たよ。頭に銃弾を受けていた。」その女性はもがき続けていたが、突 然彼女は足もとに崩れ落ち、彼女の慟哭は午後を満たした。驚くほど暖かい日だ ったのにもかかわらず、私は急に冷えてしまった指を覆おうと袖をひっぱった。

私たちはずっと様々な場面を見ていた。深い悲しみ、怒り、失意など、そして時々、 彼らが最も怖れたものを見つけなかった時に見せる一種それとわかる安堵。 悪臭に涙しながらも、彼らが入って行った時より少し足どりが軽くなって遺体置 き場から去っていく時、愛する者を引き取るという心配から一時的な猶予を与え られて…

午後9時51分 リバー

(翻訳:リバーベンド・プロジェクト:ヤスミン植月千春)